【連載2】“良い”プロダクトの作り方とは。ビジョナル株式会社CTO竹内真氏のルーツとこれから

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こんにちは!TECH Street編集部です。
前回、TECH Streetメンバーが気になるヒト、小島英揮氏にインタビューをしましたが、今回は連載企画「ストリートインタビュー」の第2弾をお届けします。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象は必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

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▼第1弾はこちら
www.tech-street.jp

“今気になるヒト”小島英揮氏からのバトンを受け取ったのは小島氏の高校(土佐高校)の後輩で、株式会社ビズリーチなどをグループ会社に持つビジョナル株式会社でCTOを務める竹内真(たけうちしん)氏。

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2001年、電気通信大学情報工学科を卒業後、富士ソフトABC株式会社(現・富士ソフト株式会社)に入社。2008年、フリーランスとしてリクルートのFITシステム基盤推進室で、r2frameworkなどの基盤フレームワーク開発などに従事し、同年、株式会社レイハウオリを創業。その後、ビズリーチの創業準備期に参画し、取締役CTOに就任。2020年2月にビジョナル株式会社取締役CTOとなる。 
※2020年2月5日取材時点の情報です

 

――経歴を拝見する限り、竹内さんはエンジニアという枠に収まりきらない方と感じていますが、御自身ではどのように捉えられていますか。

竹内氏:一言でいうと、「商売人」ですね。

エンジニアリングのみにとどまらず、その先のビジネスにどう繋げられるかを常に考えています。この考えは、小学校低学年の頃から終始一貫して変わっていません。実家が自営業で飲食店を営んでいて、商売をして生計を立てるという生き方が当たり前の環境で育ったことが大きく影響しています。

商売とは何か。仕入れたものを売り、その差分が利益になる、すごくシンプルな仕組みですよね。ですから、商売にとって重要なのは売値と原価、そしてどれくらいの量が売れるのか、この商売の三原則が子どもながらに自然に感覚として身についていました。

その一方、小学生の頃から機械が好きで、何かを分解して構造を見たり、自分でも半田ごてを使って組み立てたりしていたのですが、ファミリーコンピューターのように複雑なものはどう頑張っても作れないんですね。そんな時に、ICチップに出会いました。どうやらそれは集積回路というもので、そこにソフトウエアを焼き付けることでゲームができるのだと知ります。では、そのソフトウエアとは何だ?という話になって。

ソフトウエアに興味を持った私は、商業高校でパソコンを教えていた従兄弟の家にあったパソコンでプログラミングを始めました。動く、動かない、なんで動かないんだ?みたいなことを繰り返していましたね。それが小学校5年生ぐらい。

その時に、ソフトウエアは原価が0だということに気づいたのです。商売の原則に当てはめて考えてみると、原価を限りなく抑えられるソフトウエアに、ビジネスの可能性を感じました。

さらに、インターネットの時代が来ることで、ディストリビューションも0円になる。でも、さすがに小学生だった私はそこまで想像はできませんでしたけれども。

 

――大学生くらいになって、ある程度ソフトが組めるようになった頃には、もう実際にそれをビジネスにしていたのでしょうか。

竹内氏:インターネットが登場したのは、ちょうど私が大学に入ったばかりの頃でした。

97年になると、掲示板のようなかたちで、ソフトウエアがディストリビューションできるようになりました。ただ、ほとんどが無料のサービスだったので、ビジネスとして成り立たせるのは難しいと思いました。ホームページを作成し、それを基点に広告収益を得る企業もありましたが、個人でそこまで大掛かりなことはできない。では何をしたかというと、自分で作詞作曲した音楽をインターネットで配信したのです。

ある程度コンピュータの知識が深まり、自身で開発できるようになってくると、習得した技術を使ってどういうものを作るかが大事になってくると考えるようになっていました。

なので、情報商材としての音楽は大変魅力的なものに映りました。ところが一定の品質のものはできるのですが、にわかに始めたものがヒット作になるわけでもなく…。音楽を作ることなども含めていろいろな技術力は身につきました。正直、利益を出すということは難しかったのですが、ちょっとしたビジネスを何回転か体験することができました。

 

――技術を追求するだけではなく、その技術を使ってどうビジネスにしていくかを若い時から考えていたということですね。

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竹内氏:当時は0と1だけでプログラミングしていたような時代で、高いレベルの技術でも最終的に0、1になるという感覚が身についていました。と、いうことは、無駄を省くというのは0、1のレベルまでそぎ落としていくことだとイメージができるようになり、それをやるのは大変だということがわかる。

大変だということがわかると、そのコスト感もわかってくるし、自分がすべて手を動かして作らなくても他の人でも作れるということもわかってくる。そこまで見えるようになったら、その次は、一定の「実現力」が必要だと思うようになる。

「実現力」とは何か。それは物事を実現させる能力です。一般的に、人は見えないものに対して、それがどのようになるかを想像するのは難しいけれど、プロトタイピングして作ってみると、これはいける、これは売れるという判断ができるようになるので、その先はイメージと想像さえつけば、どんなプロフェッショナルとでも会話ができるようになります。

そして、解決できる問題と解決できない問題に切り分けることができて、解決できない場合は解決できるアプローチ方法は何かという考えになるだけなので、ベーシックな考え方さえ押さえておけばビジネスについてもシンプルに考えられるようになるのです。

 

――学生の時からご自身で色々なことができていたにもかかわらず、大手のソフトハウスに就職されました。当時はこの先、どういう風に生きていこうと考えていらっしゃいましたでしょうか。

竹内氏:できるといっても、あくまで一人でやってできるというレベルで、自分が社会に出て通用するかどうかは、また別の問題だと思っていました。

自分はビジネスに志向が向いているタイプなので、自分とは違う志向の、技術を追い求めているスペシャリストの高いレベルを見てみたいと思ったのです。

大学では情報工学を専攻し、それをベースにしようと考えていたので、SIerではなくソフトハウスへの入社を選択しました。ビジネスの上流から考えられて、かつ、ものづくりまでわかるようになったら、最高だと思ったのです。その信念は結局、ビジネスの三原則を感覚的に覚えた小学生の頃から変わっていません。

シリコンバレーの人たちがなぜ成功しているかというと、情報工学を学んでいる人が多く、実現力があるからだと考えています。では、日本がそうならないのはなぜかというと、情報工学を学んでいる経営者が少ないからだと思うのです。 

 

――情報工学を学んでいる人は実現力があって、実現力をもっている経営者が成功するという論理を正しく理解したいのですが。 

竹内氏:ベンチャーの成功パターンとして、「Jカーブ」といわれるものがあります。お客様から、「こんなシステムがあればお金を払います」と言われたときに、その要望に合ったものをすぐにつくれないか、というのはシステムを開発・販売する現場ではよくある話かと思います。

これを例外的にその都度受け入れる会社は、短期的な収益はあげられるかもしれませんが、仕組みにすることができません。

一方で、成功する会社は、その間に仕組み化してしまうのです。つまり、短期的な収益にはならないけれど、1年後に仕組み化されたものができて、同じ課題を抱えた多くのお客様に対して広く提供することが可能となり、大幅に収益をあげることができる。その時々の例外を受け入れずに仕組み化するということをやり続けていくと「Jカーブ」を実現できるのです。

日本では目先の収益を意識して、この例外を受け入れる会社が多いと感じています。しかし、情報工学を学んでいると、その仕組み化する力を身に着けやすいのです。全ての例外を仕組みの中に取り組むことで、どこかのポイントで爆発的な利益を創出することができるのです。 

仕組み化をしなければ、10の例外が出た時に新たに10人が対応する必要がある。でもどこかで仕組み化した会社は、人ではなく仕組みやシステムで解決できるので、新たに10人を増やさずに10人分の力を取り込めているようになるのです。その結果、仕組み化したほうが同じものを低コストで提供できるわけです。

 

――仕組み化できるエンジニアって日本では育ちづらいのでしょうか。

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竹内氏:欧米と比較すると、育ちづらい環境かもしれません。

背景には、理系と文系に分けた教育をしていることがあげられます。0、1で決まるというのはルールの話です。プログラミングというのはルールを作ることなのですが、ルールを作る人にとっては、ルールを逸脱する人がいると困ってしまいがちです。ただどうしても人には、それぞれの考え方ややりたいことがあったりするので、必ずしもルール通りに動くとは限りません。 

当社では「仕組み」と「ムーブメント」という言葉をよく使っています。ムーブメントというのは、人が仕組みの中に入って動くかどうかということです。

仕組みだけでは人は動かないというアンチテーゼなのです。

仕組みの中に人が入りやすくなるような「引っかかり」をつくったり、それを使うことでいいことがあるかもしれないと思う、フィーリングでここに入りたいと思うことがあるなど、人が人を呼んだり、より深く入っていくきっかけを作るのもムーブメントです。でもこのムーブメントには、プログラミングは一切存在しない。「エクスペリエンス」ではあるけれども「エンジニアリング」ではない。人の生活に関わるものって絶対的な答えはないと思うのです。

アメリカの教育は大きく「アート」と「サイエンス」の二つに分類されます。

“things nature made”を学ぶのがサイエンスで、“things human made”を学ぶのがアートといわれています。例えば、歴史はアートで、物理学はサイエンスに分類されます。アメリカの多くの大学ではアートとサイエンスのダブルメジャーで学ぶことができます。

この二つをメジャーしている人たちが最も強いのではないでしょうか。彼らは、人と人とのコミュニケーションも大事にしながら、サイエンスで仕組みを作ることができます。 

日本の現状の教育システムでは、一般的にダブルメジャーを成り立たせるのは難しい。基本的には高校の途中から文理が分かれていくシステムなので、スペシャリストは生まれるかもしれませんが、エクスペリエンスに対する思考は、仕組みとフィーリングが一体となったひとりの人の中で醸成されるものなので、この教育システムではそういった人材は育ちづらいかもしれません。

この時代には両方を兼ね備えた人材が必要とされていますが、圧倒的に不足していると感じています。

 

――竹内さんは、その両方を兼ね備えている方のように思えますが。

竹内氏:私の場合、幼少期の経験からビジネスが起点になっているためだと思います。ビジネスは相対的です。その時、その場所でお客様との距離感から繰り出すものは変わってくるので、絶対的な答えがないなかで、相手の気持ちを考えながら戦略を実行していかなくてはいけません。そのビジネスの世界で最も有益に活用できるのがテクノロジーだと思ったのです。それで、後発的にサイエンスな部分を手に入れたという感じです。

 

――一般的なエンジニアが後天的に、ダブルメジャーに近い感覚を身につけることはできないのでしょうか。あるいは組織全体を変えることで実現するのか、どちらが正解なのでしょう。

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竹内氏:どちらもあると思います。ただ、できるかというと、できると思いますが、長年信じてきたものを変える葛藤は、人生において最も大変なことのひとつだと思います。 

サイエンスに寄っている人がビジネスを理解する方が難しいかもしれません。逆にビジネスをやっている人が技術を身につけることはある程度できる。私も根底に商売があるので、それが可能だったのかもしれませんね。

僕は、ビジネスを行う上ではビジネスのフィロソフィーを信じます。エンジニアのフィロソフィーは利益を出すというフィロソフィーではないからです。

 

――なるほど。であるなら、エンジニアがこれから生きていく上で、どういった目線を持つべきなのでしょう。

竹内氏:ビジネスの世界でリードするならビジネスのルールを理解することが必要です。あるいは、この世界でスペシャリストとして技術を提供する人になってもいいと思います。

ビジネス側の人たちには、最終的な利益としての成果へのコミットが要求されますが、エンジニアはプロダクトとしてのアウトプットが要求されます。だから、このアウトプットを目指すことが重要です。ただ、最終的に自身の給与につながる会社の利益は、ビジネスが成り立つことによって生み出されていることを理解すること、つまり、ビジネス側へのリスペクトが必要なのです。

 

――それでは、ビジネスの世界でエンジニアが力を発揮するためにはどうしたらいいのでしょうか。

竹内氏:見えないものを信じられる力が必要なのではないでしょうか。

エンジニアのフィロソフィーが正しかったとして、それはプロダクトに対するイメージや想像力を持っている人でないと伝わりません。分からないものは不確実ですし、一般的に人は不確実なものを信じるのはリスクだと思いがちですよね。

だから、未来の仕組みについて語るエンジニアの話を信じられるかどうかは決裁者の想像力と胆力によると思うのです。ただ、以前よりもビジネスが複雑化しているため、イメージしづらくなっているのかもしれません。

一方で、エンジニアリングの世界もどんどん変わってきていて、正しいと思うものをしっかり正しくミスなく作るというだけでは通用しなくなってきています。

イメージしたものを見せないと決裁者が判断できないので、プロトタイピングの連続です。未完成でも、ある程度のものを早く作って見せる、動かす、やってみる、だめだったら引き下げるということを高速回転させることに、世の中のプロセスは移行しています。人間は見えないことを信じるのは不得意であるということは理解しておくべきでしょう。

 

――これからの時代、エンジニアはどういったスタンスで働いていくべきか、ご提言いただけますでしょうか。

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竹内氏:自分自身がやりたいようにやってみたらよいと思います。

結局、キャリアの歩み方は人それぞれです。私は、エンジニアの力は、書いたコードの量に比例すると思います。要するに、迷わないでほしいというのが大前提です。

ものづくりが好きだからエンジニアになっている人が多いと思うのですが、だったらつくりまくったらいい。世の中にはそれを止めるような言葉がたくさんあります。エンジニアはこうあるべきだ、みたいな。

自分のなりたい姿を追えばいいし、自分のポリシーを変えてまで給与を上げたいと思うなら変わればいいし、自身の生活とのバランスをとりながら、自分らしく働きたい、という考え方もあるし、人それぞれの生き方でいいのではないでしょうか。

ただ、ビジネスをリードする、会社や事業を大きくする、CTOになるなどに挑戦してみたいと思うのであれば、この世に流れてくる甘い言葉はすべて世の中のアンチテーゼの言葉であると胸に刻んでほしいです。

例えば「量より質」という言葉は、質より量の方が本当はプラスになるのだけれども、それは量を追う方がより一層の努力が必要だからこそ、それを否定したいがためのアンチテーゼだという考え方もあると個人的には思います。 

もうひとつは、自分の内面とじっくり向き合う時間が非常に少ないエンジニアが多い気がします。もっといえば、人間ってどういう仕組みで作られているのか?ということを意識したり、人間全体の機能として分析したり、勉強したり実践したりする時間が少ないなと。その理由はコンピュータと向き合っている時間が多いためかもしれませんが、思考がサイエンスに寄りがちです。

結局、人間らしさを忘れるとビジネスはうまく作れない。エンジニアとしてだけでなく、人間としての良さとか面白さとか、楽しいとか幸せとか、根本的なところを大切に生きてほしいなと思います。

 

――人間の仕組みとか、考えの構造を理解しているかどうかで作るプロダクトも全然変わってくるのでしょうね。

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竹内氏:変わります。エンジニアのなかには、機械になろうとし過ぎている人がいるなと感じます。逆に、作るという行為が人をそうさせやすくしているのか、自分がカチッとした人間になることを強要されるようなプロセスになっているのではないかと思います。もっと人間らしいパーソナリティとやっていることを分離して、自分の弱さも知って他の人の弱さもわかると、より良いものを作れると思います。 

 

――多様なキャリアを重ねてきた竹内さんはこれから、どのような働き方をしていくのでしょう。現在、在籍されているVisionalには長くかかわりをもっているようですが。

竹内:私は相当強いエネルギーをもっているほうだと認識していますが、Visionalはそのエネルギーを受け入れてくれる人がたくさんいる会社だと思います。

また、会社という実態のないものに対しては、どれだけ掛け算が生まれる土壌があるかが大事だと考えていますが、Visionalはその掛け算の多い組織だと思っています。考え方が全く違う人たちが意見をぶつけあうことで、ダイバーシティが生まれ、イノベーションを起こす、そういった掛け算が生まれやすい土壌があると感じています。

私には今、ここでの使命があります。この先どうなるかはわかりませんが。80歳になるまでい続けるなんてことがあるかもしれません(笑)。

商売をやっていることは非常に楽しいし、お客様が対価を払う価値のあると思ってくださるものを生み出し、作り続けるということは非常に意味深い。それが多くの人に使われるものだったり、心に残るものだったり、あるいは「ビズリーチ」のように人生をより良くできるツールだったらいいですよね。

 

――ありがとうございます。最後に次回のインタビュー対象をご指定いただけますでしょうか。

竹内氏:森山大朗さんにつなぎます。

彼は究極、私と似ているけれど、私と違う、二つのフィロソフィーを行き来したタイプだと思います。私からつないだらちょっと驚くかもしれません。いろいろな経験を経て、森山さんが今どんなことを考えているのか、楽しみです。

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以上が第二回のストリートインタビューです。竹内さん、ご協力いただきありがとうございました!
次回は、竹内さんの元部下であり、現在スマートニュース株式会社でテクニカルプロダクトマネジャを務める森山大朗氏のインタビューをお届けします。今後のストリートインタビューもお楽しみに。

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( 取材:伊藤秋廣氏(エーアイプロダクション)  / 撮影:古宮こうき氏 / 編集:TECH Street編集部)