【連載45】国内発のパブリッククラウドを開発する、さくらインターネット社の長野氏が語る「インターネットの力で社会を良くしていきたい想い」とは

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こんにちは!TECH Street編集部です。

連載企画「ストリートインタビュー」の第45弾をお届けします。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”吉野さんからのバトンを受け取ったのは、さくらインターネット株式会社の長野 雅広さん。

ご紹介いただいた吉野様より「長野 雅広 さんを紹介したいと思います。私が新卒でMIXIに入った時の先輩の一人で多くのことを学ばせていただきました。MIXIだけではなく多くの会社で活躍してきた方です。」とご推薦のお言葉をいただいております。

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長野 雅広 さん

さくらインターネット株式会社 クラウド事業本部 SRE室 室長 

大学在学中から京都でスタートアップに参加。2006年に株式会社ミクシィに入社し、2010年に株式会社ライブドアに転職。Webサービスのチューニングコンテスト「ISUCON」の創設に関わる。2015年に株式会社メルカリに入社し、SRE組織の立ち上げに携わり、2021年1月より現職。著書に『達人が教えるWebパフォーマンスチューニング 〜ISUCONから学ぶ高速化の実践』(共著、技術評論社)

長野さんの原体験とは

ーーまずは、現在の長野さんを形作る原体験をお聞かせください。

エンジニアとしての原点は大学生の頃だと思います。大学では、文理総合の情報系の学部に入りました。文理総合の学部だったので、プログラミング、心理学、経営学、経済学など、自分の興味あったものを選択して学ぶことができたんです。
研究室では経営学を専門に勉強しましたが、経営学の他に、インターネットにも興味があったので、実際に手を動かしながらインターネットの勉強もしました。

 

ーーなぜインターネットに興味を持たれたのですか?

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理由は主に2つあります。1つは、当時はITバブルが起きる前で、インターネットはまだ「未開の地」というイメージがありました。だからこそ、インターネットはチャレンジのしがいがある領域だと思ったんです。

もう1つの理由は、「人がコミュニケーションをとる手段としてのインターネットの重要性」を感じたからです。その背景には「阪神淡路大震災」があります。
私が高校生の時に、阪神淡路大震災が起こり、静岡県出身なので直接被災はしなかったものの、家や高速道路が崩れ落ちたり、悲惨な状況を報道を通して目にしました。
そんな大変な状況の中でも、コミュニケーションをとることができたというインターネットの存在に興味を持ったのです。

 

ーーそのような背景があったのですね。大学卒業後はどのような道に進まれたのですか。

コミュニティサイトを作り、その運営の仕事をしました。
きっかけは、大学生の時にインターネット系のイベントで知り合った人が、コミュニティサイトを立ち上げようとしており、そのお手伝いをしたのが始まりです。

ビルの一室を借りて、サーバーを自分で組み立てて、そこにOSを入れて自分でプログラムを作りました。最初はデザインもしていたので、本当に1から100まで、なんでもやっていたという感じです。(笑)

運営していく中で、コミュニティサイトの規模もどんどん大きくなっていき、そうなると色んな問題が出てきました。それら問題を1つ1つ解決することで、「人と人とのコミュニケーションの場を支えている」という実感があり、それにやりがいや面白みを感じました。
その後いろんな会社に入社しましたが、この時に「コミュニティサイトの立ち上げから運用まで、幅広く経験できたこと」は、自分としてもかなり成長できたポイントだったと思います。

「本当に面白いことをやっている会社」だと思い、MIXIへ入社

ーーコミュニティサイトの運営後、次にどのような道に進まれたのですか?

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当時は、関西に住んでいましたが、やはりエンジニアのコミュニティは東京の方がはるかに大きく、何度か東京のコミュニティにも足を運ぶうちに、私も東京に行きたいという気持ちが大きくなっていきました。

それと、「YAPC::Asia Tokyo」という大きなエンジニアイベントがあり、そのイベントの中で当時のMIXIのCTOが「MIXIの取り組み」について発表していました。それを聞いて「本当に面白いことをやっている会社だな」と思い、MIXIに興味を持ちました。その後、そのイベントの中で、MIXIのエンジニアとも知り合うようになり、そのつながりでMIXIに入社しました。

 

ーー当時のMIXIはどのような会社でしたか?

今では「ゲームを開発している会社」というイメージが大きいかもしれませんが、当時はSNSを主な事業とする会社で、自分がやっていたコミュニティサイトとも共通点がありました。

しかし、自分が運営していたコミュニティサイトと比べてるとSNSのmixiは、はるかに規模が大きく、そのような大規模なサイトでチャレンジできることに嬉しく思いました。MIXIに入社してからは、会社がどんどん大きくなっていくのを経験し、アクセス規模もどんどん大きくなりました。

 

ーーその後、ターニングポイントはありましたか?

MIXIの次に、ライブドアに入社し、それがターニングポイントになりました。ライブドアでは「ライブドアブログ」の発信を支えるシステムを担当しました。

ライブドアに入社した理由はいくつかあります。1つは、私がWebに関わるようになった頃から、ライブドアは高い技術をもっており大きなトラフィックを支えていた点、またその高い技術を持つエンジニアがエンジニアイベントやコミュニティで活躍している姿に強く惹かれたからです。

それともう1つは、当時のライブドアは「ライブドアブログ」という個人の発信を手助けするサービスをやりつつ、それ以外にも、色んなサービスをやっていたので、「ブログ以外にもできることがあるのではないか」という期待もありました。

ライブドアという会社は、吸収され最終的にLINE株式会社になります。その結果、それまでやっていたライブドアのサービスに加えて「LINEニュース」をはじめとしたLINE関連のサービスのインフラを専門的にやるようになります。LINEでインフラ面をしばらく担当した後、次に何をしようかと考えたときに、MIXIの元同僚でメルカリにいる人から「いい課題がたくさんある」と言われ、メルカリに入社しました。

「いい課題」を解決して、たくさんの人を助け、たくさんの人に良い影響を与えたい

ーー長野さんが「次に何をしようかな」と思われるのはどんな時でしょうか?

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「やりきってしまったとき」だと思います。MIXIで、ソーシャルアプリケーション事業をやり始めた頃は、最初は苦労しましたが、それが最終的には安定的に動くようになりました。
そして、ライブドアとLINEの時は、LINEニュースなどのサービスでピーキーなアクセスはありましたが、最終的には安定的に動くようになりました。そうなると私の中では「やりきったかな」と思うようになり、そして「いい課題がある」場所に行ってチャレンジしたくなります。

 

ーー長野さんにとって「いい課題」とはどのようなものでしょうか?

「いい課題」とは、その課題を解決をすることによって、その会社がさらに伸びたり、たくさんの人が助かったり、たくさんの人に良い影響を与えられるものだと思っています。
メルカリはモノとモノを売り買いするサービスですが、それも言ってしまえばコミュニケーションだと考えてます。売る人と買う人のコミュニケーションで成り立っていて、それをどれだけ円滑に動かせるかが重要であり、それはいい課題だと思います。

 

ーーメルカリでは、どういうことをやって、次何しようと思われましたか?

メルカリにもインフラをみるエンジニアとして入社し、サービスの安定稼働のためデータベースやアプリケーションのパフォーマンスチューニングや、スケーラビリティの確保などそれまでの経験を生かして、さまざまなことをしました。

メルカリは日本とアメリカでサービスを展開していて、私が在籍していた頃のアメリカではAWSのクラウドを使い、日本においては、さくらインターネットの専用サーバーを使っていました。現在ではサービス、会社の規模も大きくなり組織開発力をより活かせるようにマイクロサービス化が進められ、クラウドネイティブな実装になり、GCPの利用が進んでいます。

メルカリの次に何をするか考えた時に、スタートアップやパフォーマンスで困っている企業に行き、これまでと同じことをやるのは確かに出来そうなのですが、ものすごい勢いで進化しているAWSやGCPをはじめとするクラウドサービスを見ていると、「これまでと同じようなことを続けて良いのだろうか」と思うようになりました。

そのため、これまでと異なるレイヤーで挑戦しようと思い、メルカリで長年インフラとして使っていて、良い会社だと思っていた「さくらインターネット」に移りました。「インターネットやコミュニケーションの場を支えたい」という気持ちは全く変わらず、自分のこれまでの経験を活かして様々な企業、お客様がインターネットで実現したいことを支えるのが目標です。

さくらインターネットには、入社して3年になりましたが、現在はクラウド事業本部に所属しています。そこでは「さくらのクラウド」と「さくらのVPS」、それと物理的なサーバを丸ごとお客様に提供する「さくらの専用サーバ」という3つのサービスを展開しています。その中で私は、クラウドのサービス開発をメインに担当しています。

 

ーー今後どのようなことに力を入れていこうとお考えでしょうか?

私は、SREが日本でまだあまり知られてない時期にメルカリでSREチームをつくり、エンジニアリングブログで紹介したことがあるのですが、サービスの信頼性向上のため、SREの考え方やプラクティスを開発を行う中に組み入れることに力を入れていきたいと考えてます。

それに加えて、「開発者がより良く開発ができるような環境を整えたい」と思っています。最近は開発者が使うためのプラットフォームを開発する、「プラットフォームエンジニアリング」というものがあり、そこも進めていきます。

国内発のパブリッククラウドとして、海外大手のクラウドサービスに負けないように開発に力を入れる

ーーそれと、貴社は国内発のパブリッククラウドとして、どのような受け止め方をしていますか。

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有難いことに、日本で開発しているパブリッククラウドとして評価され、注目をいただいています。それに伴い、エンジニアの意識も変わってきていると思います。しかし海外大手のクラウドサービスと比べると、まだ機能として劣っている部分があるので、その点は集中して開発をしていく必要があると思っています。

それと、これまでさくらインターネットでは、どちらかというと「守り」のイメージで仕事をしていた部分がありました。この「守り」とは、お客様に対して、これまでの機能を安心・安全に使っていただけるように守ってきたイメージです。

それももちろん大事なことですが、それに加えて今後は、クラウドに求められる機能をたくさん開発していかなくてはいけないので「攻め」の姿勢やチャレンジが必要になってくると思っています。そのようなチャレンジをするためにも、今は、マネジメントやチームリーダーに声をかけ、組織づくり・チームづくりも進めています。

 

ーー新しく組織づくり・チームづくりも進める上で、取り組まれていることはありますでしょうか?

今までは、クラウドを開発するエンジニアチームはそこまで多くない人数でやってきました。チーム数も1チームしかありませんでした。

しかし、今後パブリッククラウドとして求められる機能を開発する中で、チームの規模は大きくなります。そうなると、多くの人が1チームにいるままだと、コミュニケーションに不全が起きたり、開発効率が悪くなる可能性があります。そのため、適切なサイズのチームに分割していくことが大事です。

また、チームでの開発のパフォーマンス向上には「アジャイル」や「スクラム」など、色んな考え方がありますが、そういったものをみんなで勉強して、それぞれのチームが集中して開発できるような体制を作っていこうとしています。

そのようなことを踏まえて、様々なレイヤーのエンジニアにきて欲しいと思っていますが、エンジニアのマネジメント経験がある方が増えてチームに加わってもらえると心強いですね。

自分の持っている想いを原動力にして動けるエンジニアになってほしい

ーー最後に、これからの時代にエンジニアとしてどのように立ち回るべきか、読者に向けてメッセージをお願いします。

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最近採用面接を担当することがありますが、そのときにほぼ必ず聞くこととして「これから先、社会にどのようなインパクトを残したいですか?」という質問をします。
回答は様々で、もちろん色んな考え方があって良いと思っていますが、私は「自分ができることで社会を良くしていきたい」という思いがあると嬉しく思います。
 
また、この会社の特徴として、自分たちで動かなければ何も始まらず、サービスの作り方としてボトムアップで作っていくのがすごく多い会社なんです。なので、自分たちでニーズを拾い、それに対して解決策を探すのが重要です。上からの指示を待つだけでなく、自分の持っている想いを原動力にして動けるかどうかが重要だと思います


ーー貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者を教えていただけますか。

ファインディ株式会社の取締役 CTOの佐藤 将高さんを紹介します。
ファインディ株式会社ではエンジニアのスキルをAIで解析する転職サービスやエンジニアチームの開発生産性を可視化し、向上を支援するサービスを開発しています。
また、さまざまなエンジニア向けのイベントや記事の掲載をしており、注目をしています。注目度の高いファインディがどのような開発チームを作っているのか、サービス開発の考え方など拝見させていただくのが楽しみです。

 

以上が第45回さくらインターネット株式会社 長野 雅広さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のストリートインタビューもお楽しみに。 

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

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