【連載1】“誰に何を”必要とされるか、パラレルワーカー小島英揮氏が語る生き方と武器の選択

f:id:pcads_media:20200214161934j:plain

こんにちは!TECH Street編集部です。
本日より新連載企画「ストリートインタビュー」をお届けしていきます。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象は必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

f:id:pcads_media:20200629154925p:plain

ヒトと知識とテクノロジーが行き交う、個人の可能性や価値が拡がるコミュニティ「TECH Street」。そんなコミュニティを表現し、ヒトをつなぐ「ストリートインタビュー」。今後、どのようにつながっていくのでしょうか。

「ストリートインタビュー」記念すべき一人目はこの方。

TECH Streetメンバーが今、気になるヒト 小島英揮氏

f:id:pcads_media:20200214162018j:plain

Still Day One合同会社の代表を務めながらAuth0、CircleCI、Stripe、ABEJA、ヌーラボなど外資系、日系双方のスタートアップ、サブスク企業でパラレルに活躍するパラレルマーケター 。 また、クラウドサービスのユーザーコミュニティ「JAWS-UG」や「JP_Stripes」、コミュニティマーケターのためのコミュニティ「CMC_Meetup (Community Marketing Community)」を立ち上げた、コミュニティマーケティングの第一人者。著書に「人生もビジネスもグロースさせるコミュニティマーケティング」「DevRel エンジニアフレンドリーになるための3C」。
※2020年1月10日取材時点の情報です

 

 ――コミュニティマーケティングの第一人者であると同時に、パラレルマーケターとしても知られる小島さんですが、同時に複数の仕事を掛け持つって、ものすごく大変そうですよね。どのような力配分になるのですか?

小島氏:初めにお伝えしたいのは、1社で働いていても、同時に様々なステークホルダーと仕事を進めることはよくありますよね?なので、パラレルワークと言っても、個々の仕事の進め方は大きく変わった感じはしていないんです。

しかも、誰と(どの企業と)、どのような仕事をするのかを自分でコントルールできる幅が、1社フルタイムの時よりも大きいので、むしろ自由度は増している。では、どのようにパラレルワーク先を見つけるかというと、私のスキルを必要とはしてくれているが、フルタイムでなくても先方で実行できる体制がある会社や組織とどう出会うか、が重要となります。

このような関係ですと、先方は私をフルタイムで確保するよりも安価なコストで済み、私はパラレルで仕事をすることで、1社フルタイムよりも多くの報酬、または報酬が同じなら、より多くの時間の自由を得ることができるので、お互いにメリットのあるお話になるわけです。

では、どうやって複数の仕事を進めるかというと、まず自分の仕事のポートフォリオを「代走」「伴走」「コーチ」と分類。「代走」は完全に先方の代わりに自分が動く、「伴走」は先方に動く人がいてその人を横からサポートする、「コーチ」は先方でやっている人を指導するといった切り分けです。

関与度が下にいけばいくほど低くなりますし、かかる時間に対して実行される業務は大きくなります。個人的には、「代走」はしておかないと現場感がなくなるので、そこは必ずひとつは持つようにしています。「代走」だけをパラレルワークにするとキツいですよね。

時間を切り売りするバイトの掛け持ちと同じになってしまうので、「伴走」「コーチ」というポジションで必要とされるスキルを作らないと、こういったポートフォリオでのパラレルキャリアは難しいと思います。 

 

――この記事はエンジニアなどITテクノロジー人材を対象としていますが、例えばエンジニアにとって「伴走」や「コーチ」って立場をつくるのは難しくないですか?

小島氏:エンジニアでも、様々な会社に「必要だけどフルタイムほど時間は必要としない」ポジションがあると思いますから、そのような会社で「自分が必要とされる能力、役割は何か?」ということを把握しておくことが大切です。そして、その能力や役割が多くの人から見つけられるための「ラベル」付けが必要です。 

私の場合、オールラウンドマーケターを自認し、B2B分野ではマーケティングに関して色々なことをやってきていますが、「何でもやれます!」と発信してもたぶん周りからは見つけられません。コミュニティマーケターというラベルをつけて、それを必要としている人にエッジが立つから見つけられるのだと思います。

エンジニアも同様で、エッジの立て方・見つけ方をマーケティング視点での考え方で、自分は「誰に」「何を」届けられるかを規定しなければなりません。そして、その持っている力を、「どのように」伝えるかを考える。自分にスキルがありさえすれば、誰かが見つけてくれると思うのは幻想です。自分でストライクゾーンを提示しなければ相手はストライクゾーンにボールを投げてはくれないのです。 

 

――そのストライクゾーンやエッジをどのように伝えればいいのでしょうか。

f:id:pcads_media:20200214163948j:plain

小島氏:マーケティングの基本的な考え方である「WHO」「WHAT」「HOW」です。

誰に、何を、どのように伝えるのか。その「誰」と「何」が決まれば、自ずと近道になるやり方は見つかると思うのですが、多くの人が「HOW」、つまりどうすればいいですか?という聞き方をしてきます。

誰にどういう人間なのだと知ってほしいのかが定義できなければ、「HOW」をいくら考えても空振りになります。誰にどのように見つけて欲しいかが分からなければ、自分が思った方向に進めません。ストライクゾーンでない仕事のオファーばかりが来ることになります。

端的にいえば、全員に知られる必要はないんですよ。マーケティング的には全員を相手にしないことが重要だと考えていて、むしろ全員を相手にした途端に破たんします。そのためにも「WHO」「WHAT」「HOW」は有効なフレームワークです。ちなみに、これは個人だけでなく、コミュニティでも同様ですね。どういう人に集まって欲しいかが明確でないと、方向が定まらず、迷走するコミュニティになってしまいます。 

 

――小島さん自身がパラレルワークという働き方を選択したのはどういった理由からでしょうか。

f:id:pcads_media:20200214164026j:plain

小島氏:私にとっては合理的な判断でした。

きっかけは最後のフルタイムのワーク先だったAWSを辞める時ですね。AWSのビジネスはサーバの要素もあればソフトウェアの部分もあり、お客様もエンタープライズ企業から中小企業、スタートアップと様々で、接する方もデベロッパーから役員クラスまで幅広かったんです。

AWSの次に行くとなった時に、同じ面積を持っている会社が非常に少なかったんですね。そういう観点からするとGoogleやマイクロソフトといった、AWSと同じ領域をカバーしている企業はあるのですが、同じような仕事をするのであればAWSを辞める意味はないと思いました。

これまで以上に広い範囲にかかわろうと思ったら、1社では難しいので、複数企業とパラレルワークすることでそれができるのでは、と考えたわけです。 

また、家庭内稟議という大きな壁もあります(笑)。

キャリアチェンジは良しとしても、収入が大幅減少するのはやはりいい状況ではありませんよね。となれば、やはり複数の会社で仕事をして、束ねた金額がフルタイム1社よりも大きければ良し、と考えました。これは前に述べたように、時間を切り売りするバイト掛け持ちタイプではもちろん成立しません。

複数の会社で自分を評価してもらうためには、その会社が必要としているけれども、フルタイムでは必要がないポジションを取っていこうと。そういったニーズはあるだろうと仮定して、色々な会社に話をしてみると「手伝ってほしい」と言われることが多かったんですね。話を聞いてみると、部分的なスキルはあっても、全社視点、事業視点を持ったマーケティング人材が非常に少ない。

でも、そこにマーケティングのフレームワークをきちんと適用して一緒に伴走すると、うまく回りだすことが多いんです。そこにニーズがあるのが分かったので、試してみようと思いました。

そして、辞めるときに「今後はパラレルワークでやりたい」と公言して、1社に属さないことをソーシャルや知人との会合等でも宣言。

幸いAWSを辞めたあとに外部に向けて話をする機会をいくつかいただけたので、そこでもAIと決済に興味があると言い続けていました。すると、そういった方面から話が舞い込んでくるようになるんですね。そういう意味でも、自分がやりたいこと、ストライクゾーンを提示するのは有効です。

一度浸透できると「こういうことをやる人」というカテゴリーができます。すると、「そこにもう1枚別の仕事を挟みませんか?」というオファーが来るようになる。パラレルワークを言葉で説明するのは結構難しいので、「こういうことをやっている」という形を見せるのがてっとり早いですね。

先ほど「エッジ」と表現した得意分野、専門分野選びは非常に重要で、世の中のニーズが少ないときから始めておけば、そのニーズが高まったときに自分が上位にいる可能性が高くなります。なので、まずはアーリーアダプターが多いところで頑張ったほうが良い。2016年頃の私にとっては、それがAIと決済でした。それを発信している頃には、まだキャッシュレスが今ほど叫ばれていませんでしたし。 

次に何がくるか?を予想する上で、日々のニュースは見ている人はいても、その理由や背景まで見ている人は少ないように感じますね。

確かにAIも過去に何度かブームはありましたが、今回が圧倒的に違うのは、商業用に使えるまでにコストが下がった点があげられます。その背景にはクラウドのエコシステムがあり、簡単にデータ分析などができるようになったことが理由として挙げられます。 

キャッシュレスサービスも、これだけデジタル技術が発展したにもかかわらず、日本は現金比率が圧倒的に高かったので、これはニーズがあると考えていました。どのプレイヤーが勝つかは分からないけれど、俯瞰して見ればどの分野が伸びるかは見えてくるものです。

 

――小島さんにとってのコミュニティマーケティングや伴走力と同じように、ITテクノロジー人材にとってベースというか、武器になる力はあるのでしょうか。

f:id:pcads_media:20200214164117j:plain

小島氏:あらゆる人や組織に必要とされるスキルは、言語化が難しいですよね。IT系の資格を持っているから仕事が出来るとも言いきれません。

必要なスキルは何か?と考えている人はそこ(資格取得)に達しやすいですが、資格に頼ると見失いがちです。資格を否定するつもりは全くありませんが、それに頼ってばかりではダメだということです。先ほど説明したように、誰に求められたいのかを定義すれば、自ずと必要な武器は見つかりそうな気がします。

“誰にでも”必要とされるエンジニアになるのは非常に難しいですが、“誰にとっての”ユーティリティプレイヤーになるのかを決めると振る舞いやすい。その“誰”は自分自身で選べます。価値を提供する相手を決めることができます。その“誰”を決めると捨てるものができるので、より少ない時間でそこにたどり着ける。

“誰”がなかなか決まらないから、“念のため”これもやっておこう、が増えてしまうのです。

マーケターでもエンジニアでも、その“誰”の選び方は重要です。その“誰”が分かるようになる期間は人によって違うはずですが、自分が“誰”のための“何”になっているのか、それを常に意識するのがとても重要ですね。それが分からないと「こんなに頑張っているのに」という意識になってしまいがち。

今、自分はどこに向かって歩いているのか、俯瞰して見る癖をつける必要があります。俯瞰して見ることができたら、自分にとっての“誰”を見つけるときの地図になると思います。地図さえあればその場に一直線に行けるというわけではありませんが、より早く、より安全に行けるという感覚です。

 

――やはり、年齢的に早い段階で見つけるのが幸せなのでしょうね。

小島氏:本人のステージによって目的地はどんどん変わっていくのかなと思います。例えば高尾山を登っていて富士山が見えて来たら、そこも登ってみようかなと思えてくるのと同じです。

どこかの段階で視野を広げてみたら、違う世界が見えてくるかもしれません。伸び盛りの分野や組織に自分を置いてみると、次の山が早く見えてくることになると思います。気がつくと自分が登っていた山そのものが大きくなっていて、想定よりも高いところにいるかもしれません。なので、早めに成長分野で行動する、というのがおススメですね。

 

――自分の位置を正しく確認ができる目というものは、小島さんの専門であるコミュニティの中で育まれそうですね。

f:id:pcads_media:20200214164202j:plain

小島氏:コミュニティの定義は、“ある関心軸で集まっている人たち”だと思っています。(今日のような)キャリアの話も、関心がある人にしか響かないのと同じです。

ですから、同じ関心軸の人たちでインプット・アウトプットしあうほうが良い。これも「誰を相手にするのか」と同じ感覚で、同じ関心軸のコミュニティの中でアウトプットして、フィードバックをもらったほうが良いでしょうね。 

そういった意味で、キャリアアップやスキルアップの課程で、コミュニティは必要不可欠です。コミュニティに参加し、インプット、アウトプットすることで、自分の関心軸や「Who」「What」が明確になりやすい。複数のコミュニティに属せば、そのスピードや精度も上がっていきます。ITのコミュニティでも、いくつかのコミュニティに所属している人が多いのは、そうした効果を実感している人が多いからではないでしょうか。

 

――インプットはわかりますが、なぜアウトプットが必要なのでしょうか。

小島氏:自分から発信=アウトプットすると、それに近いインプットが入ってきます。例えば、懇親会や勉強会で独りぼっちにならない方法は、登壇側にまわることですよね。

誰もがその人を認知できるので、放っておかれることがあまりありません。その時の話題も、登壇時に話した内容に類するものからスタートしやすいので、会話も弾みやすく、結果的に得られる情報量も増えます。このように、アウトプットしてからインプットをもらう方が近道、というわけです。

 

――それを複数のコミュニティで行うと、もっと近道、ということですね? 

小島氏:その通りです。同じように、領域を広げながら、キャリアを作っていけるという点においては、パラレルワークも良いと思います。

1社にだけ在籍していると、どうしても枠が決まってしまいがち。ですから、パラレルワークになれば、それだけ枠の拡張は容易になりますし、アウトプット範囲も広くなりますね。ただし、専門性は、フルタイムで取り組む場合に比べても低下しがちなので、そのバランスは意識すべきでしょう。

広い範囲をカバーしつつ、マネジメントする方が向いているなら、パラレルワークは最適です。反対に職人的に仕事に向き合いたいのならば、場所は選んだ方が良いけれども、フルタイムの方が同じ時間でより高いサラリーが得られるでしょう。向き・不向きもありますよ。しかし合理的なやり方なので、向いている人はやってみたら良いと思います。 

今から10年前の日本では、このパラレルな働き方を実施するのはかなり困難でした。

世間の目に加えて、そもそも雇う側がそういう人を雇うコンセンサスがありませんでしたから。

“フルタイムではない”=“パートタイム”とスキルを低く見ていたんですね。日本はパートタイムを低く見る傾向がありますが、海外は反対で、困ったときや難しい課題にはパートタイマーを起用します。正確にいえば、パートタイマーではなく、コントラクター(契約者)ですね。例えば事業の立ち上げのときのみ参加する、プロのコントラクターがいたりします。

こうした海外での常識を知る上でも、外資経験は役に立つと思います。実体験として、欧米をはじめとする海外のモノサシで物事が動いている企業と仕事をするのは、俯瞰する力を養う場としては最適です。状況を俯瞰して見ることができないと、自分がキャリアの途中で遭難していることにすら気づかない場合が多かったりします。

 

――ありがとうございます。最後に、小島さんが今、もしくは今後、注目している分野について教えてください。

f:id:pcads_media:20200214164256j:plain

小島氏:今、課題満載なところは総じて注目分野ですね。

特に、農業や行政、教育分野はアリかなと思いますね。様々な課題を抱えている分野なので、それを解決に導くだけで非常に良いビジネスになると思います。地方創生も同様、現在のアプローチはあまり良くないように思えますが、これらのように課題があって、なおかつ解決ができそうな素地があるところは伸びしろがあると思います。

農業、行政、教育あたりは世界各国を見渡してみても、いい事例も沢山あるので、ロールモデルが見つけやすいのではないかと思います。

これらはコミュニティとテクノロジーの両方の力を持って解決できる社会問題だと思います。解決しようという同士が集まればそれ自体コミュニティなので。本来は政党も同じですよね。クリアな旗を立てて、誰とどこに行くのかを明確にするのが大切です。農業や行政、教育問題は、立てるべき旗や旗手が混沌としている、そんな状態にあります。 

答えが必ず用意されている日本の教育の中で育ってきましたから、どうしても「正解は何?」と求めてしまいがちなのですよ、日本人って。

上記の課題もさることながら、キャリアもそう。良いキャリアを作るための答えを探そうとしてしまいます。でも、最初から答えは見つからないし、あらゆるシーンに通用する答えもない。立てるべき旗、一緒に走れる同士、インプットとアウトプットを通じて、合意できる、納得できる答えに近づいていく、というプロセスが実は一番近道なのかなと。それを体感するうえでも、多くの人にコミュニティに参加して、アウトプットしてほしいですね。

f:id:pcads_media:20200214164344j:plain

以上が第1回ストリートインタビューです。小島さん、ご協力いただきありがとうございました!

次回のストリートインタビューは?

小島氏の高校(土佐高校)の後輩で、ビジョナル株式会社でCTOを務める竹内真(たけうちしん)氏をご紹介いただきました。次回のストリートインタビューもお楽しみに。

 

( 取材:伊藤秋廣氏(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき氏 / 編集:TECH Street編集部)