【ブロックチェーン 連載#3】ブロックチェーンを活用したビジネスモデルの事例と課題

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「ビットコイン」で再び脚光を浴びたブロックチェーンはいまや仮想通貨の域をはるかに超え、資産管理や美術品の真贋証明、商品のトレーサビリティ、ゲームなど、幅広い産業の基盤技術として浸透しようとしています。それだけでなく、将来的には税の徴収や投票など、行政領域などでの活用や導入の検討が進められています。

そこでTECH Streetでは全5回の連載で「ブロックチェーン」について学べる記事シリーズを展開!今回は、ブロックチェーンを活用したビジネスモデルについて解説します。

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データの高い信頼性と管理者不要なシステムなどの特長から、ブロックチェーンを基盤とした新しいサービスがさまざまな業界で使われるようになっています。一方、コンピューターとサーバー(基幹システム)という従来の在り方をすべて代替できるとはみられていません。ブロックチェーンという技術そのものにいくつかの制約があるためですが、多くの開発者はその制約、課題を乗り越えるべく取り組んでいます。ここでは、ブロックチェーンを活用したビジネスモデルの事例と課題について解説します。

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンは、ハッシュ関数という複雑な数式や公開鍵暗号と電子署名を活用することでデータの改ざんを防ぐだけではありません。P2P(peer-to-peer)という複数のコンピューター同士が情報をやりとりして同じデータを保管するという仕組みなどにより、「改ざんが困難」で「中央管理者不在」という特長をもちます。データは匿名ですが、履歴を追跡することができるのも特質の1つです。ここではまず、ブロックチェーンの基礎的な知識について身につけましょう。

ブロックチェーンの概要

「情報の改ざんが困難」という最大の特長は、ブロックチェーンに参加するコンピューターが変更履歴も含めたトランザクション(取引データ)すべてを保存していることから生まれています。元データの推測が非常に困難なハッシュ関数が使われたデータ(トランザクション)はブロックの中に保管され、過去のブロックとつながってブロックチェーンになります。この膨大な情報が詰まったブロックチェーンを参加者全員が保有していることから、悪意をもってデータを改ざんしようとしても改ざんしきれず、元のデータが保たれるのです。

また、サーバー(基幹システム)を利用していれば、サーバーがダウンした時点でシステムが停止するという単一障害点の問題が起こりうるのですが、そのような問題も起らないのです。

ブロックチェーンを利用したビジネスモデル

手数料が高かった海外送金はブロックチェーンを利用することで大幅にコストが下がり、少額でも海外送金ができるようになりました。金融機関では、業務の効率化にブロックチェーンを利用する動きが始まっていますが、ここ数年は金融業界だけにとどまらない広がりを見せています。

ブロックチェーン技術を利用したビジネスモデルの例

世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートでは2018年、「スマート・パッケージ」という配送システムなど、ブロックチェーンを利用した自社サービスに関する特許を複数出願しました。スマート・パッケージは物品の流通経路を生産段階から追跡するトレーサビリティを行うためで、廃棄量が減るとも言われます。ウォルマートが出願した特許には、顧客が購入した商品を転売できるよう購入履歴をブロックチェーンに残すサービスも入っています。消費者の中には、安心して食べられるものには十分な対価を支払ってもいいと考える人も多く存在します。取り組みにより、付加価値のある商品を提供できるようになり、ニーズの受け皿となることができます。しいては、収益の改善が期待でき、新たなビジネスモデルの構築が実現できるとも言えるのです。

流通業界でブロックチェーンを利用したトレーサビリティについては、「商品に加わった衝撃などを自動的に記録すれば、配送時の荷物の扱い方が大きく変わる」との見方もあります。様々な履歴を記録できるブロックチェーンの特長は、徹底したトレーサビリティが荷物の扱いを変える可能性があります。例えば運送会社としては、コスト削減や運送サービスの付加価値アップが期待できるでしょう。

また、アート業界でもブロックチェーンの活用は進んでいます。「Codex」社では、アート作品の真贋判定や価値判定を、ブロックチェーン上で行います。アート業界において、偽物を購入するリスクは常に存在します。売買もブロックチェーンで管理するため、偽物が流通するリスクを減らすことができ、売買が活発化します。アート業界における新たな販売モデルといえるでしょう。

このように、ブロックチェーンは、これまでは想像できなかったビジネスモデルを生み出す可能性があるのです。

ビジネスモデルの収益構造

ブロックチェーンのビジネスモデルでもっとも知られているのが仮想通貨の取引所でしょう。手数料を中心に収益をあげていて、国内取引所のCoincheckは2018年3月期の営業利益が537億円でした。

しかし、これから広がりをみせるビジネスモデルは取引所ではありません。DApps(Decentralized Application)と呼ばれる、イーサリアムなどのブロックチェーンプラットフォームを利用したアプリケーションによるものです。DAppsでもICO(Initial Coin Offering)による収益が考えられますが、他のマネタイズ方法も近年増えています。

ICO以外のDAppsの収益構造は、取引手数料やサブスクリプション/プレミアム課金、広告、コントラクト手数料などです。ブロックチェーンを活用した電子決済システムを小売店舗に提供するOmiseGoでは、手数料やコンサル料、母体のOmiseの成長をマネタイズにしています。

これからのブロックチェーン技術を利用したビジネスの市場規模

経済産業省が2016年4月にまとめた「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査報告書」によると、ブロックチェーンの潜在的な国内市場規模は67兆円です。最も大きい部門は、製品の原材料から製造過程、流通、販売までをブロックチェーンで追跡できる小売りや貴金属、美術品などのサプライチェーン部門で32兆円でした。

次に大きいのが、契約条件や履行内容、将来発生するプロセスなどをブロックチェーン上に記録する自動化、効率化の部門で20兆円、遊休資産のシェアリングが13兆円です。また、土地登記や出生登録などの権利証明行為、地域通貨やポイントサービスなどの価値の流通・ポイント化などが1兆円ずつでした。

しかし、これだけのマーケットが影響を受けるのはまだ先のことです。矢野経済研究所が2019年4月にまとめた報告書「ブロックチェーン活用サービス市場の実態と将来展望」によると、2022年度でも国内でブロックチェーンを活用したサービス市場規模(事業者売上高ベース)は1,235億9,000万円にとどまっています。

ブロックチェーンビジネスモデルにおける課題

ブロックチェーンにはさまざまな特長があり、その特長からこれまでには考えられなかったビジネスが生まれているのですが、課題もあります。それは、さまざまなアプリケーションを付加できるブロックチェーンプラットフォームが数多く開発されているとはいえ、難易度がまだ高いこと。そして、ブロックチェーン技術基盤に起因するスケーラビリティなどの課題があるのです。しかし、いずれも解消に向けた取り組みが続いています。

ブロックチェーン技術応用の難易度が高い

ブロックチェーンはもともと仮想通貨・ビットコインの中核技術として開発されたものです。特定の管理者がいなくても改ざんされないデータを安価にやりとりできるその特長は金融業界だけでなく、さまざまな業界で注目され、それにあわせて多くのプラットフォームが生み出されました。

スマートコントラクトといった、一定の条件がそろえば契約内容を自動的に実行する仕組みもプラットフォームの中に取り込まれています。ブロックチェーン技術における前提知識が必要であるなど、まだまだ難易度は高いといえますが、今後はさらに使いやすくなると見込まれます。

プロトコルレイヤーでの課題解決が必要

ブロックチェーンプラットフォームの階層であるプロトコルレイヤーには、ブロックチェーンの技術基盤に起因するスケーラビリティなどの問題があります。結果として、取引手数料の上昇や処理時間の遅延につながっています。

処理に時間かかるという点は、ブロックを成立させる手続き(ファイナリティ)からも生じています。ブロックチェーンでは、参加者の「正当」というコンセンサスがあって初めてファイナライズされ、1つのブロックが成立するのですが、一定の時間がかかるのです。ビジネスにおいてはタイムスタンプ(時刻認証)が重要ですので、高速性や応答性の悪いブロックチェーンは現段階ではビジネスに大々的に展開しにくいとみられています。

また、さまざまなプラットフォームができていることから、インターオペラビリティ(ブロックチェーン間を行き来する技術)も求められています。

まとめ

ブロックチェーンのビジネスへの本格展開には、処理の高速性などの課題が山積しています。しかし、インターネットがなくては困る時代になった今から20年前、ネットは黎明期で静止画がじわじわと表示されるレベルでした。動画配信なんて想像もつかない世界。いまのブロックチェーンはそんな黎明期にあり、さまざまな技術者が本格展開に向けて課題解消に向けて取り組んでいます。

今回はブロックチェーンのビジネスモデルの事例についてみていきましたが、次回は【ブロックチェーン 連載#4】として「AIと機械学習が加速させるブロックチェーン活用」について紹介していきます。お楽しみに!

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