
こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、デジタルグリッド株式会社のCTO黒川さんに、エネルギー業界の業界の構造、テクノロジー活用、そして今後の展望について伺いました。
※この記事は、2025年12月時点の内容を記載しています。

黒川 達也 氏
デジタルグリッド株式会社
取締役Chief Technology Officer
2015年に東京大学大学院工学系研究科修士課程を修了。ディー・エヌ・エーに入社し、スマートフォンゲームの開発に従事。その後、PKSHA Technologyに入社し、対話エンジンの開発を担当。2020年8月にデジタルグリッドに入社し、2023年10月30日に取締役に就任。
- プレイヤーの多様化:小売と発電事業の今
- エンジニアは「国のルール」を追うべきか?
- 成長の鍵は「納得感」とAIによる提案の高度化
- 活躍するエンジニア像:設計力と課題解決能力
- エネルギーの民主化とプラットフォームの役割
ーーまずは、エネルギー業界について教えてください。
黒川: 「エネルギー」の中でも私たちが手がけているのは電気、特に「電気の取引(売買)」の領域です。
かつては地域ごとの大手電力会社が一貫して発電、送電、小売を担っていましたが、現在は「作って、運んで、届ける」という各工程に多くのプレイヤーが関わる構造に変化しています。
そして、発電・送電・小売の流れの中でIT活用が進んでいます。最も身近な例は、各家庭や工場に設置されている「スマートメーター」でしょう。これは電力小売自由化を機に普及し、30分ごとの使用電力量を記録・送信することで、電力網全体のバランス調整や省エネに活用されています。
また、私たちが注力しているのは「どのような電気を、どのように取引するか」という部分のIT化です。
プレイヤーの多様化:小売と発電事業の今
ーー電力業界のプレイヤーは、競合が多いのでしょうか。

プレイヤーの数は非常に多いです。例えば、私たちに近い小売の分野では、現在約800社ものライセンス企業が存在します。消費者が契約先を選ぶ場合、100社から200社ほどが候補に挙がる状況です。これは、数社しかいない携帯電話の通信業界などとは大きく異なります。
また、発電事業者の数もここ10年ほどで急増しました。かつては数兆円規模の費用がかかりましたが、太陽光発電などの再生可能エネルギーの登場により、数千万円程度で始められる比較的小規模な発電事業者が爆発的に増えています。
ーー電力の売買、つまり需要者と供給者を結びつける領域では、テクノロジーの活用は進んでいますか。
電源の種類によります。先ほど、私たちの事業は「どのような電気を、どのように取引するか」のIT化と話しましたが、太陽光発電などは技術的に確立されており、ITによる改善の余地は限定的です。
一方で、私たちが最も注力し、テクノロジー活用が進んでいるのがストレージ、つまり蓄電池の分野です。電力は常に需要と供給を一致させる必要がありますが、この需給バランスの調整役として、近年、応答速度の速い蓄電池が注目されています。
私たちが手がけているのは、お客様が導入した蓄電池に対し、送配電事業者からの指令に基づき、出力を最適に制御するシステムを提供することです。このシステムにより、現地に人を派遣することなく、リモートかつ自動で管理を行い、コスト削減と電力の安定供給に貢献しています。
エンジニアは「国のルール」を追うべきか?
ーーこの業界で働くエンジニアが今最も注目している話題についてお聞かせください。

直近で特に注目しているのは、市場設計と制度設計です。
電力取引のルールは国のエネルギー庁などが主導して常に設計・改定されており、例えば需給バランス調整の対価をオークションで決定する仕組みなどが導入されています。蓄電池もこの需給調整市場や、将来の供給力を取引する「容量市場」などに参加しています。
私たちは、こうした制度の動向を常に分析し、蓄電池の価値を最大化するための対応を急いでいます。直近では数年後を見据えた新たな制度設計(例:市場の約定単価の価格条件変更や募集量削減について)も議論されており、私たちのビジネスモデルやプロダクトに大きな影響が及びます。
ーーエンジニア自身も、市場動向や制度設計を理解する必要があるのでしょうか。
必ずしも必須ではありませんが、知っていた方がより良いものが作れると考えています。エンジニアは、国の制度変更の影響を必ず受け、システムを追随させる必要があります。
エンジニアが国の決定を変えられるわけではありませんが、国が制度設計を行う際に事業者としてエンジニアに意見を求める場合があります。エンジニアが市場動向や制度設計に理解していることで、そのようなフィードバックをするプロセスに関われる機会が生まれます。
ーー制度変更によっては、システムの仕様が抜本的に変わる可能性もあるのでしょうか。
その可能性は十分にあります。電力業界の制度はまだ発展途上であり、新しい制度を導入して改善を図るということが繰り返されています。そのため、私たちは常に変化に対応し続けなければなりません。
変化にシステムとしてただ対応するだけでなく、それを新たなビジネスチャンスとして捉え、より良いサービスを生み出すことが重要です。
成長の鍵は「納得感」とAIによる提案の高度化
ーー今後の成長に向け、どのような「技術」に注力し、ビジネス課題の解決を図ろうとお考えでしょうか。

やはりAIの活用は避けて通れません。その上で、一つは「オペレーションの改善」です。社内業務や蓄電池の制御など、人手に頼っている作業をAIで効率化・自動化していきます。人間は最終承認のみを行うといった、責任の所在は人間に置きつつプロセスはAIが担うフローを構築します。
もう一つは、外部向けサービスとしての「需要者への提案の高度化」です。例えば、過去のデータや将来の市場予測などをAIに与え、対話形式でシミュレーションすることができれば、顧客は納得感を持って電力調達の意思決定ができるようになります。
ーー豊富なデータがあるマッチングビジネスとAIは、非常に相性が良さそうですね。
その通りです。そして「データを蓄積する」ことが非常に重要になります。30分ごとの使用量データは整備されていますが、今後は商談の音声データなど、技術の進化によって活用可能になったデータも集めて分析することで、営業担当者の頭の中にしかなかった知見を組織として活用できるようになると思っています。
活躍するエンジニア像:設計力と課題解決能力
ーーこの業界では、どのようなスキルやマインドを持ったエンジニアが活躍されているのか教えていただけますか。

特に現在の当社のフェーズでは、少数精鋭で迅速にサービスを改善していく必要があります。また、電力データは膨大になるため、スケーラビリティを考慮したアーキテクチャーを考えられるエンジニアが非常に重要です。
また、AIがコーディングを補助する時代において、実装力そのものよりも、課題解決のために「何を作るべきか」というソフトウェア開発の戦略や設計を考える能力がより重要になっています。例えば、顧客の納得感を高めるという課題に対し、どのようなデータを収集し、どう設計すれば実現できるかを考え、試行錯誤できる方です。
加えて、電力業界の制度は発展途上で正解が誰にも分かりません。この不確実な状況の中で、技術の最前線に立ち、課題解決に繋げていくことにやりがいを感じる方が向いていると思います。
エネルギーの民主化とプラットフォームの役割
ーー最後に「エネルギーの民主化を実現する」というミッションの実現に向けて、今後どのようなことに挑戦していくご予定でしょうか。

民主化によって調達の選択肢は増えましたが、短期的には、増えた選択肢の中から「どうやって最適なものを選ぶか」という課題解決に注力します。
私たちの役割は、プラットフォームとして調達の選択肢をさらに増やし、その中からお客様がストレスなく最適なプランを選択・契約できるような、丁寧なマッチング機能を提供していくことです。民主化された多様な選択肢をプラットフォームで集約し、それぞれの需要者や供給者にフィットする形で再提供していく。ここに私たちが貢献できる価値があると考えています。
この事業の鍵は、最適解そのものよりも「納得感」です。電気の市場価格の変化を正確に予測することは誰にもできないからこそ、その時の意思決定が「自分たちにとって最善だった」と顧客自身が納得できることが大切です。そのために、私たちは、その納得感を醸成するためのサポートを提供し、一部の優秀な営業担当者に限られていたプロセスをプラットフォーム上で誰もが利用できるようにしたいと考えています。
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)
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