【ブロックチェーン 連載#5】ブロックチェーンの実証実験の事例(金融/不動産/自治体・行政)

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「ビットコイン」で再び脚光を浴びたブロックチェーンはいまや仮想通貨の域をはるかに超え、資産管理や美術品の真贋証明、商品のトレーサビリティ、ゲームなど、幅広い産業の基盤技術として浸透しようとしています。それだけでなく、将来的には税の徴収や投票など、行政領域などでの活用や導入の検討が進められています。

そこでTECH Streetでは全5回の連載で「ブロックチェーン」について学べる記事シリーズを展開!最終回は、ブロックチェーンの実証実験ついて解説します。

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ブロックチェーンの実証実験

今、日本国内のみならず世界中でブロックチェーンの実証実験が行われています。ブロックチェーン技術は通信速度面や運用・保守面などでいくつもの課題があり、それらを解決するための様々なソリューションが提示されています。今、実証実験によってそれらの技術評価が進み、様々な分野・領域に適用できるユースケースが見つかり始めています。この記事では、さまざまな分野や場面で効果が実証されているブロックチェーンの実証実験について、事例を紹介します。 

金融分野における実証実験事例

ブロックチェーンとの親和性が高いと言われている金融分野では、さまざまな実証実験が行われています。どのような実証実験が行われているかそれぞれの事例を見てみましょう。

金融市場インフラに対する実証実験

近年、金融業界ではファイナンス(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語、フィンテック(Fintech)という言葉をよく耳にします。このフィンテックムーブメントでは、ブロックチェーンを含めた最新技術を取り入れた取り組み、実証実験について活発に検討・議論されています。

東京証券取引所グループと大阪証券取引所が統合してできたJPXグループでは、分散型台帳技術(DLT)に関する研究チームを立ち上げ、2016年以降、証券や大手銀行と協力してさまざまな実証実験に取り組んできました。金融市場インフラに分散型台帳技術の適用ができるかどうかについて検討が行われた結果、分散型台帳を活用することで清算・決済、コーポレートアクションといった場面で効率化やコスト低減が期待できるということがわかりました。この結論を受けて、さまざまな場面での分散型台帳技術の適用が試みられるようになります。

例えば、証券取引の際に行われる、異なる金融機関の間で約定通知を照合して決済・記録するプロセスに関して、ブロックチェーンを用いて自動化できないかについて検討が行われました。検討の結果、分散型台帳技術であれば機能要件を満たすであろうという結論に。

そのほかにも、証券会社が新規口座開設の際に行う本人確認(KYC)業務にブロックチェーン技術を適用できないか、検証実験が行われました。実験の背景には「各証券会社で業務が重複する」「ユーザーは2社目以降の口座開設の際にも本人確認を行わなくてはならない」など、KYC業務の不便性が報告されていたことがあります。

実証実験の結果、これらの不便性はブロックチェーン技術によって解消されることがわかりました。データの改ざんが困難なブロックチェーンに本人確認済み情報を記録し、各社で情報を共有することで、冗長な本人確認プロセスを大幅に改善できると結論づけられたのです。このように、金融市場インフラへの実証実験はさかんに行われています。

3大メガバンクの事例

3大メガバンクでは、ブロックチェーンに関連したどんな実証実験を行っているのでしょうか。

まず、みずほフィナンシャルグループでは、貿易取引分野でのブロックチェーン技術活用の実証実験を行っています。貿易取引では取引ごとに異なる膨大な情報を、書面を通してやりとりする必要があります。事務作業やコストがかかっているため長年の課題でした。もちろん、これまでも貿易取引の電子化システムは開発・提案されてきましたが、いずれも移行コストなどを理由に本格導入には至っていませんでした。しかし、ブロックチェーンを活用することで、各社間で安全にデータを共有することが可能となり、サーバー構築した場合と比較してデータ移行など運用コストの大幅な削減が期待できます。
2017年にみずほフィナンシャルグループが行った実証実験では、貿易取引の際に金融機関が発行する「信用状(L/C)」などの貿易書類をブロックチェーンの技術で電子化し、日本とオーストラリア間での実際の貿易取引に適用しました。これにより、これまで数日かかっていた貿易書類関係の業務を短時間で推し進めることができるようになったと言われています。商用化の目途はまだ立っていないそうですが、サービスの実現に向けた意味のある実証実験になりました。

また、株式会社三井住友銀行ではブロックチェーン技術を活用した貿易取引プラットフォーム「Marco Polo(マルコポーロ)」の実証実験を敢行。従来数日間の時間を要していた書類授受はデジタル化され、船会社、船積港、仕向港や船積日等の船積に関わる最新情報もリアルタイムで共有ができることが確認されました。実証実験では複数の貿易データをプラットフォーム上で自動的に突き合わせることで、貿易取引における受発注の消込業務を効率化することもできました。

さらに、三菱 UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)ではブロックチェーン活用の次世代金融取引サービス「Progmat(プログマ)」の提供に取り組んでいます。このサービスでは、デジタル証券(セキュリティ・トークン、ST)の発行から流通までを一元的に自動執行します。これにより、証券に関する情報はすべてプログラム化され管理されていきます。プログマは、社債、裏付資産の信託受益権の権利保有者についての原簿情報をブロックチェーン上に保持します。また、異なるブロックチェーン基盤との間でも運用可能な形を目指すと言われています。

2016年にはこの「みずほフィナンシャルグループ」「三井住友銀行」「三菱UFJフィナンシャル・グループ」の3大メガバンクが参加して、「全銀システム」の送金業務に相当する業務を分散型台帳技術に置き換える実証実験を行いました。この実証実験では1秒あたり1,500件を処理する能力を確認し、ブロックチェーン技術の適用可能性があると考えられました。

不動産業界における実証実験事例

不動産業界では、以前より不動産情報の不正確さが取りざたされてきました。そのため情報の一元化・共有にブロックチェーンの技術を使うことで情報の正確性を高めよう、という機運が昨今高まってきています。

LIFULLの事例

住宅・不動産ポータルサイトの企画・運営を行う株式会社LIFULL(ライフル)では、2017年にブロックチェーンを活用した不動産情報共有・利用実証実験を開始しました。不動産業界では事業者ごとに不動産情報の同期が徹底されていないという課題があるため、LIFULLではブロックチェーン技術を活用して不動産情報流通における情報の一元化を目指しているようです。

特に2019年からは所有者不明の不動産問題を解決するため、「ブロックチェーン技術を用いた不動産権利移転記録の実証実験」を開始。この実験では昨今急増している未登記の物件の権利移転をブロックチェーンに記録していくことで、問題の解決を図ります。具体的には、市場価値がゼロに近い不動産をLIFULLがオーナーから無償譲渡を受け実施されます。実証実験では、パブリックブロックチェーンを用いて取引のタイムスタンプを記録。従来の契約書よりも、安価に不動産の権利移転記録を残すことで、移転登記の代替としての可能性を検証するとのことです。

ソニーグループのSRE AI Partnersの事例

ソニーグループのSRE AI Partners株式会社は、2019年から不動産ビジネスでのブロックチェーン活用の実証実験に参加しています。この実証実験は、不動産ビジネスでブロックチェーンを活用して情報の透明性を保ち、取引しやすい環境の実現を目的として行われています。実証実験の第1段階では、ブロックチェーンにより、改ざんが困難な不動産関連情報を記録する仕組みが構築できることを確認。第2段階では関連情報を時系列に蓄積、不動産取引にて活用して不動産取引市場の活性化を目指しつつ、協働する複数の不動産ビジネス事業者とのビジネススキーム内における課題の整理を行うとのことです。 

自治体・行政の事例

大量のデータを正確に扱うことが求められる自治体や行政では、ブロックチェーンを活用することによるメリットは非常に大きいものと言えるでしょう。ここでは自治体や行政による事例を見ていきます。

石川県加賀市の実証実験

石川県加賀市は「ブロックチェーン都市」の形成を宣言しており、ブロックチェーン技術を活用した地域の課題解決に取り組んでいます。取り組みの一つとして地域内サービスの認証を一元化しつつ、連携する各サービスのデータを連携する「ブロックチェーンを活用した KYC (Know Your Customer) 認証基盤」の構築を開始。現在は地域情報マイページ、障がい者情報共有システム、オンデマンド交通サービス、市民参加型事業評価システム等のサービスの導入が検討されています。

さらに、自動運転社会に向け、次世代モビリティサービスに関する実証実験も行っています。このサービスのシステムにもブロックチェーン技術を活用していくとのこと。複数の移動手段をITでつなぎ、利用者が円滑に移動できるように新たな交通システムの整備に動いています。また、ブロックチェーン技術を用いた認証を採用した電子行政専用サイトも開設しています。住民がサイト内のサービスにアクセスする際に、マイナンバーを使うなど、より厳格な認証を求めることで不正利用防止につなげるとしています。

茨城県つくば市のネット投票事例

茨城県つくば市では、コンテスト審査時のネット投票にブロックチェーンの技術を使用しています。ネット投票では顔認証やマイナンバーによる認証によって投票の正当性が保たれつつ「投票内容が改ざんされないこと」「処理速度が速いこと」が求められますが、いずれもブロックチェーン技術を活用することで解決できることが実証されました。実際につくば市では投票者情報と投票内容を別々のサーバーで分散管理し、データの改ざんが困難なEthereumによるブロックチェーン技術を活用。投票データの非改ざん性を証明しました。さらに投票ボタンを押した後の投票データの処理には1、2秒程度しかかからず、処理速度の速さを実証しました。

総務省の社会実装推進のための導入実証

総務省ではブロックチェーン技術の社会実装を推進するため、2017年から2018年にかけて総務省内での導入実証実験を行いました。実証実験で検討・検証されたのは、どこまでデータを共有するか、どの種類のブロックチェーンを導入するか、システムの使い勝手はどうか、構築や運用にはどのくらいのコストがかかるかなど。総務省では各省庁や自治体がサーバーをそれぞれ持ち、ブロックチェーンを使ったシステムを構築することで改ざんが困難なデータ共有ができる社会をつくろうとしています。これにより、利用者の利便性は向上すると言われています。

会社を設立するときを例にとって考えてみましょう。従来の方法では法務局や税務署、社会保険事務所など複数の役所で手続きが必要となりますが、ブロックチェーンを導入すれば一連の手続きを自動化することができるようになるのです。多数の行政機関・事業者が関わっていて、ブロックチェーンを導入することで自動処理や情報共有のメリットが見込まれる政府のシステムには今後ブロックチェーンの適用が随時されていくでしょう。また、異なる業態の組織・団体間の生産性向上のためにもブロックチェーンを用いた実証実験は随時行われていくことでしょう。 

まとめ

今まで手間やコストがかかっていたことも、ブロックチェーンによってコスト低減が実証されている事例はいくつも見られます。もちろん、実際に使用されていくまでには実証実験が何度か必要になるものもあります。しかし、効果が評価され、また、課題抽出とフィードバックによってシステム性能や利便性向上に繋がっていくことでしょう。実証実験をさまざまな分野で行うことによって、業種を問わずブロックチェーンの普及が見込まれます。

今回で【ブロックチェーン連載】シリーズは終了。ブロックチェーンについてしっかり学べましたでしょうか?TECH Streetでは今後も会員の方が気になるキーワードについて深堀りし、学べるコンテンツを配信していきますのでお楽しみに!

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