
こんにちは!TECH Street編集部です。
連載企画「ストリートインタビュー」の第61弾をお届けします。
「ストリートインタビュー」とは
TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。
企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”後藤さんからのバトンを受け取ったのは、株式会社ジェイテックジャパン 高丘 知央さん。
ご紹介いただいた後藤さんより「同じく国外にお住まいの高丘さんをご紹介します。彼を知ったきっかけは、Findyが主催する「アーキテクチャConference」での登壇です。アーキテクチャに強い方で、特にイベントソーシングやCQRSといった難易度の高い領域のオープンソースソフトウェアを、ご自身で開発されています。外から見ていると、そのモチベーションがどこから来るのかまったく分からず、不思議でなりません。その源泉を知りたいですし、そもそもどのような問題意識を持っているのかを聞いてみたいと思っています。」とご推薦のお言葉をいただいております。

高丘 知央 氏
株式会社ジェイテックジャパン / CTO
技術チームの統括や技術選定に携わり、イベントソーシング・CQRSフレームワーク「Sekiban」やC#のResultライブラリ「ResultBox」を開発しています。
アプリや企業向けシステム開発の経験が豊富で、iOS解説本の執筆・監修も行ってきました。クライアントの課題に先回りして工夫することを心がけ、開発チームの効率化に注力し、快適に働ける環境を整えることを重視しています。2024年11月にMicrosoft MVPアワードをDeveloper Technologiesカテゴリで受賞しました。
- 機械への飽くなき探求心が生んだキャリアの原点
- フルスタックな経験を積んだ黎明期のIT業界
- 渡米とiPhone登場:独学アプリ開発に賭けたキャリアチェンジ
- CTOが率いるモダン開発とOSS戦略
- 成長の秘訣:アウトプットが生む繋がり
機械への飽くなき探求心が生んだキャリアの原点
── まず、高丘さんの「技術者としての原点」についてお聞かせください。

高丘: 私の原点は、子どもの頃に家の機械をよく分解して遊んでいたことです。ラジカセなどを分解したり、いろいろ繋ぎ替えてどう動くか試したりするのが好きで、機械や技術がどんな仕組みで動いているのかに強い興味を持っていました。
高校進学を考える中で、5年間を通して専門的に技術を学べる高専の存在を知り、進学を決めました。進学先の久留米高専では、新設された「制御情報工学科」を選びました。機械・電気・情報の内容がバランスよく配置されていて、新しいコンピュータ技術も学べる点に魅力を感じたためです。
──高専在学中は、どのように技術を学ばれたのでしょうか。
高丘: 制御情報工学科には、コンピュータが好きな学生が多く集まっていて、授業だけでは物足りず、皆で自主的に勉強を深めていました。
当時はちょうどC言語が登場し始めた頃で、情報源は『Cマガジン』といった専門雑誌が中心でした。そこから「この方法だと処理が速い」「大規模な開発にはこの言語が向いている」といった知識を吸収していき、「これからはC言語が重要になる」と考えるようになりました。
純粋に学ぶこと自体が楽しかったからこそ、技術をとことん追求できたのだと思います。
フルスタックな経験を積んだ黎明期のIT業界
──高専卒業後は、どのような道に進まれたのでしょうか。

高丘: 卒業後は、福岡の地元企業に入社しました。入社した1999年頃は、まさに「2000年問題」への対応が急務だった時期で、企業向けシステム開発の経験はありませんでしたが、プログラミングスキルを評価され採用されました。
当時のシステム開発は今よりシンプルで、経験が浅くても任せてもらえる環境でした。会社自体も成長期で、大学向けの留学生管理システムなど、業務管理系の受託開発を中心に携わりました。
当時はまだセキュリティの概念が十分に整備されておらず、システムも比較的簡潔でした。しかしその後、不正なデータ書き換えを防ぐ仕組みなど考えるべき点が増え、システムが複雑化していく過程を実際に体験できたのは大きな学びでした。
特に、当時の小規模企業では大企業のような細かな役割分担はなく、プロジェクトのほぼすべてを自分たちで担当していました。いわば現在でいう「フルスタック」の働き方です。上流から下流まで一通りの工程を経験できたことで、単に指示をこなすだけでなく、多角的な視点で提案できる今の自分の基礎になったと感じています。
渡米とiPhone登場:独学アプリ開発に賭けたキャリアチェンジ
──フルスタックに近い働き方でさまざまな経験を積まれた後、どのような道に進まれたのでしょうか。

高丘:実は、その後一度キャリアを中断しています。23歳の頃から約5年間、IT業界を離れ、本を製造する工場で機械のメンテナンスやオペレーションの仕事をしていました。高専で学んだ機械の知識がその現場でとても役に立ちました。
その期間に現在の妻と出会い、結婚しました。妻はアメリカ人で、家族の事情もあり渡米することになりました。仕事があって移住したのではなく、まずアメリカに住むことを決めてから、現地で仕事を探すという流れでした。グリーンカードを取得して渡米したものの、すぐに就職するのではなく、当時登場したばかりの初代iPhoneに注目しました。
ちょうど妻が妊娠中だったこともあり、出産までの約1年間を使ってiPhoneアプリ開発を独学で学ぶことにしました。当時はアプリ開発が解禁されたばかりで、自分でも作れるのではないかという期待がありました。日本語版・英語版のアプリを開発してリリースし、アプリの収益で生活できるようになれば、という思いで取り組んでいました。
──アプリ開発での挑戦を経て、どのようにして現在のジェイテックジャパン社へと繋がっていったのでしょうか。
高丘:アプリ開発だけでは生活に十分な収益を得られなかったため、現地の不動産会社にIT担当として就職し、そこでビジネス英語力を磨きました。
その後レイオフを経験しましたが、私のiPhoneアプリ開発の経験を知った日本人社長から、友人経由でフリーランスとしての仕事を紹介いただきました。単に依頼されたことをこなすだけでなく、これまでのフルスタックの経験を生かして「ここはこうしたほうがいいのでは」といった提案を続けたことで評価され、正社員として現在のジェイテックに入社することになりました。
その後はプログラマーとしての経験に加え、アメリカの技術事情を理解していたことも評価され、2014年にCTOへ就任しました。
CTOが率いるモダン開発とOSS戦略
──現在、ジェイテックジャパン社のCTOとして、どのような開発スタイルや技術方針を掲げていらっしゃるのでしょうか。

高丘: ジェイテックでは、Web系のスタートアップ企業などのようなモダンな企業が採用する優れた開発手法を取り入れ、日本のクライアント向けにソフトウェア開発を行う“モダンな開発”に力を入れています。具体的には、ウォーターフォールではなくアジャイルを採用し、最新のソフトウェア技術を積極的に導入しています。その結果、下請けではなくクライアントと直接やり取りする「直受け」の開発が中心になっています。
CTOとしての私の主な役割は、これから導入する技術を調査し、実際に試作を通じて基盤となる技術を整えること。そして、登壇やブログなどを通じて会社の取り組みを発信する、マーケティング的な役割も担っています。ジェイテックのような小規模の受託開発会社が成長し、継続的に仕事を獲得していくためには、技術力の向上と外部への発信は欠かせないと考えています。
──高丘さんをご紹介いただいた後藤さんから質問を預かっています。最先端の技術動向をどのようにキャッチアップされているのでしょうか。また、その技術を活用した取り組みとして、イベントソーシングのOSS「Sekiban」を公開されている狙いについても教えてください。
高丘:私は最新技術を学ぶために、非常に多くの技術系ポッドキャストを聴いています。会話形式の情報の方が頭に入りやすく、私にとって最適なインプット方法なのです。ポッドキャストで技術の全体像やトレンドを把握し、そのうえでGitHubや書籍で深く掘り下げて学ぶ、というスタイルを続けています。
また、複雑なシステム開発をより良く行うため、イベントソーシングやCQRSといったアーキテクチャに着目し、「Sekiban」というOSSフレームワークを自社で開発・公開しています。これは技術力を示す“看板”としての役割を持つだけでなく、「ぜひ導入したい」という新しい案件につながることもあり、コミュニティへの貢献という意味でも重要な取り組みです。
SekibanはC#で開発しているのですが、日本ではC#の人気がそこまで高くないのが現状です。そのため、国内で人気の高いTypeScript版の対応を今後強化していく予定です。TypeScript版をさらに磨き上げ、より多くの開発者に使ってもらえるフレームワークにしていきたいと考えています。
成長の秘訣:アウトプットが生む繋がり
──最後に、読者となるエンジニアの方々へのメッセージをお願いします。

高丘: これまでのキャリアを振り返って共通して言えるポイントは、「自分でこれが良いのではないか」と決めて行動したことです。そして、やると決めたからにはしっかりやり遂げるという姿勢が重要だと思います。
それと、読者の皆さんへお伝えしたいのは、アウトプットの重要性です。私自身、iPhone開発の時にTwitterを始めたことがきっかけで、本の執筆依頼をいただくなど、人との繋がりができ、現在の仕事に繋がりました。アウトプットをすればするほど、学びがあるだけでなく、人との繋がりができ、チャンスが生まれます。その他にも登壇やコミュニティ活動などを通して、社会に還元することは、巡り巡って最終的には自分自身に返ってくると感じています。時間は必要ですが、ぜひ挑戦してみることをお勧めします。
──貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者をご紹介いただけますか。
高丘: 株式会社ビットキーの佐藤 拓人さんをご紹介します。
選定理由は二つあり、一つは、私が主催する「イベントソーシング勉強会」での彼の技術発表が素晴らしく、特に、事実に基づいたデータ管理による改善の話は、もっと聞きたいと思いました。
もう一つは、佐藤さんが技術記事サービス「Zenn」に投稿した「エージェンティック・コーディングの実装戦略」を読み、AI活用プログラミングに関する質の高い記事で、彼がどのように的確な発想に至るのか、その背景を詳しく伺いたいと思い推薦しました。
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)
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