【ブロックチェーン 連載4】AIと機械学習が加速させるブロックチェーン活用

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「ビットコイン」で再び脚光を浴びたブロックチェーンはいまや仮想通貨の域をはるかに超え、資産管理や美術品の真贋証明、商品のトレーサビリティ、ゲームなど、幅広い産業の基盤技術として浸透しようとしています。それだけでなく、将来的には税の徴収や投票など、行政領域などでの活用や導入の検討が進められています。

そこでTECH Streetでは全5回の連載で「ブロックチェーン」について学べる記事シリーズを展開!今回は、「AIと機械学習が加速させるブロックチェーン活用」ついて解説します。

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 AIの仕組みについて

ブロックチェーンは分散型のシステムですが、共通プラットフォームとして生かしつつ、情報セキュリティを管理できる点で画期的なため、様々な分野に適用することができます。この技術にAI(人工知能)が関係することで、人間の技術を介せず最適解を得ることができるツールとなります。この記事では、AIを構成する一技術である機械学習や、AIがブロックチェーンにどのように活用できるのかなどについて解説します。
そもそもAIはどういった仕組みで動いているのでしょうか。機械学習というキーワードを中心に、AIについて説明します。

AI(人工知能)は推論や判断といった人間と同様の知能をコンピュータ上で実現したものです。いくつか種類がありますが、大別すると「人間と同じように物事を考え、行動できる自意識を持ったAI」と「人間が知能を使ってすることのある特定の一部に特化したAI」の2つに分かれます。

前者は現在のところ実現はしていませんが、後者は様々な分野で今活躍しています。AIができることはいくつかのレベルに分けられますが、現在増えているのは「対応パターンを自動学習して判断する」ことができるAIです。このAIは、様々なことを学習する「機械学習」を行います。

機械学習はアルゴリズムを使って行われます。大量のデータを元に高速の反復処理を行うことによって、AIはデータ内のパターンや特徴を読み取り、最適な判断ができるようになります。AIはこのようなアルゴリズムと、プログラミングのコードの組み合わせによって成り立っています。この機械学習では主にPythonやR言語と呼ばれるプログラミング言語が用いられます。

機械学習とディープラーニングの違い

機械学習とは、人間のようにコンピュータに学習を施す技術のことです。データをAIに読み込ませ、解析させることでAIは法則やルールを自動的に見つけ出します。こうした学習を行うことで、AIは特定のタスクを実行できるようになっていきます。

例えばメールの情報を大量に学習させることで、迷惑メールを自動で識別できるようになります。機械学習をさらに発展させた学習方法が「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる学習方法です。これはニューロンやシナプスといった人間の神経回路をまねて作った「ニューラルネットワーク」です。

機械学習ではデータをAIに読み込ませたのち、人間が指示・命令を行う必要がありますが、ディープラーニングではその必要がありません。ディープラーニングでは大量のデータをAIに与えると一貫性や相違点を見出し、どこに注目するべきか自ら学び、人間からの指示がなくても自動でどんどん学習を深めていきます。このようにディープラーニングは分析対象を区別する際、特徴量と呼ばれる着眼点を自動的に見つけ出すことができる強みがあります。

ブロックチェーンで期待できるAIの効果

AIの技術を生かすことによって、ブロックチェーンはさらに効果的なものとなります。AIとブロックチェーンの組み合わせはどのような効果を生むのでしょうか。それぞれの効果を見てみましょう。

拡張性(Scalability:スケーラビリティ)

ブロックチェーン・ネットワークの規模が拡大すると、処理しなければならないデータが増え、通信遅延(レイテンシー)が発生します。こうした問題は、従来の中央集権的ネットワークでは太刀打ちできないでしょう。

AIを導入することによって、中央集権型のデータセットなしで共同的な学習を実行することができます。この技術はフェデレーテッド ラーニング (Federated Learning)、またはフェデレーション ラーニングとも呼ばれています。 この技術を使用することによって、AIのアルゴリズムはさまざまな場所に点在するデータから情報を得ることができます。そのため、一度にたくさんのユーザーがサービスに集中しても通信遅延は起きない上に、クラッシュも防ぐことができます。フェデレーション ラーニングは、今後ブロックチェーンのスケーラビリティ問題を解決策として注目を集めています。

安全性(Security:セキュリティ)と情報保護性(Privacy:プライバシー)

AIは、ブロックチェーンアプリケーションのレイヤーへの不正な侵入を検出できるため、安全性(セキュリティ)を高く保持することができるようになります。ディープラーニングに使われる初期データは、ターゲット型の攻撃に対して脆弱な性質がありますが、ブロックチェーンとAIを融合させたシステムではそうした攻撃を早期発見・早期防止することができます。

一方で、情報保護性(プライバシー)もAIの介在によって保たれます。通信の改ざん防止に使われているハッシュ関数は以前から脆弱性が指摘されてきましたが、AIを活用することでより脆弱でないハッシュ関数を開発することができます。また、ブロックチェーン・ネットワークにおいては、データを改竄しようとしてもすぐにノードと呼ばれるブロックチェーンに接続されたコンピュータに発見されてしまいます。

ブロックチェーンは中央集権型ではなく分散型のため、データが不正に改ざんされたところでブロックの整合性が取れなくなり、無効化することができます。加えて、ブロックチェーンにデータを保存し、AIに処理させることでデータを暗号化することができます。暗号化されたデータを解読することは困難なため、情報の保護レベルは向上すると言えるでしょう。

効率性(Efficiency)

ブロックチェーンは分散型のシステムのため、データの処理速度に限界が生じます。しかし、ブロックチェーンを通して情報を拡散させる方法にAIを活用することで、データを最適化することが可能となります。そのため、より早く効率的に運用できるのです。データベースに関連した作業の通信遅延を削減することにも繋がるでしょう。 

AIがもたらすブロックチェーンの未来

AIとブロックチェーンの組み合わせは強力な効果を生みます。個人の暮らしから企業の活動にまで影響を与えることでしょう。どんな影響があるか、それぞれ見てみましょう。

個人の暮らし(経済活動)を変える

AIとブロックチェーンが融合することによって個人の暮らしは大きく変わります。例えば、ブロックチェーン上で契約を自動的に実行できるプロトコル「スマートコントラクト」を効率的に利用できるようになります。スマートコントラクトの概念自体は古く、わかりやすい例として自動販売機の例が挙げられます。自動販売機は利用者が必要な硬貨を投入し、飲み物のボタンを押した瞬間に売買契約が成立します。つまり、硬貨と飲み物を交換するという契約(コントラクト)が、自動販売機によって自動化されていると言えるのです。同じことを、現代ではブロックチェーン上で実現しています。

しかし、従来のスマートコントラクトではたびたびその脆弱性が指摘されることがありました。自動化された契約にエラーやバグがあっても、バグを修正することが困難なため、攻撃者に隙を与えてしまうことがあったのです。また、バグを一度修正しても、同じようなバグがその後何度も起こることもありました。しかし、AIとブロックチェーンを融合したかたちで利用すれば、AIにある傾向を学習させ、同じエラーやバグに陥る以前の段階で発見することができます。そのため、スマートコントラクトはよりスマートに使いやすくなると言えます。キャッシュレス決済が普及し、今後は個人と個人の取引きが安全かつスピーディーにできるようになるでしょう。

企業活動を変える

AIとブロックチェーンの融合は企業活動にも影響を与えます。ブロックチェーンを活用することで、従来のトップダウン形式の会社はDAO(自律分散型組織)へと変化していくでしょう。DAOは参加するメンバーが各自自主的にミッションを遂行していく、非中央集権型の組織です。価値を生み出す「規約(プロトコルやスマートコントラクト)」に賛同する人が集まり、サービスに貢献することで、「規約」を通して対価が支払われる構造となります。そのため、トップダウンの組織構造ではなく、全員が平等に横並びで扱われる構造へと変化し、かつ仲介業者も不要となります。

ほかにも細かなところで変化は現れます。例えば、事務作業も効率化されます。AIが過去の正しいデータを元に情報をかき集め、即座に決算書を作成するという事も可能になるでしょう。また、顧客向けサービスにも大きな影響が予見されます。現在、ある企業が運営している音楽配信サービスでは、一つの楽曲がストリーミング再生されるたび、アーティストに楽曲視聴料が払われる仕組みを採用しています。これはスマートコントラクトによるものです。さらに、AIによる料金決定モデルを活用することで、再生回数が多い人気の楽曲にはより高い視聴料を払うなど、アーティストに対する還元率が高いサービスも可能になります。このように企業の組織構造からサービスの内容まで大きな変革が予想できます。 

まとめ

今後AIはブロックチェーンの可能性をさらに広げていくでしょう。互いに影響し合い、想像を超えるスピードで大きな進歩を遂げていくことが期待されます。多岐に渡る分野に影響を及ぼし、個人レベルにまでその影響は及ぶことでしょう。AIとブロックチェーンが真の意味で融合することによって、我々の生活は大きく変貌を遂げるのです。

今回はAIと機械学習が加速させるブロックチェーン活用についてみていきましたが、次回は【ブロックチェーン 連載#5】として「ブロックチェーンの実証実験の事例」について紹介していきます。お楽しみに!

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