【連載49】「易きに流れず、言行一致で医療業界全体をよりよくする」カケハシ社CTO湯前氏の社会課題を解決したい想いとは

こんにちは!TECH Street編集部です。

連載企画「ストリートインタビュー」の第49弾をお届けします。

 

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”畠中さんからのバトンを受け取ったのは、株式会社カケハシ 執行役員CTO 湯前 慶大 さん。

ご紹介いただいた畠中さんより「株式会社カケハシのCTOである湯前 慶大さんを推薦します。同じ医療業界でVertical SaaSを提供している大先輩です。これまで開発組織のマネジメントを長くされている湯前さんからぜひ色々な話を聞いてみたいです!」とご推薦のお言葉をいただいております。

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湯前 慶大 さん

株式会社カケハシ 執行役員CTO 

株式会社日立製作所にてLinuxカーネルの研究に携わった後、2014年に株式会社アカツキに参画。エンジニアやエンジニアリングマネージャーとして複数のプロダクトを担当し、2017年よりVP of Engineeringとして全社エンジニア組織のマネジメントに従事。2020年に執行役員 職能本部長に就任して以降は、ゲーム事業全体のマネジメント業務に携わる。2023年3月に株式会社カケハシに参画。新規事業領域のVP of Engineeringを務めた後、2024年3月にCTO就任。

 

エンジニアとしての湯前さんの原点

ーーまずは、現在の湯前さんを形作る原点をお聞かせください。

湯前:大学では物理を専攻し、量子力学をベースとした物性理論について研究しました。
研究の過程で、数式を入れてシミュレーションを行っていたのですが、この時にプログラミングの面白さや「人間にできないことをコンピューターに任せることの利便性」を強く感じたのが、今の私を形成する原点だったかもしれません。

では、なぜそもそも物理を選んだのかというと、「物の理(ことわり)」と書くように、世の中の理(ことわり)を理解したいと思ったときに、物理が最も原始的な学問であると思ったからです。

日立製作所に入社し、仮想化技術に関する研究を行う

ーー物理を専攻した湯前さんは、社会人の第一歩として、どのような道を選んだのですか?

日立製作所に研究者として入社しました。ちょうどリーマンショックが起きた年で、多くの研究所で研究費が削減されていく中、当時の日立は、多少予算を落としながらも研究を続けるという意思決定をし、研究員の採用を進めていたので、その姿勢に共感し「ここで働きたい」と思ったのがきっかけです。


ーー研究職を選ばれたのには理由があったのでしょうか?

もともと物理を学んだのも「物事を深く理解したい」という理由だったので、仕事をする上でも「自分が深く考えることが、何か世の中に役立つといいな」と考えていました。なので、必然的に研究職に進むべきだろうと思っていたのです。

日立製作所の研究所では、鉄道などの社会インフラシステムに仮想化技術を適用するという研究をしました。当時はVMwareなどが入って来た頃で、日立も独自の仮想化技術を開発していました。


ーー大学や大学院で行っていた研究と、会社で行っていた研究とでは違いはありましたか?

同じ研究といっても大学と会社では大きな違いがありました。大学での研究は、自分の興味あることについて研究でき、たとえ研究結果に大きな成果がでなくても問題ではありません。

一方企業では、「その研究がビジネスに結びつくのか?」という観点が重要です。そして「最終的に使われるものになるのか」という点にゴールを置いています。私自身、自分のやっていることが世の中の役に立つと喜びを感じるので、企業の研究職に進んだのは合っていたと思います。

研究職からゲーム業界へ転職したきっかけ

ーーその後、湯前さんはどのような道に進まれたのでしょうか?

日立製作所で4年半ほど働いた頃、ちょっとした出来事がありました。それは、当時、Linuxカーネルを開発していた時、とあるドイツにいる開発者から個人的に、「上手くいかないことがあるから教えてほしい」という連絡がきたのです。

彼からの相談を引き受けて、問題が解決できた時、とても感謝されました。このときに、自分がやったことがすぐに誰かの役に立つことの嬉しさを知りました。

研究所での仕事は、「5年~10年間研究を続けて、ようやくひとつの製品が世の中に出る」というスピード感であり、かつエンドユーザーが見えにくい面もあったので、この体験を通して、「もっと早いサイクルで自分のやったことが世の中に反映されることがしたい」と思うようになりました。そのような想いから、転職することにしたのです。


ーー日立製作所から、次にどのような会社へ転職されたのでしょうか?

次に転職した先は、ゲーム会社の株式会社アカツキです。アカツキを選んだ理由は、私自身ゲームが好きでしたし、買い切り型のゲームソフトから、日々アップデートされるアプリゲームが普及し始めた頃で、自分が携わったことがすぐに世の中に反映され、そしてユーザーの反応を知ることができる点に魅力を感じたからです。

アカツキには、最初はアプリケーションエンジニアとして入社し、様々なゲームのリリースに携わりました。その後、Engineering Managerとしてプロダクト開発チームのマネジメント業務を担い、執行役員も一時期任せていただいたり、VP of Engineeringとして開発組織全体のマネジメント業務も担いました。


ーーエンジニアとして入社されて、その後執行役員になられて、それまでと役割の違いから苦労したことなどありましたでしょうか?

執行役員を任せていただいた当初は、経営に関する知識がまったくなかったため、思うようなバリューを出すことができず苦心しました。

それまでは、プロダクトを作る開発組織を中心に見ていて、その組織をいかに良くするかを日々考えていましたが、執行役員としての役割を全うするには、それだけでは足りません。財務や会計、投資などといった経営的な知識が必要です。

そこで、「このままではまずい」「自分でしっかりと勉強しなければならない」と思い、ビジネススクールに通うことにしたのです。コロナ禍でリモートだったこともあり、通いやすいタイミングで、2年間をかけてMBAを取得しました。

社会課題を解決したいという想いから、カケハシへ入社

ーービジネススクールに通い、そこで経営に関する知識をつけられたのですね。ちなみにその後、カケハシ社に入社することになったきっかけを教えてください。

アカツキでは約8年半ほど働き「自分がやれることは全てやった」と感じ、次の挑戦として「また別の会社で価値を発揮したい」と思うようになりました。

また、娘が産まれるタイミングでもあり、娘に「良い社会で育ってほしい」と考えるようになり、社会課題を解決する事業を行っている会社に行きたい思いが湧きました。

このような想いを抱く中で、カケハシは、日本が抱える医療業界の課題を解決する一助となる事業を行っており、それが私が今後取り組みたいこととマッチしていたため入社を決めました。


ーーそのような背景があったのですね。それでは、改めてカケハシ社の事業内容についてお聞かせください。

カケハシは医療業界の中でも特に薬局に対してのSaaSを提供している会社です。薬局には薬歴システムというものがあり、これは患者さんの処方箋データを記録しているものです。カケハシではこのシステムを中心に5つのサービスを展開しており、AIを活用した在庫管理や、薬剤師と患者さんがコミュニケーションを取るためのプラットフォームなどを提供しています。

私たちは薬局に対するDXから始まりましたが、今後は患者さんや医療のデータを用いて、医療業界全体に対して価値貢献をしていこうと考えています。

易きに流れず、言行一致で医療業界全体をよりよくする

ーーカケハシ社で、はたらくエンジニアの特徴はありますか?

私たちのサービスは、最終的に患者さんの命にも関わることなので自分も含めて「易きに流れず、言行一致で患者や医療業界全体をよりよくする」という信念を持つエンジニアが多いと思います。

また社内では月に一度、全社会議が行われ、その時に自分たちのプロダクトに対する患者さんや薬剤師さん、フロントに立つ営業からの声を聞いているので、自分たちのやっていることが「実際にどう使われていて、どう役になっているのか」という実感を持つエンジニアも多いかと思います。

自分のやりたいことを続ければ、それが自分のためや世の中のためになる

ーー最後に、これからの時代にエンジニアとしてどのように立ち回るべきか、読者に向けてメッセージをお願いします。

私のキャリアは物理からはじまって研究職に就き、その後ゲーム業界、医療業界と渡ってきているので、「一貫性がない」と思われがちです。しかし私の中では「楽しいと思えるかどうか」「自分にとって重要なことかどうか」をその時々で選択してきたつもりです。

なので、世の中的に「こうしたほうがいい」と言われることもありますが、その言葉に縛られずに「自分のやりたいことをやればいい」と思います。それが結果的に、自分のためや世の中のためになると思っています。


ーー貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者を教えていただけますか。

前職のアカツキ時代に大変お世話になった能登さんをご紹介します。
能登さんは様々な会社の技術アドバイザリーをされている方で、開発組織に対するマネジメントの考え方のベースを能登さんから学びました。
今でも不定期に交流は続けていて、一緒に食事に行く関係性なのはとてもありがたい限りです。

 

以上が第49回 株式会社カケハシ 執行役員CTO 湯前 慶大さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のストリートインタビューもお楽しみに。 

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

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