【連載40】コーセーでDXを推進する進藤氏が語る「これまでの経歴とAWSのエバンジェリストになった経緯」(前編)

進藤さんインタビュー記事前半

こんにちは!TECH Street編集部です。

連載企画「ストリートインタビュー」の第40弾をお届けします。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”松田さんからのバトンを受け取ったのは、株式会社コーセーの進藤さん。早速お話を伺いたいと思います!

ご紹介いただいた松田様より「事業会社からその後、AWSに移り、現在のコーセーでも同じくユーザー企業側として、デジタルDXを積極的に推進されている方です。色々なお話が聞けると思います。」とご推薦のお言葉をいただいております。

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進藤 広輔(シンドウ コウスケ)さん

株式会社コーセー 
【役職】経営企画部 DX推進担当部長 兼情報統括部 グループマネージャー
【担当】DX戦略立案/推進 IT戦略立案/推進 CoE統括

~AT&T⇒LAWSON⇒アマゾン ウェブ サービス(AWS)⇒KOSE(現在)事業会社とベンダーでの業務経験を活かしビジネスとシステムの架け橋となるべく広く業務に従事

 

進藤さんの原体験とは

ーーまずは、現在の進藤様を形作る原体験をお聞かせください。

進藤:はい。私が初めてテクノロジーに触れたのは新卒で銀行のシステム子会社に入社した時からです。就職活動時は銀行の営業職を多く受けていました。しかし将来を考えた時に、営業職でなく、英語を使った仕事やIT関連職のように「手に職をつける」ような仕事の方が良いかもしれないと考え直しました。そこで、システム部門配属という募集があった政府系金融機関に応募し、そこに入社しました。

ーー新卒でシステム部門に入社し、それまでシステムに関する知識のない中、面白さを感じたポイントなどありましたでしょうか?

進藤:入社してすぐにプログラムの研修が始まり、その後ハードウェアの勉強をしました。そこで思ったのは、プログラムを書くことにはあまり興味を持てなかったことです。その代わりCPUやメモリーなどハードウェアに対しては「これは、かっこいいな」と強く興味を惹かれました。

プログラムは手で書けますが、ハードウェアは手で書けるものではなく、まずハードウェア自体がどういうものかを知り尽くす必要があります。そして、このハードウェアが様々な仕組みを作っていく土台になっていることを知り、このハードウェアの世界を深く理解したいと思いました。

とある外資系ベンダーの仕事のスタイルに衝撃を受ける

進藤:入社後3年で、オープン系のセクションに異動となり、ベンダーと仕事をする機会が増えました。そこで私が最初に携わった仕事は、銀行全店のネットワーク更改プロジェクトです。私が在籍していた政府系の金融機関は、いわゆるトラディショナルな仕事の進め方をする会社で、プライムベンダーは日系企業でした。

お客様に言われたことは、すべて「イエス」と答える環境だったところに、とある外資の大手ベンダーが入ってきて、その仕事ぶりに衝撃を受けました。というのも、その会社のプロジェクトマネージャーの 仕事のスタイル、ハッキリとしたものの言いかた、立ち振る舞いを見て、猛烈に「かっこいい」とシビれたからです。笑

平身低頭スタイルではない外資ベンダーのカルチャーを目の当たりにし、私は「これが仕事だな」「こういった仕事をしたい」と強く思い始めます。そこから「自分もあの世界に行きたい」と強く思いました。

ネットワークの勉強開始

進藤:「あの外資系ベンダーのような会社で仕事をしたい」「そういう人たちがいるところで仕事をしたい」と思い、そして、そこへ行くには、ネットワークの勉強をすることが一番早いと考えました。

まだクラウドもない時代で、リモートで何かをするような環境はありませんでした。 けれど、ネットワークだけは当時でもTelnetという技術で、リモートにログインすると、例えば東京の本社から熊本支店のネットワーク機器に触ることができます。

それをリアルに見たときに「これがネットワークの力なんだ」と感動しました。DOSプロンプトの黒い画面に緑の字がずらりと出る画面がとてもかっこよく見えましたね。笑

ネットワークの勉強は、仕事を終えてから学校に通いました。昔のネットワーク機器はとても高価で、実機を触る環境があまりなかったので、トレーニングも自費で行って学んでいました。

がむしゃらにネットワークの業務を行う

銀行の中ではできることが限られてきたので5年弱ほどで退職しました。そして本格的にネットワークの修行をしようと思い転職しました。2年間は徹底的に、規模の大小を問わず、がむしゃらにネットワーク設定に関する修行をしようと決めました。2年経ったときに目標であった外資系ベンダーや系列の会社に行けたらいいなと思い描いていましたね。

ーーネットワークの修行を決めたのはなぜですか。

進藤さん写真2

進藤:学生時代の野球経験がベースにあります。知識だけでは試合に勝てません。要するに自分が戦える力を身に付ける必要があると思ったからです。転職して入社する以上、即戦力でなければいけないという感覚を、スポーツの経験から持っていました。

入社した瞬間から「ある程度は任せてください」という状態を作らなければならないと思ったので、大きな会社で大きな仕事をひとつふたつやるのではなく、数をたくさんこなせる会社で、様々な仕事に取り組みたいと考えました。

それと、自分からまた転職活動をするのではなく、呼ばれるようになりたいと思っていました。そして、2年過ごしたタイミングで、金融機関勤務時代に一緒に仕事をしたAT&Tの方に「うちに来ないか」と誘っていただき、入社しました。

AT&Tに入社し、プリセールスエンジニアへ

進藤:最初の1年は、ネットワークエンジニアとして仕事をしていました。当時としてはとても珍しく、私はユーザー企業経験でベンダーサイドに移りました。プライムベンダーになると、お客さんとのリアルな接点が増えてきます。金融機関は、AT&Tにとっても重要なお客様なので、私は銀行経験者の知見で、ビジネスサイドに話ができる人と捉えられて重宝されたのでしょう。

そして、ネットワークエンジニアから、いわゆるプリセールスエンジニアになっていきました。要するに売り側に近い、提案を一生懸命にするような部隊に配属が変わりました。そこで、プロポーザルリーダーとなり、日本のAT&Tの提案をリードする立場になっていきました。

そのキャリアチェンジは、自分にとっても良いタイミングだったと思っています。なぜなら、ネットワークエンジニアとして、当時、自分は限界を感じていた部分があったからです。私のように後から勉強した人と、大学で専門的に勉強した人では、能力の差があるのを感じていました。

勝てない世界が絶対にあり、「どんなに頑張っても私はこの人の前にいくことはできない」と思って挫折も味わいました。

自分の強みを生かすには「自分の勝負できるもので勝負する」

進藤:その差を日々感じ、自分はこの世界でトップにはなれないと思ったときに、自分の強みを考えました。私の強みを生かすには、事業会社の経験を生かして、ベンダーサイドにいながら事業会社に求められていることを表現して、事業者の立場で様々な仕組みを作ることだと考えました。

ーー当初は、ネットワークエンジニアの道を極めようと考えていたかと思いますが、別の道に行くことに対して気持ちの切り替えができた理由はありますか?

進藤:「自分の勝負できるもので勝負しないと勝てない」と思っているからだと思います。今も自分の思考の中心にあることですが、「弱点を直して色々勝負するよりは、強いところを伸ばして勝負する」という考えを持っています。

そのような考えを持って仕事を続けているうちにAT&Tでは、唯一無二なエンジニアになったという自負があります。事業会社のビジネス経験があり、ネットワークの専門スキルがあり、そして提案が強いプロジェクトマネージャーとして認識してもらえました。人よりも少しだけ多くの経験と武器を持っている状態になったという実感がありました。

 ローソンに入社し、AWS活用プロジェクトを担当

進藤:事業やビジネスを少し理解して、ネットワークのテクニックをある程度理解して、そして全体をまとめるような動きをして、「何でもできる」と思ったときに、「もう一度、事業会社で仕事をしたら、色々なことができるようになっているのではないか」と思いました。

それと、力試しをしたかったので、勝負ができる大きな会社に行きたいという思いもあります。コンビニは、当時から「システム産業」と言われていて、システムに依存したビジネスになっていた印象がありました。

しかも小売の世界で、莫大な規模のネットワークを持っていたので、このビジネスサイズの会社に行ってみたいと思い、ローソンに転職しました。内定をもらったときに、「自分の知らない世界で勝負ができる」と思いました。

ーーローソンでは、どのようなミッションを背負っていたのでしょうか。

進藤さん写真3

進藤:私がローソンに入社した2013年に、担当するプロジェクトの選択肢を2つもらいました。ひとつは、「ローソン全店のネットワーク刷新のプロジェクトマネジメント」、そしてもうひとつは、「ローソンで初めてAWSを使ってみよう」という実験的なプロジェクトでした。

このどちらを選択するかとなったときに、私は迷わず後者(AWSを使ってみようという実験的なプロジェクト)を選択しました。なぜなら、クラウドがどのようなものかは全く知らなかったので、だからこそやってみたいという好奇心があったからです。

ーーかなり早いタイミングでAWS活用を検討されていたのですね。

そうですね。このプロジェクトが発足した2013年といえば、まだAWSのエンタープライズ利用が始まる前で、当時のAWS社は、社員数数十人の規模のギークな会社というイメージでした。 ところが、すでにローソンではその新しいサービスを使って何かやってみようというプロジェクトが立ち上がっていて、その先進性に驚きました。

ローソンは、「まずはやってみましょう」という文化を持つ会社です。システムのスピードでは、他社を先んじたいという考えを持っていました。「システムで勝たなければコンビニは勝てない」という考えは、どのコンビニも持っていると思います。技術で変えられるならば、次々に変えていこうという考えが、コンビニ業界は強いと思います。

ーー得意な領域で働くことを選択しそうですが、そうではないのですね。

進藤:選択肢としては、すべて好奇心を優先してきましたね。「ネットワーク面白そう」「外資ベンダーの働き方かっこいいな」「自分の力を試してみたいな」「クラウドって何か面白そう。知らない世界だな」という感じで興味関心を大切にしてきました。

いざAWSを使ってみると、当然、触ったことがないので、最初はよくわかりませんでした。笑

さらに私は本来ネットワークエンジニアですから、サーバーのことはよくわからないので、ひたすら勉強をすることにしました。当時、ローソンでクラウドに携わっていたのは、私しかいなかったため、自分でどの程度できるのかなと見極めるためにも勉強は必要でした。

発信活動を通じて「エンタープライズ企業で初のAWS活用を行った第一人者」になる

進藤:それから5年間、徹底的にAWSに向き合い、「エンタープライズ企業でAWSを利用した第一人者」として認識されるまでになります。もちろん、社内で施策をきっちり進めながら、発信にも注力しました。ローソンがテクノロジーに注力していることを宣伝したかったので、徹底的に表の場にあえて自分で売り込みに行きました。「ローソンがやっていることを知ってもらう」という目的のために、まず自分を知ってもらうということに戦略的に取り組みました。

当時、少しずつローソンや、ドコモなどエンタープライズ企業が先行してクラウドを使い始めた時期です。私としても今後のことを考えて、「ここで名を売ったほうがいい」と考えていたので、ありとあらゆる取材を断らずに全て受けていました。

そして、AWSの先行事例があったので会社に在籍しながら、AWSを検討している企業に対してレクチャーを行うような機会も増えてきました。私は事業会社として、クラウドを利用することのおもしろさを理解していたので、エバンジェリストとして色々な会社に伝えていきたいと思いました。ビジネスがクラウドによって大きく変わり、それが間違いなく、事業会社の力になるという確信があったのです。

AWSに入社し、AWSを多くの企業に推進

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進藤:そんな活動を自主的にやっていたら、AWSからお声掛け頂きました。「今やっていることをうちでやってくれないか」という話になったのです。タイミング的に、5年間やりきったことで、ローソンの中でもAWSが浸透し、プロセスも整っていました。あとは横展開するだけという状態を作り上げていましたし、しかも人手がかからないように、すべて自動でシステムを作り上げられるところまでもってきていました。そんなタイミングだったのでお話をお受けすることにしました。

AWSで求められたのは、AWSを多くの企業に推進することです。そこで、私のこれまでの経験が活きました。AWSは今もそうですが、技術の塊です。その一方で、ビジネスサイドに対する意識は若干希薄になりがちでした。

なのでユーザー企業との距離感がどうしても埋まりにくいのです。エンジニアは、クラウドの良さをユーザー企業のビジネスまで理解して伝えることは難しいですし、一方で事業会社はシステムのことはよく分からないため、セキュリティなどリスクばかりに目が行きがちです。そのギャップを、私がひとつひとつ埋めていきました。要するに技術の目線で話していることを、ビジネスに変換するような仕事をしていましたね。

AWSのエバンジェリストとしてのモチベーションとは

ーーエバンジェリストとしてのモチベーションはどのようなものだったのでしょうか。

進藤:オンプレミスのシステムで感じていた限界をすべて取り払ってくれたのが、クラウドであり、インターネットでした。以前は、「WAN」と呼ばれる、企業内でしか通信のできないネットワークが構築されていました。

ところが、インターネットの登場で世界中が一気に繋がります。そのネットワークの違いによって、世界との距離感が縮まり、データへのアクセスが変わります。そのインターネット上に、クラウドという自社システム、プラットフォームがあって、そこで自社のシステムを運用すると、世界中に自社のサービスを届けることが簡単にできるようになります。

これによって、例えば、震災があっても業務が続けられ、世界中の人がそこに関わることができるようになる。インターネットやクラウドさえ扱うことができれば、「全てがボーダレスにできる」「全てがスピードで勝負できるようになる」ブロードバンドが普及したことによって一気に世の中が変わったように、「クラウドでその変化がまた起きようとしている」と感じました。

クラウドを活用すれば、また日本が成長期に入るだろうし、世界が変わるだろうと思いました。企業としてメリットがあるのだから、みんなでメリットを享受しようというのがエバンジェリストとしてのモチベーションとなりました。

面白い人と仕事したい

進藤:また、発信をしていると、人と人とが繋がっていきます。そこで「また何か面白いことが起きるのではないか」という期待が生まれます。自分とは違った観点を持つ人と、繋がったときの化学変化が面白そうという好奇心が根底にはあります。今でも、職種、年齢、性別はどうでも良いと思っていて、「面白い人と仕事したい」と思っています。私にとって面白い人とは、楽しくワイワイやるのではなく、信念を持っていたり、自分の中に「このようになりたい」という方向性を持っている人です。

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

 

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