【連載40】コーセーでDXを推進する進藤氏が語る「テクノロジーの進化が早い今の時代を生き抜くためには」(後編)

進藤さんインタビュー記事後半

こんにちは!TECH Street編集部です。

連載企画「ストリートインタビュー」の前回に引き続き第40弾をお届けします。

AWSからコーセーへ就社したきっかけ

ーーどのようなきっかけでコーセー社に入社されたのでしょうか。

進藤:元々は、ローソン時代に、私がコーセーにレクチャーをしに入っていたのがきっかけです。

AWSに転職してからは、正式にサービスとしてAWSの使い方についてレクチャーに行っていました。その時のつながりで情報システム部門の部長と、ユーザーコミュニティを一緒に運営をしている時期があり、そこからお声がけをいただきました。

実は当時、他の方からも声をかけていただいていましたが、何度もお誘いをいただき熱意に動かされ1年半後にコーセーへの転職を決めました。

コーセー全体のデジタルトランスフォーメーションを進める

ーーコーセーではどのような役割を担当されてきたのでしょうか。

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進藤:入社直後から、コーセー全体のデジタルトランスフォーメーションを進めることになり、「IT戦略全般を考えましょう」という話になっていました。基本的には全社のIT戦略の立案と推進、今年からはDX戦略の立案と推進、経営企画の立場も担っています。

今は「システムなくしてビジネスはない」という世界ですから、最上位にデジタルトランスフォーメーションがあり、ビジネスを大きくがらりとモデルチェンジすることの両方を私の役割として持っています。

ーー3年前のコーセーは、進藤さんから見てどのような状態にあったのでしょうか。

進藤:2020年2月に入社したので、まさにコロナ真っ只中で会社が仕事の仕方を大きく変えないといけない時でした。化粧品会社ですので、今まで行ってきたタッチアップ(お客様の肌に直接スキンケアやメイクを行う)などができない状態です。

足元に目を向けてみると、当時はまだパソコンがデスクトップのみで、無線LANも導入しきれていませんでした。つまり、リモートアクセスの環境が整備されておらず、パンデミックに対応できない状態です。

これでは会社の事業は成り立たなくなると思い、まずは早急にパソコンをノートPC化し、リモートアクセスの環境を整え、Web会議ができるようにして全面的にインフラを整えていきました。

このようなインフラ整備は私の最も得意分野でしたから、知り合いのベンダーを集めて短期間で協力をお願いし、早急にインフラ構築を終わらせました。

社内の反発を乗り越えて、ユーザーからの一定の評価を獲得

ーー急激な変化は社内から様々な反応があったのではないでしょうか。

進藤:銀行勤務時代に憧れていた外資系ベンダーのプロジェクトマネージャーと同じように「意見は聞きますが、決めるのは私です」というスタンスでしたから、もちろん抵抗も反発もありました。

しかし、特にコロナ禍においてインフラ面は早急に対処しなければならなかったので、語弊はありますが、これまでの経験を活かし、多少強引に反発を乗り越えて進めていきました。

続いてオンライン上で接客をする仕組みの企画立案を進めることになりました。

例えばZoomは、Web会議をするために最適化されたシステムですので、化粧品の色見や質感をつたえたりすることには向いていません。しかも、接客する上で必要なツールや、コミュニケーションの手法が搭載されていません。

競合会社では、Web会議システムを活用した接客をされているところもありましたが、コーセーではそれでは駄目だと判断しました。インターネットとクラウドさえ使えばリアルに物を表示したり、色を鮮明に出すことが可能になるので、自分の顔をWebカメラで撮影し、そこにリアルな色をのせて自分に似合うのか表現できるよう接客システムを構築しました。これは、ユーザーから一定の評価をいただきました。

オンラインで接客が可能になる

進藤:美容部員の方々がインターネット上で仕事ができるようになったのはとても大きなポイントです。それまでは現地に行かないと仕事ができなかったのが、システムを利用することで、どこからでも仕事ができる環境になりました。さらに、店頭に行かないと商品を買えなかったお客様が、ご自宅でオンラインでカウンセリングを受けることによって商品を買える可能性が出てきました。

このような取り組みが、本当のデジタルトランスフォーメーションだと思っています。化粧品業界がオンラインで接客してビジネスをするなんてことは、2020年には考えられませんでしたが、インターネットのクラウドさえあれば何でもできるという発想で展開していき、様々な成果を出して、会社を変えていきました。

若手を中心としたプロジェクト推進

ーーこの圧倒的な速度感で会社を変えるためのポイントは、どのようなものだったのでしょう。

進藤:人にフォーカスするからだと思います。私は何か新しいことや既存のものを変えるときには、若手や全く経験がない人と一緒に進めていきます。

というもの、今までを知っている人は、「過去」を軸にして考えていくので、過去から現在までの時間の中で判断しがちです。「未来」に対して一歩踏み出した判断がしにくくなります。

変えようと思ったときに、過去を知らない人が「こうあるべきじゃないか」と考えないと、絶対に変わらないと思います。その際に、もちろんハズれることもあります。けれどハズれる時も早くハズレた方が良いと思っています。早くハズレだとわかれば挑戦を繰り返せばいずれ当たります。

だからこそ「過去」にとらわれない若手を次々に抜擢しました。若手は「これが難しい」ということは知らないので、変に悲観的になりません。過去を知っている人たちは、できない理由をすぐに浮かべてしまいます。ですから最初のスタートは、若手に担当してもらい、新しい考えをたくさん出してもらうことが大事です。

過去から現在の判断ではなく、変えようと思ったら現在から未来に対して判断できる人が、最初の一歩を踏み出せればスピードは加速しやすいはずです。それは徹底しています。

1on1を通じて、若手が挑戦できる機会を作る

ーー「若手を中心としたプロジェクト推進」はいつから実施されてきたのでしょうか。

進藤:この考え方はコーセーに入社してから生まれたものです。ローソン、AWSの時代には、一定の経験値を積んできた人間として、「プロの仕事をしている」という自覚があったので、経験のあるメンバーで固めて仕事をしていました。

しかし、私がコーセーに入社した2020年は、ようやくIT総合職という職種で新卒採用を始めた年で、社内にITに強い人材が少なかった時代でした。

そこで私は情報システム部全員と1on1を実施しました。2〜5年目の若いメンバーたちと対話してみると、斬新で新しい考えを持っている人がたくさん出てきました。そしてそういったメンバーは自分が思っていることを中々実現できず、悩んでいることに気がつきました。

私はコーセーの「過去」を知らない状態で話を聞いていましたから、「君の言ってること間違ってないよね。」「なら、やってみたらいいよ。」と感じる場面があり、そこで「若手に挑戦してもらうこと」を意識して動くようになりました。

やってみて失敗してしまうと次の足が進まなくなってしまうので、「成功体験をさせたい」「正しいと思う以上は、私も成功させなければいけない」と思うので、ミニプロジェクトをたくさん立ち上げ、システム開発を通じて、自分の考えが直接的に貢献できることを実感出来るシーンをたくさん作りました。

すると、若い人たちと仕事をしたときの、何かに気づいたり、成功したときの、ぱっと顔が明るくなる瞬間がとても楽しいです。笑 それが今の自分にとっての、仕事に対するモチベーションになっていると言っても過言ではありません。

とにかく変わること、新しいことにチャレンジするスピードを徹底的に意識すること

ーーコーセーの中で、今後どのようなテクノロジー領域における新しいチャレンジをされていく予定でしょうか。

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進藤:やはり事業会社にいる以上、テクノロジーが最優先にくることは基本的にはないと思います。「いかにビジネスが加速するか」、「いかにビジネスが変わるか」というところに集中すべきだと思っています。

そのときにシステムが必要となれば、開発をすればいいし、SaaSのようなサービスを利用して済むならば、それを使えばいいと思います。「とにかく変わること、新しいことにチャレンジするスピードを徹底的に意識すること」はテクノロジーを活用できる人の役割だと思っています。

テクノロジーがどうかではなく「いろいろな観点でビジネスがどれだけスピードアップできるか」にフォーカスしていきたいと思っています。

「テクノロジーから逃げない」「何でも、つまみ食いでいいからやってみる」

進藤:そのときにシステム部の人たちが、どのようなことを意識しなくてはいけないかというと、5年先(近未来)に自分の仕事があるのかを考えなくてはなりません。

皆さんもご存知のChatGPTのようなジェネレーティブAI(生成AI)が出てきて、今はアドオンを組み合わせるとアプリケーションを作れてしまう世界になっています。あるいはコンサルがやっているリサーチなども簡単にレポートされてしまいます。

既存のできることに縛られてしまうと、もう先がありません。ですから、次々に新しいことへ踏み出すことが大切です。その一歩を踏み出すことを勇気づけてくれたり、効率的にできるのはテクノロジーだと思います。それは個人に対しても、企業に対してもそうだと思います。

一言で言うならば「テクノロジーから逃げない」「何でも、つまみ食いでいいからやってみる」ということです。逆に言うと、それをやることを遮るような抑止力が働いてはいけません。やった結果をとやかく言うような文化もやはり意味がないと思います。

これからのテクノロジーをどう使えるかが注力ポイントだと思います。そして何か新しいテクノロジーが生まれたら、その瞬間にそのテクノロジーの次に何がくるか、何が求められているかを想像してほしいですね。

システムエンジニアリングがシフトチェンジする

ーーありがとうございます。最後に読者に向けて、これからの時代にエンジニアとしてどのように立ち回れば良いのかなど、メッセージをいただけますか。

進藤:メッセージを言わなければならないと思うと少し気が重たいですね。笑
正直に言うと、「未来はないよ」と言いたいです。正確に言うと、今のエンジニア像には未来がありません。

あっという間にテクノロジーが進化し、人の仕事が奪われる状況になっています。「今、このような仕事をやっているから」「今、大学でこのような研究やっているから」といっても、それが仕事として10年〜20年続けられる時代ではありません。

ですから、「今の自分にそんな期待するな」と伝えたいですし、だからこそ「テクノロジーから逃げない」「選り好みをするな」と言いたいです。これから先も、どんどん新しいテクノロジー、新しいサービスがたくさん出てきます。

おそらくこの後、テクノロジーを意識するようなものは、ほぼなくなってくるのではないかと思っています。要するに、出てきた瞬間にサービスになってしまいます。

例えばChatGPTも出てきた瞬間、すでに3.0ぐらいからサービスになっています。ですから、使いこなすことがとても大事な時代になり、作るという感覚が消えていくと思っています。

いわゆるシステムエンジニアリングは、かなりシフトチェンジしていくでしょう。ビジネスサイドによって、新しいテクノロジーを使って、どのような変化が起こせるかを考えるようなビジネス系の人と、新しいテクノロジーを考え、徹底的に何が起こせるかを考える人の両極端になると思います。要するに研究に近い話と、ビジネスに近い話のような両端になるようなイメージですね。

ビジネスサイドでテクノロジーにアプローチをするか。ビジネスの前にシステムとして、サービスとしてテクノロジーはどのような可能性があるのかを研究するようなところを、色々な立場でやれたら面白いのではないでしょうか。

ーー進藤さんご自身は、この先どのように進化されていくのでしょう。

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進藤:基本的には、10〜15年と自分で時間を切るつもりはありません。やれる限り色々とやりたいです。何ができるかというと、様々な自分の過去から現在の体験が活かせるところがあると思いますので、そこを活かしつつ、私が踏み台になって使っていただければと思います。

まだ私がやってきたことができていない会社や、やってきたことを知らない人がたくさんいますので、私を踏んだら一段階レベルアップするというような踏み台になりたいと思っています。とにかく「私を踏み台にして、新しい自分を作ってください」というのが、今の若い人たちに向けてのメッセージです。

そして、経験を重ねてこられた人達には、「邪魔をしてはいけない」と伝えたいです。過去から現在までを話すことは、あまり役にたちません。過去の人が言っていることは、過去から現在までの経験で正しいことを言っていますが、それは来年、再来年を保証してくれるものではありません。参考にはなりますが決定打にはなりません。その自覚を、年を重ねられた方も、若い方も持つべきです。誰もが現在から未来で、どうあるべきかを語り合わなければ進みません。

ーー貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者を教えてください。

プラス株式会社の山口善生さんをご紹介します。

山口さんは事業会社、ITベンダー、コンサルを経験し、現職のPlusにジョインされてからはシステム領域からデジタル領域まで幅広く経験、対応されています。そのバイタリティと鋭い視点は多くの方々にとって参考になると思います。

以上が第40回 コーセー 進藤 広輔さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のストリートインタビューもお楽しみに。

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

 

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