【連載36】“ひとりで完璧”ではなく“チームで強くなる”チームラボ堺氏が語るクオリティが高いアウトプットの秘訣

こんにちは!TECH Street編集部です。

連載企画「ストリートインタビュー」の第36弾をお届けします。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”横田さんからのバトンを受け取ったのは、チームラボ取締役 堺大輔さん。早速お話を伺いたいと思います!

 

――ご紹介いただいた横田様より「子供から大人まで大人気のアート作品を様々な施設で展開しているチームラボは、僕らテクノロジー界隈においても昔から有名で、誰もが知っているアプリなどのフロントから基幹システム連携などのバックエンドまで一気通貫の開発力を持っている稀有な会社です。そんな華やかさと泥臭さを併せ持った開発組織やクライアント企業との間で触媒として活躍する堺さんは、まさにボーダーレスな組織文化を体現されているユニークな存在だと思っています。」とご推薦のお言葉をいただいております。
まずは、現在の堺様を形作る原体験をお聞かせください。

堺:はい。私は小学4年生の時、ヒューストンに住んでいたのですが、その頃からずっと宇宙飛行士になりたいと思っていました。ヒューストンといえば、NASAの拠点があるのでスペースシャトルが身近にありますし、父が大学の工学部で働いていたので、研究者や技術者、その延長線上で宇宙飛行士という職業への憧れがありました。高校生になってもその憧れは変わらず、宇宙工学を学ぶために東京大学へ進学をしました。

東京大学には、進学振り分けという制度があり、1~2年の成績によって学部が決まります。当時私が志望していた航空宇宙工学科は建築学科と並んで点数が高い学科でした。そこでわずか0.2点ほど足らず、航空宇宙工学科に入ることができなかったのです。それまで宇宙飛行士になることしか考えていなかったので、「どうしようか。」と悩みました。1年留年した後にもう一度受けることもできたのですが、これも運命だと受け入れて機械情報工学科に進むことにしました。

機械情報工学科ではヒューマノイドロボットの研究室に所属していました。日本では、かなり有名な研究室のひとつで、卒業後はGoogleが買収した企業のSchaft(シャフト)を創業した先輩もいました。そこでハードウェアとソフトウェアの両方を学び、“非常に面白い”と感じましたが、もう少し早く社会実装されるものに興味を持ち始めました。そんな時に代表の猪子と出会い、創業メンバーのひとりとしてチームラボにジョインしました。

――チームラボ創業時のことをぜひ教えてください。また、当時の堺さんはどのような役割を担っていたのでしょうか?

代表の猪子とは学科は違いましたが、東大連阿波踊りを通じて親しくなりました。猪子から「友達のアパートにみんなで集まって会社を作っている」という話を聞き、私も暇でしたし、面白そうだと思って加わったのがすべてのはじまりです。その後の学生生活はチームラボの活動が中心でした。(笑)どんなに小規模でもWebサイトやシステムを作るだけでも面白かったですし、何よりも社会で実際に使われて色々な反応があることにやりがいを感じました。

創業メンバーは代表の猪子、猪子の大学時代の同級生、幼稚園時代からの幼なじみ、その幼なじみの大学の同級生、そして私の5人です。それぞれの役割分担は自然に決まっていきました。私は1年ほどプログラミングスキルを活かして開発を担当していましたが、徐々に外に出るようになりました。クライアントと交渉をする会社の顔としての役割を買って出たのです。

私はプログラミングスキルを持っていますが、純粋なエンジニアではなく、“エンジニア風”だと思っています。それは学生時代から自覚していました。プログラミング自体はとても面白いと思っているのですが、その領域はめちゃくちゃすごい人が山ほどいます。研究室の先輩もそうですが、シンプルに敵わないなと思いました。ちなみに私が「エンジニアだ」と言ったら、チームラボ社員はみんな驚くと思います。(笑)世間では“エンジニア”で通るかもしれませんが、社内では絶対に通らず、ちょっとだけ論理的に話せる“文系の人”だと思われています。

プログラミングスキルでは周りに敵わないものの、総合力だったら勝負できると思いました。総合力とはアイディアや新しい視点、今までにはなかったものを考えたり、作ったりする力です。
ひとつの技術を突き詰めることが得意であったり、手を動かすことをめちゃくちゃ楽しめなければエンジニアのトップとして走り続けることはできません。それができる人達を私はすごく尊敬しています。ただビジネスにおいて、その人達だけではバランスが取れずに成立しないとも思っています。みんなで何か作ることに関しては、恐らく私の方が得意です。それは研究室にいる時から明確に認識していました。突き詰める人とバランスをとる人がいるとしたら私はどちらかというと後者だったという話です。

――創業メンバー5人からスタートして成長を遂げてきたチームラボのターニングポイントは何かあったのでしょうか。

堺:実は「●●な事件や出来事があったから会社として成長した」ということはこれまでなかったのです。もちろんプロジェクトがうまくいかない、会社の資金が底をつきかけるなど大変な時期や経験はたくさんありましたが、「従業員が半分辞めてしまった」などのベンチャーストーリーはありませんでした。会社の成長も連続的な積み重ねの結果でしかないと思っていて、私たちの会社も同じだと思っています。

知名度に関しては、アートが大きく跳ねたことが転機の一つです。お台場のチームラボボーダレスと豊洲のチームラボプラネッツの常設展示に約350万人が来場してくださり、それでチームラボの名前が広く知られるようになりました。しかし、創業して十数年はアートだけではやっていけなかったので、クライアントワーク(ソリューション事業)で売上をつくっていました。とにかく“クオリティが高いアウトプットをしよう”と目の前の仕事をひたすらこなしていたら、いつの間にか20年経っていて、会社としても成長することができたのです。

――「クオリティが高いアウトプット」を20年間続けてこられた理由や秘訣についてぜひお聞かせください。

堺:はい。私たちはアウトプットのクオリティを担保し続けていれば、いつか誰かが振り向いてくれると信じ続けました。そして、それを実現するには「例え資金がなくなったとしても、独立的な組織であり続けること」「チームラボというブランドを絶対崩さないようにすること」これらを継続してきたことが、今のチームラボの底力になっています。

よくある話ですが、VCから資金調達をすると上場を目指していくことになるので、少なからず“納得していなくても、やらなければならないこと”がでてきてしまいます。もちろん、資金調達によって事業拡大や成長スピードを加速できるとは思いますが、私たちは、やせ我慢をしてでも独立性を担保した方が良いと判断しました。

それは何故かというと、ものづくりをする人は自分達が作るものに納得して前に進むことがとても大事ですし、第三者にその考えを説明しても中々伝わらないと思うからです。ものづくりの過程を一緒に体験していないと、それを言語化しても情報量は落ちてしまいます。
ものづくりは細かいジャッジの積み重ねでしかなくて、そのひとつひとつにクオリティに影響する分岐が絶対あると思っています。私たちはそれがわかっているのでチームラボというブランドを変えずに、独立的な組織であり続けています。

――「ものづくりの過程を一緒に体験する」を繰り返して大切にしてきたからこそ今のチームラボがあるということですね。社員が増えても、言語化せずに組織を維持できるのは素晴らしいですね。
堺:創業当時は時間がたくさんあったので、一度「ビジョンをつくってみようか」という話があがったことはあります。そこで話しているうちに段々「それって何のためにやるんだっけ?」という話になり、あえて言語化しないまま今に至ります。
それは、ものづくりの過程で一緒に思考を反芻することで意見が合うようになってくるからです。価値観はみんな違うと思いますが、判断基準が似てきます。チームラボにとって何が良くて何が悪いのかというのを何度もジャッジして行くので、その中から感覚的に気付きを得ていきます。

――チームラボとして大切にしていることがよくわかりました。続いてチームラボの事業とエンジニア組織についても教えていただけますでしょうか。

堺:はい。チームラボは「アート」と「ソリューション」二つの事業を軸にしています。

まずアート事業に関しては、インタラクティブな没入型のアートを国内外で展開しています。東京に常設している「チームラボプラネッツ」や2023年末に虎ノ門・麻布台で再オープンする「チームラボボーダレス」をはじめ、海外には上海、北京、シンガポール、マカオに常設展があります。

これらのアートは全部テクノロジーで構築されています。例えば東京で1万3千本の生きている蘭の中に入っていく没入型アートを展示していますが、人が近づくと周囲の花がせり上がり、中に入ると下に下がって自分の周り360度が蘭に囲まれる仕組みになっています。これを実現するために幾何学、ハードウェア、センシング、コンピュータービジョンなど様々な領域のエンジニアが集まり、すべて内製で構築しています。
本当に様々なエンジニアが集まっています。建築のバックグラウンドを持つメンバーもいますし、展示用の植物を長生きさせる研究をしているメンバーもいます。

続いて私が担当しているソリューション事業です。最近は私たちのように独立した立場でクライアントから受託開発する会社はどんどん減っています。一社一社が巨大化したり買収されたりしていますね。
チームラボのクライアントは幅広く、大型レジャー施設や金融機関、鉄道会社、有名アパレル、ファストフードチェーン、スポーツ関連団体など、すべて私たちだけで作り込んでいます。私たちが手がけたアプリだけでも、1億ダウンロード以上、約3千万人の月間アクティブユーザーがいます。

近年UI/UX専門の会社も増えてきていますが、チームラボではその部分も含めて根本の企画から入って改善まで対応しています。より良いUXを実現するためにはエンジニアとデザイナーが連携し、お互いに話ができて、理解しあえなければ上手く行きません。そのため、チームラボでは必ずデザイナーとエンジニアが一緒に仕事をします。

また、私が直接みているカタリストチームは、一般的にはいわゆるディレクターやプロジェクトマネージャーが所属しています。ディレクターが指示を出すのであればデザイナーやエンジニアよりも、内容を理解しておく必要がありますが、実際にはそんなことはできません。一緒に手を動かした先にアイディアが生まれ、それを触媒(カタリスト)として最大化するような作り方がベターです。だからこそディレクターやプロジェクトマネージャーの立場が上ということはなく、“実際に手を動かす人が偉い”という文化は昔から変わっていません。

――多くの企業から支持を得ている一番の要因や強みはどういう所にあるのでしょうか。
堺:より良いサービス体験を作るために、クライアントのシステムまできちんと理解することです。そしてそれを実現するために必要なデータや情報を提供してもらうようSIerと正面切って交渉と調整をするようにしています。例え見た目をかっこよくしても表示されるのが遅かったり、必要なデータが連携できていなければ意味はありません。UI/UXはどうあるべきか、裏側のシステムからどのようにデータ連携して外部結合するかなど、本当の意味で突き詰めて見られる所が当時は少なかったので、それができるチームラボは色々な企業からお引き合いをいただきました。

――確かにそこまで自社のことを理解してくれるチームにぜひお任せしたい!ってなりますね。一体どのようなエンジニアが活躍されているのでしょうか。

堺:チームラボで活躍するエンジニアはひとりで何でもできたり、自我の強いタイプというよりは、自分の得意なところと他の人が得意なところを融合したほうが良いものができると理解していたり、自分にないものを持っている人をリスペクトして、知的好奇心の強い人が多いです。チームラボという名前のとおり、本当にチームで作ります。“ひとりで完璧”な人は中々いません。それぞれ得意・不得意はあると思っていて、メンバーの得意と不得意を補いあってチームとして強くなれば良いと思っています。

“ひとりで完璧”な天才も世の中にはいますが、少なくとも我々はみんなと一緒に作らなければできないモノでないと、生き残れないと感じています。最近は中学生でもアプリが作れますから、私たちはチームで難易度の高いことに挑戦していきたいと思います。

――「チームで難易度の高いことに挑戦する」とのことですが、ぜひ今後チャレンジしたいと考えている技術的な挑戦や取り組みがあったらお聞かせください。

堺:技術については、メンバーが自発的に取り入れてくれていますが、基本的にはアウトプットドリブンです。エンジニアだから新しい技術を使いたいと思いますし、使っても良いとは思いますが、私たちはアウトプットのクオリティやユーザーが使っている時に気持ちいいと思うかどうかを重視します。やはり社会実装してなんぼです。それを実現するためにどのような技術を使うかが重要だと考えています。

アート事業に関して言えば、数年以内に海外の新しい施設をいくつか作ることが決まっています。世界中の人々にチームラボのアートを体験していただくことが目標です。

ソリューション事業については、クライアントワークを通し、より多くのwebサービスを社会実装まで進めていきたいと思っています。また、先のことなのでどうなるかはわからないのですが、確実にデジタルと接点ができる新しいデバイスやチャンネルが出てくると思います。それはサイネージかもしれないし、別の何かかもしれませんが、“空間の中にあるデジタル”も、今後は需要が拡大すると思うのでチャレンジしたいと思います。

――ありがとうございます。最後に読者に向けて、これからの時代エンジニアとしてどのように立ち回れば良いのかなど、メッセージをいただけますか。

堺:30年前は技術革新やインプットのスピード感が今ほど早くなかったので、“巨匠”になれるようなジャンルがあり、今よりは比較的簡単に上に上がって行くことができました。しかし、残念ながらこれからそういった時代は来ないと思っています。“やはり手を動かし続けていかなければダメ”な時代に変わっていますね。
時代やトレンドがどんどん変わっていく中で、テキストを読むだけでなく実際に技術を試して動かしながら学び、知的好奇心を持ち続けることが必要だと思います。

――貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者を教えてください。

堺:ECとCRMのAPIプラットフォームを開発・運用しているプリズマティクスの濱野さんをご紹介します。濱野さんは同じ年齢で同級生ですが、とあるプロジェクトで出会って意気投合しました。以来、お付き合いをさせていただいています。彼自身がエンジニアであり、エンジニアの組織もずっと見てこられました。私は深く突き詰められないタイプなのですが、濱野さんは経営者でありながらも技術を深く突き詰めたい人です。私と全然タイプが違うので、色々と面白いお話が聞けるのではないかと思っています。


以上が第36回チームラボ取締役堺大輔さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のストリートインタビューもお楽しみに。

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

 

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