
※こちらの登壇レポートは2025年4月10日時点の内容のものになります。
登壇者はこの方

kaoshi 氏
株式会社タイミー
VPoP
鉄道グループ企業でシステム設計・導入を経験後、2014年にリクルート入社。非正規雇用領域の事業やブライダル業界向けBtoBプロダクトの戦略・企画・実行を主導。2021年にベルフェイスへ入社し、執行役員VPoPとしてプロダクト戦略・開発を推進。2023年10月にタイミーへDoPとして参画し、プロダクト組織の運営責任者を務めた後、VPoPに就任し、戦略・戦術の責任者として組織をリード。
kaoshi:本日は、当社タイミーがどのような戦略・戦術をもとに事業を展開し、シングルプロダクトとしてどのように成長しているのかについてお話しします。
一部に機密情報を含むため詳細はお伝えできない部分もありますが、戦略策定における考え方や方向性、組織運営の工夫など、実際の取り組みを交えながらご紹介いたします。
タイミーについて

当社は2018年8月に「タイミー」をローンチし、「一人ひとりの時間を豊かにする」というビジョンのもと、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というミッションを掲げています。
サービスは、働きたい時間と、働いてほしい時間をつなぐ“スキマバイト”のマッチングプラットフォームです。

昨年7月には、東証グロース市場への上場も果たしました。
とはいえ、世間の認識とは裏腹に、市場シェアの獲得はまだ道半ばです。
たとえば、スキマバイト市場の潜在的なTAM(Total Addressable Market=獲得可能な市場規模)は、全体で約3.9兆円。そのうち、当社が主に展開している物流・飲食・小売などの領域でも1.2兆円の市場規模があります。
これに対し、昨期の当社売上高は約268億円です。 つまり、成長の余地はまだまだ大きく、より広い層へ価値を届けていく必要があります。

FY25/10 戦略方針

今期、我々は以下の3つを軸に戦略を構築しています:
1. はたらく機会の「ヨコ」に広げる(新業種・エリア拡大)
2.はたらく機会の「タテ」に広げる(事業所ごとの利用促進)
3.はたらく機会の「最大化」する(稼働率アップ)
これらの戦略に基づき、以下を主要なKPI/KGIとして設計しています:
・Active Accounts(利用事業所数)の最大化
・事業所あたりの流通総額の増加
・稼働率(ワーカーと事業者のマッチング効率)の向上
さらに、中長期的な非連続な成長に向けて、新規事業の立ち上げも視野に入れた投資を進めています。
組織体制について

現在、タイミー全体では約1,500名の社員が在籍しています。
そのうち、プロダクトや開発に関わるエンジニア・PMなどは180名弱。
つまり、プロダクトへの注力に対して、まだまだ人的リソースが不足しているのが現状です。
プロダクトを通じた成長戦略の考え方
私たちは、プロダクトを起点とした成長戦略を立てるうえで、体系的な知識や理論をベースにしたアプローチを重視しています。
参考にしている主な書籍は以下です:
- ピーター・ドラッカー著『マネジメント』
- イゴール・アンゾフ著『企業戦略論』
- リチャード・ルメルト著『良い戦略、悪い戦略』
- メリッサ・ペリ著『プロダクトマネジメントービルドトラップを避け顧客に価値を届ける』

中でも、ドラッカーの「8つの目標」やルメルトの「戦略のカーネル」は、戦略設計の骨格として活用しています。

プロダクトマネジメントにおける3つの仕事
プロダクトマネジメントの活動は、戦略・戦術・運営の3つの軸をベースに考えています。これは、メリッサ・ペリ著『ビルドトラップ』の考え方を参考にしたものです。

- 戦略的意図:プロダクトやビジネスの長期的な方向性や目的を示すもので、「ガードレール」のような役割を担います。
- プロダクトイニシアティブ:戦略的意図に沿って具体的な行動計画を立てる、戦術レベルの施策群です。

このようなフレームワークをもとに、当社ではルメルトの『良い戦略、悪い戦略』における「戦略のカーネル(現状診断・基本方針・一貫した行動)」を以下のように整理し、戦略を構築しています:
- 基本方針
- 戦略的意図
- 一貫した行動(=イニシアティブ)

戦略方針の位置づけ
戦略方針は、プロダクト戦略の上位にあたる「事業戦略(全社戦略)」に基づいて策定されています。
そのため、プロダクトにおける戦略的意図やイニシアティブも、全社戦略と明確にアラインメント(整合)させています。


現在のプロダクト戦略的意図は、以下の3つに集約されています。これは、アンゾフの成長マトリクスをベースとしています:
1. 既存市場における新しい価値の創出
2. 既存市場における既存価値のさらなる成長
3. プラットフォーマーとして、安心・安全の実現
これらの戦略的意図のもとで展開されるイニシアティブ(施策)のリソース配分には、「7-2-1の法則」を活用しています:
- 7:コア事業(キャッシュカウ)の強化
- 2:隣接領域への展開
- 1:革新的・非連続な挑戦(リスクのある取り組み)

イニシアティブと優先順位の付け方

各イニシアティブは、戦術や具体施策としてトレードオフの観点から分類・評価されます。
分類軸の例:
- 長期的投資
- 短期的な負債解消
- その両立(長期的投資と短期的な負債解消)
- 実施すべきでないリスクの高い取り組み
加えて、初期評価では「Cost of Delay(遅延のコスト)」を用いて、影響度を定量的に判断。その結果をもとに、優先順位の高いイニシアティブから実行される仕組みです。
このプライオリタイズは、CPO・VPoP・Gorup PdMなどのプロダクトリーダーたちが主導し、戦略と整合の取れた実行を進めています。
さらに、戦術実行後の「定期的なリファインメント(見直し)」を重視しており、環境変化に応じた方向性の調整や施策の洗練を継続的に行っています。
イニシアティブ管理と現場の自律性

イニシアティブは、Notionで一覧化・管理しており、トップダウンだけでなく、現場からのボトムアップ提案も許容しています。
- 各PdMや現場メンバーは、戦略的意図の枠内であれば自由に施策を提案可能
- 評価された施策は、優先順位に応じて順次実行
- 現場の自律性とトップダウンのバランスを重視した運用体制
シングルプロダクトの成長余地
当社は、B2Cのマッチングプラットフォームとして最適なマッチングの実現だけではなく、バリューチェーン全体に価値を創出することを目指しています。

この中で、需要(ワーカー)と供給(事業者)のバランスを保ちながら、最適化と拡大を同時に進めることが、サービス成長の鍵です。

上図のようにまだ多くの成長余地があり、先ほどのアンゾフの成長マトリクスで示したあらゆるマスにおいて、このプラットフォームを拡大できる可能性があります。
現時点では、マルチプロダクト展開よりも、シングルプロダクトに集中してシェアを最大化するフェーズにあります。ただし将来的には、新規事業やマルチ化の可能性も十分にあり、段階的な移行を視野に入れています。

プロダクト戦略上の課題
とはいえ、プロダクト戦略上の課題は沢山あります。(下図参照)

戦略を実現するための組織運営
最後に、当社における戦略実現のための組織運営体制についてご紹介します。
現在、開発組織は「Tribe制」を採用しており、ドメイン(領域)ごとに組織を分化しています。
タイミーはシングルプロダクトで運営されていますが、各ドメインに対応する形で柔軟に組織を構成しているのが特徴です。

さらに、当社ではものづくりに最適化した仮想組織体制を導入しています。

この仮想組織では、「プロダクト執行部」が戦略全体の運営を担い、その下に各ドメイン戦略を遂行するリーダーとしてGroupPdM(プロダクトマネージャー)を配置しています。

この体制では、GroupPdMに一定の裁量権を委譲しつつ、Squad(小規模チーム)単位で自律的に動ける仕組みを構築しています。
特徴的なのは、各ロールの役割をあえてオーバーラップ(重複)させている点です。これにより、役割の境界にとらわれず柔軟に連携できる体制を目指しており、サイロ化を避けた「組織的なプロダクトマネジメント」を実現しようとしています。

また、各Squadは職能横断型チームとして編成されており、エンジニア、デザイナー、ビジネスメンバーなどが連携して、顧客に価値を届けるまでの「バリューストリーム(価値の流れ)」を一貫して担う体制を構築しています。
これにより、現場での意思決定と実行のスピードが高まり、自律駆動のものづくりが可能になっています。
現状の課題と今後の展望
現在のフェーズにおいては、事業規模に対してプロダクト体制がようやく追いついてきた段階です。
一方で、田所さんのStartup Science2020完全版にある事業のフェーズで整理すると、組織や仕組みの成熟度という観点では、まだ多くの負債を抱えていると認識しています。

今後、戦略をより確実に実現していくためには、さらなる組織的なスケーリングと体制強化が必要であると考えています。
本日のまとめ
- タイミーの戦略策定においてはドラッカーの8つの目標やリチャード・ルメルトの戦略のカーネルといった体系的知識をベースに行っている
- そのうえで全社の事業戦略と密接にアラインし、ビルドトラップ本の考え方を踏襲して戦略的意図とプロダクトイニシアティブで整理している
- 戦略・戦術は定期的にリファインメントして、都度方向性のチューニングや洗練化をしている
- 戦略・戦術を実現するために仮想組織をベースとした組織設計を行い、ドメインごとに適切なデリゲーションを行っている
- 運営としては組織的なプロダクトマネジメントをキーワードに各ロールの役割をあえて厳格にせずオーバーラップを許容
- トップダウン的な戦略的ガードレールはありつつも、基本的にボトムラインでの意思決定を尊重し自立駆動でものづくりを推進している
私の発表は以上です。
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