
※こちらの登壇レポートは2025年4月10日時点の内容のものになります。
- SmartHR社のコーポレートミッションとバリュー
- SmartHRのプロダクト展開
- SmartHRの戦略について
- マルチプロダクト戦略の考え方
- 市場選定と事業成長
- マルチプロダクトを支える開発組織体制
- 全社優先順位とリソース配分の考え方
- ロードマップ策定と注力テーマの決定
- PMとして最も大切なこと 〜 調整とカルチャー
- Biz組織との連携
- 「破壊と創造」という文化
- まとめ:戦略・組織・文化の連動
- 最後に
登壇者はこの方

松栄 友希 氏
株式会社SmartHR
タレントマネジメントプロダクト本部
本部長
デザイナー、マーケターなど多様な職種を経てProduct Managerに。「転職ドラフト」やECなど様々なプロダクトの立ち上げ、グロースを担当。XTechグループで創業期からの会社立ち上げも経験。STORES株式会社を経て、2022年12月に株式会社SmartHR入社。タレントマネジメント領域を担当。日本CPO協会理事。
松栄:まずは、SmartHRについてご紹介します。
SmartHRは2013年に設立され、現在の従業員数は約1,320名。毎月数十名単位で増加しており、組織は引き続き拡大しています。また、サービスの登録企業数は6万社を超え、99%以上の企業様に継続してご利用いただいています。
昨年7月には、シリーズEラウンドとして約214億円の資金調達も実施いたしました。
SmartHR社のコーポレートミッションとバリュー
SmartHRのコーポレートミッションは「well-working」です。
これは、労働にまつわる社会課題を解決し、誰もがその人らしく、心地よく、健康で幸せに働ける社会を実現することを目指すものです。

当社のバリュー(行動指針)は以下の3つです:
- 「まずやってみる人がカッコイイ」
→ スピードを重視し、まず行動に移す文化 - 「人が欲しいものを超えよう」
→ 期待を超える高品質なアウトプットを目指す - 「ためらう時こそ口にしよう」
→ 言いにくいことも率直に伝えることで、健全な議論を促進
これらのバリューは、スピードと質の両立を目指す中で、建設的な意見を率直に交わせる組織文化を支えています。

SmartHRのプロダクト展開
SmartHRは、もともと労務管理領域からスタートしました。
入社手続き、雇用契約、申請・承認、年末調整、給与明細などの機能を提供することで、自然と従業員情報が蓄積され、従業員データベースが構築されていきます。
この従業員データベースを活用し、タレントマネジメント領域へとプロダクトを拡張してきました。
最近では情シス(情報システム)領域にも進出を始めています。

SmartHRの戦略について
ここからは、SmartHRがどのような戦略で事業を拡大しているのかをご説明します。
私たちの最終的なゴールは、「well-workingの実現」です。
これは単なる事業成長にとどまらず、日本社会、特に企業文化や働き方そのものをより良くしていきたいという意志に基づいています。そのためには、以下が重要だと考えています:
- プロダクトやサービスの規模拡大により日本企業の行動を広く良くする
- お客様数の増加による社会的影響力の拡大
- 自社の成長を通じたモデルケースとしての存在感の強化

マルチプロダクト戦略の考え方
このゴールに向かって、それをどのように実現するのかを簡単にまとめると、私たちは「働くこと」を変えていくために、働く人を軸にしたマルチプロダクト展開を進めています。
現在提供している主なプロダクトは、労務管理とタレントマネジメントの2領域です。

- 労務管理プロダクトでは、
入社手続き、年末調整、勤怠管理などを通じて、従業員に健康と安心を届けます。 - タレントマネジメントプロダクトでは、
人事評価や昇進・昇給の公平性、良好な人間関係の促進、キャリアプラン設計とその実現支援などを通じて、個々の成長と関係性の最適化を目指しています。
このように「人」を中心とし、複数のプロダクトを連携させることで、働く人々のさまざまな課題に対応し、well-workingな社会の実現を目指しています。
市場選定と事業成長
戦略を語る上で最初に押さえておきたいのは、「市場の特性」が事業成長において極めて重要である、という点です。
SaaSのカテゴリには、大きく分けて バーティカルSaaS と ホリゾンタルSaaS があります。バーティカルSaaSは業界特有の課題(ペイン)に特化するもので、業種を絞る代わりに、顧客企業の規模はスタートアップから大企業まで広くカバーできます。
一方で、経理のような業種を問わず存在する「共通業務」に特化したホリゾンタルSaaSは、多くの業種に展開可能ですが、企業規模をまたいだ展開が難しくなりがちです。なぜなら、企業規模ごとに業務フローが異なるため、統一的な課題解決が難しいからです。

労務という強いドメイン
こうした中で、SmartHRが注力している 「労務」 という領域は、ホリゾンタルにもバーティカルにも展開できる、非常に強力なドメインです。
労務は法律によってある程度のルールが定められており、どの業種・どの規模の企業でも必ず対応しなければならない業務です。つまり、すべての企業が対象顧客になり得る。これが、SmartHRが市場全体で強く成長できている理由のひとつです。
この労務領域を起点に、私たちは周辺のドメインへとプロダクトを展開しています。

労務で得た強みを軸に周辺領域へ展開
労務領域では、入退社や異動といった手続きを通じて、常に最新の従業員データが蓄積されます。また、労務関連の手続きは全社員が対象となるため、社内のすべての職種の従業員がSmartHRのアカウントを保有している状態が自然と生まれます。
これは他のSaaSプロダクトと比べても大きなアドバンテージです。例えば、Salesforceのような強力なサービスであっても、利用者は営業など一部部門に限られることが多く、全社的な利用は稀です。
SmartHRが「働く人」をプロダクトの中心に据えているからこそ、こうした広い展開が可能になっています。

例えば入社手続きひとつとっても、採用活動(入社前)から、配属・オンボーディング、各種ツールのアカウント発行(入社後)まで、さまざまな業務が連動しています。この「人の入社などの従業員のライフサイクルにおけるイベント」という起点から、複数プロダクトを横断的に展開しているのがSmartHRの戦略です。

マルチプロダクトを支える開発組織体制
このような戦略を支えるために、SmartHRには プロダクト基盤チーム が存在します。基盤チームが提供する共通機能(UIコンポーネント、権限・ID管理、従業員データベースなど)を活用し、労務、タレントマネジメント、新規領域など、各プロダクトチームがその上にプロダクトを構築しています。

この基盤があることで、新規プロダクトを 迅速かつ効率的に立ち上げる ことが可能になり、ユーザーに対しても一貫したUI・UXで提供できています。

全社優先順位とリソース配分の考え方
現在、SmartHRの外部向けプロダクトは20個以上、それぞれに対応するチームが存在します。ここで課題になるのが、「全社の優先順位をどう決めるか?」「リソースをどう配分するか?」という点です。

SmartHRの開発組織の特徴は、「自律」と「全体最適」の価値観です。
各プロダクトチームには大きな裁量が与えられており、アジャイル開発を通じて探索的にものづくりを進めています。加えて、チーム間連携も重視しており、全体としての一貫性や整合性を保ちながらスピーディに開発が進められる体制を整えています。

ロードマップ策定と注力テーマの決定
各プロダクトチームは、自分たちのロードマップを自律的に策定しています。現場のチームがユーザーとの接点を最も多く持っており、課題やニーズを深く理解しているためです。
半年に一度、各プロダクトチームが経営会議にて「どういう課題を解決するために何を開発するか」を共有します。一方、ビジネス側もマーケットの動向などをまとめて共有してくれます。両者を踏まえて、経営側から「注力テーマ」という抽象度の高い方針が示され、それをもとにチームごとのロードマップが組まれます。
ここで重要なのは、トップダウンでプロダクト計画を強制しない という姿勢です。あくまで方向性(テーマ)は共有しながら、最終的なロードマップは現場チームが策定する。これにより、柔軟で現実的な戦略遂行が可能になります。

組織戦略と人材計画
戦略を実現する上で不可欠なのが、適切な「組織戦略」です。
SmartHRでは1〜2年後の組織図を先に描き、プロダクトごとに必要なPM・エンジニアの数やスキル要件を明確にします。そのうえで採用・育成計画を立て、戦略実行に向けた準備を整えています。
単なる個別プロダクトの最適化ではなく、「全社視点で組織設計をする」ことを常に意識しています。

PMとして最も大切なこと 〜 調整とカルチャー
実行段階でPMとして最も重要なのは、横断的な調整力です。チームが増えると、自然と調整コストも増えていきます。SmartHRでは、このコストを抑えるために、日常的なチーム間の関係構築に力を入れています。
- 定期的な勉強会・交流会
- 毎週のPM定例での知見共有
- Slackで活発に意見交換(コメント100件以上の日も)

こうした文化があるからこそ、PM同士が「ちょっと話していい?」と気軽に声をかけ合える環境があり、専用スタンプ「ジャストトーク」なども活用されています。
加えて、「全社最適」を意識した行動も徹底しています。
「上が決めたから動けない」ではなく、「スコープを少し小さくすれば入れられる」など、自分たちで調整し、実行していく姿勢が根付いています。
このカルチャーを守るには継続的な努力が必要です。中途入社のPMが増える中、カルチャーを常に意識して文化を浸透させています。
Biz組織との連携
ここでは、PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといった Biz組織との連携 についてお話しします。
信頼関係と接触頻度の重要性
Biz組織と良好な関係を築くためには、信頼関係の構築 と 高い接触頻度の維持 がとても重要です。Biz側にとって「気軽に話しかけられる相手がいるかどうか」で、得られる情報の質や量、伝達のスピードが大きく変わります。
弊社の開発組織は基本的にフルリモート体制です。そのため、偶発的な雑談やちょっとした相談が生まれにくくなります。だからこそ、「こんな困りごとがあるんだけど」「少し聞いてみたいことがある」──そんな一言が気軽に交わせる関係づくりと、それを支える意識的な接触の機会づくりを意識しています。
具体的な取り組み
たとえば、以下のような工夫をしています:
- PMが商談に同席して、お客様の生の声を直接聞く
- 開発方針や組織の動きがあった際には、説明会を開催し、Biz側も招待
- Biz組織が実施している顧客インプットの会議にもPMが参加
- Slack上では非常に活発にやり取りが行われ、100件以上の投稿が飛び交うことも珍しくありません

GTM(Go-To-Market)と委員会
現在、SmartHRには20個以上のプロダクトと、それぞれを担当するチーム・PMMが存在します。
各PMMは、
- 「この新機能をこうアピールしてほしい」
- 「こんな資料を営業で使ってほしい」
など、マーケティングやセールスへの依頼を行います。
一方で、セールス側からも、
- 「こういうお客様がいて、こんな機能が必要」
- 「この製品の開発予定を知りたい」
といったリクエストが寄せられます。
こうしたやりとりが各所でバラバラに発生していたことで、コミュニケーション量が膨大になり、コミュニケーションパイプが複雑化していたという課題がありました。
また、プロダクトが多数あることで、リリースタイミングがかぶってしまい、
- 新プロダクトのローンチ時に他のリリースと重なり目立たない
- アピールの機会を逃してしまう
といった、Go-To-Marketの最適化が難しい状況も発生していました。
そこで、GTM(Go-To-Market)委員会を立ち上げました。

この委員会では、各プロダクトの開発状況・リリース予定・マーケ要望などの情報を集約し、タイミングや施策の全体最適を図っています。これにより、
- コミュニケーションパイプの最適化
- アピールのタイミング調整
といった課題に対応できるようになりました。
「破壊と創造」という文化
SmartHRの組織運営において、象徴的な価値観が「破壊と創造」です。これはSlackスタンプにもなっており、私たちのカルチャーを体現する言葉でもあります。
私たちは、もともとは労務管理に特化したプロダクトからスタートしましたが、今ではプロダクト領域を大きく広げ、組織構造も大きく変化しています。
フェーズに合わせた変化を恐れない
重要なのは、「今のフェーズに最適な状態を常に模索し続ける」ことです。マネージャー層には、仕組みを作り、そして壊し、また作り直すというスタンスが求められます。
SmartHRは「変化し続ける組織だけが生き残る」という思想をベースにしており、常に自らをアップデートし続けることを大切にしています。

まとめ:戦略・組織・文化の連動
最後に、私たちが重要視しているいくつかのポイントを改めてまとめます。
1. ゴールから逆算した戦略立案
何を目指すのかが明確でないと、プロダクトの乱立や方向性のブレにつながります。私たちは、
- 「自分たちにはこの軸がある」
- 「だからこそ、複数のプロダクトを使っていただくことで、より大きな価値を届けられる」
という状態を目指して、戦略的なマルチプロダクト展開を行っています。
2. 裁量のある現場が価値を生む
最もユーザーに近く、最も解像度高く課題を捉えているのは現場のチームです。だからこそ、現場に裁量を与え、素早く決定・実行できる環境を整えています。
3. 事業戦略にフィットした組織戦略
事業計画があっても、それを支える組織や人がいなければ実行できません。私たちは常に、
- 将来の組織像を描き
- 必要な人材を確保し
- 組織のボトルネックを取り除く
といった形で、戦略に合った組織作りを進めています。
4. 文化への継続的な投資
このような柔軟でスピーディな取り組みを支えるのが、日々のカルチャーづくりです。
SlackやGTM委員会などを通じて、Bizと開発が適切に連携できるような文化的土壌を育てています。
最後に
私たちはおそらく、1〜2年後にはまた違うことを言っていると思います。
それは、環境に応じて「破壊と創造」を繰り返しながら、常に最適な状態を探し、進化を続けているからです。
変わり続けることを恐れない。 それが、SmartHRが成長を続けられている理由の一つです。
以上で、発表は終わりです。
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