【連載42】良い組織作りの鍵は「メンバーのやりたいこと」を尊重し、アサインメントすること―日清食品HDの成田氏が語る組織作りの哲学

成田 敏博さん画像1

こんにちは!TECH Street編集部です。

連載企画「ストリートインタビュー」の第42弾をお届けします。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”山口さんからのバトンを受け取ったのは、日清食品ホールディングスの成田さん。早速お話を伺いたいと思います!

*

成田 敏博 さん

日清食品ホールディングス 
【役職】CIO グループ情報責任者

1999年にアクセンチュアに新卒で入社。それからDeNAやメルカリといったネット企業に入社し、それぞれでIT部門のマネジメントを歴任。2019年に日清食品ホールディングスに転身し、21年にCIO グループ情報責任者に

ご紹介いただいた山口様より「成田さんとはいくつかのコミュニティをご一緒していていつも貴重な意見をいただいています。 相手からしっかりと話を聞いた後、鋭くご自身の考えを伝えるスタイルがカッコよく、それがまた斬新でしっかりと辻褄があっていて、なにより体系だった物語としてグッと頭に伝わってきます。 成田さんが考えるITやデジタル、組織の構造やリーダーシップはエンジニアの方に大変刺激になると思います。 私が最も注目しているCIOのお話を楽しんで聞いてみてください!」とご推薦のお言葉をいただいております。

新卒でアクセンチュアに入社し、IT領域に踏み入れる

ーーまずは、現在の成田様を形作る原体験をお聞かせください。

成田:学生時代の専攻は国際政治でしたが、それに直接関係する仕事は選びませんでした。それよりも「自分にとって良いキャリアを積めそうな仕事は何か?」を考えて、外資系のITコンサルティング会社を中心に就職活動をしました。そして、早いタイミングでより実践的な経験が積めると思い、アクセンチュアに入社したのです。

当時は「これからの経営はIT無くしては語れない」と言われ始めた時代で、「今後ITの重要性が増すだろう」とも言われていました。当時の私にその確証はありませんでしたが、現在、経営とITは切っても切れない時代になっているので、IT領域に足を踏み入れる選択ができて本当に良かったと思います。

アクセンチュアでは13年間働きましたが、そこでの経験はとても大きいものでした。当時はハードワークでしたが、入社1年目や2年目からプロジェクトのメイン担当になり、若いうちからたくさんのことを学べました。

 

 ーーアクセンチュアではどのようなお仕事を担当されていたのですか。

最初の2年間はITのシステム開発に従事していました。それ以降は、開発には直接関わらなかったのですが、その2年間でがっつり開発を経験したことで、システム開発の勘所が掴めるようになり、それが今でも大きな財産になっています。

また、早い段階でクライアントと話をするようになり、クライアントが抱える課題に対して、社会人2、3年目のメンバーが解決策を提案していくので、今振り返ってみても、ハードな仕事だったと感じています。

 

ーー当時、どのようなキャリアビジョンを描いていましたか。

当時は、先のことまで考える余裕はありませんでした。アサインされたプロジェクトの延長で、次のオーダーがあればそこに行くという感じでしたね。プロジェクトのフェーズによって人が出入りしますが、私の場合は1つのプロジェクトにアサインされると、そこに長くいるタイプだったので、自分の意思に従って方向性を考えるというよりも、アサインメントに従ってキャリアを積み上げていったという感じです。今思えば受動的でしたね。

事業会社で挑戦したい想いから、DeNAへ転職

成田 敏博さん画像2

長くプロジェクトにいるタイプだったこともあり、お客様との距離は近くなっていきました。お客様の立場にたってどのような課題があるのかを考え、ITを駆使して実際にそれを解決していく、というのはとても時間がかかります。ITコンサルタントの場合、インプリメント後は、その現場から離れることが多く、それに歯がゆさを感じました。

インプリメントした後も、「数年かけて結果にコミットしたい」「発生する様々な問題に対しても責任を持ってコントロールしていきたい」「オーナーシップを持って働きたい」という思いが湧き、事業会社で働きたいと考えるようになります。そして、DeNAからお声がけいただき、転職することにしました。

DeNAに入社して、大きな挫折を味わう

ーーDeNAに入社してみていかがでしたか。

DeNAに入社してから、私自身のキャリアで最も大きな挫折を味わいました。なぜなら、「従来のアクセンチュア型の仕事の進め方」と「DeNAで求められる仕事の進め方」が全く異なっていたからです。

アクセンチュア型というのは、いわゆる「プロセス重視のやり方」です。最終的なアウトプットはありますが、そこに至るまでに、「どういったプロセスで何を作っていくか」「また顧客に対してどのようなプロセスを見せていくのか」を重視しています。今は違うかもしれませんが、当時はいわゆる「ウォーターフォール型」でした。

一方で、当時のDeNAはベンチャー企業で、組織が非常にフラットで風通しがよく、かなりのスピードを求められました。ですので、それまでの「プロセス重視のやり方」では、そのスピード感に全く着いていけなかったのです。例えば、3ヶ月前に練ったスケジュールをステップバイステップで進めていく、というやり方は通用しませんでした。

DeNAでは、プロジェクトを進めていくと、途中で新しいことが見えてくるので、その都度判断する必要がありました。そのため「ピボット型」の進め方に変えました。「まずは方向性を決めて、その後は状況に応じて方向転換や軌道修正していく」というイメージです。

初めは慣れずに苦しみましたが、今となっては良かったと思っています。ピボット型の仕事の進め方にしたことで、徐々にパフォーマンスが出るようになりました。そしてIT戦略部の部長を任せてもらえるようになり、大きな成長に繋がりました。

組織作りに関心を持つ

部長に抜擢されてからは、組織を作ることに関心を置き、徐々に自分なりのリーダーシップの発揮の仕方が形になっていきます。組織作りの経験はアクセンチュア時代にもありましたが、プロジェクトのマネージャーの立場で、長期的に組織を作ったのは初めてでした。

いろいろな業務を経験してきましたが、「組織作りが一番面白い」と感じます。自分がその組織に働きかけることで、以前よりも良いものになり、そこにいる人が少しでも幸せになるのならば、「こんなに面白いことは他にない」と思いますし、やりがいを感じます。

DeNAにいるときは「いい組織になってきたね」と言ってもらえることが何よりもうれしかったですし、自分にはそういった組織を作る素養があると気付くことができました。

 

ーーどのような考え方で組織を作っていったのですか。

「メンバーに任せること」を意識しています。私は基本的に手を出さずに、周りのメンバーにやってもらいます。

これは実は大変なことですが、アクセンチュア時代に学んだやり方です。アクセンチュアでマネージャーになったとき、最初は自分で手を動かしていましたが、それを上司から注意されたのです。私がマネージャーとしてすべきことは「この先に何があるのかを見て考えて、それをメンバーに伝えることだ」と言われました。なのでDeNAでも、まずはみんなに任せることにしました。

時としてフラストレーションやストレスが溜まりますが、みんなに任せることで生まれた工数を使って、私は「半年先や1年先に何をすべきか」について考えました。

社内と社外に情報を伝える

成田 敏博さん画像3

また、自分たちの会社の課題に向き合うだけでなく、「他の会社はどうしているのか?」といったこともきちんと把握して、自分たちは何をするべきかを考えました。

例えば、他社に出向き、自分たちの話をするのと同時に、出向いた先の会社の話も聞きます。そこで聞いた話を社内にフィードバックをしました。それを何社か続けていると、他の会社からも「情報交換しませんか」と声をかけていただくようになったのです。

社内の他部署の人と繋がりを作ったり、社外の人との繋がりを作ることは、私の立場でしかできないことです。私自身は先を見て今後のことを考え、経営層などのいわば「上」からのメッセージはできるだけ直接的に伝える機会を設けたり、他部門や場合によっては他社のIT部門などいわば「横」同士の情報を繋ぐ場を意図的に用意するといったことをやっていきました。

「メンバーのやりたいことができているのか」が、良い組織の鍵

ーー成田さんが考える「良い組織」とは、どういったものでしょうか。

私は、メンバーに自主性やモチベーションがなければ、良い組織作りはあり得ないと思っているので、まずはその部分を追求しています。

例えば、メンバーが自分のやりたいことがあっても、それができない状況では、モチベーションが湧きません。一方、自分がやりたいことをやれている環境にいる人には、やりがいやモチベーションが生まれます。

とはいえ、会社なので、メンバーのやりたいことを常に実現するのは難しいこともあります。そんなときは、「今後、このようなことをやっていきたい」と考えていることと延長線上で繋がることを今できているのだとすれば、その人の将来にとってはポジティブなことなので、良い状態であると思っています。

そのような考えから、私は各メンバーのやりたいことを把握するようにしています。それが今やっていることに直接関係していればそれでいいですし、もし他の役割の方がより直接的にそのことに繋がりそうであれば、本人の意向を踏まえて徐々にその役割に変えてもらいます。万が一、その人のやりたいことを会社として提供できない場合には、転職という選択肢も含めて一緒に考えます。各メンバーがやりたいことと、それに見合ったものを会社や組織が提供できているかどうかはとても重要です。私はそうした観点から、メンバーのアサインメントを変えています。

この組織作りの結果、「最近のIT戦略部は活性化していて、メンバーがやりがいを持って働いている」と評価されたので、自分でも良い組織が作れたのではないかと感じています。
当時のDeNAは半期に一度社長賞があり、その中のベストマネージャー賞にも選んでいただきました。自分が考えた組織作りが、他の人からも「活性化されている」と評価してもらったのは非常に嬉しかったです。

DeNAからメルカリへ、その後日清食品ホールディングスへ転職

ーーDeNAからメルカリへ、そして日清食品ホールディングスへと転職されたのはどういった経緯があったのでしょうか。

当時、メルカリのCIOだった長谷川さんに声をかけていただき、私も新しいチャレンジをしたいと思ったのがきっかけです。当時のメルカリは設立6年目の若い会社で、多くの社内ITプロジェクトを十数人で走らせているような状況でした。

当時、私自身もプレイングマネージャーとしてプロジェクトを複数同時に走らせていたのですが、その時のプロジェクトを書き出して見て、その数の多さに驚いたほどです(笑)
そこで「自分は複数のタスクを並行して走らせることが苦手ではない」と分かり、自信に繋がりました。

その後、その長谷川さんが別の働き方を模索してメルカリを去ることになり、私自身どうしようかと迷っているときに、当時日清食品ホールディングスでCIOを務めていた喜多羅さんに熱心に誘っていただき転職することにしました。

ペーパーレス化に取り組む

日清食品グループでは「社内ですべきことを自分で見つけて、それをやってほしい」と言われました。入社後1カ月もすると他部署の人とも話すようになり、色々と課題が見えてきました。日清食品グループではIT化がかなり進んでいましたが、紙と判子文化が根強く残っていたこともあり、そのIT化に着手したのです。

コロナ禍の影響で在宅勤務が始まり、それが追い風となって短期間でペーパーレス化を進めることができました。これを1つの実績として、それ以外の取り組みについても徐々に成果を出すことができるようになったように思います。

 

「経営陣と現場との繋ぎ役」と「組織作り」

成田 敏博さん画像4

日清食品グループは創業家のリーダーシップが非常に強い会社です。経営トップは世界で最もユニークな会社にしたいと考えていて、そのために「日清食品らしさ」ということに強いこだわりを持っています。こうした環境では「経営陣が何を考えているのかを現場の人に理解してもらうこと」がとても重要ですし、「現場が何をしているのかを経営陣に理解してもらうこと」も非常に重要です。ですので、私なりに経営陣と現場を繋ぐ役割を担って頑張っています。

また、DeNAのときと同じように、組織作りにも取り組んでいます。「今私が所属している組織が今後何をすべきなのか」という重点事項を掲げ、それがそのまま組織体制に現れるようにしています。組織図を見たときに、その組織が何に注力をしているのかを見て取れる形にして、その中で各メンバーをアサインしています。

 

ーー組織の中で課題を見つける際に、成田さんが意識していることなどはありますでしょうか。

現在の組織に入っていく中で、現場に馴染みそこから課題を拾うということが苦手ではないと徐々に気づきました。現場の人と話をしながら現場の課題に寄り添った上で、どうすれば課題を解消できるのかを彼らと話しながら無意識に見ていきます。そうすることで解決の方向性が見い出せたり、取るべきアクションが見えてきます。

課題に対して「あなたたちはこうすべきだ」といったプローチで入っていく人もいますが、それでは現場と対立してしまい上手くかみ合いません。私の場合、現場と対立することはあまりなく、現場からみた課題が何であるかを探ることに集中しているうちに、気がつくと一緒にやっていることが多いように思います。

 

ーー現場のメンバーと話をする上で、大事にしていることなどありますでしょうか。

大事なのは、やはり課題解決だと思います。一見すると課題が明確に思えても、本質的な課題は他にある場合があるので、本当の課題をきちんと把握した上で、それに対する打ち手を考えなければいけません。

たとえ結論が決まりづらい状況であっても、「落としどころ」は必ず見い出します。
「なんとなくこっちだよね」と、うやむやになることが苦手なので、次のアクションに繋げるためにも、メンバーが納得する落としどころは、必ずすり合わせて見つけるようにしています。

 

ーー今後、日清食品グループとしての技術的な挑戦や取り組みなど、差し支えない範囲でお聞かせください。

1つ目は、日清食品グループはペーパーレス化が大きな課題だったのと同時に、データの利活用をする環境が整っていないと入社時に感じていました。日清食品グループはデータドリブン企業になるという方向性を経営トップが示しており、それを満たすための基盤を整備する余地がまだまだ残っているので、そうしたシステム面や人材面の基盤を整えているところです。

もう1つは「新しい技術である生成AIをいかに企業活動に取り込んでいくのか」です。この取り組みには力を入れる価値があると思っていますし、どの会社もこれから取り組んでいく領域ですので、私たちはこの領域で先駆的な存在になっていきたいと考えています。

日清食品グループには「日清10則」という行動規範があり、その中に「迷ったら突き進め。間違えたらすぐ戻れ」というものがあります。確証がなくリスクがあっても、まず進め。つまり、間違えてもいいと会社が後押しをしてくれます。また、「ファーストエントリーを目指せ」というのもあり、一番手はリスクがありますが、敢えてそれに飛び込むことを許容する文化があります。

IT領域を担当している人間にとって、生成AIは大きなチャンスを秘めていると捉えています。新しい技術であるがゆえに様々なリスクやネガティブな部分も指摘されていますが、生成AIは企業活動を大きく変え得るものだと感じます。全体像はまだ誰にも見えていませんが、それ故に、今リスクを取ってエントリーする価値があると考えています。

 

ーーありがとうございます。最後に読者に向けて、これからの時代にエンジニアとしてどのように立ち回れば良いのかなど、メッセージをいただけますか。

成田 敏博さん画像5

エンジニアはやはりモノを作ってなんぼなので、物作りや、作った物に対しての品質などはこだわってほしいと思います。エンジニアである以上「自分がそれを良しとできるのかそうではないのか」という基準を自分の中に持っていてもらいたいです。その基準を持っているエンジニアは強いと感じます。

また、プロダクトやエンジニアリングしたものは誰かに使ってもらってこそ価値が出るので、使う側の立場に立って謙虚に考えるべきです。「作った物の価値が課題のあるところにフィットするかどうか」「当事者がそれによって価値を感じられるかどうか」を意識しながら、物作りすることが大切です。

 

ーー貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者を教えてください。

現LIXIL常務役員の岩崎磨さんにお願いいたしました。
もともとは楽天、リクルート、DMMなどWeb系企業でキャリアを積み、
現在はLIXILに転身してIT分野を強力に牽引している方です。
私自身、自分のキャリアを考える上で、岩崎さんの各所での活躍は非常に大きな刺激になっています。

 

以上が第42回 日清食品ホールディングス 成田 敏博さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のストリートインタビューもお楽しみに。

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

 

▼ストリートインタビューのバックナンバーはこちら