こんにちは!TECH Street編集部です。
「コミュニティフォーカス」第3弾をお届けします。
「コミュニティフォーカス」とは
会員が気になるコミュニティについて、
下記3軸にフォーカスするインタビューコラムです。
・コミュニティ
・コミュニティで活躍しているヒト
・コミュニティを運営するヒト
「コミュニティフォーカス」第3弾は、「STARTUP STUDIO by Creww」コミュニティを運営する永野さんにお話を伺いました。
※インタビュー中は取材対象者、インタビュアー、撮影スタッフ全員マスク着用でお話を伺っております。
――「STARTUP STUDIO by Creww」の概要からお聞かせください。
永野氏:スタートアップスタジオとは、広義では“スタートアップが同時多発的に立ち上がる”ような環境や事業体を指します。新しいスタートアップがどんどん生み出されるということで、“スタートアップ・ファクトリー”という言葉を用いるケースもあります。そういった状態をCrewwとして、具現化しようと考えてはじめた取り組みとなります。
弊社Crewwの主な事業は、事業会社の新規事業創出とスタートアップの成長支援を目的として、事業会社のリソースとスタートアップのテクノロジー・サービスを掛け合わせて新しい価値やビジネスを共創するアクセラレータープログラムやクラウド型オープンイノベーション支援サービス「Creww Growth」を提供しています。Crewwの特徴としては、事業会社の伴走支援やスタートアップがスケールするためのサポートを得意としています。
Crewwへ参画してスタートアップを支援していた中で、0→1のインキュベーションをやりたいと考えていて、試行錯誤しながら立ち上げたのが、この「STARTUP STUDIO by Creww」です。
“0から1を生み出す人をどんどん増やしていきたい”という思いに付加価値をつけていきたいと思ったので、ターゲットとして注目したのが企業内起業家、すなわちイントレプレナーでした。ポテンシャルはあるけれども、一歩踏み出せない人たちに対して選択肢を作ろうと考えました。コンセプトとしては、本業も続けながらスタートアップにチャレンジできる、そんなプログラムと定義しています。
――このコミュニティに参加している社内起業家というのは、どのような方々なのでしょうか。
永野氏:様々な方がいますが、属性は主に2つあると思っています。
1つはプランナーなどのビジネス側の人で、もう1つはクリエイターやエンジニア、デザイナーなどです。
ビジネス側の人は20代後半から30代前半の年齢層で、新規事業への渇望や“このままでいいのか”という、もやもやとした思いを持っている方々ですね。この先の自分のキャリアを考えたときに、新しいことにチャレンジしたいという欲求は誰にでもありますよね。
所属企業でいうと、本当にバラバラで、大企業からメガベンチャー系、数人規模のスタートアップを経験してきたという人もいます。様々な事業領域でキャリアを積んできた30代前後の人たちが多いというのは、特徴としてあるかもしれません。30代に突入し、社内でもそれなりに新規事業を経験したり自分の力を実感し始めた頃で、“このまま社内にいてもいいのだろうか”と考え始め、“何か他の道があるかな?”と思ったときに外を見てみるという感覚でしょうか。社外に対する感度が高い人が多い印象ですね。
――イントレプレナーに目を付けられたのは、非常にユニークですよね。
永野氏:僕も元々は、イントレプレナー側の人間でした。商社系のベンチャーに勤めていましたが、自分のスピード感と社内の意思決定のスピードが合わないことがあり、その点に無意識にストレスを感じていて、僕と似たような経験をしている人はたくさんいるだろうと思っていました。
また、新規事業に携わり新たなことに周りを巻き込んで挑戦していくこと自体はとても好きで、そこに携わり続けたいという気持ちはありました。そこでCrewwという存在を知り、参画したという経緯があります。
Crewwに参画後にミッションを持った事業は、コワーキングスペースでのコミュニティマネジャーという職種です。スタートアップ支援をしたり、アクセラレータープログラムの運営を担当していました。それらの活動を通じてスタートアップとの接点を増やしていきました。
とても面白いスタートアップがたくさんあると思う一方で、“これから起業しようと思っている”という相談を受けるようにもなっていたのですが、そこが一番の原体験でしたね。「仕事を辞めようと思っている。事業プランはこれから描いていくところです。」という、良く言えば覚悟ですが、無計画に近い相談も多くありました。
自分を追い込まなければなかなか動けない人もいるとは思いますが、そういった覚悟を持つ人がなぜ、それほどまでに多くいるのかを考えたときに、やはり起業に対する憧れがとても強いということを感じました。同時に“仕事を辞めるというリスクの取り方をする必要がないのでは”という思いも生まれてきました。
起業家の中には、「最初は役員報酬がなくて生活費を稼ぐためにUberEatsをしている」という記事を目にすることがありますが、それだったら本業を続けていても同じことなのではないかと。今までは、退職して退路を絶つということが成功するためのひとつの要因であり、暗黙のやるべき論という感覚があったと思いますが、そこ自体のコンセプトが壊れたら面白いなと思ったんです。もちろん退路を絶った方が必死になると思いますが、その陰に隠れて失敗をしている人もたくさんいますから。
――定義の中に「同時に生み出される場所」とありましたが、その「同時」とは、どういう状態を指すのでしょうか。
永野氏:いわゆるアクセラレーターやVCが進めているインキュベーションプログラムに似ていますが、いくつかのプロジェクトを採択して同時に走らせ、同期生を作るということでコミュニティを形成しようというのが、僕たちが仕掛けていることの特徴のひとつです。
Crewwはもともとプラットフォームなので、“誰でも”“いつでも”参加できる、開かれた場所ではありましたが、往々にしてスタートアップ同士の横の繋がりが希薄になりがちでした。一方で、同じような期間でインキュベーションプログラムに参加している人たちは、スタートアップのCEOやCXO同士の繋がりができて、相談をしあえるという利点が生まれていました。しかし、イントレプレナーには、そういったことがほとんどありませんよね。
不確定要素の高いビジネスモデルを構築する上で、初期段階から情報漏洩やアイデアの盗用を懸念して、“壁打ちもできない”と悩んでいる会社員の方は世の中にたくさんいるため、その点を変えたいと思っています。
このプログラムに参加したことがきっかけとなって、スタートアップになってくれることが我々としては最も嬉しいですが、そうでなかったとしても、例えば大企業の新規事業部門に実績を携えて異動することも入いいですし、スタートアップへ転職してもいいと思っています。
とにかく、こういった新規事業などの挑戦を通して、スタートアップ界隈含む0→1へ挑戦したい人たちにとっての職業選択の裾野が広がっていくことが重要だと思っています。
――さらにこの場所に何が加われば、新しいものが生まれると考えていますか。
永野氏:そうですね。僕たちもまだ試行錯誤してブラッシュアップしている段階ですが、現時点で考えていることは、とにかく目的意識、ビジョンなどを、伴走支援しながら相談できる人たちが必要ですね。
今はコロナの影響によって、リモート化が進み、将来的に考えていた、地方在住の人たちを巻き込んだチーム組成が可能になりました。関東圏にかた寄っているプロジェクトもありますが、メンバーの3~4割は地方在住の人なので、必ずしも首都圏一極集中ではなくなっています。
例えば、あるプロジェクトでは、ファウンダーが岐阜の方で、メンバーの1人が名古屋の方、他のメンバーが東京にいるという構成になっています。
毎週リモートミーティングをしながら、かなり順調に取り組みが進んでいて、仕掛けてみた僕自身が驚いていますね。そして、ポテンシャルを感じました。良い意味でかなり期待を裏切られましたね。
そういった力がある人たちが、イントレプレナーの中にはたくさんいるはずで、これも氷山の一角で、日本全国を見渡せばもっと隠れているのだろうと感じました。もっと私たちができることはたくさんあると思います。
――このコミュニティに参加するとして、どのような関わりかたになるのでしょう。具体的な流れを教えてください。
永野氏:まず最初に“これを実現したい”と自分で素案を持っているファウンダーを募集します。そこに対していくつかの基準を設けて、プロジェクトの採択を実施します。これはステップ0で、原石を見つけに行くという感覚ですね。その基準にはビジネスプランの実現性や、ファウンダーの素養も含まれています。
採択された後に支援が始まりますが、最初は事務局による属人的なブレストとブラッシュアップを実施します。初期のファウンダーの素養というのは何もなかったりしますが、これは起業家も同じですね。
「これをやろうと思っている。これをすると社会にインパクトを与えることができる」という話をしたうえで、いかに人を巻き込んで仲間を集めるかという点が重要になります。
その点については我々単体では難しいので、CAMPFIREやVenture Café などとパートナーシップを組んで、ピッチイベントやマッチングプラットフォームの活用をすることでプロジェクト組成を行っていました。投資はもちろんですが、CAMPFIREには仲間集めのプラットフォームが用意されているので、自分の考えているビジネスモデルを一緒にやっていく人を、そこに登録している人から探すことができます。
また最近では、Another worksという企業が副業プラットフォームを運営していて、そのマッチングサイトにインキュベーション特集を組んでもらって、プログラムの紹介をしています。そういったかたちで仲間集めを支援していますね。
本格的にプログラムが動き出すと、段階に合わせていくつかの宿題を設定してきます。リーンスタートアップというフレームでやっていますが、考えるよりはまず実践してみようというところで、「何をどれだけ、いつまでに」といったチェックポイントを事務局が設けています。それと並行して、進捗の面では同期プロジェクト同士でピアプレッシャーをかけるために、毎月定例でクローズドの進捗ピッチイベントを企画し実行しています。
――単純にプログラムを受講する仲間ではなく、そこにコミュニティ感が生まれる理由はなんだと思いますか。よくありがちなセミナーとの差はどのようなものでしょう。
永野氏:アウトプットの有無ですね。そこに程よいプレッシャーをかけられているからだと思います。
プログラムの受講は学校と同じだと思っていて、そこでもコミュニティは形成されるとは思います。しかし勉強についての話はテスト前くらいしかしませんよね。専門学校や大人になってから通う資格の学校などは詳しくないのですが、基本的には個人のために学んでいるので、矢印は自分に向いています。学校は勉強のためという主な目的がありつつも、基本的には楽しむため、友達とワイワイするためという目的があると思います。
それが今、僕たちがやっているプログラムの場合だと、矢印の向き方は自分ではなく社会に向けることを最優先にしていて、社会課題の解決をコンセプトとして定めています。そのために足元のビジネスを回しながら、中長期的に社会課題に寄与したら、とてもエキサイティングだと思いながら進めているわけですね。
個人的の付加価値の向上という点も、副次的にはあると思いますが、そこはプロジェクトの活動を通じて勝手に付いてくるものなので、まずは社会課題の解決を優先にするという優先度を明確にしています。目的意識が共有できるから、一般的なセミナープログラムと違ってコミュニティ感が生まれるのではないでしょうか。
――ちなみに今回のプログラムに参加されている人数はどれくらいなのでしょうか。
永野氏:今回は150人ほどが参加しています。課題をクリアしていく形式やっているので、設けたチェックポイントで達成できる、できないを判断しながらプロジェクトの継続や終了を決めています。
「ここまでやってね。この最低限を越えてくれるチームが本当にあるのかな」という感覚で設定しましたが、なんやかんやと越えてきてくれています。一次選考・二次選考という感じでそこを越えたチームが残っていくというシステムになっていますね。今、ちょうど折り返し地点ですが、プロジェクトの数も半分ほどになりました。(2020年8月のインタビュー時点。)
運営のすべてをオンラインで行っていて、ほとんどのメンバーと直接会ったことはありません。最初は難しいかなとも思っていましたが、意外とできるものですね。コロナの影響もあったと思います。皆さんがリモート慣れしてきたのでしょう。メンタリングなどもZoomで行っていて、参加している彼らのチームビルディングもオンラインで行っています。
基本的には優秀な人たちの集まりなので、お世話することもそれほど多くはありません。道筋を引いてあげるくらいです。大企業の組織人の方々は、強みでもあり弱みでもあると思いますが、「すべて決めていい」と言うと反対に何をすればいいか分からなくなってしまいます。なので「甘すぎる」と言われることも覚悟して、そこで困っていることがあるのなら、ひな型は作ってあげようと思っています。ある程度縛ってあげるところと、自由度を残すところのバランスは、上手くいっているように感じています。
――自分たちでやり遂げるようなプログラムで繋がっていることで、どのようなコミュニティになると思いますか。
永野氏:挑戦するコミュニティだと思います。「挑戦」や「ゲームチェンジ」などがキーワードですね。そのゴールが社会課題の解決になると思います。
スタートアップは、気合いを入れて何年もやっていかなければならないという覚悟が必要ななか、その覚悟が決まってからやるのではなく、やりながら覚悟が決まればいいと思います。
プロジェクトがうまくいってくると本気で「法人化しよう」と言ってくる人が必ずチーム内にいて、そこで初めて起業を意識し始めるというプロセスを踏み、最初は起業することに強い意志は無かったけれども、気づいたら事業をしているし成長もしているということになれば、僕たちとしても面白いです。
――テクノロジー人材とコミュニティの関わりについて教えてください。
永野氏:結構、エンジニアの人もいますね。特徴としては2種類あると思います。1つはフルスタックで、スーパーエンジニアの人たちが趣味で何かを作ってみるけれども、自分でなんでもできる分、1人でやっていることが多い人たちが、面白いプロダクトを作れそうだというときに参画してきます。エンジニアにとっても、アウトプットかつプランナーの人たちがきちんと営業してくれる、自分の成果物を体現できる場になります。
億劫に感じるユーザーインタビューなども自分でやらなくても済むので、「自分の力を貸してあげよう」という感じで参画してくれますね。その点はとても助かっています。そして他のメンバーも、エンジニアを巻き込んだ責任が発生することで、やらなくてはならないという気持ちになります。お金は発生せずプロボノのように入っているので、信頼関係や、このサービスが実現できる世界観でしか勝負ができません。
もうひとつは、「新しいプロダクトの企画からローンチまで関わりたい」という思いを持っている若手エンジニアですね。
エンジニアといってもいろいろな種類がいると思いますが、SIerへ勤めているのような方で、「自分でプロダクトを作っていきたい」と悩んでいる人もいます。自分のエンジニアリングスキルを高めたかったり、新規事業を社内で提案し受け入れられても進め方が分からなかったり、開発業務としては貢献できるけれども、プロダクトの0→1の進め方がわからないという悩みを持たれている方のお話を多く聞きました。
エンジニアやデザイナーの方は知的好奇心がとても強いので、スペシャリストとしてスキルを磨いていきたいけれども、本業ではそれがなかなかできないから、外でやろうという人が多い印象ですね。
――人材のプールの中にエンジニアも企画側の人もいて、その中からチームが作られるということでしょうか。
永野氏:我々としてはプロジェクト立ち上げの際にリーチできる人材のプールを作っています。それは毎月行っているイベントや広告などからスタートアップスタジオのWEBサイト上へ登録するための導線を設けています。
その人材プールに対して、プロジェクトを組成するにあたり、このようなプロジェクトはどうですか?と投げかけて、その人たちがプロジェクトのことが気になりエントリーしてきたら、そこで初めてファウンダーと面談して、意気投合すればチームが作られるという流れになっています。そういったチームがいくつもあり、それら全体をまとめてコミュニティと表現しています。
どのような人材を集めるかを、プロジェクトを採択した時点で設計できているファウンダーは少ないですが、「共感してくれる人募集」といったように、取り組み自体に興味を持っている人たちの集まりなので、SNSで不特定多数の人たちに発信するよりも新規事業への興味関心が高い人が多いプールに向けて情報提供しているというイメージですね。プロジェクトに参加されていない人たちに対してもコミュニティ感を作りたいと思っていますが、どうしても今は実際に動いている人たちを優先してしまいがちです。
プログラムに参加するのに、参加者から参加費はいただいていません。参加費用をいただくこともできると思いますが、そうすると勉強する人たちが集まってきてしまうため、少し違うかなと思っています。なので、プログラムを通じて創出した事業を買い取ってもらい、それを成果報酬としてもらうというシステムを作り上げているところです。
――ありがとうございました。最後に今後の展望をお聞かせください。
永野氏: コンセプトは分かりやすく、やっていることはとてもシンプルで、「外でやろう」ということですが、どうしても社外で活動することに懸念を示す会社が多いので、まずはその価値観を変えにいきたいです。
結局は個人と組織の「べき論」の違いだと思うので、個人単位での活動が社外で進めることが当たり前な世の中になっていくと、社会は最適化せざるを得ないという風潮を作っていき、それがニューノーマルになっていけば、本質的に組織をどう変えるかということを考えはじめます。そうなれば日本全体が良い方向に向かうというか、真の働き方改革につながっていくと思いますね。
テレワークの広がりに乗じて働き方改革は更に活性化していく兆しがありますが、個々がある程度自由に使える時間が出来るようになれば、その時間で新しい取り組み、スタートアップや新規事業をつくる挑戦に繋がり、結果として日本経済全体の活性化に繋げることができる、そんな可能性を作る流れに乗りたいですね。
以上が第3回のコミュニティフォーカスです。永野さん、ご協力いただきありがとうございました。次回も会員が気になるコミュニティについて深堀っていきます!今後のコミュニティフォーカスもお楽しみに。
社会を変える挑戦をしよう。 | STARTUP STUDIO by Creww
( 取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)