【イベントレポート】UXデザイン勉強会vol.4~UXデザイン海外最新トレンドと事例LT~

こんにちは!TECH Street編集部です!

2022年9月22日(木)に開催した、 「UXデザイン勉強会vol.4~UXデザイン海外最新トレンドと事例LT~」のイベントレポートをお届けします。

UXデザインはコンテンツ、企画、マーケティング、エンジニアリング、カスタマーサポートなどすべての職種で学んでおきたいカテゴリです。今回は最新版「UXトレンドレポート2022」を読みながら、今のUXデザインのトレンドをプロダクト開発にどのように取り込んでいけばいいかを考える羽山さんのセミナーと2人のUXデザイナーによる知見共有セッションを行いました!


登壇者はこの方々!

羽山 祥樹さん/日本ウェブデザイン株式会社
氏家浩史さん/パーソルキャリア株式会社
土田哲哉さん/株式会社Surface&Architecture

 

まずは羽山さんより「UXトレンドレポート2022」を読みながら、今のUXデザインのトレンドをプロダクト開発にどのように取り込んでいけばいいかを発表してくださいました。

 

UXデザインの海外最新「UXトレンドレポート2022」を読んで、考える

羽山:今回は3つのUXデザインに関するレポートを見ていきたいと思います。
まずはオーストリアのUXコンサルティング会社「youspi」さんのレポートです。
世界中のUXデザイナーやUXリサーチャーにアンケート調査して、定点観測を実施しています。今回は最新版である「UXトレンドレポート2022」をみながら、ポイントとなるレポートをまとめてみました。

UXトレンドレポート2022「youspi(オーストリア)」

【調査トピック①】今年、エクスペリエンスデザイン業界でもっともよく耳にしたバズワードは何ですか?

意外だったのは2022年版には“リモート”が入っていないことです。
おそらくリモート調査が当たり前になってしまったのでしょうね。

また、昨年は目立っていなかったのですが…
【オムニチャネル】【シームレス】【パーソナライゼーション】が注目されています。
これらは10年ほど前にweb業界でバズワードでした。

2010年頃は複数のデバイスをまたいで、一貫した体験を提供できるということが話題になっていました。2022年の現在では、コロナ禍でリアル店舗に行けなくなっても、リアルでもネットでも一貫した顧客体験ができることを指していると思われます。

2010年頃はデバイスが異なったとしてもいずれもwebでの話でしたが、2022年現在ではリアルでもネットでも一貫した顧客体験、しかもパーソナライゼーションされた顧客体験を提供することが求められるようになったと理解しました。

【調査トピック②】会社のエクスペリエンスデザイン予算について変化すると思いますか?

こちらは「予算が増える」という認識が過半数をしめています。
これはコロナ禍で多くの企業がレイオフや新規雇用の停止をするなか、UXへの投資予算は増加の見通しをしていることになります。つまり「企業の競争力の源泉はUXにある」という認識が広がっている印象を受けました。

【調査トピック③】来年(2022年)、もっとも重要なエクスペリエンスデザインのトレンドは何でしょうか。

「プレディクティブUX」とは、パーソナライゼーションを機械学習 (AI) の力ですること。ただAIプロダクトのUXデザインを担当している私としては「AIでどんな体験を提供できるか理解しているのか」それをわからずに回答している人が多いのでは?という印象です。

【調査トピック④】UX業界関係者にとって、来年もっとも重要になるトピックは何でしょうか?

こちらも上位に「ビッグデータ&AI」がランクインしていますが、先ほどのエクスペリエンスデザインへのアンケートと同様にAIで何ができるかも分からずに重要なトピックであると回答しているのではないか、という印象を持っています。
さらに目立つキーワードとして“アクセシビリティ”“サスナビリティ”“エシカルデザイン”など人の多様性や倫理観を大切にするキーワードが目立ちました。コロナ禍によるニューノーマールな価値観が広まったことに起因するのでしょう。

【調査トピック⑤】今後、エクスペリエンスデザインの支援が求められるのは業界でしょうか?

また今後エクスペリエンスデザインの支援が求められる業界のアンケート結果でもコロナ禍の影響が予想されます。急拡大したリモートワークにより精神的かつ肉体的に病む人が増えたことにより、オンライン診療などのサービスが急増したヘルスケア業界やオンライン授業が拡大した教育関係の関心が高いことがわかりました。

2022年以降台頭するUI/UXデザイントレンド「UXPin (アメリカ)」

次のレポートは2022年以降に台頭するUI/UXデザインのトレンドについてです。
以下の10項目のデザイントレンドが注目されています。

以上が10のデザイントレンドです。
その中でも3と9について考察していきたいと思います。

3、音声ユーザーインターフェース(VUI)について

音声ユーザーインターフェース(VUI)について、本当に伸びているのでしょうか。
●Discord や Slack Huddle のようにチームコミュニケーションからゲームのエンターテイメントまで、ボイスチャットがなくてはならないものになった。
●音声配信サービス Twitter スペース、 Clubhouse なども拡大した。
このような流れを見ていると、体感としては、注目すべきはVUIよりボイスコミュニケーションのUXではないだろうかと感じています。

9、コンテンツとUXのローカライズについて

英語を中心にインターネットは進化しましたが、世界中を見たときにインターネット利用者の50%は中国語です。日本では5Gが普及していますが、世界的には3Gがベースの回線で一番伸びているのはアフリカです。そのため、今後グローバルな方向に展開していくのは自然な流れになると思います。

2022年のUX時流「UserZoom (アメリカ)」

次にUXの時流について、企業がどのようにUXに取り組んでいるかを調査したレポートのまとめです。
まずユーザーインサイトは製品・サービス改善に活かせていないというのが実情です。

UXリサーチを評価指標として開発プロセスに組み込めば成果がでるのは明白にもかかわらず、40%以上の企業がUXの意思決定をするプロセスがありません。逆に革新的な企業はUXのマネジメントと戦略の責務を執行役員に移行しています。UXの重要性を理解しても、UXチームが「経営層の言葉」を話せるようにならなければ会社全体の意思決定にUXを組み込むことは容易ではないからです。70%以上の企業が「UXリサーチの需要が増加している」と答えているのにも関わらず過半数が「予算が変わらない」と回答していますが、これはダイレクトに経営層へ投資価値を説明できていないことを示しています。また経営層がUXを評価するにあたって“誤った指標”を使っている企業も多いようです。

またUXリサーチに対する障害としてもっとも多かったのは「時間」
「限られたインサイトでより早く開発を進める」か「製品開発を遅らせてでも高品質のインサイトでより深く進む」かの二択になってしまうと、UXチームがうまく貢献できなくなってしまいます。

「UXは大切だ」と多くの人が思い始めているが、それに対してどれくらい投資すればいいのか、何を根拠に投資の判断をすればいいのか、いくら指標が動けば投資判断が適切だったとみなせばよいのか…etc」整理がついていないというのが現状です。

UXデザインの2022年のトレンドまとめ

前途にある通り、まだまだ理解度は不足しているが、需要は高まっているのがUXデザインです。このトレンドを頭において皆様の働く場所でもUXデザインの価値を高めてみてください。

Q&A(羽山 祥樹さん/日本ウェブデザイン株式会社)

海外ではUXリサーチャーやUXデザイナーといった、「UX○○」という専門のポジションは存在しますか?それともUXを意識することは既に当然なこととして認識され専門ポジションは見当たらないことが多いのでしょうか?
羽山:以前、Googleでは「UXはもはや当たり前なのでUXというポジションの職種はなくす」というニュースがありましたが、いま調べてみたところ、GoogleでふつうにUXデザイナーの募集をしていました。また、Meta(Facebook)でも UXリサーチャーを募集していました。 似たようなロールがありました。海外でもふつうに「UX○○」という職種はあるようです。

デザインの嗜好が日本と海外でだいぶ違うのはなぜですか?
羽山:そんなに異なるのでしょうか。たしかに国ごとに文化の異なりによる差異や、民俗性、ローカライゼーションはあります。他方で日本人がゴッホを好きだったり、日本のKawaii文化が海外で人気だったりと、けっきょくは相手とコンテキストの共有がされているかどうかではないか、という気がします。

羽山様のスライドのこだわりは?!フォントも??
羽山:今回のスライドになぞらえていうならば「ハジケ祭り」です(笑)。プレゼンテーションは、まず参加者の人に楽しんでいただかないと、中身に入っていただけません。そのためには、ノウハウの伝授である前に、エンターテイメントであることが必要だと思っています。

デザインエンジニア、UXエンジニア、DesignTechnologistのようなデザインとエンジニアリングを仲介するロールは今後企業から重宝されていくでしょうか?
羽山:デザインとエンジニアのバランスをとって、プロダクトをつくっていく役割の人は、以前から存在しました。Web制作ではディレクター、システム開発ではプロジェクトマネージャーなどと呼ばれてきました。近年では、プロダクトという単位で、デザインとエンジニアのバランスをとって、プロダクトがユーザーにとってどうあるべきかを判断する人材として、プロダクトマネージャーという名称で、そのような人材が求められていることが多くなってきた印象があります。

お話いただいたスライド、欲しいです!
羽山:SlideShareで共有しておりますので、ご参照ください。
https://www.slideshare.net/storywriterjp/uxux2022

今後、UXを推進していくために「経営陣を納得させる」にはどうすればよいでしょうか。羽山さんの過去のご経験で実践されていたことなど差し支えなければお伺いしたいです・・・!
羽山:経験として、ユーザビリティテストを繰り返し、そのユーザビリティテストに毎回、経営陣に同席してもらう、という方法をとることで、事業方針のピボットを促したことがあります。事業方針のピボットのような大きな意思決定の場合、経営陣も部下から上がってきたレポートだけではなかなか決断ができず、身体知として「ユーザーが求めているものと、自分たちが提供しているものが異なる」という感覚をもってもらうことが必要です。そのためには、ユーザビリティテストに何回も経営陣に同席してもらうと、最初は「たまたま今回のユーザーはターゲットユーザーじゃなかったんだ」という姿勢だった経営陣も、何人ものユーザーが目の前でプロダクトにつまづくのを目の当たりにし続けると「ひょっとして自分たちが提供しているプロダクトは根本的に間違っているのでは・・・」という感覚をもってもらうことができます。

社内での一番の壁は何でしょうか?
UXデザインは、ユーザーリサーチをする以上に、それを社内に納得してもらうことのほうが難しいです。羽山はいつも「UXデザインの半分は組織論」と言っています。
失敗しない対策としては、組織論なので、関連部署への十分な根回しや、社内権力(偉い人)の利用、味方を社内につくる、といった地道な社内政治が効果的です。

エンジニアとの連携はどのようにやってますか?お客さんとのコミュニケーションとかもリモートでイケちゃいますか?
はい、コロナ禍になってから、エンジニアとの連携や、お客様(クライアント)との調整、ユーザーリサーチなど、すべてリモートに移行しましたが、とくに大きな課題を感じずに業務をできています。

テクノロジーと人の力、どちらがUX的な効果がでますか?
テクノロジーと人を分けて考えようとしていること自体が、UX目線ではないように思われます。ユーザーから見たとき、あなたのプロダクトやサービスはすべて一貫したもので、どの部分がテクノロジーでどの部分が人的なものであるかは関係ありません。たとえば、最新の家電を購入したとして、故障したときにサポートセンターの人の対応が悪ければ、そのプロダクトのUXは悪かった、とユーザーには感じられますし、仮にサポートセンターの対応がよくても、そもそもプロダクトの機能が求めていたものに満たなければ、やはりユーザーにとって悪い体験であった、となります。
「テクノロジーと人」という分け方自体が、そもそも「提供者側の目線」で、ユーザーの目線(UX)ではそれらは分離されるものではありません。

よいドキュメントの見分け方などはありますでしょうか?
ドキュメントを見た人が、短時間(3秒くらい)で主旨を理解することができ、かつ説得されるようにつくられているドキュメントが、よいドキュメントだと考えます。

チームビルディングする上で心理的安全性を醸成していく工夫などがあれば教えて下さい。
ファシリテーションするときに、「この場はうまくいかないことや失敗したことを責める場ではなく、状況をみんなに共有する場だ」ときちんと宣言しておくようにします。その上で進捗遅れやトラブルの報告については、「報告してくれてありがとう」と感謝を示すことです。また、ファシリーションのなかで、会議の参加者全員に、1回は発言の機会を回すようにします。これを継続すると「安心して失敗を報告できる場」をつくることができます。

日本と海外とで、UXに対する認識にどのような違いがあるでしょうか? 例えば組織のトップから末端メンバーにいたるまでUXを意識した考えができ、企画・提案時も「そのUXは・・・」とUXを意識する頻度も高いでしょうか?
日本と海外というより、企業によって意識の高低がある印象です。海外でもCxOレベルでUXに取り組む企業もあれば、やはり役員がまったくUXに理解のない企業もあると聞いています。これは日本国内でも同じなので、世界中みんなそうなのかな、と思っています。

UX改善を小さく実施して、組織としてUX改善の成果を早く実感したい場合はどうすれば良いでしょうか?また成果が出た場合、UX改善によるものだと断定するにはどういった手法がありますか?
すでにプロダクトがあるのであれば、ユーザビリティテストをして、プロダクトのコンバージョンまでのクリティカルパス上にあるユーザビリティエラーをどんどん減らしていけば、短期的に成果を上げやすいです。また計測も、明確に「この画面のここを修正したらCVRがいくつ上がった」と言いやすいので、わかりやすいです。

社内の各部署がUXを意識して業務に取り組むために効果的な習慣としてどういったものがありそうでしょうか?
理想的にはユーザインタビューやユーザビリティテストにそれぞれの社員に同席してもらい、じっさいのユーザーを目の当たりにしてもらうことです。ただ、なかなか難しいかと思うので、ユーザインタビューやユーザビリティテストで得られた「ユーザーの生の発言」を各チームに共有するだけでも、新しい視点の提供になるかと思います。

効果的でないUX改善業務を発見するにはどうすれば良いですか? UXを追求することには誰も反対しないと思いますが、業務フローが膨れ上がるのもコスト増(工数など)に繋がり、最終的にはサービス提供価値の低迷・UX悪化に繋がりそうです。
UXデザインやUXリサーチも、ビジネスとしてやるうえでは投資対効果を求められます。なので、改善すると投資対効果が高いと思われる課題について、優先的に取り組むとよいと思います。たとえば、すでにプロダクトがあるのであれば、ユーザビリティテストをして、プロダクトのコンバージョンまでのクリティカルパス上にあるユーザビリティエラーを改善することに注力する、というように優先度をつけます。

転職を考えている求職者側から見て「この会社はUX追究に熱心そうだ」と判断つきやすいポイントはあったりしますか?(※応募前から面接までのフェーズにおいて)
まずは社内に「UXテザイナー(UI/UXデザイナーではなくUXデザイナー)」に相当する人がいること、その企業が自社のUXデザインについて積極的に発信しているかどうかで、あるていどの検討はつくかと思います。たとえば freee は社内にUXリサーチチームがあり、ウェブやイベントを通じて積極的な情報発信をしています。SmartHRは一昨年にはじめてのUXデザイナーを採用し、そのあと自社のデザインシステムを公開するなど、やはり積極的な情報発信をしています。

外部パートナー(フリーランスなど)にUX改善業務の一部を依頼するとすれば、具体的にはどういった業務が割り当てられることが多いでしょうか?
むしろ仕事を依頼する企業側の、社内のUX成熟度によって異なると思います。UXデザインの経験がまったくない企業であれば、UXデザインのプロセス全体をお願いしたり、チームがUXデザインを習得できるように継続的な伴走を依頼します。逆に、社内にシニアレベルのUXデザイナーがいるのであれば、社内シニアUXデザイナーが調査の全体像を設計して、人手が足りないリサーチの一部などを外部委託する、ということになるかと思います。

UX改善の失敗事例として、どういったものがあるでしょうか?またそれら失敗事例の共通点として何がありそうですか?失敗しないよう事前に対策することは現実的でしょうか?
いちばん多い失敗事例は、ユーザー体験にとって明らかに不都合が出ているにもかかわらず、社内説得に失敗して、改善プロジェクトを立ち上げることに頓挫するケースだと思います。UXデザインは、ユーザーリサーチをする以上に、それを社内に納得してもらうことのほうが難しいです。羽山はいつも「UXデザインの半分は組織論」と言っています。失敗しない対策としては、組織論なので、関連部署への十分な根回しや、社内権力(偉い人)の利用、味方を社内につくる、といった地道な社内政治が効果的です。

社内外からのUX改善の提案を受けてその採用可否を決めるにあたって、重要な要素としてどういったものが挙げられますか? (予算や納期などUX改善に限らない検討事項は除外)
自社プロダクトのユーザーの本質的な心理や課題を解決する提案になっているかどうかです。これはじつはとても難しい判断です。「そもそもあなたは自社プロダクトのユーザーの本質的な心理や課題を『本当に』理解しているのか」「あなたが自社プロダクトのユーザーの本質的な心理や課題だと思い込んでいるものは、たんに社内のみんながそう言っているだけの先入観ではないか」という問題をクリアできてなければ、他社からの提案の妥当性を判断することはできません。つまり「ユーザーを正しく理解する」というフェーズを経ないで、いきなり「UX改善の施策の提案」を受けること自体が、あまりよろしくありません。
おすすめとしては、まずは他社に頼らず、自社内でガッツリとUXリサーチに取り組んで「これが本当のユーザー心理だ!」といえるところまで調査しましょう。そうすると、どんなUX改善施策が必要かも、自ずと判断がつきます。ただ、社内にUXリサーチのノウハウがなく、リサーチに取り組むのが独力では難しいようであれば「UX改善の施策の提案」ではなく「社内でUXリサーチができるように伴走してもらう」という提案をお受けするとよいです。

サービスを利用した結果、そのユーザー体験に感情が含まれない場合も多いと思います。例えば不満なく利用できても、それで感情をあらわにするほうが稀でしょう。そういったステージのプロダクトにはどんな視点が重要になってきますか?
2つ視点があります。
まず、プロダクトマネジメントとして、そのプロダクトを使うことで、ユーザーにどうなってほしいのか、という視点です。たとえば飲食店の予約アプリがあったとして、馴染みのお店の予約がスムーズにできてユーザーに不満がなかったとしても、もしプロダクトのビジョンが「これまで行ったことのない新しいお店に出会うセレンディピティを提供する」であれば、このプロダクトの目的は達成されていないことになります。
もう1点は、ユーザーのインサイトです。ただプロダクトを使っていても、その背景にはプロダクトを使うに至るユーザーのさまざまな動機があるはずです。あなたのプロダクトは、その動機のすべてを把握したうえで設計することができているでしょうか。自分の目に見えている範囲でニーズに応えているだけではないでしょうか。ユーザーの心理世界の全体像を調査し、把握したうえでプロダクト改善に臨むと、まだまだやることが多い、というケースが多いと感じています。

もう1点は、ユーザーのインサイトです。ただプロダクトを使っていても、その背景にはプロダクトを使うに至るユーザーのさまざまな動機があるはずです。あなたのプロダクトは、その動機のすべてを把握したうえで設計することができているでしょうか。自分の目に見えている範囲でニーズに応えているだけではないでしょうか。ユーザーの心理世界の全体像を調査し、把握したうえでプロダクト改善に臨むと、まだまだやることが多い、というケースが多いと感じています。

最後の評価とかって数値化・ツール使用、などありますか?ポイントありますか?
コンバージョンポイントが明確なプロダクトの場合は、Googleアナリティクスのようなアクセス解析ツールで数値化することができます。また、会社によってはプロダクト内でNPS(ネット・プロモーター・スコア)のアンケートをとって顧客満足度を測っているケースもあるようです。(ただしNPSが本当にUXを計測できているのか、という議論は業界に存在します)

続いてUXデザインに携わる2人のUXデザイナーによる知見共有セッションです。
まずはパーソルキャリアの氏家さんの発表をご紹介します!

Web・UX業界で10年くらい働いてきて最も効果があった標準化の施策

氏家:本日のテーマは「ナレッジマネジメントと少し標準化」です
まず私はUX領域で扱うサービスは規模が大きく組織力が必要になります。
それに対してナレッジマネジメントや標準化が有効だと思い、組織的に取り組んだ事例がありますのでご紹介したいと思います。

【ナレッジマネジメント】→組織の知識を管理・アップデートすること
【標準化】→作り方や評価方法を組織の中で統一すること

これらは実施が大変な割に効果が実感できないものではないでしょうか?
まず実施できていない根本的な問題としては…

この4つの課題に対しての費用対効果が悪いという部分があげられ、うまく運用していかないと、結果として施策が形骸化しがちだと思います。

組織の取り組み

私の組織でやっていることはこちらです↓

実は、これだけやってもまだ不十分という前提はありますが、まずは6つの施策について、それぞれどのようなことをやっているのかをご紹介します。

①ツール・プロセスの標準化

工数はかなり大変…ただいちいち資料を探す手間が省けます。
利用するフォーマットの向上=成果物の品質向上にもつながっています。

②質のよいドキュメントの収集

ツール・プロセス標準化に比べるとMTGで収集するだけですので負担が少ないです。
収集の手間も省けるので実施する価値はあります。

③タスクフォース化

Slackチャンネルを作り、チーム内での定期MTGでやることを決めていきます。評価方法等も含め組織的に取り組む必要があるため、実施難易度としては高いかもしれません。

④月次標準化MTG

様々な視点で収集された<イケてるツール>を選別する会です。様々な視点をもつ数名のエキスパートでの運用が必要ですが、人材が不足して組織的に運用できないと孤独な作業になるため、おすすめはできません。

⑤半期に一度のお掃除会

「④月次標準化MTG」からさらに6か月単位で判別する作業。
こちらも工数はかかりませんが、④同様に孤独な作業になる可能性はあります。

⑥浸透施策

活動を組織外に周知し、ツール活用を促進させる広報役割です。
ただ時間をかけて資料を作成&プレゼンしたとしても、だいたい「へぇ〜すごい」で終ってしまっています。

そして最初にもお伝えした通り、最も効果があった施策は…
実はこの中にはありません!

私が経験した中で最も効果があったのは、「プロジェクトの振り返りミーティング」を誰でも参加可能にしたことです。かなり入念に設計しました。

プロジェクトの振り返りミーティング

「誰でも参加」というのは…

振り返りミーティングの位置付けは「プロジェクトの評価・称賛の場」としています。

・満足度
・プロジェクト評価(コスト、タイム、品質)
・成果物の紹介と評価
・改善点/成功要因

これらをディスカッションしており、決して<深刻な場所>にはしていません。
よいものはよい、悪いものは何が悪かったかをきちんと把握して次につなげるアクションまでを定める場所として関わった人たちを称賛していました。

ではどのくらい成功したかというと…

組織内外問わず評価が高かったという認識です。

なぜ成功したかというと実施前までは「できないのがばれたくない」「めんどうだなー」という顕在化されていなかった一人ひとりの課題が、「やれば楽しい」「やれば評価される」そしてそれぞれの成功事例を吸収できるようになったからだと思います。
結果的に、ナレッジマネジメントや標準化の大枠が達成されるという好循環につながりました。

では具体的に何をしたか?について、「運営の組織化」「MTGの設計」を中心にご紹介します。

運営の組織化について

職能ごとのエキスパート組織があると導入がしやすくなります。もちろん組織化までには工数がかかりますが、フィードバックの仕方で経験が浅い人たちの視座を大きく引き上げることができ、長期的にみればMTGに参加するだけで組織全体で成果物の品質があがっていきます。

MTGの設計

下記3つを準備/義務化しました。

1.フローの義務化

2.ツール・環境の準備

3.ミーティングのアジェンダ作成

特徴的なのは「テーマ討論」を長く設定したことです。

重要なことにフォーカスして、持ち帰れる、実践しやすい学びにして全員にメリットが有るようにしました。ある意味やりっぱなしでも効果を実感することができました。

結果的に、誰でも質の高いMTGが安定して実践できるようになりました。またファシリテーションの訓練にもつながっています。

ハイスキル人材がMTGにコミットするとメンバーをコーチングする効果があります。
重要な箇所に絞ることで工数をあまりかけずに効果を高めることが可能です。
つまり、キックオフミーティングと振り返りミーティングにハイスキル人材にコミットしてもらうことが、ナレッジマネジメントの観点からみても有効であると考えています。

ということで最初の議題にもどると・・・

標準化・ナレッジマネジメントは

費用対効果がわるい✖

実はめっちゃ効果ある○

後日談ですが、MTGのオープン化は効果があったので、社内のほぼすべてのMTG(秘匿性の高い内容以外)がオープン化されました。その結果、メンバーの学習効率が飛躍的にあがったのでぜひ試してみてください。

まとめ

振り返りMTGの設計と実施は標準化・ナレッジマネジメントに効果は絶大です。
堅いMTGは避けて、参加しやすいMTGをつくるまでの工程は少し大変ですが、実施の価値はあると思いますのでみなさんもぜひ実施してみてはいかがでしょうか。

Q&A(氏家浩史さん/パーソルキャリア株式会社)

パーソルさん内はUX意識高い人が多いですか?
氏家:僕は入社して1年未満なのですが、部署内にはUX意識の高い人が多いです。全体では、まだそこまでではないかもしれません。ただ、社内でヨコグシで浸透させていこうという動きはあります。

社員人数が多い企業だとUXリサーチやUXデザインに限らず、上司や役員や経営陣の想いがなんだかんだ優先されがちという先入観があるのですが、そういった場合はどのように折り合いつけているのでしょうか。
氏家:受託から事業会社に転職してその壁にぶち当たっています...!基本的にユーザーに提供したい価値はブレてないはずなので、ユーザーエクスペリエンスを損なわないことを大切にしつつ、自分を含めた実行者が大切にしている思いや考え方に配慮しながら進行していきたいと考えています。

氏家さんが現在担当されているプロジェクトについて教えていただきたいです。既存のサービスに対してなのか、新規サービスを立ち上げるのかでまた少しUXデザイナーとしての社内での動き方が変わると思っていまして。 また、新規と既存、それぞれのプロジェクトでUXデザイナーとして気を付けるべきことがあればお願いいたします。
氏家:「新規」に携わっています。大事なのはチームビルディングです。起案者とプロダクトオーナーがイコールでない場合があります。そのプロダクトへの想いが人によって異なることがあります。チームビルディングの時点で意識あわせを目的としたワークを意識して行っています。

エンジニアとの連携はどのようにやってますか?お客さんとのコミュニケーションとかもリモートでイケちゃいますか?
エンジニアをなるべく早期に巻き込むことを意識してプロジェクトを設計しています。
企画や設計段階、それよりもっと前の段階からコミットしてもらうと、エンジニアも腑に落ちて開発や仕様策定が可能かと。クライアントや社内関わらず、納得して仕事を進められるような配慮をしています。

よいドキュメントの見分け方などはありますでしょうか?
標準化の観点としては以下を大切にしています。
・品質の高さ:内容及び結論に至るロジックと、ハイスキルな人間からの評価
・汎用性の高さ:属人性が少なく、様々な人間が再現できるプロセスになっているか

チームビルディングする上で心理的安全性を醸成していく工夫などがあれば教えて下さい。
社内、社外に関わらず関わるメンバーの人となりがわかるようなワークであったり、そのプロジェクトを通してどのような価値を実現したいか、自分はどういう成長をしたいか、ということをまず最初に明らかにします。
また、ワークスタイル、コミュニケーションスタイル、ライフスタイルも人によって違うので、そのあたりを意識的にオープンにすることを心がけています。

 

最後にSurface&Architectureの土田さんの発表をご紹介します!

 

チームのためのUXデザイン

土田: まず本テーマになっている「チームのためのUXデザイン」についてですが、「受託業務でよりよいチームを作るために、UXデザインで大事にしていること」をお話させていただければと思います。

受託UXデザインにおける課題

受託に限らない課題ではありますが、ビジネス、テック、デザインの向いてる方向が異なります。
本来はユーザー体験のため、3つのチームが1つの方向を向いた結果で、プロダクトの価値を高めていくのがあるべき姿です。UXとは本来、総合的な価値であって「利益、機能、美的、すべてが関わってプロダクトの全体の価値になる」という価値観をチームに関わる全員が持つべきだと考えています。

どうやってデザイナー以外を巻き込むか

ではまずどのようにしてデザイナー以外を巻き込むのか?
特に受託業務においてはタイミングが重要です。

非デザイナーがUXデザインの意識を持ってプロジェクトに参加してもらうための考え方を登山で例えます。

登山ではまず「自分が登る山がどの程度の難易度か、レベルにあっているか」などの情報収集は必要不可欠です。UXデザインでも競合や類似事例、マーケット状況などをリサーチして、ターゲット、コンセプト設定のための情報を収集します。

情報収集後、登山の最大の目標であり、ゴールである「どこが山の頂上か」を定めてからルートを確認します。UXデザインでも特に「ターゲット&コンセプト策定」の部分が重要です。

「登山ルートの決定」はワイヤーフレーム/プロトタイプを作成して画面構成に矛盾がないかを確認します。UXデザインではワークショップを実施し、参加者全員でサービスのターゲットを策定するのが重点ポイントとなってきます。

いよいよ実際に山を登っていきます。メンバーごとにデザイン、開発の実制作に入り、最初に作ったコンセプトやターゲットからズレていないかを確認しながら開発を進行していきます。

「登山」の後は登山の感想や次回につなげるための反省会。UXデザインでは完成したプロダクトのKPIを確認し、改善を行っていきます。

「ターゲット&コンセプト策定」が重要

最初にお伝えした通り、この「登山」過程で最も重要なのは「ターゲット&コンセプト策定」だと思います。
なぜ「ターゲット&コンセプト策定」が重要かというと、ここで作ったものが「チーム全体の価値観」になるからです。
この段階でいかに経営者やビジネス、エンジニアなど関係者を巻き込めるかでチームの価値もあがってくると思います。
どのメンバーもゴールに近づくほど目の前のハードルに注視する必要があるため、このポイントでいかに全員が“自分事化するか、チーム全員が目指すゴールを合わせるかが重要です。

受託UXデザインのポイント

最後に改めて受託UXデザインのポイントをまとめます

これらのポイントを実践することで価値観を共有することによるスムーズなコミュニケーションを得ることができ、クライアントと一緒に作り上げる達成感が生まれます。是非皆様も効果を実感してみてください。


Q&A(土田哲哉さん/株式会社Surface&Architecture)

受託はやはり全く異なるのですね、こんな人は壁になる、ということはありますか?
土田:前提を共有されずに要件だけをお願いされると大変ですね。コミュニケーションの問題が発生してしまうところです。

規模が大きければ大きいほど色々方向性がバラバラ、みたいな感じもアルアルですか?
土田:関わってる案件は大きいものが多いのですが、関係者が多いと自分ゴトにしてくれるチームを作るのが難しいですね。

まきこみ、、、やはり最後には人の問題ということですよね、、、
土田:私たちがお手伝いして、皆さんに意識をもってもらうことが大切なのかなと思います。

経営者を巻き込んで価値観を作っていく。めちゃ大事だと思います!でも経営者の価値観が強すぎて方向性迷子になることが多々あります。そういう時UXデザイナーとしてビシッと説得力あることが言えたらいいのにと思ってます。苦戦中です。
土田:「価値観が強い」が必ずしも悪いことではないですが、ワークショップに参加してもらうとやりやすいと思います。そこに至るまでの考え方なども経営者と共有することが可能です。

最後の評価とかって数値化・ツール使用、などありますか?ポイントありますか?
土田:ツールはGoogle アナリティクスを使っています。あまり変わったものは使っていません。

先程の流れで一番キッツいのはどの箇所ですか?どういう業種でも同じでしょうか?
土田:考えることが大変なのはコンセプト設計のところ。しかし、我々の本分でもあります。設計をひっくり返されるとキツいです…。

社内外からのUX改善の提案を受けてその採用可否を決めるにあたって、重要な要素としてどういったものが挙げられますか? (予算や納期などUX改善に限らない検討事項は除外)
本質的なプロダクトの価値を押し上げるものであるべきだと考えますが、受託側としては予算、納期の縛りが重視されてしまうジレンマを感じます。

チームビルディングする上で心理的安全性を醸成していく工夫などがあれば教えて下さい。
メンバーの意見は常に尊重し、意見を取り入れられない場合でもその理由は丁寧に説明するようにしています。また細かいですがリモートミーティングでは基本常に顔を出して、こちらの表情が伝わるように心がけています。

よいドキュメントの見分け方などはありますでしょうか?
結論が明確で、その後にすべきこと、メリット・デメリットがすぐに分かるものが良いと思います。

社員人数が多い企業だとUXリサーチやUXデザインに限らず、上司や役員や経営陣の想いがなんだかんだ優先されがちという先入観があるのですが、そういった場合はどのように折り合いつけているのでしょうか。
上層部側の判断は経営視点の価値観も含まれていますので、そういった場合はより広い視点をもっている方を優先しています。

テクノロジーと人の力、どちらがUX的な効果がでますか?
「UX的な効果」が何かによりますが、情緒的なものであれば人のちからが重要だと考えています。

エンジニアとの連携はどのようにやってますか?お客さんとのコミュニケーションとかもリモートでイケちゃいますか?
コロナ以降はほぼすべての打ち合わせがリモートでのやり取りになっています。

 

お話いただいたスライド、欲しいです!
下記にアップしました!
https://docs.google.com/presentation/d/1SgBL49qSxoZwK4cg4uu43Ko0VMIjBzxP8IQSxX6eNK4/edit?usp=sharing

デザインエンジニア、UXエンジニア、DesignTechnologistのようなデザインとエンジニアリングを仲介するロールは今後企業から重宝されていくでしょうか?
エンジニアの職能が細分化されていることで、デザインとエンジニア両面を見れる人材は重要になってくると考えています。

デザインの嗜好が日本と海外でだいぶ違うのはなぜですか?
様々なデザインがあるので一概には言えませんが、日本語の文字は情報量が多いのでその影響は大きいと考えています。

サービスを利用した結果、そのユーザー体験に感情が含まれない場合も多いと思います。例えば不満なく利用できても、それで感情をあらわにするほうが稀でしょう。そういったステージのプロダクトにはどんな視点が重要になってきますか?
サービス提供者側がどのようなビジョンを持っているか、サービスを通してユーザーが感じ取れることが重要だと考えています。

UX改善の失敗事例として、どういったものがあるでしょうか?またそれら失敗事例の共通点として何がありそうですか?失敗しないよう事前に対策することは現実的でしょうか?
個人的にはいかにステークホルダーを巻き込むかが重要だと考えています。クライアントにUX改善を自分ごととして考えてもらわないと、小手先の改善で終わってしまい本質的な改善とならないことが多いです。

外部パートナー(フリーランスなど)にUX改善業務の一部を依頼するとすれば、具体的にはどういった業務が割り当てられることが多いでしょうか?
外部のパートナーさんが入る場合はワークショップへ参加してもらったり、そのワークショップを踏まえたワイヤーフレーム制作を担っていただくことが多いです。

転職を考えている求職者側から見て「この会社はUX追究に熱心そうだ」と判断つきやすいポイントはあったりしますか?(※応募前から面接までのフェーズにおいて)
UX関連の情報を社内で共有していたり、勉強会などを定期的に開催している会社が良いと思います。

効果的でないUX改善業務を発見するにはどうすれば良いですか? UXを追求することには誰も反対しないと思いますが、業務フローが膨れ上がるのもコスト増(工数など)に繋がり、最終的にはサービス提供価値の低迷・UX悪化に繋がりそうです。
はじめからすべてのUX改善を行う必要はないと考えています。プロダクトを通してユーザーが利用前、利用後にどう変化するかを定義し、その変化への影響度が大きい(と思われる)ものから順次着手するのがよいと考えています。

社内の各部署がUXを意識して業務に取り組むために効果的な習慣としてどういったものがありそうでしょうか?
プロダクトの各機能、各画面に対してユーザーがどういう気持ちで触れるか、触れることでどう気持ちが変化するかを常に考えるようにしています。

 

イベントレポートは以上となります!
次回のレポートもお楽しみに♪