【技術Tips】なぜUXはUIの一部だと誤解されるのか? AI時代に求められる真の体験設計

 

 

 

こんにちは。株式会社HuX でCEOをしている、亀田です。

本記事では、「UXはUIの一部」という誤解がデジタルプロダクトの歴史の中でいかにして生まれたのかを解説し、AI時代においてこの誤認がもたらす致命的な足枷について論じます。また、ユーザーのインサイトを追求し、AIの真価で価値を増幅させる真の体験設計のあり方を考察します。

なぜ「UXはUIの一部」という誤解は生まれたのか

そもそも、なぜこれほどまでにUX(ユーザーエクスペリエン-ス)がUI(ユーザーインターフェース)の一部、あるいは単なる「使いやすさ」の追求だと誤解されるようになったのでしょうか。その背景には、デジタルプロダクトが辿ってきた歴史が深く関係しています。

 

ウェブサイトやモバイルアプリが普及し始めた時代、私たちのデジタル体験のほとんどは「画面」を通じて行われてきました。ユーザーがサービスに触れる主要な接点が画面である以上、そのレイアウトやボタンの配置、情報の見せ方といったUIの改善が、ユーザー体験の向上に直結する最も効果的な手段だったのです。UIは目に見え、具体的な改善点を指摘しやすいため、企業や開発者は自然とそこに注力しました。結果として、「優れたUIを作ること」が「優れたUXを提供すること」とほぼ同義に扱われるようになり、「UX/UIデザイン」という言葉が一人歩きを始め、両者の境界は曖昧になっていきました。

 

また、UIが持つ「可視性」も誤解を助長しました。UIはデザインカンプやモックアップとして具体的に示すことができますが、UXはユーザーの感情や満足度といった目に見えない抽象的な概念です。そのため、議論や評価がしやすいUIに話が終始しがちになり、UXという言葉が内包する「体験の全体性」という本質が見過ごされてきたのです。しかし、AI技術が社会に浸透する今、この誤解はプロダクトの成否を分ける致命的な足枷となりつつあります。

 

 

「機能」ではなく「心地よい体験」こそが価値の源泉となる

UI中心の考え方がなぜ足枷となるのか。それは、ユーザーが本当に価値を感じ、ファンになる瞬間が、必ずしも優れた機能や美しい画面によってもたらされるわけではないからです。サービス全体の体験こそが、その価値の源泉となります。

 

例えば、多くの人がNetflixのファンになるのは、再生ボタンのデザインが優れているからでも、検索機能が高速だからでもありません。「自分の見たい、あるいは自分でも知らなかった好みのコンテンツに次々と出会える」という、中核となる体験価値に魅了されるからです。洗練されたUIや高性能なレコメンドAIは、あくまでその中核的価値をスムーズに届けるための手段に過ぎません。もしNetflixに魅力的なコンテンツがなければ、どれだけUIを改善しても、誰も使い続けないでしょう。

 

この本質は、AI時代のサービス設計において決定的に重要です。もしサービスそのものが提供する体験価値が凡庸であれば、そこにAIを導入しても、できることは「ちょっと便利なアシスタント」止まりです。

 

ユーザーの行動を先読みして操作を少しだけショートカットしてくれる、といったレベルに留まり、真に「心地よい」「これなしではいられない」と感じる体験を生み出すことはできません。AIの真価は、サービスが持つ本来の価値を増幅させ、より深く、パーソナルな体験としてユーザーに届けることで初めて発揮されるのです。

AIエージェントの罠を超え、真のユーザー価値を追求するために

現在議論されているAIエージェントの多くは、タスクの自動化や効率化に焦点を当てています。しかし、ユーザーの行動を観察し、それをただ自動化するだけでは、本質的な価値の提供には至りません。それは単なる「効率化」で終わってしまい、ユーザーの心を動かす「心地よさ」には繋がらないのです。

 

この罠を避けるためには、プロダクト開発の原点に立ち返る必要があります。つまり、データやログを眺めるだけでなく、ユーザーの心の奥底にあるインサイト(洞察)を追求するマネジメント手法へと回帰することが極めて重要です。

 

 

例えば、私が提唱する「コスプレUX」のように、ペルソナになりきってその生活を追体験し、ユーザーが本当に求めているものは何か、どんな瞬間に喜びを感じるのかを肌で理解しようとするアプローチは、AI時代にこそ有効性を増します。

 

図 コスプレUXの手順

 

こうしたインサイトに基づいて「我々が提供すべき本当の価値は何か」という議論がなされないまま開発を進めてしまえば、できあがるAIは「多少便利なエージェント」で終わってしまいます。それは技術の可能性を大きく無駄にしていると言えるでしょう。

 

今まさに求められているのは、定義されたユーザー価値をさらに高めるためにAIをどう活用するかを考え抜き、AIにさらなる心地よい体験を提供させるプロダクトマネジメントなのです。

 

そして、そのすべてを実現するための第一歩は、極めてシンプルです。それは、私たち自身が持つ「UX」という言葉の定義を、UIという狭い領域から解放し、サービスに関わる体験の総体として捉え直すこと。AI時代における優れたプロダクト開発は、そのUXの再定義から始まるのです。

 

記事執筆者

*

亀田重幸

株式会社HuX CEO / HCD-Net認定 人間中心設計専門家 / Goodpatch Anywhere PM / 日本大学 文理学部 情報科学科 大澤研究室 プロボノ HAI研究

 

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