
こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、エステートテクノロジーズ株式会社 池上さんです!不動産テック業界の動向について池上さんに聞いてみました。

池上 俊介 氏
エステートテクノロジーズ株式会社
取締役CTO
慶應義塾大学総合政策学部卒。2014年に東証マザーズに上場したデータセクション創業メンバーで2018年まで取締役CTO。ビッグデータ、機械学習、自然言語処理を用いたシステム開発を得意とし、自然言語処理を用いたtwitter分析、生成AI以前に自動文章生成を行うAI記者など開発案件多数。2019年、ビッグデータやAI技術を用いて不動産業界の変革を志し、エステートテクノロジーズ創業と同時にCTO就任。AIエージェントを用いたデータ利活用によるソリューションとプロダクト開発に注力している。
――まずは、不動産テック業界について教えてください。
池上:不動産テック業界とは「テクノロジーを用いて不動産取引全般をより良くしていく業界」を指します。不動産取引は、物件探し、査定、契約、管理、投資など非常に多岐にわたりますが、これらの取引にまつわるあらゆる体験をデジタル化し、より分かりやすく、便利にすることを目的としています。
不動産業界自体は歴史が古く、営業担当者の個人的なスキルに依存して成り立ってきた側面があります。しかし昨今では、人手不足などの社会的な背景もあり、電話やファックスが主流だった業務に対して、いかにデジタル技術を導入していくかという点について、業界全体の関心が高まっています。
不動産価格査定AIが拓く、新しい顧客体験
――不動産テックの分野は多岐にわたると思いますが、貴社が特に注力されている領域について教えていただけますか?

私たちが特に注力しているのは「不動産物件情報の流通」です。なかでも、AIによる不動産価格査定の技術に力を入れています。不動産投資家は物件の価格を非常に重視するため、AIが客観的に判断した価格情報を提供し、お客様に最適な物件を提案しています。
もちろん、契約書の作成効率化や賃貸管理業務の支援など、他の領域にもテクノロジーの導入は進んでいます。不動産テックの分野は多岐にわたるため、現在は各領域に特化したサービスを提供している専門企業が多いのが現状です。
――AIを活用した価格査定サービスは、利用者にどのようなメリットをもたらすのでしょうか?
多くの方は、提示された物件価格が本当に適正なのか、高いのか安いのかを判断するのが難しいと思います。特に最近は不動産価格が1年で5%〜10%も上昇しており、「この物件は1億円です」と言われても、その価格が妥当なのか判断に迷うはずです。
多くの消費者が不動産購入時に抱える「提示された価格が適正か分からない」という課題に対して、AIを活用した価格査定サービスが有効だと思います。マンション名などの情報を入力すると、周辺相場からAIが適正価格を算出・提示します。これにより、利用者は客観的な価格情報を得ることができ、公平な取引判断に役立てることができるのです。
「属人的な取引」から「データ主導の取引」へ

これまでの不動産取引は、営業担当者と消費者の属人的な関係に依存していました。
不動産会社が圧倒的に多くの情報を持つため、消費者は「この物件は適正価格か」を営業担当者に尋ねるしかありませんでした。誠実な担当者であれば客観的な情報を得られますが、中には情報を隠したり、誤った情報を伝えたりするケースもあり、取引の透明性が低いという課題があったのです。
私たちのサービスは、そこに客観的で適正な情報を提供し、誰もが公平に判断できる状況を目指しています。テクノロジーによって情報が可視化されることで、より透明性の高い取引が可能になります。
ほとんどの方にとって不動産の購入は一生に一度か二度の大きな買い物です。我々のサービスは、情報を持たない一般の方々に対して、分かりやすく公平なデータを提供することにこそ大きな価値があると考えています。
――AIによる価格査定は、その他不動産会社から反発されるという懸念はないのでしょうか?
他の不動産会社から反発されるという懸念があるかもしれませんが、私たちのサービスは、あくまで人の判断を補完するツールとして位置づけています。
AIが行うのは、物件の広さや築年数といった公表されているスペックに基づくいわゆる「机上査定」です。しかし、ご存知の通り不動産は一つとして同じものはなく、例えば「窓から東京タワーが見える」といった付加価値があれば価格は数百万単位で上がりますし、逆に「壁紙がひどく汚れている」といったマイナス要因があれば価格は下がります。このように、実際の価格は平気で5%から10%は変動するのがこの業界です。
そのため、最終的には人が現地を見てきちんと判断する必要があります。我々のAI査定は、その最終判断を奪うものではなく、むしろ補完するものです。AIがまず大まかな相場観を提示し、それを見たお客様を不動産会社様にご紹介する。このように、AIと人間が役割分担をすることで、既存のビジネスと競合するのではなく、協力関係を築くことができていると考えています。
先端技術で進化する「不動産テックエンジニア」の役割
――不動産テック業界で働くエンジニアの方々が注目している話題や業界動向についてお伺いしたいです。この業界にはどのようなエンジニアの方々が多いのでしょうか。

この業界の大きな特徴として、やはり「データを扱う」という点が挙げられます。そのため、データエンジニアや、データを可視化するためのビジュアライゼーションを専門とするエンジニアが多いと思います。
また、AIによる価格査定も行っているため、データマイニングのスキルを持つ人材もいます。今後は、AIエージェントの活用が進むことを見越して、LLMなどを扱えるエンジニアの重要性が増してくると考えています。
――この業界で活躍されているエンジニアの皆さんが、今最も関心を寄せていることや、話題にしていることは何でしょうか。
大きく分けて3つのテーマがあると考えています。1つは「AIコーディング」についてです。AIコーディングの特にここ数ヶ月の進歩は目覚ましく、これまで開発の補助的な役割だったものが、仕様さえ作ればかなりの部分のコードを自動で生成してくれるようになりました。この技術をいかに開発プロセスに取り入れていくかが、現在、社内でも大きな注目を集めています。
2つ目は「AIコーディングをいかに開発プロセスに組み込むか」という点です。この技術の登場によって、開発プロセスそのものが大きく変わると予測しています。これまではコーディング自体に多くの時間を費やしていましたが、今後は仕様の策定やテストといった工程に、より多くの時間を割くことになるでしょう。コーディングの大部分はAIが担うようになるため、開発プロセス全体をどのように再設計していくべきか、どのタイミングでお客様と合意形成し、どのようなスケジュールで開発を進めるかなど、従来の知見をアップデートしていく必要があります。そうした「新しい開発のあり方」についての議論は社内でも進めています。
3つ目は「AIエージェントによる顧客の業務プロセスを効率化」です。
不動産業務の37%のタスクはAIで自動化できる※というレポートがあり、今後の人口減による人手不足が予測される中、AIエージェントによる業務効率化は企業にとって必須のテーマであると思っています。企業内外のデータを用いたレポーティングや顧客対応の効率化から始め、保守や管理など業務の多くの場面で活用が見込まれる中、顧客企業との実証実験を通じて、ノウハウの蓄積、導入プロセスや効率的な開発体制の改善を進めています。
※2025 Morgan Stanley “How AI is Reshaping Real Estate”
AI in Real Estate: Innovations Reshaping the Real Estate Sector | Morgan Stanley
不動産テックの最重要課題と未来について
――不動産テック業界の現状の課題についてお聞かせいただけますでしょうか。

先ほども少しお伝えしましたが「情報の流通」に関する課題があります。日本の不動産業界は、会社ごとに情報が囲い込まれている傾向が強くあります。
例えばアメリカでは、物件データがオープンに公開されており、それを活用した不動産テック企業が非常に強い力を持っています。買い手も売り手も同じ情報を見て取引の相場を判断できるのです。しかし日本では、表に出ている情報が限られており、多くが営業担当者個人のネットワークでやり取りされているのが実情です。
このような情報の「非対称性」が大きな課題だと考えています。ただ、この状況も少しずつ変わりつつあります。国交省が地理データを公開したり、各社が自社のデータを試験的に公開して活用を促したりする動きも出てきました。情報を公開した方がビジネス上有利になる、という流れが生まれれば、各社情報を出してくるようになるでしょう。
――変化の激しい不動産テック業界において、池上さんご自身が考える、エンジニアに求める人物像や資質についてお聞かせいただけますか?
現時点で保有している特定の技術というよりは、むしろ「意欲」のようなマインド面を重視しています。物事を面白がって取り組めるかどうか。そして、単に与えられた仕事をこなすだけでなく、新しいテクノロジーをいかに導入できるか、あるいは「この技術を使えばこんなことが実現できるのではないか」といった提案ができるかどうか。変化の激しい時代においては、その変化に適応し、新たな価値を創造できる人材が求められます。そのため、現時点での技術力そのものよりも、そうした変化を楽しめる姿勢の方が重要だと考えています。
世の中には、技術者が新しいことに挑戦したいと希望しても、社内の厳格なルールや様々な制約によって、なかなか実現できない会社も少なくないように思います。不動産業界自体は長い歴史を持つ一方で、弊社が取り組む不動産テックは非常に新しく、提供するサービスも常に進化している分野です。お客様のニーズも変化し、それに伴い顧客層も拡大しているフェーズにあるからこそ、新しいことへの挑戦が必須である、という雰囲気があります。つまり、形骸化した「挑戦しろ」という号令ではなく、「本当に挑戦しなければならない」という切迫感のある環境かなと思います。
――それでは最後に、読者の方々へメッセージをお願いできますでしょうか。

AIの進化は目覚ましく、不動産テック業界も例外ではありません。その変化にいち早く対応することが求められています。
古い商習慣が残る業界では、新しい技術の導入は容易ではないかもしれません。しかし、私たちはその変革の最前線にいます。AIやLLMといった先端技術を駆使し、自分たちが変わることで世界を変えていく。これこそが、不動産テック業界で働く醍醐味だと思います。
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)
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