
こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、株式会社GROWTH VERSE 南野さんです!マーケティングテクノロジー業界の動向について南野さんに聞いてみました。

南野 充則 氏
株式会社GROWTH VERSE 代表取締役会長 兼 CTO
日本ディープラーニング協会理事
東京大学工学部卒。大学在学中にヘルスケアスタートアップ、株式会社MEDICAおよびCDSystem株式会社を創業。東京大学在籍中に、北京大学で開催されたスマートグリッド分野における国際学会で世界一の座を争い、「BEST STUDENT AWARD」を受賞する。2016年8月に、国内初となるウェルネス・ヘルスケア領域に特化した人工知能研究所「FiNC Wellness AI Lab」を設立。2017年、ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指す団体、「日本ディープラーニング協会」最年少理事に就任。2018年9月にFiNC Technologies代表取締役CTOに就任。2024年1月株式会社GROWTH VERSE代表取締役CTOに就任。2025年7月より現職。
- マーケティングを「サイエンス」する時代が来た
- ゲームチェンジ:知見の差が企業の成長を加速させる
- 日本企業に求められる変革
- AI活用は「最速のPDCA」
- 業界の根本的な課題は「分業」
- 大規模データを扱うからこそ必要なコンピューターサイエンス
- 「センス」を「サイエンス」に変える面白さ
マーケティングを「サイエンス」する時代が来た
ーーはじめに「マーケティングテクノロジー」について教えてください。

南野: まず、マーケティングとは、自社のプロダクトを「誰に、どう届けて、どう使ってもらうか」を考えることです。これまではマーケターが経験と勘を頼りに、広告や自社メディアを使って顧客を増やしてきました。
それに対し、マーケティングテクノロジーは、そうした業務をテクノロジーの力で「高度化」し「自動化」するものです。
たとえば、マーケターが広告を出した際、テクノロジーを使えば、広告クリエイティブを細かく分析したり、ユーザーの離脱ポイントを詳細に把握したりすることができます。人間が通常認識するよりも遥かに多くのデータを解析することで、より深い洞察に基づいた意思決定が可能になります。これが、マーケティングにおける「高度化」です。
私たちは、このプロセスを「マーケティングをサイエンスする」と呼んでいます。これまでのマーケティングは、個人の感覚や定性的な要素に大きく依存していました。私たちはそこに技術を持ち込み、活動を定量的に捉え直すことを目指しています。
更に今は、AIを活用することで、一連のプロセスを「自動化」し、高速化させることが可能になっています。
ーーこの「マーケティングをサイエンスする」ことが、なぜ今、特に重要なのでしょうか?
これまでのマーケティングは、個々のマーケターが持つノウハウに属人化していました。あるマーケターが様々な実験を重ねて得た知見も、その人が転職してしまうと、後任者はゼロからやり直さなければなりません。会社としてノウハウが蓄積されず、継続的な進化が難しいという課題があったのです。
しかし、テクノロジーを活用すれば、データや仮説が会社のデータベースに蓄積されていきます。後から来た人も過去の知見を踏まえて、再現性をもって次の実験に取り組むことができます。
これにより、会社として継続的に進化することが可能になります。私たちは、この属人化という課題をテクノロジーで変革していく必要があると強く感じていました。
また、私たちはマーケティング活動を3つの「実験」の組み合わせだと考えています。
1. 探索の実験: ターゲットユーザーが「どこにいるのか」を探る。
2. 表現の実験: ユーザーに「どのような表現が響くのか」を検証する。
3. 定着の実験: プロダクト利用者が「どうすれば継続してくれるのか」を探る。
例えば、ユーザーが「どこにいるのか」という点一つとっても、特定の公園なのか、ショッピングモールなのか、あるいはFacebookやGoogle、YouTubeといった媒体なのか、これら全てが実験の対象です。
さらにその媒体上で「どのような表現をすれば顧客が振り向いてくれるのか」も実験ですし、プロダクトを利用し始めた後「どうすれば購入に至るのか」「どうすれば長く利用してもらえるのか」もまた実験です。このように、マーケティングは無数の変数が果てしなく動き続ける、壮大な実験のようなものだと捉えています。
ーー実験から得られる知見を蓄積していくことが、会社のノウハウになっていくのですね。
その通りです。「どのユーザーに、どんなクリエイティブを提示すれば顧客になったか」といった情報を全てデータ化し、機械学習で学習させます。
そうすることで、「次に最適な実験は何か」「今作るべきクリエイティブは何か」といった問いに対し、より精度の高い答えを導き出せるようになります。これが、マーケティングテクノロジーが実現する世界です。
「マーケティングは個人のセンスが大事」と考えている方もいますが、その常識が覆る「ゲームチェンジ」が、まさに今起ころうとしているのです。
これまでのマーケティングは、クリエイティブ制作の「物量」がボトルネックでした。例えば、LPを1つ作るのに2週間かかると、大量のパターンを試すことが物理的に不可能でした。そのため、センスのある人が「これだ」と思うものを作る方が効率的だったのです。
しかし、今はAIによって画像や動画などのクリエイティブが自動で大量に生成できます。このボトルネックが外れ、マーケティングテクノロジーが真価を発揮する世界が、まさにこれから始まろうとしているのです。
ゲームチェンジ:知見の差が企業の成長を加速させる
ーーゲームチェンジに気づく企業とそうでない企業とでは、どのような差が生まれてくるのでしょうか。

天地ほどの差が生まれるでしょう。
「どういうクリエイティブを作れば顧客に来てもらえるか」について、いまだに人や感覚に頼って悩んでいる企業と、正解に近いものに確信を持ってリソースを投下できる企業とでは、スピードが全く異なります。
マーケティングには無数の変数がありますが、その最適解を確信を持って進められれば、無駄なコストを削減し、プロダクト改善など、他の重要な活動にリソースを再配分できます。結果として、企業の成長に指数関数的な差が生まれるでしょう。
日本企業に求められる変革

日本の企業は、海外に比べてAI活用やDXの進展が進んでいないケースも見受けられます。また、部署ごとに縦割りの組織構造が存在するため、例えば新規顧客獲得と既存顧客の育成が異なる部署で管理されている場合もあります。
このような根本的なマーケティングのあり方から見直す必要があります。
私たちが提供するテクノロジーは、企業がデータを資産として蓄積し、より早く成長できるよう支援します。早くからこうした仕組みを導入することが、競争優位性を築く上で非常に有利に働きます。
ーー現在、この業界のエンジニアの方々が注目している技術的な話題について教えていただけますでしょうか。
1つ目は「データ基盤」です。広告一つとっても、FacebookやYouTubeなど様々な媒体があり、それらのデータをまず自社に集約しなければなりません。それに加えて、「どのような属性のユーザーが来たのか」というユーザーデータも収集し、購買データなどと統合して、一元的に管理する必要があります。これらの多種多様なアクセスログや購買ログ、ユーザー情報をまとめて初めて解析が可能になるため、このデータ基盤をどう構築し、運用していくかが非常に大きなテーマです。
2つ目は、ビジネスの変化にどう追従していくかという問題もあります。利用するシステムは常に変化するため、それに合わせてデータの取り込み方も変えていく必要があります。たとえば、広告の出し方を少し変えただけで、連携するデータの仕様も変わってしまうことがあります。
そのため、多様なデータ収集方法や、様々なデータベースに接続できる柔軟な仕組みをあらかじめ用意しておくことが重要です。そうすれば、仕様が変わっても、接続先を切り替えるだけで対応できるようになります。
AI活用は「最速のPDCA」
ーーAI活用については、どのようにお考えでしょうか。

AI活用の基本は、集約されたデータです。たとえば、LP(ランディングページ)を例に考えてみましょう。
顧客データがあれば、「どのような顧客が、どのLPでコンバージョンしたか」というデータが蓄積されます。AIはこのデータをもとに「どうすればもっと売上が上がるか」を計算し、「LPをこのように書き換えれば売上が伸びる」と提案してくれます。
生成AIにその提案を反映させれば、瞬時に新しいLPが生成され、すぐに次の実験に移れます。このように、自社のデータをもとにPDCAを最速で回せる仕組みを構築できるかどうかが、これからの重要なポイントになります。
これはLPだけでなく、広告や動画、メール、アプリのプッシュ通知など、あらゆる顧客接点で応用できます。AIが自動でPDCAを回してくれる仕組みを構築することが、今後の大きな議題となるでしょう。
ーー南野さんが、日本のマーケティングを変革しようと思われた背景にある考えについてお聞かせください。
私の前職での経験が大きく影響しています。以前、株式会社 FiNC Technologiesというヘルスケアアプリの会社を経営しており、創業CTOから最終的には社長を務めました。その中で、デジタルマーケティングからLP制作、アプリの施策立案まで全てを統括して見ていたのですが、それはまさしく属人性の塊だと感じました。
また、1日のマーケティング費用が1億円にのぼることもある中で、その全ての数字を記憶し続けなければならない状況は、もはや人間がやるべき仕事ではないと感じたのです。この経験が、「これらの作業はツール化すべきだ」という考えにつながりました。
そして現在「AIMSTAR(エイムスター)」というプロダクトを開発する中で、当時の課題を解決するアイデアが次々と生まれています。いわば、かつて私が大変だと感じた仕事を、今はAIに任せているようなものですね。
業界の根本的な課題は「分業」
ーー現在のマーケティング業界が抱える課題について、どのようにお考えでしょうか。

マーケティング業界の課題は、「分業」にあると考えています。
まず、経営とマーケティングの分業。さらに、マーケティング活動の中でも、新規顧客の獲得、既存顧客の維持、プロダクト開発の3つがそれぞれ分離してしまっています。この構造的なちぐはぐさが、すべての課題の根源です。
本来、組織はトップダウンの構造で、経営戦略のもとにマーケティング、プロダクト、技術の各戦略が連なるべきです。しかし、各部門が分業することで、それぞれが局所最適に走り、組織として進むべき方向がずれてしまいます。経営とマーケティング、あるいはプロダクトとマーケティングが連携せず、非効率な状態に陥ってしまうのです。
この非効率を解消するためには、テクノロジーによる自動化と高度化が不可欠です。また、担当者が辞めるたびに戦略をゼロから作り直すような属人性の課題も、いつまで経っても組織が前進しない大きな要因です。私たちのサービスは、こうした課題を解決するために存在しています。
大規模データを扱うからこそ必要なコンピューターサイエンス
ーーマーケティングテクノロジー業界で活躍するためには、どのような力が必要でしょうか。

エンタープライズ向けのマーケティングテクノロジーに限って話しますと、コンピューターサイエンスの深い知識が非常に重要になります。
たとえば、鉄道会社や教育関連企業のような大企業からは、秒速何万という桁違いのデータリクエストが送られてきます。通常、1社で対応するようなデータ量を、私たちは全顧客分まとめて処理しなければなりません。
もしコードが少しでも非効率だと、計算処理量が指数関数的に増え、システムのパフォーマンスが著しく低下してしまいます。そのため、最小限のコードで、美しく、メンテナンス性が高く、バグの少ないシステムを提供することがエンジニアには求められます。
「センス」を「サイエンス」に変える面白さ
ーー最後に、マーケティングテクノロジー業界に、これからエンジニアとして飛び込むことの面白さや価値、可能性について、メッセージをいただけますでしょうか。

ただシステムを作るだけなら、誰にでもできる時代になりつつあります。しかし、私たちが取り組んでいるのは、マーケティングを科学の力で解明していくことです。ここに大きな面白さがあります。
たとえば、デザインは「センス」の領域だと思われがちですが、突き詰めれば数値の連続です。このように、感覚的だったものを数値化し、解明していくプロセスは、マーケティングテクノロジーならではの醍醐味です。
日本のあらゆる大企業がマーケティングを行っていますが、私たちはその常識をテクノロジーで一気に変革させようとしています。これは非常にエキサイティングな挑戦です。
扱うデータ処理は膨大で、エンジニアリング的にも難易度が高いですが、その結果として世界の常識や景色を変えるようなインパクトを生み出せます。仕事の面白さと、社会に与える影響の大きさの両方を実感できるのが、この業界の魅力です。
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)
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