こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、オシロ株式会社 CTO 西尾さんです!クリエイターエコノミー業界のテクノロジー動向について西尾さんに聞いてみました。

西尾 拓也 氏
オシロ株式会社
CTO
専門学校を卒業後、IT企業に従事。代表杉山とであった後、オシロ創業の約2年前にあたる2015年3月から一人目のエンジニアとしてジョインし様々なプロダクトを開発。オンラインコミュニティプラットフォーム「OSIRO」の開発に0から携わり、現在はCTOとしてプロダクト開発のエンジニアリングで必要な全ての業務に従事する。
- プラットフォームの進化と多様化する収益手段
- 「お金」と「エール」で支える新しい支援のかたち
- AIを創作の「味方」とするために必要なこと
- 芸術文化で日本社会に新しい活力を
- 業界のロールモデルを自らつくるという使命
プラットフォームの進化と多様化する収益手段
――まずはじめに「クリエイターエコノミー業界」について教えてください。
西尾:「クリエイターエコノミー」とは、個人の創作活動が直接収益につながる新しい経済圏のことを指します。これまでコンテンツ制作といえば、企業やメディアを通じて行うのが一般的でした。しかし近年では、SNSや各種プラットフォームの登場により、クリエイター個人がファンと直接つながり、収益を得ることが可能になっています。
たとえば、動画クリエイターはYouTubeやTikTokを活用して、広告収入やスーパーチャット(投げ銭)で収益を上げています。文章やイラストを発信するクリエイターは、noteやpixiv、FANBOX、また海外ではPatreonなどを通じて有料コンテンツを提供しています。音楽クリエイターであれば、Spotifyなどで楽曲を配信できますし、エンジニアもUdemyで技術講座を販売したり、Zennのような開発者向けブログプラットフォームで情報発信したりと、収益化の手段が多様化しています。
以前は、クリエイターが自身の作品を発信するためにお金を払う時代でした。しかし今では、たとえばYouTubeのように、発信することで広告収入が得られる仕組みが整ってきています。技術の進化により、画像以外の表現方法もネット上で簡単に配信できるようになり、表現活動や副業としてのクリエイター活動のハードルは、以前よりも大きく下がっていると感じます。
――「応援する側」の意識にも変化がありそうですね。
そうですね。以前は「タニマチ」といって、裕福な人がアーティストや芸術家を支援するような風習がありました。でも実際は、そうした富裕層だけでなく、「このクリエイターを応援したい」「何か力になりたい」と思っていた人がたくさんいましたが、その思いを行動に移す具体的な手段がなかったのです。
その後、少額からクリエイターを支援できるサービスが海外で登場し、少しずつ広まっていきました。こうした仕組みによって、一般の人でも気軽に応援できる環境が整い、クリエイターを支援するハードルがぐっと下がりました。
弊社でも、OSIROの開発開始時から「継続的にクリエイターの方々を支援する仕組みをつくれるか」を大きなテーマとしています。それから法人を設立した8年前、さらには何度かの資金調達をしつつ事業をスケールさせていくごとに、より本質的なクリエイター支援を実現するためのプロジェクトが増えてきています。
「お金」と「エール」で支える新しい支援のかたち
――日本における「クリエイターエコノミー業界」の成熟度について、どのように感じていますか?
まず、日本でもクリエイター向けのサービスは非常に多く存在しています。たとえば、ハンドメイド作品を販売できるECサイトもクリエイターエコノミーの一部といえます。STORESやminne、メルカリなどもその一例です。
私たちの会社では、「お金による支援」だけでなく、クリエイターが感じやすい「孤独」を和らげる「エール」のような精神的な支援も大切だと考えています。そこで、「お金」と「エール」の両方を継続的に届ける手段として、オンラインコミュニティという形を採用しています。金銭的な支援を目的としたサービスは増えてきましたが、「エール」を中心に据えたコミュニティサービスは、珍しいのではないかと思います。
私たちのサービスの特徴は、ひとつのプラットフォーム上に複数のクリエイター専用コミュニティを作れる点にあります。いわば、クリエイターごとに小さなSNSのような空間を持つことができる仕組みです。ファンはそのコミュニティに参加することで、クリエイターの投稿や創作物に触れたり、ファン同士で交流したり、定期的なオンラインイベントに参加したりすることができます。
YouTuberの方の中にも、私たちのプロダクトを活用してくださっている方がいます。ご存じの通り、YouTubeの収益は広告単価や再生数の変動によって大きく左右されます。同じように動画を投稿していても、収益が突然半分になることもあるのです。
そのような不安定さに対して、私たちが提供するOSIROは会費のあるサブスク型のオンラインコミュニティサービスなので、クリエイターの収益を安定させる手段になります。ファンからの継続的な支援があることで、収入がブレにくくなりますし、そのうえで「エール」も一緒に届けられるような仕組みづくりを目指して、プロダクト開発を進めています。
AIを創作の「味方」とするために必要なこと
――西尾さんや、クリエイターエコノミー業界で働くエンジニアが注目している業界の動向や変化について教えてください。
生成AI、特にChatGPTなどのツールの進化には、私たちも大きな関心を持っています。これはクリエイターエコノミーに限らず、幅広い業界で起きている変化ですが、プログラマーの間では比較的スムーズに受け入れられています。というのも、生成AIを活用することで、作業効率や生産性が飛躍的に向上するからです。
一方で、クリエイターの中には、生成AIに対して不安や抵抗感を抱いている方も少なくありません。「AIは自分たちの仕事を奪うもの」「せっかく丁寧に作った作品を一瞬で模倣されてしまう」といった印象を持っている人も多く見受けられます。
ただ、これにはAIに対する誤解も多く含まれていると思います。使い方次第では、クリエイターが本来の創作に集中できるよう、煩雑な作業や手間を軽減する力を持っています。私たちは、そうしたAIへの誤解や恐怖心に寄り添いながら、正しく、前向きに活用できる環境づくりを支援していくことが大切だと考えています。
――生成AIに不安を感じているクリエイターには、どのように寄り添っていこうと考えていますか?
まず大切なのは、「クリエイターがどう感じているか」をきちんと理解しようとする姿勢です。生成AIについてまだよくわからないという方も多いため、そうした立場に立って、丁寧に説明をしていくことが必要だと考えています。
そしてもう一つ大切なのは、「クリエイターの意志を尊重すること」です。私たちとしては、AIがクリエイティブな表現や個性そのものを模倣しないよう配慮しつつ、あくまで運営業務や事務作業の負担を減らすための補助ツールとして、生成AIを活用した機能をプロダクトとして提供していきたいと考えています。
また、生成AIの時代だからこそ生まれる「新しい価値観」もあると思っています。多くのファンは、作品そのものだけでなく、クリエイターという「人」そのものに魅力を感じ、応援しています。だからこそ、作品の完成品だけでなく、創作の過程や思考の背景などを共有することで、AIには再現できない唯一無二のストーリーや世界観を届けることができる。そうした視点を取り入れていくことで、AI時代におけるクリエイターの新しい価値が見えてくるのではないかと考えています。
芸術文化で日本社会に新しい活力を
――「クリエイターエコノミー業界」のリーディングカンパニーとしてのミッションをお聞かせください。
私たちは「日本を芸術文化大国にする」というミッションを掲げて、事業を展開しています。かつて日本は、高度経済成長を背景に経済大国として発展してきましたが、バブル崩壊以降、その勢いは次第に失われてきました。そうした時代の転換点において、今後の日本が目指すべき方向は、ヨーロッパ諸国のように「クリエイティブ産業」を中心とした社会へのシフトだと、私たちは考えています。
その実現に向け、弊社ではファンとの強いつながりを育む「オンラインコミュニティ」の構築を支援するプラットフォームを提供しています。単なるフォローや「いいね」ではなく、活動に共感し同じ熱量を分かち合うファン同士で形成される「応援団」からの心からのエールや継続的な金銭的支援など、クリエイターにとって本当に価値のあるサポートを届けられる仕組みです。
このようなプラットフォームを通じて、経済的にも精神的にも支えられるクリエイターを増やし、日本全体が「芸術文化の力」で再び活気づく未来をつくっていけたらと考えています。
――人が人を応援したいという気持ちを、テクノロジーの力でかたちにして届けているのですね。
そうですね。そのためには、クリエイター本人はもちろん、オンラインコミュニティを支えるコミュニティマネージャーの立場にも立った、寄り添うような機能設計が欠かせません。
たとえば生成AIの導入についても、「便利だから」と一方的に機能を追加するのではなく、まずはクリエイターに丁寧に説明をし、必要ないと感じる方には無理に使わせることのない柔軟なサポートを提供するようにしています。これはエンジニアだけでなく、日頃からクリエイターやコミュニティ運営者と伴走しているカスタマーサクセスのメンバーと連携しながら進めています。
業界のロールモデルを自らつくるという使命
――CTOとして、貴社のミッション実現に向けて、西尾さんは今後どのようなことに取り組み、どのように貢献していきたいと考えていますか?
まずは、弊社が提供しているオンラインコミュニティ領域の課題を一つひとつ解決していくことが最も重要だと考えています。それによって、クリエイターエコノミーという考え方がさらに社会に広まり、オンラインコミュニティの活用が当たり前になる未来につながると信じています。
私たちは、これまで約8年間、オンラインコミュニティの分野に取り組んできましたが、まだまだ「実体のないもの」と誤解されがちです。もちろん、オンラインコミュニティには大きな可能性がありますが、ユーザー同士のコミュニケーションが前提になるため、トラブルが起きることもありますし、盛り上がらずに辞めてしまう方もいらっしゃいます。
だからこそ、私たちはコミュニティの価値や可能性を最大限に引き出す必要があります。しかし、私たちのような領域に明確なお手本は存在しません。業界のトップランナーとして、自ら基準を作り、「どうすればコミュニティがうまくいくのか?」を言語化し、社内の他部署と連携しながら、ゼロから形にしていくことが求められています。
こうした前例のないものをつくる仕事の面白さは、自分たちでルールや価値の基準を定義できることです。同時に、それは非常に難しいことでもあります。たとえば、ECであれば「どの商品がどれだけ売れたか」といった明確な指標がありますが、オンラインコミュニティでは「チャットの多さ」なのか「ブログの投稿数」なのか、それとも別の基準なのか、判断が非常に難しいのです。
そのため、私たちはプロダクトチーム内に分析チームを設け、コミュニティを科学的に解析する取り組みを行っています。そこから得られた知見をもとに、どんなコミュニティが“うまくいっている”のかを定義し、それをサービス改善に活かしています。
今後もこうした取り組みを続けながら、クリエイターに「使ってよかった」「エールをもらえてうれしかった」と思っていただけるプロダクトを開発し、オンラインコミュニティの価値をより多くの人に届けていきたいと考えています。
以上がオシロ株式会社 西尾さんのインタビューでした。
ありがとうございました!
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)
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