3社CTOトークセッション「生成AI活用事例とFinOpsの考えに基づいたクラウド利用の最適化」について

3社CTO写真

こんにちは!TECH Street編集部です。

2023年11月16日(木)、クラウドエース社が主催するユーザー会「Cloud Ace Night」にてメルカリ・パーソルキャリア・クラウドエース3社のCTOが集まりトークセッションが行われました。

この日は2023年11月15日から2日間にわたって行われた「Google Cloud Next Tokyo '23」の最終日ということで、同イベントでも注目が集まった「生成AI」に関する話題をはじめ、FinOpsの考えに基づいたクラウド利用の最適化についてなど、内容盛りだくさんで語っていただきました。そこで、今回はそのトークセッションの様子をご紹介いたします!

登壇者はこの方々!
・クラウドエース株式会社取締役 CTO 高野 遼
・株式会社メルカリ執行役員 Group CTO 若狭 建
・パーソルキャリア株式会社 CTO 岡本 邦宏

 

まずは2023年の生成AIに関するGoogleの動きを振り返る

写真左側:岡本氏、中央:若狭氏、右側:高野氏

高野:今回の「Google Cloud Next Tokyo '23」(以下:Next Tokyo)は4年ぶりのオンサイトでの開催となりました。クラウドエースはかなり気合を入れて「生成AI」をテーマにブースを出しました。Next Tokyoは、サンフランシスコで行われた「Google Cloud Next '23」と比べると新しい発表は少なくて、主に「事例紹介」と「Duet AI が形になったことを紹介する」といった感じだったと思います。

そこでまず、Next Tokyoとサンフランシスコで行われた「Google Cloud Next '23」を含めて、岡本さんと若狭さんに、2023年の生成AIに関するGoogleの動きや感想についてそれぞれお聞きしたいと思います。


若狭:GoogleはChatGPTが出る前からAIに力を入れていて、世に出せるテクノロジーや土台は持っていました。しかし、誤った情報を返してはいけないと慎重になってしまい、その結果、ChatGPTが先行して世の中に広がっていったと思います。
ChatGPTが出てきたことで、「AIが必ずしも正しい回答をするわけではない」という世の中の期待値がある意味下がったので、今後はGoogleも生成AI関連のアップデート情報が増えていくと期待しています。


岡本:サンフランシスコのイベントでは、「Duet AI のGoogle Workspaceのデモがセンセーショナルに紹介されていた」というのがとても印象的でした。例えばBigQueryにSQLを投げるときに、私たちエンジニアであればSQLをそのまま書いて投げてしまいますが、それを非エンジニアでもプロンプトを使って、「あたかもエンジニアのように出来る状態にまで持っていける」ということを語っていたので、それが出来れば素晴らしい世界になると思いました。


高野:そうですね。私も「Googleは生成AIに関する情報発信を強化していたな」というのがサンフランシスコの方の感想で、Next Tokyoでは「日本語対応に向けて進んでいる」ということが見えたイベントだったかと思っています。

生成AIを活用した人材マッチング ―パーソルキャリア―

高野:生成AIに関する話題もあがったので、パーソルキャリアさんやメルカリさんの「生成AIの事例」についてお話を聞きたいと思います。


岡本:みなさんの中には「doda = パーソルキャリア」と思い、転職サイト(メディア)のイメージを持っている人もいるかと思いますが、私はパーソルキャリアは「総合人材テックカンパニー」であると捉えています。例えばクライアント(法人のお客様)と転職希望者とのマッチングは巨大な基幹システムで行なっており、なおかつ、このマッチングの領域で生成AIも利用しています。そして、パーソルキャリアでは、法人のお客様と転職希望者のマッチングを最大化しようと努めています。


高野:JD(job description)や職務経歴書はフリーフォーマットなので、マッチングがなかなか上手くいかないということはありますか。


岡本:そういったケースもありますが、たとえフリーフォーマットでも「その人の一番のストロングポイント」は、ほかの人のデータと比べることで色々と推論ができます。その人のメタデータをストロングポイントとして、そのポイントを求めている企業とマッチングすることもしています。


高野:そうなんですね、実際に転職希望者と面接を行うキャリアアドバイザーと、企業と面接をする人は同じ人ですか?


岡本:それは別の人です。人に寄り添うことが私たちの強みなので、キャリアアドバイザーは転職希望者と2時間ほど時間をかけて面談することもあります。一方、企業側を担当する人はJD(job description)を作成したり、赤入れなどを行ったりします。そのようにして、それぞれの担当者にデータを登録してもらっています。


高野:Next Tokyo内の私のセッションでは、「LLMは人間に置き換えられるか」というテーマで話をしたのですが、例えば、キャリアアドバイザーは話をしているときに、「この人はどういう人なのだろう」というのを、その人の表情や話し方のトーンなど様々な側面で見ますよね。これは、マルチモーダルな情報を取り扱っていると思います。

となると、転職希望者側のキャリアアドバイザーと企業側の担当が別な人だから、マルチモーダルな情報をおそらく取り扱えていないかと思います。ということは、将来AIでも人間性などのソフト面のマルチモーダルな情報を取り扱えるようになれば、マッチングの精度はより上がっていきそうですよね。


岡本:まさにおっしゃる通りで、そうなれば、マッチングの精度が上がり、顧客体験的にもとても満足度が上がると思います。私はパーソルキャリアのCTOに就任して3年ですが、人材業界は古い商慣習のまま50〜60年もずっと続いています。
パーソルキャリアはある程度自動化がされていることが強みですが、もっとテクノロジーエクセレンスやオペレーションエクセレンスを上げていくべきだと思っています。なので、非エンジニアの人でもテクノロジーを活用できるようになるための啓蒙活動を社内で行っています。

CMクリエイティブやエンジニアサポートまで全方位的に生成AIを活用 ―メルカリ―


若狭:メルカリも、ChatGPTが盛り上がる前からプロダクトにはかなりAIを活用していました。例えば、個人が出品する際に写真を撮ってアップロードしますが、その写真を見てカテゴリーを推測して、少しでも出品をスムーズにするといったことを行っています。

また、メルカリはCtoCのマーケットプレイスなので、やはりお客さま間のトラブルが発生します。そのため、カスタマーサービスの負荷が大きくなりがちで、その負荷を下げるためにもAIを活用していました。また、広告も生成AIに置き換えようとしていて、先日作成したCMも生成AIで作成しました。

このように、メルカリではプロダクト、カスタマーサービスの負荷を下げること、クリエイティブでの使用、エンジニアのサポートなど、全方位的にAIを使っていますね。


岡本:CtoCは流通高を最大化しなければならないので、そのためにAIを活用しているというのはとても良いですね。


若狭:そうですね。例えばAmazonや楽天で買い物をする際、買う側の期待値は結構高いと思います。一方、メルカリは個人のお客さま同士のやり取りなので、期待値が異なります。それに対して生成AIの相性はとても良いと感じています。例えば、「こうすれば売れやすいですよ」と提案してあげる感じです。


岡本:今回のNext Tokyoでは事例紹介が多かったので、今話していただいたメルカリさんの事例など、実際にどのように使われているかを知りたい企業はたくさんいますよね。


高野:生成AIはまさに今、ハイプ・サイクル上の幻滅期に差し掛かっていると思うので、みんながユースケースを求めている感じがしますね。


若狭:メルカリとしても、「こんなユースケースがあるよ」と具体的なユースケースを示していくということを意識しています。CtoCのビジネスは難しく、課題もたくさんあるので、そこに対してAIが出来ることはたくさんあると思っています。

Github Copilotの導入は採算がとれるのか?

高野:メルカリではエンジニアのサポートとして生成AIを活用していると仰ってましたがGitHub Copilotは使っていますか?もし使っている場合、GitHub Copilotは導入しても採算がとれるという判断でしょうか?


若狭:メルカリでは全面的に使っています。ただ「Copilotを使ってペイできるか」というと測定が難しいところですね。それは「開発マシーンは良いものがいいよね」という話と同じで、エンジニアの立場から言うと「Copilotを当然使いたい」と思うでしょうし、私は必要な投資だと考えて導入しています。


岡本:パーソルのグループ全体では、Copilotのフィジビリをやり始めています。よって、今まさに投資フェーズです。正直に言って、ペイできるかどうかは分かりません。


高野:クラウドエースでも、エンジニア全員にCopilotを導入していますが、1人あたり月額約3,000円程度かかりますよね。しかし、社員の給料から考えると、月に数時間でも業務時間が短くなればペイできると考えています。


岡本:そうなると、他にもできることが増えてくるので、おそらく単純比較はできないかもしれませんね。もっとエンジニアは生産性を上げようとすると思うので。


若狭:エンジニアとしては「快適に開発したい、効率よく開発したい、バグも減らしたい」という思いがあります。そういった部分は、簡単にお金に変換できないところだと思います。いずれはお金に変換できるようになるかもしれませんが、今は先行投資だと考えた方がいいのかなと思います。


岡本:「まず導入してフィジビリを行う」ということが大事だと思っています。エンジニアの開発環境を良くするのは私たちの役目なので、その辺りの投資の説明責任もあります。パフォーマンス改善だけでなく、副次的な効果もあるはずです。

エンジニアの開発環境には積極的な投資をするべき

高野:先ほどのGitHub Copilotの話に加えて、Duet AIにもクラウドコンソールを生成AIがフォローしてくれる開発者向けの機能がありますが、それも追加で費用がかかるみたいですね。クラウドエースの立場的には、もちろん導入しますが、そうなると、ますますエンジニア1人に対する投資の金額が増えます。それに、エンジニアの給料も上がっていると感じます。


岡本:それでも日本はまだまだ低いですよ。やはりエンジニアの給料が高いのはアメリカですね。東南アジアも上がっています。


若狭:インドも東京よりも高くなっていますね。


高野:先日タイのエンジニアと話しましたが、日本の給料とほぼ変わりませんでした。そう考えると、日本のエンジニアの給料は上がってきているけれども、世界的に見たらまだ低い方なので、その分開発環境には積極投資するべきだと言えるかもしれませんね。


若狭:私もそう思います。Duet AIなどエンジニアリング環境を向上させる投資はしないといけないのではと思います。世界と比べると日本のエンジニアはコスパが良すぎます。


岡本:そうですね。文化的なところもあると思いますが、日本企業のエンジニアは1人でPMやディベロップメントができる方も多いですし、さらにQAまでできる人もいます。マルチタスクをこなしている人が多いので、エンジニアの生産性をさらに上げるための投資はした方がいいと思います。

FinOpsの考えを取り入れて、クラウド利用の最適化を目指す

高野:続いてはエンジニアの開発環境への投資にも繋がる話ですが「FinOps」についてのお話を伺っていきましょうか。そもそもFinOpsとは何なんでしょうか?


若狭:
「DevOps」は開発とオペレーションをまわすという話ですが、「FinOps」はファイナンスチームがやっていることを開発とオペレーションに混ぜたようなイメージです。


岡本:
エンジニアリングも、財務面の方にグラデーションしてきている感じですね。


若狭:
それがなぜ必要かというと、オンプレの場合はお金の管理が簡単にできますが、クラウドは、ポチポチとやるだけで簡単にインスタンスを増やせてしまいます。私たちメルカリは、クラウドネイティブな会社ではありますが、そのままやっていくとエンジニアは気軽にどんどんお金を使ってしまいます。

クラウドの黎明期はそれでも良かったと思いますが、今はクラウドが普通になっていますし、コロナもありマクロ経済の状況がしんどくなっているので、実は今、クラウドベンダーの収益の伸び率は鈍化しています。それ自体は健全なことだと思っていて、ROIをきちんと見るということがようやく世の中に浸透してきたのだと思います。


高野:
「遠足のおやつは500円まで」と言われていたのが、これまでのオンプレの場合で「遠足先でおやつを足すことができるようになった」のが、今のクラウドという感じですね。
クラウドでいくらでも増やせるというのはエンジニアにとっても良いことかもしれませんが、エンジニアに試されるべき「問題解決力」をお金の力で何とかできてしまう側面はよくないと思います。


若狭:
「遠足のおやつ」の例えは面白いですね、まさにそうだと思います。(笑)
オンプレであれば簡単にハードウェアを増強できないので「最適化をしよう」という流れになりますが、クラウドでは「最適化なんてしなくてもポチポチして、メモリを増やした方が楽だ」と考えるようになってしまいます。そして気づくと「富豪的プログラミングをしていた」ということになります。

AWSもそうですが、最近はGoogle CloudにもFinOpsの機能があります。普通に考えると、それをすることで利用企業が使う金額が減ってしまい損だと思いますが、そうではありません。
もっと長い目で見ると、Google Cloudからすれば、利用企業のビジネスが伸びて事業が大きくなれば、Google Cloudの売上も伸びていきます。

「最適化せずに無駄なお金が使われている」という状態は、確かにクラウドベンダーにしてみればその瞬間はお金が入ってきますが、利用企業にとって無駄遣いをしているので、本当はもっと事業的に意味があるところにお金を使うべきなのに、そこに回すお金が減ってしまっています。そこはクラウドベンダー側も理解をしているので、正しく無駄なく、成長のために使ってもらう動きが広がっています。


高野:
コスト最適化を評価することが、社会的にもっと認められなければいけませんね。


若狭:
クラウドで「なぜこれだけのお金がかかっているのか」という話はエンジニア側に来てしまいます。しかしFinOpsの考え方はそうではなく、「この事業やこのプロダクトでどれくらいのお金を使っていて、どれだけの利益が出ているか」で見ています。

よってFinOps活動というのは、エンジニアだけが説明責任を求められている世界から、事業全体に説明責任があるという状態にすることです。そのような考えから、FinOps活動はCFOが入ることが重要だと言われています。


若狭:
すでにアメリカでは「FinOps Foundation」というコミュニティがあり盛んに活動していますが、日本でもコミュニティを盛り上げたいという話があり、メルカリでもFinOpsコミュニティのMeetupをするなど積極的に活動していく予定です。

FinOps自体は世界的にもブームになっていて、年に一度大きなカンファレンスも行われています。2023年6月にサンディエゴで開催され、メルカリからも何人か参加しています。


岡本:
私たちは人材業なのでメルカリさんとはインダストリーが違いますが、いろいろなインダストリーが集まってそれぞれの課題について話して可視化していくといいですね。


若狭:
そうですね。例えば、「オンプレからクラウドに移行したら、かえってコストが高くなってしまった」という話も聞きますが、そのような話題も取り上げていかないといけないと思います。そういった意味では、クラウドベンダー側への健全なプレッシャーになるかもしれませんね。笑
クラウドベンダーだけが成長する世界ではなく、クラウドを利用している企業も含めてビジネスが広がっていく世界を実現させていきたいですね。

 


トークセッションは以上です。
まだまだ続きを聞いていたかったのですが、FinOpsの話題あたりでトークセッション終了時間に💦
高野さん、若狭さん、岡本さん、お話いただきありがとうございました!

 


※Google Cloudは Google LLC の商標です