「未来の予定」をデータで解明する。7,000万人が使うTimeTreeの裏側にあるCTOの「逆張り」と「信頼」の哲学

こんにちは!TECH Street編集部です。
連載企画「テック・ディスカバリー」の第4弾をお届けします。
今回は、現在は世界7,000万人が利用するカレンダーシェアアプリ「TimeTree」のCTOを務める河野氏にインタビュー。自身の直感に頼らない「逆張り」のキャリア論から、サービス成長の限界を突破するためにCTOが「自分の意見」を捨てて挑んだクラウド移行の裏側、そして膨大な「未来の予定データ」とAIが紡ぐ組織の展望について、深く語っていただきました。

 ※この記事は、2026年1月時点の内容を記載しています。

 

*

河野 洋志 氏

株式会社TimeTree

執行役員 / 最高技術責任者 CTO / 技術本部長

2010年にヤフー株式会社に入社し要素技術やデータプラットフォーム事業に従事した後、株式会社アカツキでのモバイルゲーム開発経験を経て、2016年より株式会社JUBILEE WORKS(現 株式会社TimeTree)に入社。 サーバーサイドの開発やメンバーのマネジメント業務に携わる。2024年より現職で、技術経営方針の策定・実行を担っている。

 

 

ビジネス・テクノロジー・プロダクトを横断する「逆張り」のキャリア

──まずは自己紹介をお願いできますでしょうか。

河野: 現在、私は株式会社TimeTreeでCTOを務めています。キャリアのスタートは2010年、新卒でヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に入社し、エンジニアとしての基礎を築きました。その後、ソーシャルゲームを開発・運営する株式会社アカツキでサーバーサイドエンジニアとして勤務しました。TimeTreeへの参画は2016年。ヤフー時代の同期だった創業メンバーからの誘いがきっかけです。当初はサーバーサイドエンジニアとしてジョインしましたが、一昨年からはCTOとしてマネジメントや組織づくりにも携わっています。

 

──TimeTreeの創業メンバーから1年半も誘われ続けていたと伺っておりますが、入社の決め手は何だったのでしょうか。

河野: 実は「プロダクトの成功イメージが全く湧かなかったこと」が最大の決め手でした(笑)。ソーシャルゲームの世界では、KPIをどう伸ばせばビジネスが成長するかという確立されたモデルがあります。しかし、TimeTreeの話を聞いたとき、カレンダーというシンプルなツールでどうビジネスを成立させ、どうユーザーに価値を届けるのかが、当時の私には全く想像できなかった。

私は少し「逆張り人間」なところがありまして。自分自身が「これは絶対うまくいく」と確信したものほど意外と伸び悩んだり、逆に「何これ?」と思うものが爆発的にヒットしたりする経験を何度もしてきました。だからこそ、自分の直感ではなく「信頼できる人たちが本気で取り組んでいる、得体の知れない面白さ」に賭けてみようと飛び込んだのです。

「共有」を前提としたカレンダー設計と、7,000万人へのグローバル展開

──TimeTreeは現在、国内3,100万人、世界で約7,000万人(2025年11月時点)という巨大サービスに成長しています。Googleカレンダーなどの既存サービスとの決定的な違いはどこにあるとお考えですか。

河野: 最も大きな違いは「設計の出発点」です。Googleカレンダーなどの多くは、個人の手帳をデジタル化したもので、共有機能は追加オプション的な位置付けであることが多いです。対してTimeTreeは、リビングにある「壁掛けカレンダー」をモチーフにしています。

特定のコミュニティの人々が、最初から同じものを見て、書き込む。このコンセプトがUXの根幹にあります。例えば、デジタルツールを普段あまり使われない世代の方が、ご家族のサポートで自然と使いこなせているケースも多く見られます。

 

──「予定の共有」というニーズは、日本独自の文化だったのでしょうか。それとも普遍的なものですか。

河野: 非常に普遍的なものだと確信しています。代表の深川が考案した際の疑問が「予定の先には必ず誰かがいるのに、なぜ個人で管理するのか」でした。デートも会議も、相手がいて初めて成立する。予定の本質は「誰かとの共有」なんです。

実際、ドイツでは日本人コミュニティから自然発生的に現地の方へ広がっていきました。アメリカでも学生同士が授業やインターンの予定を共有して遊べる日を探したり、スモールビジネスの予約管理に使われたりしています。文化を問わず、「人と予定を合わせる苦労」を解決するプロダクトとしての強みが、現在の数字に繋がっているのだと思います。

AWSからGoogle Cloudへの全面移行。CTOが「自分の意見」を捨てた理由

──技術的な大きなターニングポイントとして、3年前に実施されたAWSからGoogle Cloudへの全面移行プロジェクトについて伺わせてください。なぜこれほど大規模な決断が必要だったのでしょうか。

河野: ユーザー数の急増に伴い、データベース、特に書き込みを担う「マスター」の処理能力が限界に近づいていたからです。このままではサービスの成長が止まってしまうという危機感がありました。

解決策は二つ。データベースを物理的に分割する「シャーディング」か、Google CloudのSpannerに代表される、自動スケーリングが可能な「NewSQL」の採用か。私は当初、移行コストの観点からシャーディングの方が現実的ではないか、と考えていました。

 

──しかし、最終的にはGoogle Cloudへの移行を選ばれました。その合意形成はどのように行われたのですか。

河野: 議論は非常にオープンで、激しいものでした。SREチームのリーダーたちは「数年ごとにメンテナンス停止を伴うシャーディングを繰り返すより、一度大きな投資をしてでも10年先まで安定する基盤を作るべきだ」と主張しました。
私の意見とは異なりましたが、彼らの主張には「長期的な視点」と「このプロジェクトをやり遂げる」という強い覚悟があった。最終的に、自分の経験則よりもメンバーの熱量と未来への投資価値を信じ、CTOとして「お願いします」と託しました。

 

──データ移行における最大の難所はどこでしたか。

河野: 4時間以内という極めて短い「ダウンタイム」の制約です。広告主様や世界中のユーザーへの影響を最小限にするため、膨大なデータを同期させながら一気に切り替える必要がありました。

AWSとGoogle Cloudではデータベースの挙動が微妙に異なり、テストでは見つからなかった不具合が本番直前に判明することもありました。夜中にオンラインで集まり、ギリギリまで原因を突き止める作業は、エンジニア人生の中でも指折りの緊張感でしたね。無事に稼働した瞬間のチームの自信に満ちた顔は、忘れられません。

AI時代を見据えた技術負債への向き合い方と「ニックネーム文化」の効能

──運用から10年が経つと「技術負債」の問題も避けられないかと思います。TimeTreeではどのように向き合っていますか。

河野: 完璧な正解はありませんが、これまでは「ボーイスカウトルール(触ったコードを、来た時よりも美しくして帰る)」である程度自律的に回ってきました。ただ、最近は視点が少し変わってきています。
これからは、開発プロセスそのものにAIを導入していく時代です。そうなると「人間にとって読みやすいコード」以上に「AIにとって解釈しやすい、ドキュメントと実装が一致したコード」を保つ重要性が増してくる。AIエージェントが開発を加速させるための基盤を整えることが、新しい形の技術負債返済になると考えています。

 

──先程のような議論がフラットに行える背景には、貴社の「ニックネーム文化」も関係しているのでしょうか。

河野: 大いに関係していますね。弊社では代表も含め全員をニックネームで呼び捨て、あるいは「さん」付け禁止で呼び合います。私も「スコット(Scott)」と呼ばれています(笑)。
最初は恥ずかしかったですが、この制度は心理的安全性を高める上で非常に強力です。CTOに対しても「それは違うのではないか」とざっくばらんに意見を言える土壌は、ニックネームによって物理的・心理的距離が縮まっているからこそ。肩書きではなく、純粋に「プロダクトにとって何がベストか」という目的のために議論できる文化は、TimeTreeの誇れる資産です。

「予定の共有」の先へ。TimeTreeが仕掛けるAI時代のプラットフォーム戦略

──TimeTreeの今後の展望について教えてください。

 河野: 今、TimeTreeは「第二の創業期」とも言える大きな転換点にいます。これまでの「内側の共有」から、外部のイベントや予定と出会える「公開カレンダー」、そしてAIがユーザーの未来を先回りして提案する「パーソナルアシスタント」への進化を考えています。

私たちは「未来の行動予定」という、世界でも類を見ないユニークなデータを持っています。このアセットを使い、7,000万人の未来をどう豊かにするか。技術的にまだ誰も正解を知らない領域に、一緒に「逆張り」して挑戦してくれる仲間を待っています。

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)

Community Members

さまざまなテーマで事例や知見を学ぶ
IT・テクノロジー人材のための勉強会コミュニティ

①上記ボタンをクリックするとTECH PLAY(外部サイト)へ遷移します。

②TECH PLAYへ遷移後、アカウントをお持ちでない方は、新規会員登録をお願いいたします。

③TECH PlAY会員登録後、TECH Streetページよりグループフォローをしてください。

今後のイベント参加・メンバー登録に関する重要なお知らせはこちら