
こんにちは!TECH Street編集部です。
連載企画「ストリートインタビュー」の第60弾をお届けします。
「ストリートインタビュー」とは
TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。
企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”竹野さんからのバトンを受け取ったのは、WASO LTD. 後藤 優一さん。
ご紹介いただいた竹野さんより「後藤 優一さんをご紹介します。現在はロンドンに移住して、現地の日本人が創業したスタートアップで働いています。非常に言語化能力に長けた方で、私もソフトウェアの設計に強いこだわりを持っていますが、技術責任者としてのご経験や知見は大変尊敬できるものです。その彼が、今まさに次の挑戦として、SANUとはまた違う形でリアルワールドのビジネスに取り組んでいます。しかもその舞台はロンドンです。まだ新しい挑戦についてどこまで話せるかは分かりませんが、彼が元々持っているソフトウェア開発の持続性や設計に関する考え、そして新たなキャリアへ踏み出したその背景や考えについて、ぜひお話を伺ってみたいです。」とご推薦のお言葉をいただいております。

後藤 優一 氏
WASO LTD. / Tech Lead, Full Stack Engineer
2015年にピクスタ株式会社に新卒入社し、開発基盤整備や開発プロセス改善に従事。2020年に執行役員CTOに就任。その後、2023年より株式会社EARTHBRAINでデータプラットフォーム開発を主導。現在はロンドンを拠点に、WASO LTD.のテックリード兼フルスタックエンジニアとしてプロダクト開発に携わっている。著書に『パーフェクトRuby on Rails【増補改訂版】』(共著、技術評論社)。
- 後藤氏のキャリアの原点
- 担当領域の明確さと、信頼できるチームメンバーとの協働
- ソフトウェアエンジニアから「課題解決者」へ
- 「グローバルに通用するソフトウェアを作る」という使命感
- ロンドンを拠点としたスタートアップでテックリードとして開発に集中する現在
- 鋭い技術的視点の源泉:具体的な事象を「整理」する力
- グローバル展開とプロダクト拡張の技術課題に挑む
後藤氏のキャリアの原点
――まずは、現在の後藤さんを形作る原体験をお聞かせください。

後藤:大学時代、授業の一環でプログラミングに初めて触れました。当時の私は、IT業界について「長時間労働が多く大変そうだ」というイメージを持っており、プログラミングを仕事にすることは全く考えていませんでした。
しかし、専攻していた統計学の課題に取り組むうちに、気づけばプログラミングそのものに惹かれていました。
転機となったのは、大学院進学前の春休みです。データサイエンティストという職業に興味を持ち、社員数名の小さなスタートアップでインターンをしました。その会社は当時シェアオフィスを拠点としており、リモートワークを基本とした柔軟な働き方が採用されていました。
この経験でIT業界への印象が大きく変わり、キャリアの軸がソフトウェア領域へと定まったのです。
――社会人としての一歩を踏み出す際には、どのような考えのもとで会社を選ばれたのでしょうか。
大学院進学後も、私はデータサイエンティストを志望していました。しかし、当時のデータサイエンティスト職には2つの難しさがありました。
1つは、データサイエンスが業務に適用されていた領域自体が限られていた点です。ビッグデータの活用が語られ始めた時期ではありましたが、新卒として関われる機会は多くありませんでした。
2つ目は、私が見聞きした範囲では、データサイエンティストはデータ分析までを担当し、サービスへの実装はエンジニアが行うという分業制が一般的だったことです。分析から実装まで一貫して携わりたい私にとっては、少し違うと感じました。
自分の志向を改めて整理した結果、分析よりも実装のプロセスに魅力を感じると気づき、ソフトウェアエンジニアを志望するようになりました。そして、大学院時代にアルバイトをしていたピクスタ株式会社に、そのまま就職することにしました。
担当領域の明確さと、信頼できるチームメンバーとの協働
――ピクスタ社への入社を決めた決め手は何だったのでしょうか。

入社を決めた理由の1つは、尊敬するエンジニアと働ける環境があったことです。憧れていた先輩がいたことに加え、テスト駆動開発の第一人者である和田卓人さんがコンサルティングで関わっていました。そうした方々から直接学べることに魅力を感じたのです。
また、どのような業務に就くことになるのか分からない、という不確実さがなく、アルバイト時代と同じ業務にそのまま取り組めるだろうという見通しがあったことも、入社を後押しした理由の1つでした。
自分のやりたい仕事に取り組め、誰と働くかも明確だったことが、最終的に入社の決め手になりました。
――入社後、ピクスタ社での業務を通じて、特に成長を感じた点はありますか。
ピクスタでは、Ruby on Railsを使ったアプリケーション開発と、DevOpsやインフラといった開発基盤に関わる業務の両方に携わりました。その環境で働く中で、技術的に大きく成長できた点が2つあります。
1つは、開発基盤寄りの業務に携わることで、短期間で技術力が向上したことです。ID基盤や自動テストの分散実行基盤など、通常のWebアプリケーション開発よりも難易度の高い分野を担当する機会に恵まれました。その結果、プログラミング言語を問わない共通概念を理解できるようになり、知らない技術が出てきても、学習すれば対応できるという自信がつきました。
2つ目は、和田卓人さんとの対話を通じて、シニアエンジニアとしての視座に触れられたことです。月に一度、業務で抱いた疑問を直接相談できる機会がありました。私にとって和田さんは、技術だけでなく、考え方にまで影響を与えてくれた“師”のような存在でした。彼との対話から得たものは、単なる知識ではなく、今の私の技術観を形作る大きな礎になっています。
当時は「技術を極めたい」という漠然とした思いはありましたが、具体的な計画を立てて取り組んでいたわけではありません。ただ、目の前の仕事に全力で取り組んでいく中で、少しずつ成長していったのだと思います。
――技術を極めていく中で、ターニングポイントはどのように訪れたのでしょうか。
転機になったのは、新規事業に携わった経験です。2017年から2018年頃、入社3年目で技術的にも手応えを感じ始めていた時期でした。ゼロから自由に開発できる新規事業に関わる機会がありましたが、結果としてその事業は失敗に終わりました。
この経験から、「技術的に優れたものを作っても、ビジネスが成功するとは限らない」という、頭では理解していたことを、身をもって知ることになりました。
ソフトウェアエンジニアから「課題解決者」へ
――「技術だけでは事業は成功しない」という現実に直面した時、後藤さんはご自身のキャリアをどのように捉え直し、どのような道を見出していったのでしょうか。

その頃から私は、自分のアイデンティティは「ソフトウェアエンジニア」という特定の職能ではなく、「課題設定」や「課題解決」の行為そのものにあるのではないか、と考えるようになりました。
ちょうどその時期、大学院での研究活動で培ったソフトスキル(論理的思考力)に、社会人として習得してきたハードスキル(技術力)が、ようやく噛み合い始めていました。両輪が揃ったことで、自分が向き合っていることの本質はエンジニアリングではなく、より広義の「課題解決」だと捉え直すようになったのです。
それ以降は、技術領域だけにとらわれず、ビジネスや組織の課題を見極め、その解決に取り組むという姿勢へと自然にシフトしていきました。
――その後、CTOへの就任は、どのようなきっかけで決まったのでしょうか。
私が認識している範囲では、組織規模が100名を超え、経営体制の見直しが必要になったタイミングで執行役員制度の導入が検討されていたようです。その流れの中で候補として声をかけていただいたことが、CTO就任につながりました。
就任を決めるきっかけになったのは、AWS主催の「CTO Night & Day」というイベントでした。そこで、ある著名なCTOが「経営上必要なことは何でもやる。事業計画書も書く」と話しているのを聞き、CTOの役割に対する私の認識が大きく変わりました。それまで、CTOはエンジニアとしてのキャリアの終着点と捉えていましたが、むしろ経営者としてのキャリアのスタートラインなのだと理解した瞬間でした。
数週間後、執行役員への打診がありました。話を聞いた瞬間、まさにそのスタートラインが現れたように感じました。迷う理由はなく、その場で「やります」と返事をしました。こうしてCTOへの就任が決まりました。
――ピクスタ社でのCTO時代はどのような経験が得られましたか。
ピクスタでCTOを務めた期間は、経営視点を身につける大きな機会になりました。同社は複数事業を展開しており、それぞれの成長率や投下資本に対する利益率といった、ファイナンス指標をもとに事業を評価する必要がありました。
そうした環境の中で、コーポレートファイナンスやコーポレートガバナンスといった経営の共通言語を理解し、意思決定に活かす経験を積むことができました。取締役ではありませんでしたが、経営会議のメンバーとして議論に参加できたことは、今振り返っても非常に貴重な経験だったと感じています。
「グローバルに通用するソフトウェアを作る」という使命感
――ピクスタ社の後どのような道へ進まれたのでしょうか?
3年ほどCTOを務めた後、2023年に建築現場のDXを推進する株式会社EARTHBRAINへ転職しました。転職の理由は、私の中にあった「日本発でグローバルに通用するソフトウェアを作りたい」という思いです。日本の製造業は世界で存在感を示していますが、ソフトウェア領域では同じ規模感の成功例はまだ多くありません。その状況を変えたいという使命感を、ずっと持ち続けていました。
その原点は、ピクスタを選んだ時期に遡ります。入社した2015年前後、同社は東アジア・東南アジアに営業拠点を持ち、国外展開に挑戦していました。その姿勢に惹かれていたのですが、事業方針の変更により拠点は撤退し、描いていた未来は一度途切れてしまいました。
その経験を経て、「もう一度グローバルで戦える環境に身を置きたい」と考えるようになりました。EARTHBRAINは、建設機械メーカーとして世界中に顧客基盤を持つコマツのグループ会社です。日本発のソフトウェアで再び世界に挑戦できる環境だと感じ、入社を選びました。
――EARTHBRAIN社での経験から、その後現在のWASO LTD.へ転職を決意するに至った経緯について教えてください。
EARTHBRAINでの経験を通じて、私自身が今後どのような環境で挑戦したいのか、改めて考える機会がありました。意思決定の背景には、大きく2つの視点があります。
1つは、建設業界ならではのビジネス構造と、それに伴う変革のスピード感です。特に日本では企業規模や事業フェーズが多様で、IT投資への優先度や課題認識にも差があります。そのため、変革には時間をかけて取り組む必要があると感じました。一方で、自分の年齢やキャリアのフェーズを考えたとき、体力や集中力が十分にある今こそ、より大きな挑戦に踏み出すべきタイミングではないかと思うようになりました。
もう1つは、アメリカ出張を通じて感じた、エンジニアを取り巻く構造の違いです。同国で活躍するエンジニアの優秀さは、個々の能力だけではなく、市場や制度に支えられている面も大きいのではないかと感じました。世界規模で高い収益性を持つ企業が多く、高い報酬を提示できる環境があることで、優秀な人材がさらに集まる循環が生まれているように見えました。
こうした経験を通じて、自分がやりたいことを本気で実現するためには、英語圏で働く必要があると考えるようになりました。そこで、拠点を国外に移すという選択をしたのです。
ロンドンを拠点としたスタートアップでテックリードとして開発に集中する現在
――WASO LTD.へ入社されてみて、いかがでしたか?

WASOは、イギリス全土を対象に、日本の食品と自社製の冷凍惣菜(さばの味噌煮など)を届けるサービスを展開しています。私はその中で、テックリード兼フルスタックエンジニアとして、プロダクトの要件定義から実装までを幅広く担当しています。
前職まではマネジメント業務が中心でしたが、現在は Individual Contributor(IC)として開発に専念しています。プロダクト開発チームには日本人が多く、ロンドンにいながら日本の会社で働いているような感覚です。そのため国は変わりましたが、日々の働き方としては大きな違いは感じていません。
――マネジメント職から再びIC職に転身されたわけですが、ご自身としてはその変化をどのように感じていますか?
マネジメント職の時代は、業務の多くがピープルマネジメントに割かれていました。コードレビューはしていたものの、自分でプログラムを書く時間はほとんどありませんでした。今は、純粋にプロダクトづくりに向き合うことができており、キャリアの中でも初めてと言えるほど、腰を据えて開発に集中できています。その変化もあり、今の働き方はとても充実しています。
――日本人が多い環境とのことですが、これまでの日本の会社と比べて、エンジニアを取り巻く文化や働き方に違いを感じることはありますか?
周りが日本人なので大きな違いはありませんが、前職でアメリカの方々と働いていた時には文化の違いを感じました。印象的だったのは、“皆、すぐ帰る”という点です。日本では状況に応じて周囲に合わせる場面もありますが、アメリカでは成果が出ていれば早く帰ることが自然で、残業に価値を置く文化はほとんど見られないと感じました。
鋭い技術的視点の源泉:具体的な事象を「整理」する力
――後藤さんをご紹介いただいた竹野さんから質問を預かっています。竹野さんは後藤さんのことを「エンジニアリングの取り組みを言語化し発信する力が素晴らしい」と評価しています。その技術に対する鋭い視点は、どこから来ているのでしょうか。
私の「鋭い視点」と言っていただく部分は、正確には「言語化」というより、具体例と抽象的な概念の間を行き来しながら説明しているだけ、という感覚に近いです。
例えば、「具体的な解決策」を提示したあとに「抽象化すると、この視点に整理できます」と説明したり、逆に抽象的な概念から「これはこの手法として具体化されています」と示したりします。
これは、具体的な事象から本質を抽出し、整理し直すプロセスです。私はこの「整理」が少し得意なのだと思います。そのため、説明を聞いた方が「要はそういうことだったのか」と納得してくださる場面が多く、その結果として「言語化がうまい」と評価いただいているのかもしれません。
抽象だけでは理解しづらく、具体だけでは応用が効きません。両者を往復することで、相手の理解が本質に近づいていくのだと感じています。
――また、竹野さんから「日常的にどのようなインプットを行い、どのように情報を整理されているのか」について、質問を預かっています。こちらについてもお聞かせいただけますか?
私のインプット方法で特徴的なのは、注目している技術や概念を生み出した「人」をフォローすることです。興味関心が一致している「人」が推奨する情報は、自分にとっても価値が高いと考えるため、インプットのメインは「人」に焦点を当てています。
情報の整理方法は、学生時代に身につけた論文を読む時と同じプロセスです。具体的には、技術の公式ドキュメントの最初に書かれている「Why(なぜこの技術が必要なのか)」を徹底的に理解します。つまり、「何を問題だと捉えているのか」と「それに対してどうアプローチしようとしているのか」という点だけを押さえるのです。
そして、その情報を頭の片隅に置いておくだけで、あえてコードを書いたりブログ記事にまとめたりはしません。「まず触って試す」というスタイルではなく、必要になった時に手を動かすスタイルです。その結果、情報収集にかける時間を短縮できているのかもしれません。
グローバル展開とプロダクト拡張の技術課題に挑む
――WASOで今後取り組む予定の技術的な挑戦について、差し支えない範囲で教えていただけますか。

現在の事業は主にイギリス在住の日本人向けで、市場規模に限界があります。そのため今後は、「他国への展開」か「イギリス国内での新規顧客層の開拓」を視野に入れています。
この事業拡大にあたり、現在のシンプルな1つのRailsアプリケーションでは対応が難しくなってきています。地域や顧客層ごとに商習慣や食文化が異なるため、すべての要件を1つのアプリケーションに詰め込むには限界があるためです。
そこで今後は、必要に応じてサブシステムを構築し、それらを連携させていくアーキテクチャへ移行する必要があると考えています。この課題は、国内スタートアップが成長過程で経験する隣接市場への展開に伴う技術課題に近いものです。ただ、私たちの場合は、それが最初からグローバルスケールで発生しうる点が大きな挑戦だと考えています。
――最後に、読者であるエンジニアの方々に向けて、この時代をどう生き抜き、どう立ち回るべきか、先輩としてのアドバイスをいただけますでしょうか。
まず、私のキャリアはAIが一般化する以前に形成されたもので、今とは前提が大きく異なります。そのため、私と同じ道を辿る必要はありません。特にLLMの登場以降、エンジニアを取り巻く環境は急速に変化しています。そのうえで一つ挙げるとするなら、「ソフトウェアエンジニアであることに、アイデンティティを強く持ちすぎないこと」です。
AIによって業務内容が大きく変わる可能性がある今、特定の役割に固執すると、変化に対応しづらくなります。だからこそ、今のうちにアイデンティティを「緩める」か「分散させる」ことをお勧めします。
「緩める」というのは、例えば私のように「自分はエンジニアリングをしているのではなく、課題設定と解決を楽しんでいる人間だ」というように、より抽象的なレベルで自己を認識することです。
そして「分散させる」というのは、家族や趣味、あるいは仕事とは無関係のコミュニティなど、複数の場所にアイデンティティを見出すことです。そういった準備をしておかないと、「ソフトウェアエンジニアであること」だけが自分のアイデンティティになってしまう。それは今、この変化の時代において、一番リスクのある状態だと感じています。
――貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者をご紹介いただけますか。
同じく国外にお住まいの高丘さんをご紹介します。彼を知ったきっかけは、Findyが主催する「アーキテクチャConference」での登壇です。アーキテクチャに強い方で、特にイベントソーシングやCQRSといった難易度の高い領域のオープンソースソフトウェアを、なぜかご自身で開発されています。外から見ていると、そのモチベーションがどこから来るのかまったく分からず、不思議でなりません。その源泉を知りたいですし、そもそもどのような問題意識を持っているのかを聞いてみたいと思っています。
また、彼の話を聞いていると、私の知らない概念がよく登場します。竹野さんが私に投げかけてくださった質問と同じですが、「そうした知識をどうキャッチアップしているのか」を純粋に聞いてみたいですね。
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)
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