【連載59】テクノロジーとサイエンスの間で進化する——SANU竹野氏が描く持続可能なプロダクトの形

こんにちは!TECH Street編集部です。

連載企画「ストリートインタビュー」の第59弾をお届けします。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。

企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

“今気になるヒト”山田さんからのバトンを受け取ったのは、株式会社SANU 竹野 創平さん。

ご紹介いただいた山田さんより「私がWantedlyで働いていた時のメンターである竹野創平さんをご紹介します。彼は私にとって、まさに「エンジニアの理想像」です。プロダクトへの深い愛と、卓越した技術力を併せ持つ方です。技術的に圧倒的な強さを持っているにもかかわらず、常に「プロダクトをどうしていくか」という視点が根底にあります。技術かプロダクトか、どちらかに偏らないその姿勢に、私は強く惹かれています。現在は、自然の中に別荘を持つサービス「SANU」でシステムの開発をされています。彼がなぜそこまで鋭い視点で技術を見つめることができるのか、その思考プロセスについて、ぜひ聞いてみたいですね。」とご推薦のお言葉をいただいております。

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竹野 創平 氏

株式会社SANU / テクノロジー本部長

Wantedlyで全社アーキテクトを務めた後、SANUに参画。ノーコードで構築された大規模システムをTypeScript・GraphQLで再設計し、技術とチームを内製化。ソフトウェア領域全般を管掌。

 

 

ものづくりの楽しさから“探究の道”へーエンジニアとしての始まり

――まずは現在の竹野さんを形作る原体験をお聞かせください。

竹野:子どもの頃は手を動かして何かを作るということが好きでした。自分の頭の中にあるものを形にすること自体に、わくわくしていたのだと思います。

今やっているようなプログラミングをしてソフトウェアを作ることを始めたのは大学に入ってからでしたが、高校時代にインターネットに出会い、「こういうものがあったらいいな」と思って作ったサービスを周りの人に見てもらったり遊んでもらったりした小さな経験がその後につながる原体験になっています。

いろいろと寄り道はあったのですが、大学は東京工業大学に進学し、最終的には情報系の分野を選びました。後々にわかったことでしたが、今につながること、という点ではこの時の取り組みが大事でした。
というのも、プログラミングというものを考えた時に、それまでの手触り感のあるものづくりの延長線上としてできるようになるイメージはあったのですが、それだけだと技術的に出来ることは増えるけど、本質的にあまり変わらないなと感じたんですよね。
そんなことを入学早々ぼやいていたら「コンピュータ・プログラミングの概念・技法・モデル」という900ページくらいある本を先輩に渡されて(笑)。

そこにすごく大事なことが書かれていて、それはプログラミングをテクノロジーであると同時にサイエンスとして教えるべきである、ということだったんですね。自分の知りたかったのはこれなんじゃないか、と思って3年かけてその本を読みました。

 

――「テクノロジー」と「サイエンス」、その対比がとても興味深いです。

はい、どちらか一方ではなく、両方が必要だと考えています。技術は、目の前にある課題や目的に対して手を動かしてつくるためのもの。つまり、“現在”に向き合うためのアプローチです。実際、現場ではその力がとても重要ですし、技術がなければものが作れません。

ただ一方で、本当に価値のある高度なシステムや大規模なプロダクト、あるいは長期的に運用される持続可能なものをつくるには、それだけでは限界があります。技術はアップデートされていきますし、その中でも意思を持って進む必要があります。

そのために重要なのがプログラミング言語やライブラリなど特定の技術から一歩引いて理解する概念と体系です。実際、サイエンスは、“未来”に備えるためのものだと思っています。科学には「予言性」という性質がありますが、未知の問題やこれから起こるかもしれないことに対して、理論的に予測し対応できる――それがサイエンスの強みであり、本質でもあると感じています。

プロダクトとともに成長する――技術を磨き、価値を届ける8年間

──社会人としてのキャリアは、どのようなスタートを切られたのでしょうか。

大学では専門的な勉強もしたのですが、あくまでプロダクトを作ることが出発点でした。ただプロダクト作りそのものは趣味でもできるし便利なものは作れるので、仕事としてやりたいことは何かということも考えていました。そんな中で Wantedly に出会います。

当時の Wantedly は、まだ社員全員が朝会で顔を合わせるようなスタートアップでしたが、最初の核となる機能の募集と「まずは話を聞きに行く」というそれまでの採用の慣習を変える UX ができていました。

そのサービスと、ミッションとして掲げていた「シゴトでココロオドルひとをふやす / Create a world, where work drives passion.」に共感したことがジョインした最大の理由です。SANU でも Wantedly を通じてインターンに来たり入社する人がいますが、カルチャーやミッションに共感する仕事を見つけることは人生の一部である仕事の時間を豊かにしていると今でも感じます。

もう一つはプロダクトの作り方です。エンジニアが企画から実装、効果測定までを一貫して担い、ユーザーサイドは数字にまで責任を持つ。ただそれだけでなく、技術基盤にも継続的に投資していて、ユーザーに価値を届けるために何でもやる泥臭さと、それを技術でドライブするしなやかさがありました。

自分も入った直後からグロースチームに入りましたが、その中でメール配信やUI改善から、パーソナライズのためのアルゴリズム改善、改善スピードを上げるためのデータ基盤構築と、表層から基盤まで全方位的にプロダクトに関与していました。そこには常に「ユーザーにどんな体験を届けたいか」「サービスをどう伸ばしたいか」がありました。

Wantedly には約 8 年間在籍しました。その間、会社のフェーズが変わるたびに、僕の役割も変化していきました。サービスが拡大し、組織が成長し、上場も経験する中で、僕自身もプロダクトの責任者を担い、複数プロダクトを横断して技術面を見ていく立場に移り、最終的にはソフトウェアアーキテクトとして、会社全体の技術方針の策定にも携わるようになりました。

 

――Wantedlyでのキャリアは、ご自身で意図的に戦略を立てて役割を広げていったのでしょうか?

ある程度、「こういう分野がある」といった"地図"のようなものを頭の中には持っていました。ただ、実際の仕事ではその地図をいったん脇に置き、目の前のプロダクトをどうすれば良くできるかに集中していました。その結果として、さまざまな役割を担うことになった、というのが実情です。

特定の技術がやりたいから仕事を選ぶというよりも、届けたい価値と課題があるから学ぶ。たとえば、単純な人気順のアルゴリズムだけではプラットフォームの価値がそれ以上伸ばせないのでパーソナライズの機能が必要だと判断したときには論文を読む、といったことも初期にはありました。終盤に担っていた全体的な技術方針の策定なども、いろいろな経験をする中でロングスパンかつ全体的な仕事が必要と実感したためでした。

学生時代に読んだ本の中に、「素人発想、玄人実行」という考え方があります。これは課題を見つける段階では、素人のように自由に考える。そして解決に取り組む際には、玄人のように実行するというものです。技術方針としては現場で使える技術であることも重視しながら、“それが向かいたい方向に対しても良く機能するのか”を科学的視点で意識していました。

ノーコードの限界を超えてーSANUで描く“自然と共に生きる”を支えるテクノロジーの再設計

――そして現在のSANUにジョインするわけですが、その理由を教えてください。

SANU は「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をコンセプトに、都市と自然を気軽に行き来できるシェア別荘サービス SANU 2nd Home を提供しています。

僕自身、前職の頃から自然の多い場所へ行って本を読んだり、思考を整理したりする時間を大切にしていて、そうした体験が創造性や仕事の質にもつながっていると実感していました。実は SANU のサービスも始まった当初からユーザーとして利用していて、愛着を持っていました。

そうした中でユーザーイベントに参加することがあり、中の人とお話をする中で「エンジニアを探している」ということを聞きました。話を聞いてみると宿泊施設を作ることだけでなく自然と共に生きるライフスタイルが本気でミッションになっているんだなと分かって、「それって超面白いな」と思ってジョインを決めました。

 

――SANUにおける竹野さんの役割を教えてください。

SANU には1人目のエンジニアとして入りました。そのため、入る時には〈SANU の価値をソフトウェア・テクノロジーをレバレッジさせて底上げする〉ということだけ決めていました。変化の早いスタートアップにおいて、決め事はこのくらい少ない方が良い、と思っていたので。実際、それぞれのフェーズで自分の役割は本当に目まぐるしく変化しました。

実は SANU はエンジニアでなくともソフトウェアが作れるノーコードで構築されたサービスだったので、それが最初のイシューでした。入る前は「しばらくはノーコードで行こうと思っている」という話でしたし、僕自身「しばらくノーコードで開発してみるのも面白いかな笑」と呑気に思っていました。

ただ入ってみて分かったのは、SANU の新しいビジネスモデルの実現それ自体にヘビーにソフトウェアが使われているということでした。さらに今後のビジネス展開と、何よりも SANU が潜在的に持っているとても豊かな情緒的価値をプロダクトを通じて届けていく上で、技術の根本から見直す必要があると判断しました。
それはポジティブなことでもあって、ミッションに真っすぐ向き合っているからこそ、技術が必要になったんだと思います。なので「技術的な観点から現状を診断して、事業戦略と技術戦略を整合させる」というのが結果的に僕の最初の役割になりました。

その後、システムの全面刷新の意思決定、技術選定、信頼できる業務委託のエンジニアに手伝ってもらいつつコードを書きながら土台となる設計と実装を約半年かけて一通り行いました。全く何もないところにサービスの骨格を作りながら最適な技術基盤も創り出すために、一番最初はこの体制がベストでした。

そしてありがたいことにちょうど骨格と基盤ができてきたタイミングで、フルタイムのエンジニアが2名ジョインしてくれました。そこから1年かけて一通りの機能の実装と移行準備を行い、ほぼこの3名で今年の4月末にノーコードのシステムからの切り替えを行いました。

ソフトウェア開発においては、良い技術と良い組織が、サービスや事業を作っていく上での両輪だと考えています。ノーコード技術のまま優れたエンジニアを採用するというのは難しいため、技術から立ち上げて組織を作っていく戦略を取りました。

 

――相当タイトな状況だったと思います。その中で、どんな判断の積み重ねがあったのでしょうか。

実際、極めて難しいプロジェクトでした。すでにシリーズBの成長フェーズに差し掛かっていたこともあり、新しいサービス展開が控えていました。それらを完全に止めてしまう影響はあまりに大きい。 とはいえ、ノーコードのシステムも適切な技術の利用範囲を大きく超えていて、次に進むためにはどうしても置き換えが必要な状況でした。

そのため既存のシステムには最小限の改修だけを加えながら、新しいシステムの開発を同時進行で進める――という戦略を取ることにしました。これは技術的にも難易度が高く、それでいてビジネス状況を踏まえた極めて広範なトレードオフの判断が発生するものでしたが、それをやるだけの価値がありました。

この意味でこのプロジェクトはエンジニアはもちろんのこと、経営陣を始めとしたSANUチーム全員が一貫して協力してくれたことで成し遂げられたものでした。これには本当に感謝しかありません。

 

――現在の開発体制はいかがでしょうか。

現在は、6人のエンジニアチームに成長し、プロダクトマネージャーも在籍しています。個性豊かなメンバーでありながら一定規模のチームとしてしっかりと機能するようになり、当初の「技術的な課題を解決する」フェーズから、「技術と組織を育てながらユーザーに価値を届け続ける」フェーズへと進化しました。

今は、専門性を持つメンバー同士がどのように連携し、技術戦略に裏打ちされたエンジニアリング戦略とプロダクト戦略を作りつつ、どう融合させていくかを考えています。どれもこれまでの取り組みから地に足のついた、それでいて力強いものができつつあり、僕自身も楽しみにしています。

またサービス全体としては、SANU独自の「建築」や「滞在」といったリアルな側面も含めて、それらすべてをどうつなぎ合わせていくかと言ったテーマもあるため、そういったコラボレーションもできるような創造的な組織を作りたいなと思っています。

「地図」を描けば、情報に迷わない──変化に強いエンジニアの学び方

――山田さんから「竹野さんの鋭い視点で技術を見つめる思考のプロセスの源泉は何か。また、情報収集と整理の方法について教えてください」という質問が届いています。ご回答をいただけますか。

 これは既にある程度お話ししてしまったかもしれません。やはり技術を扱えるようになるということと、それを科学的基盤の上で評価するということを大切にしています。
まずは手を動かして試してみる。そして、ただ動いたことに満足せず、書籍など体系的な情報から背景と全体を理解する。その往復を重ねるうちに、技術の“構造”が見えてきます。

実際にプロダクトに応用してみる、というのもとても強力ですよね。一定の規模の問題に適用して初めて発現するものもありますし、良いところもあったけど限界も見えた、ということもあると思います。

僕が良いと思うのは、この活動を繰り返す中で頭の中に「技術の地図」のようなものができてくることです。「これとこれは似たような問題を解決しているが、こういう制約条件の違いがある」みたいな。これができてくると、少しだけ情報のアンテナを張っておく事で、「もしかしてあの問題を解決するものでは?」と言ったことに気づけるようになる。そしてまた触ってみて、自分の中の地図を広げていく。

最終的に、動作の原理だけでなく、背景や経緯といった社会的なことに興味を持つことが、バランスよく技術と付き合う上で実は大事なことなのかなと思います。

問題から始める――エンジニアが未来をつくるために

――ありがとうございました。最後に、これからの時代にエンジニアとしてどのように立ち回るべきか、読者に向けてメッセージをお願いします。

 僕が思うのは、エンジニアは解決策ではなく問題に恋をすると良いのではないか、ということです。世の中には様々なことの解決策としての出来合いの技術がありますが、自分が解きたい問題を見つける方が大切だということです。
問題は、特定のものづくりの難しさかもしれないし、周りの人が困っていることかもしれないし、サービスとして届けたいことと届けられていることのギャップかもしれないし、会社のミッションそのものかもしれない。いずれにせよ、ちょっと簡単には解けないぐらいの問題を設定することをお勧めします。

そうやって問題を設定して色々な角度から繰り返し取り組めば、技術も身につき、そのやり方は別のことにも応用できます。AI が発展して問題が問題でなくなっても、それは嬉しいことになるでしょう。その時は、またちょっと簡単には解けないぐらいの問題を設定してみてください。その繰り返しが、いずれオリジナリティになります。オリジナリティがあれば、AI も良きパートナーとなりますから。

 

――貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者をご紹介いただけますか。

後藤 優一さんをご紹介します。現在はロンドンに移住して、現地の日本人が創業したスタートアップで働いています。非常に言語化能力に長けた方で、私もソフトウェアの設計に強いこだわりを持っていますが、技術責任者としてのご経験や知見は大変尊敬できるものです。その彼が、今まさに次の挑戦として、SANUとはまた違う形でリアルワールドのビジネスに取り組んでいます。しかもその舞台はロンドンです。まだ新しい挑戦についてどこまで話せるかは分かりませんが、彼が元々持っているソフトウェア開発の持続性や設計に関する考え、そして新たなキャリアへ踏み出したその背景や考えについて、ぜひお話を伺ってみたいです。

 

以上が第59回 竹野 創平さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のストリートインタビューもお楽しみに。 

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees  / 編集:TECH Street編集部)

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