チームとAIで取り組むUXリサーチ【UXリサーチャー勉強会/イベントレポート】

 

※この記事は、2025年6月に開催されたイベントでの発表内容をレポートしたものです。

 

 

 

登壇者はこの方

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瀧本 はろか 氏

株式会社スマートバンク
UXリサーチ部 部長

校正・校閲担当者を経て、ベンチャー企業で新規事業の立ち上げやインタビューの企画執筆を経験。その経験からUXリサーチャーに転身、人材会社の新規事業のUXリサーチやリサーチ組織立ち上げ、リサーチャー育成に携わる。2022年4月より株式会社スマートバンクに1人目のUXリサーチャーとして入社。N1インタビューの文化を受け継ぎ、年間100件を超えるインタビューを担当。メンバー全員が「Think N1」を身近に感じられるような働きや経営・事業に伴走するリサーチを推進。著作『UXリサーチの活かし方 ユーザーの声を意思決定につなげるためにできること(翔泳社)』

 

 

瀧本:この発表では、スタートアップである株式会社スマートバンクが提供するAI家計簿アプリ「ワンバンク」の事例をもとに、UXリサーチャー、チーム、そしてAIがどのように連携して業務に取り組んでいるかについてお話しします。 

 

スマートバンクの事業とAI活用

株式会社スマートバンクは、AI家計簿アプリ「ワンバンク」を運営しています。ゲーム感覚で続けられる新しい家計簿体験や、AIアシスタントによる家計管理等、プロダクトへのAI活用を進めています。

プロダクトのAI活用

例えば、レシートの読み取りに生成AI技術を活用しています。飲み会などで長くなったレシートでも、AIが文字を全て読み取り、支出として金額を自動で入力します。

 

 

また下画像のようにいわゆる家計簿のカテゴリー分け、例えばこれが食品なのか交通費なのかといった分類もAIが学習し、支出管理をサポートする機能にも技術が使われています。

 

 

その他にも、下画像のようにAIがユーザー様のお金の価値観を学習し、パーソナライズされたサポートを実施する機能も開発しています。
 

 


今ご紹介したようなサービスをはじめ、スマートバンクでは新規事業やコミュニケーションデザイン、広告運用、広報活動など、あらゆる領域でUXリサーチャーがユーザーとの接点を持ち、調査を共に進めています。職種を横断したリサーチプロジェクトを推進することが活動の中心となっております。

現在、AIの活用が様々な場面で進んでおり、私自身もこの春から本格的に各種ツールを試しております。本日は、私たちがどのように連携して業務に取り組んでいるか、その実践例をお話ししたいと思います。

スマートバンクメンバーが利用しているAIツール

2025年6月時点で、スマートバンクでは、複数のAIツールを主に使用しています。ChatGPT、NotebookLM、Cursor、n8nなどを試しており、利用ポリシーの策定・整備を進めながら試しています。

スマートバンクでは、あらゆる職種が業務でAIを活用

スマートバンクではエンジニアやUXデザイン領域のメンバーに限らず、あらゆる職種の従業員が業務でAIを活用しています。下画像に掲載しているのは、弊社が発信したブログ記事の一覧です。例えばBizDev、法務、PM、そしてデザイナーやエンジニアといったように、実に様々な職種のメンバーが執筆しています。彼らはそれぞれ、自身の業務においてAIをどのように活用できるかを探っています。

【取り組み】業務プロセスを言語化 AI活用できるポイントを探る

まず自身の業務プロセスを言語化し、AIを活用できるポイントを探る、という取り組みが多くの職種で始まっています。

チームとAIで取り組むリサーチ

ここからは、UXリサーチャーという役職において、現在どのようにリサーチ活動を進め、工夫しているか、その実践的なケースについてご紹介したいと思います。

UXリサーチ業務でAIを利用して感じた、AIの特性は以下の通りです。

  • 成果物の作成スピードが速い:インタビューやアンケートの叩き台が迅速に作成できる
  • 情報整理のスキルが高い:音声データや議事録などから、要点を的確にまとめられる
  • 並行業務が可能になる:AIに別のタスクを任せ同時進行することで効率化が図れる
  • 「人格」を変えられる:AIにはコンテキストがないのが特徴なため、指示次第でさまざまな人格(役割)を付与することができる

 

実際に自分が触ってみて、「AIに任せられるか」と「AIに任せる意味を見出せるか」がAIを効果的に活用するポイントだと感じます。自身が経験のある領域では、AIの出力内容に違和感を感じやすいため、適切な活用を検討できる印象です。

 

 

インタビュー業務をチームとAIで分担する

実際のリサーチプロジェクトでは、PM、デザイナー、私というミニマムな3名で進めることがあります。仮に、そのチームの4人目としてAIを招き入れると想定してみました。

 

 インタビューの調査設計から準備まで

 

インタビュー業務をチームとAIで分担する場合、チームが時間を費やすべきは、人間にしかできないパートだと考えます。

 

例えば、調査目的のすり合わせなど、「今回の調査で何がわかれば次に進めるのか」「どのような話が聞ければ各職種にとって有益なヒントになるのか」です。AIと一緒に進める場合、「何をしたいか」がなければ始まりません。そのため、チームとのコミュニケーションで、目的について話し合うことは、チームにしかできない重要な役割だと感じています。

 

一方で、それ以外の作業は、思い切ってAIに任せるという分担を試みています。具体的には、合意形成された内容の文書化、過去データの抽出、壁打ち相手としての活用、得られた情報の整理などです。実際にこの春から5月にかけて試したところ、この分担はうまく機能する可能性があると感じました。

AIと一緒に進めた場合のインタビュー調査設計から準備

 

実際に、リサーチャーである私、チームメンバー、そしてAIという三者で役割を分担してみました。インタビュー調査の設計から準備までのプロセスにおいて、それぞれの役割は以下の通りです。

 

まず、課題を特定し、調査手法を選定するのはリサーチャーです。「今回はアンケートとインタビューを組み合わせることで、目的の情報が得られるのではないか」といった判断を行います。次に、その内容をチームで話し合い、調査計画書を作成する作業はAIに任せ、私はそのレビューに徹しました。

 

また、「このリサーチプロジェクトは2週間で5名程度にインタビューできると良い」といったスケジュール感をチームで共有し、その情報をAIに入力して計画を整理させます。アンケートが必要な場合は、設問の設計もAIに依頼しました。自由記述形式を減らし、網羅的な選択肢案を作成してもらうなど、AIの能力をうまく活用しました。
さらに、既存ユーザーへの協力依頼メールの作成といった一連のプロセスでもAIを併用しました。

 

AIには、議論の可視化や壁打ち相手といった役割を担ってもらい、リサーチプロジェクトに伴走してもらうことで、非常にバランスの取れた進め方ができると感じています。

AI活用によりアップデートされたポイント

チームとAIを連携させることで、リサーチ活動は次のようにアップデートされました。

 

まず、過去データを用いた仮説立てがしやすくなった点です。Googleの生成AIサービス「NotebookLM」を活用しました。このツールは、入力されたデータをAIの学習に利用せず、あくまでそのデータ内でのみ回答を生成するため、社内の個人情報取り扱いポリシーを守りながら使用できます。NotebookLMの優れた点は、与えられたデータソースのみを参照し、複数のインタビューデータを横断して特定のトピックに関する発言(エピソード)を抽出できることです。これにより、Notionのデータベースで検索していた従来の方法よりも、高度なデータ活用が可能になりました。

 

次に、リサーチ進行における各種タスクの効率化が実現しました。ミーティングの音声データを書き起こし、誰が何を話したかを整理して調査計画書にまとめる作業などをAIに任せることで、これまで一人の担当者が書き起こしに時間を取られ、議論に参加しづらくなるという課題が解消されました。その結果、チーム全員が議論に集中できる環境が整いました。

 

 

ただし、参照するデータは、当時の調査目的やインタビューの文脈に基づいています。そのため、そのデータだけで現在の意思決定を行うのは難しいと理解しておく必要があります。だからこそ、過去データも定期的な見直し等、データベースのメンテナンスが不可欠です。

 

 

Cursorを用いてリサーチプロジェクト管理にトライ

最後に、もう一つ「Cursor」というツールをご紹介します。これは主にエンジニア向けのコーディングツールですが、私はリサーチプロジェクトの管理に活用を試みています。

 

画像に表示されているのは、Cursorで構築したリサーチプロジェクトのディレクトリ構造の例です。このように、調査に必要な要素を体系的に整理できます。このディレクトリ構造も、私がゼロから考えたのではなく、Cursorに「こういうリサーチプロジェクトをやりたいのだが、どのようなディレクトリ構造が良いか」と尋ねて提案してもらったものです。

 

生成AIを使ってデータを管理する際に重要なのは、調査に関わるあらゆる情報を集約することです。人間は、その時々の状況やプロジェクトの進捗、事業全体の動向など、日々変化する文脈(コンテキスト)を常に考慮しながら判断します。AIにも同じような振る舞いをさせるには、そうしたコンテキストを情報として与え、インストールする必要があるからです。

 

「Cursor」は、前提となる情報を明確化し、集約するのに適したツールです。

さらに、インタビュープロセス全体の透明化にも貢献します。シナリオの検討経緯からフィードバックの観点まで、一連のプロセスを文書化しておくことで、後から振り返る際の材料となり、リサーチの質の向上につながります。

 

もう一つの利点は、実査終了後すぐに要約・整理を行い、調査全体を横断的に理解しやすくできることです。これまで、インタビューの音声録音や書き起こしを1件ずつ要約・整理するには多大な労力がかかり、結果的にタイムラグが生じていました。そこでCursorにカスタムルールを設定し、特定のフォルダにインタビューの逐語録が追加された際に、以下の処理が自動で実行されるようにしました。

  • インタビュー情報の自動抽出
  • サマリーの自動生成と追記
  • 情報を細かく分けた付箋データの自動生成と追記

このように、リサーチの効率を大きく改善しています。
 

今後の展望

Cursorの特徴として、ファイルの自動作成や編集機能が挙げられます。Geminiなど他ツールも同様の機能を持っていますが、プロジェクト全体のディレクトリ構造を認識し、直接操作できる利点もリサーチ活動において大きな助けになりそうです。

 

今回はCursorの説明をしていますが、ベースとなるのはリサーチ業務にAIを招き入れることなので、ツールにこだわりすぎず、より良い方法を模索し続けたいものです。

 

空いた時間をチームとのコミュニケーションや認識合わせに充てることで、より質の高いリサーチ活動を目指したいと考えています。

今回の「チームとAIで取り組むリサーチ」は、リサーチャーの業務をAI活用でアップデートする大きなチャレンジです。過去データの活用による調査の質向上や、リサーチプロセス自体のさらなるアップデートなど、今後も積極的に試していきたいです。

 

 

本日は私個人の試みや気づきの共有でしたが、AI活用については業界全体で模索している時期ですので、皆様と積極的に情報交換ができれば大変嬉しく思います。

 

 

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