【リーガルテック業界】「文書作成を、再発明する。」─ リーガルテックが挑む業務改革の最前線

こんにちは!TECH Street編集部です。

今回の「CTOインタビュー」は、FRAIM株式会社 宮坂さんです!リーガルテック業界の動向や契約業務の変革について宮坂さんに聞いてみました。

 

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宮坂 豪 氏

FRAIM株式会社 - 代表取締役社長 兼 CTO 

2018年、創業時にFRAIM社(当時は日本法務システム研究所)の1人目の技術者として参画しプロダクト開発を牽引。NEDO PCA事業における代表研究員や、デジタル庁の法制事務デジタル化プロジェクトで全体責任者として技術を統括。2024年度にはデジタル関係制度改革検討会 デジタル法制ワーキンググループに構成員として参加。取締役CTOを経て2024年7月より代表取締役社長 兼 CTOに就任。

 

 

 

ーーまずはじめに、貴社についてご説明いただけますか。

 

宮坂:弊社の事業は大きく分けて2つあります。1つ目は文書業務の効率化を目的としたLAWGUEのSaaS事業、2つ目は自社技術を活用し他社システムを進化させるライセンス・ソリューション事業です。この2つの事業を通して企業ビジョンに掲げている「文書作成を、再発明する。」を実現し、お客様に価値を届けることをミッションとしております。LAWGUEでは、規程文書や開示文書なども含め、様々な文書に対応可能ですが、特に弊社が注力しているのが、契約書作成の効率化となります。

「法律×テクノロジー」が生む新たな価値

ーー続いて、リーガルテック業界について教えてください。

リーガルテックとは、簡単に言えば「法律×テクノロジー」で新たな価値を創出する領域です。特に、契約書の作成・レビュー・管理といった業務にテクノロジーを組み合わせ、従来の非効率を解消するソリューションが多く展開されています。

 

技術面では、生成AI(LLM)が登場する前から自然言語処理や各種ドキュメント検索の技術が重要視されていました。法律関連業務は膨大な文書を扱うため、生成AIとの相性も非常に良く、技術の進化スピードが速い業界でもあります。

 

 

ーーテクノロジーの導入によって、契約書業務はどのように変わったのでしょうか?

 

以前は、非生産的な作業に多くの時間を取られていました。たとえば、Wordのインデントを手作業で調整したり、契約書類の条項番号のずれをその都度修正したり、引用している定義語や条文をスクロールで見に行ったりする必要がありました。

 

一方で、かなり前からプログラミングの世界では、変数名を変更すれば全体が自動で追従し、インデントも自動で整えられます。エラーも即座に検知されます。こういったエンジニアにとって当たり前になっているような編集体験に近い自動化の恩恵を、契約業務でも受けられるようになりつつあるのが大きな変化です。

 

また、属人化の解消も重要なテーマです。ベテランの知見を若手へ継承するのは容易ではありません。例えばレビューのコツや見るべきポイントなどは、個人の経験に依存しやすいため、これを組織全体で共有可能にすることで、ナレッジの再現性を高めるという点でも、リーガルテックは重要な役割を担っています。

 

顧客の期待は「できて当然」の時代へ

ーー顧客のニーズの進化についてはどう捉えていますか?

テクノロジーに対する期待値が、非常にポジティブに高まっています。創業当初は、「そんなこと本当にできるの?」と懐疑的に見られていたことも多く、たとえば類似文書の差分検出や自動修正などは不可能と言われるケースが多かったです。

 

しかし、生成AIの進化や業界各社の努力により、今では「これくらいならできるでしょう」と見られるようになりました。顧客のリテラシーと期待が向上し、それがDXの加速にもつながっています。

クライアントサイドで完結する独自アーキテクチャ

ーー貴社が技術的に注力している点について教えていただけますか?

当社では、処理の多くをクライアント側で完結できるように設計しています。これには2つの大きな価値があります。ひとつは、利用者のネット環境に依存せず、高速かつ快適な体験ができること。もうひとつは、機密性の高いデータをローカルで処理できるため、セキュリティ上の利点があることです。

 

技術的にはRustで実装し、ブラウザ上で高速に動作するようにビルドしています。たとえば、文書の自動チェックやファイル変換などもクライアント側で処理しています。これは、業界内でも非常に珍しいアプローチだと思います。

 

 

ーーそれはエンジニアにとってどのような価値があるのでしょうか?

 

「複雑な処理を、リソースが限られたクライアント環境でいかに実現するか」というのは、非常にチャレンジングな技術領域です。その中で最適化を追求するためには、単純に効率の良いプログラムを組めばよいというわけではなく、ユーザーの利用している姿を実際にみて、その上で最適なユーザー体験を考えながら、ユーザーからは見えない細部や裏側の処理の工夫を施していくといった、本当に様々な工夫が必要になり、これは、本物のプロフェッショナルなエンジニアにこそなせる技だと思っています。

 

そして、そういうこだわりが、最終的に高品質でユーザー様に愛用されるプロダクトにつながると信じています。

リーガルテック業界の課題と、今後求められる方向性は?

ーー続いて、リーガルテック業界の課題について教えていただけますか。

一番の課題は、製品間の違いが分かりにくくなってきていることです。特に生成AIが注目を集めて以降、どのサービスも似たような機能を備えるようになり、外から見たときに差異が分かりにくくなっています。その結果、ユーザーの間で「生成AI疲れ」が起きつつあります。

 

重要なのは、生成AIをただ取り入れるのではなく、「自分たちだからこそ提供できる価値」をどう作るかです。私たちはクライアントサイドでの処理に強みがあり、専用エディターも作り込んでいます。こうした基盤技術と生成AIをシームレスに連携させることで、他にはないユニークな体験を提供できると考えています。

 

どの会社も同じような機能を持つだけでは意味がありません。むしろ、それぞれの企業が自分たちの強みにフォーカスし、個性を発揮していく方が、業界全体としても面白くなると思います。

エンジニアと顧客の距離の近さ

ーー貴社のエンジニアが大切にしている姿勢について教えてください。

エンジニアが自らお客様の声を聞き、その奥にある「本当の課題」を見つけることを重視しています。顧客の要望を文書で受け取るだけでは、どうしても解像度が低くなってしまいます。実際に声を聞き、現場を理解したうえで、「自分たちが改善したい」と思える課題に向き合うことで、モチベーションも高まります。

 

そのため、お客様との打ち合わせにもエンジニアが積極的に参加する文化があります。ただ「作って」と言われるだけの関係ではなく、一緒にプロダクトを育てる仲間でいたいと考えています。

 

 

ーーエンジニアの自発性をどう育んでいるのでしょうか?

 

お客様との打ち合わせやユーザーインタビューなどに同席してもらうこと自体が自発性につながっていますが、他にも輪読会を開催して、私や他のメンバーが良いと思った本をエンジニアやプロダクトマネージャーと一緒に読んでいます。本の内容を元に、今の自分たちと照らし合わせて議論することで、単に「上から言われたからやる」のではなく、「確かにその通りだ」と自ら納得して動けるようになるのが狙いです。

 

輪読会は自由参加ですが、参加した人が社内に波及していくことで、自然と全体に文化が浸透してきたと感じています。

「文書作成を、再発明する。」ビジョン実現にかける思い

ーー最後に、「文書作成を、再発明する。」というビジョンへの思いを聞かせてください。

「文書作成を、再発明する。」というビジョンは、私自身が本当に実現したい目標です。
 面倒で眠くなるような作業と思われがちな文書業務を、もっとクリエイティブで価値あるものに変えたいのです。

 

契約書はビジネスを生むためのドキュメントであり、文書作成はアイデアを伝えるための手段です。その価値を再認識できるような業務改善を、プロダクトを通じて届けていきたいと思っています。

 

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)

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