登壇者はこの方

米山弘恭 氏
株式会社はてな コンテンツ本部第一グループ プロデューサー
生成AIを活用した発話分析ソリューションtoitta(トイッタ)の事業責任者として、開発・セールス・マーケティングを管掌。インターネット広告代理店に新卒入社後、EC事業運営、セールス、広告プロダクトの開発ディレクションに従事。 2017年に(株)はてなに入社。セールス、広告運用業務に従事したのち、プロダクトマネージャーへ転身。はてなブックマークのディレクターを経て2023年より現役職。認定スクラムプロダクトオーナー®。
米山:今回は「アジャイル開発組織におけるKA法実践の意義」について、弊社で運営している発話分析ソリューション「toitta」の機能開発を事例としてお話ししたいと思います。
本日お伝えしたいことは2点です。
- KA法、とてもおすすめです
- KA法「でなくても」発話分析は大事
まずは私のチームで新機能を開発する際に行った、KA法による分析のケーススタディを紹介します。
新機能開発におけるKA法活用
とあるインタビューで聞けた「ご要望」
toittaの開発チームは普段からお客様の要望を数多く聞いているのですが、ある時「複数人分のインタビューデータの横断分析がしたい」との要望がありました。
toittaはインタビューデータを分析する製品なので「ぜひ要望にはこたえたい!」と思ったのですが、このご要望にそのまま沿って開発を進めるにはいくつかの壁が立ちはだかります。
例えばマネージャー視点であれば「事業インパクトはどの程度あるのか」「これをやるのは正解なのか」というWhyの要素があったり、デザイナーからすれば「インターフェースはどうあるべきか」というHowの要素など、顧客の要望を聞いただけではまだまだ足りない、知りたい要素がたくさん出てきました。
これは弊社に限らず、プロダクト開発に携わるチームではよくあることなのではないかと思います。こうした論点を一つ一つ解消していくのは時間もかかるし、人的コストもかかるため、イテレーティブな開発サイクルを維持できない理由になりえます。一方でこのような論点をクリアにするための議論をショートカットして「とりあえず出してみて様子を見よう」とすると、失敗することも多くあります。
もしお客様の要望に沿ったものが提供できなかった場合、それはビジネス上の成果やお客様に届ける価値がゼロであるだけでなく、この機能を開発するまでに費やしたリソースも無駄になるため、ゼロどころかマイナスを生む結果となってしまいます。またアジャイルな開発においてはイテレーションの中で学習できることは非常に重要な要素ですが、なんとなくで意思決定した結果生まれた成果物では、有効な学習もできません。
そこで我々がおすすめしたいのが、本質的価値抽出法と呼ばれている【KA法】です。
KA法(本質的価値抽出法)
KA法は、インタビュー形式の調査から見いだした「出来事」を「心の声」「価値」に変換し抽象化や関連付けを重ねることで、ユーザーの心理における本質的価値を探る分析手法です。
まずは顧客の発話を”出来事”として切り出し、その”出来事”に対して”心の声と価値”という二段階の変換を行ってKAカードを作成します。
このKAカードに対してグルーピングや関連付けを複数回行い、上図のような「価値マップ」を作る手法です。
この手法の特徴は発話を多段に変換した結果である「価値」に基づいて分析していく点にあり、これによって表面的な発話の裏に隠れていた情報や表面的には違うものと思えるような複数データ間の共通点に気づける期待があります。
KA法での分析を経て
冒頭に紹介した「横断分析」についての要望も約8社様から同時に出てきた要望でした。そこで、KA法を用いて「横断分析」が求められている背景と重点事項を探していく分析をチームで行いました。
分析の結果、以下の情報を手に入れることができました。
- 「複数顧客に通底する共通価値」
- 「絶対に落としてはいけない要点+理由」
こういった情報はインタビューの議事録を読むだけでは得られないと思います。
得られた情報をもとに、一度開発中だったプロトタイプを捨て、大幅にピボットを行いました。かなりタフな決定でしたが、分析を通じてお客様の声に深く向き合った結果、全員が経緯をしっかり理解した上で行うことができました。
特に職能横断型・アジャイル志向の開発組織において、大きな方向づけや方針転換を自信をもって行いたいときにおすすめできる手法です。
KA法のすごみは「過程」にも
ここまでご紹介した通り、KA法による分析には以下のような利点があります。
- 明言されていなかった背景・理由・価値を理解できる
- 特に押さえるべき要点を特定できる
- 複数のケースにおいて共通する事項を見出すことができる
それだけではなく、分析を行う「過程」にもメリットがあります。
- 「価値」への変換や抽象化過程で、分析者の主観やバイアスを濾過することができる
- データを深く読み込む過程で、顧客の状況・体験・課題に対する理解を強烈なアハ体験を伴って行える
- グループワーク形式の分析であるため、分析過程で関わるメンバーが共通認識を得ることができる
特に職種を横断して高速に価値を提供していくアジャイル志向の組織では、こうした恩恵を受けやすいのではないかと思います。
ファクトを活かす開発スタイル
おまけになりますが、KA法とは別にやってみて良かった開発スタイルをご紹介します。
toittaでは、せっかく得られたお客様の声である「発話」を資産として持っているため、「別のところでも活かしたい!」と考えました。それを実行に移しているのがtoittaの開発チームです。
toittaチームでは、お客様から承諾をいただけた際には、ミーティングやインタビューを録画しその情報をtoittaを利用してデータ化しています。自分たち自身もいちユーザーとして、お客様からお伺いしたファクトを管理するデータ基盤としてtoittaを利用し、様々な局面でそのデータを活用しています。
例えばKA法での分析を行う際には「miro」のようなホワイトボードツールに書き出したり、バックログを起票する際にデータを引用したり、Google BigQueryを利用した統計的な分析・可視化なども行っています。
この中でも特におすすめの手法が、ファクトデータベースをつくるということです。
プロダクト開発の組織ではプロダクトバックログを利用して開発アイテムを管理することが多いと思いますが、この開発アイテムの企画・検討の中でお客様の発話を素早く参照できるようにし、精度の高い意思決定や素早い合意形成ができるのではないか、と考え、上図のようなフロー構築にチャレンジしています。
まとめ
皆様も日々のお仕事の中でユーザーやお客様と話す機会も多いと思います。
せっかくお客様の貴重な時間を割いてお話を聞かせていただいているので、そこで得られた声はきちんと意思決定や開発に活用されるべきだと考えています。そんなお客様の声に向き合うひとつのアプローチとして、私たちのチームの開発プロセスを題材にKA法による分析とデータ活用の方法を紹介させていただきました。
KA法は職能横断組織において不足しがちな顧客に対する理解を深めることに役立つ手法です。また、この分析を実施する過程にも価値が詰まっています。ユーザーやお客様から得られた声というのはプロダクト開発にとっては宝物です。適切にデータとして保管し、意思決定のスピードや確度を高める後押しになるよう、皆様もチャレンジしていただけたらと思います。
以上で、発表は終わりです。
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