新規サービスの0→1フェーズでオブジェクト指向なUXデザイン【UXデザイン勉強会vol.7/イベントレポート】

登壇者はこの方

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篠崎真由美 氏

パーソルキャリア株式会社 プロダクト統括 クライアントサービスデザイン部 リードデザイナー

2022年2月にパーソルキャリアに入社。 WEB/UIUXデザインを中心に、スタートアップでの新規企画開発やSIerでのデザイン導入支援に携わる。 現在はdoda法人戦略PF新規事業PJでUIUXデザインを担当し、TechとCreativeの隙間で体験設計やプロダクト開発に取り組んでいる。

 

 

篠崎:本日は「新規サービスの0→1フェーズでオブジェクト指向なUXデザイン」というタイトルで以下の2点についてお話したいと思います。

  • オブジェクト指向なデザインとは
  • プロジェクトでオブジェクト指向なデザインプロセスに取り組んだ事例紹介

オブジェクト指向なデザインとは

まずは「オブジェクト指向なデザインとは何か」について話したいと思います。ざっくりいうとユーザーの目的・対象を起点に設計する思想です。

日常の中で行っている行動と同じような設計をしようというのがオブジェクト指向なデザインであり、ユーザーが直感的に操作できるiPhoneもオブジェクト指向に設計されていると言われています。

タスク指向との違い

対比としてあげられるのが行動から始まる「タスク指向」です。
デザイナーにはあまりなじみがないかもしれませんが、コマンドベースの入力UIがタスク指向で設計されていて、グラフィカルUIはオブジェクト指向で設計されている、と言えばわかりやすいと思います。
オブジェクト指向の利点は情報構造がシンプルで操作もシンプル、学習コストが低くて直感的に使えるといわれています。

有名なオブジェクト指向デザインプロセス

OOUI

有名なオブジェクト指向なデザインプロセスとして「OOUI」が挙げられます。

OOUIでは与件を以下の3つのステップで整理していきます。

・モデル 
 オブジェクトの抽出

 

・インタラクション
 ビューとナビゲーションの検討

 

・プレゼンテーション
 レイアウトパターンの適用

ユーザーの要求事項をオブジェクト起点で解決へ導いていく方法論として、私個人としてもメリットを感じています。

OOUX

もう一つ有名なデザインプロセスとして「OOUX」があります。

こちらは、ユーザーのメンタルモデル内のオブジェクト(製品、チュートリアル、場所)の観点からシステムについて考える方法となっています。

OOUXは以下のように整理する方法です。

・オブジェクト
 目標からオブジェクトを抽出する

 

・属性
 オブジェクトのコアコンテンツを定義する

 

・関係性
 相互リンク用にオブジェクトをネストする

 

・アクション
 ランキングを整理

OOUI、OOUXともに細かいやり方には違いはあるものの、どちらもユーザー視点のオブジェクトにアプローチするという思想や進め方に違いはなく、全体像の可視化や構造化が必要な時にはどちらのプロセスもパワーを発揮します。

「doda CONNECT」で取り組んだ事例

ここからは実際にオブジェクト指向なデザインプロセスに取り組んだ事例として「doda CONNECT」で取り組んだ事例をご紹介します。

「doda CONNECT」は、「doda」と顧客である企業の人事担当者が継続的につながり続ける関係の構築を目指し、新規サービス・プロダクトの開発を行っています。

ただ0→1というのは仮説に仮説を積み上げるため、不確実性が高く、全体像が見えにくいまま開発が進んでいきます。

そこで、不確実性が高い時こそOOUI/OOUXプロセスの力を使って全体像・ゴールイメージを図に表すことで可視化していきました。

ここからは実際にどういったデザインプロセスを進めていったかをお伝えします。

【仮想PJ】人事担当者お助けヒミツ道具サービス

※仮想PJでご紹介させていただきます。

サービスコンセプト
・自社の採用活動にお悩みをもつ人事担当者に、悩みを解決するヒミツ道具を提供するサービス

 

ターゲット課題
・採用活動が難航し打ち手に悩む人事担当者

 

提供価値
・doda秘伝のヒミツ道具でお悩みをダイレクトに解決

プロジェクト体制

この仮想プロジェクトの企画・開発フローは以下の通りです。

1.企画
 「ヒミツ道具で人事のお悩みを解決しよう」
2.要求整理
 「誰にどんなヒミツ道具が必要とされているか整理しよう」
3.要件定義
 「ヒミツ道具を提供するために必要なものは」
4.開発・製造
 「提供プロダクトを実際に作る」

 

この中でオブジェクト指向デザインプロセスを取り入れたのは【2.要求整理】から【3.要件定義】のインプット部分で、以下のフローで進めていきました。

 

  1. アクティビティフローの検討
  2. コンテンツ要素・機能要件の検討
  3. カスタマージャーニーマップ作成
  4. オブジェクトマッピングとキースケッチ
    a.カスタマージャーニーマップがどうキースケッチにつながるか
  5. 要求定義〜要件定義へ〜

特に4.オブジェクトマッピングとキースケッチの部分がここでの主眼になるため厚めにご説明します。
まずはアクティビティフローの検討です。

アクティビティフローの検討

doda既存サービスの提供側からみたユーザーとシステムの関係性を洗い出したアクティビティフローを確認してターゲットユーザーに必要なヒミツ道具を洗い出しました。

コンテンツ要素・機能要件の検討

ここではユーザーの理想体験を実現するために必要なコンテンツ・機能を発散して優先順位をつけて課題解決につながりそうなヒミツ道具を決定します。

カスタマージャーニー作成

 

オブジェクトマッピングとキースケッチ

その後、理想の体験と構造を一致させゴールを可視化させます。ここでOOUI/OOUXのパワーが発揮されていきます。

言い方を変えると「〇〇できる価値」をオブジェクトでUIに落とし込むという行程です。手順としては下図の左から右へ進んでいきます。

カスタマージャーニーマップにはユーザー行動や提供価値など体験設計の要素が詳細にまとめられています。その要素群からオブジェクトを1つ1つ抽出していきます。オブジェクトが抽出できたら「このオブジェクトとこのオブジェクトは同じものを指しているかもしれない」「これとこれは別物だが太い繋がりがありそうだ」という感じで関係性を整理していきます。
そして、これは絶対に体験として外せない!というコアオブジェクトを整理してオブジェクト同士のインタラクションを検討していきます。

ここで気をつけたいのは精緻な情報設計にこだわらないことです。

最後は画面設計が入ってくるので細かいUI設計をしたくなるのですが、実際に使うとなるとターゲットが使うデバイスの制約やシステム要件が発生します。結果として体験設計で洗い出したオブジェクトがそのままUIに出せるかというと、そうでないことが多いです。

この段階ではあくまで体験を構造化してゴールイメージにつながっているかを重視しています。

要求定義〜要件定義へ

そして要求定義から要件定義を行っていきます。

前段のフローでOOUI/OOUXのパワーを発揮することにより、体験設計、体験構造化、ゴールイメージという3つの共通認識が醸成されていきます。メンバーはそれぞれの担当領域でこの共通認識をもとに要求整理〜仕様検討をしていき各種設計につなげていくことが可能になります。もともと同じゴールイメージをもっているのでインプット、アウトプットはスムーズに進むと思います。

結果としてステークホルダー全員で品質の高い共通認識を醸成することができ、不慮の手戻り低減が実現され、短いタイムラインで体験価値をユーザーに届けることができました。

実際の期間としては2024年の3月からチームが作られて4月にはカスタマージャーニーの作成、6月には要件定義を行い開発を進めていたのでパーソルキャリアでこの規模感の案件にしてはかなり早いほうだったと思います。

オブジェクト指向なデザインプロセスのまとめ

全体像が見えにくい状況でもオブジェクト指向なデザインプロセスであればゴールイメージが想像しやすく、体験価値に焦点をあてた検討を進めることができます。
そのためには精緻な図解化にこだわりすぎず、共通認識の醸成・合意形成を大事にすることが必要です。それができればプロジェクトメンバー全員が同じ目的を見続けることができるので、とてもよいデザインプロセスだと思います。

以上で、発表は終わりです。


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