こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、MI-6株式会社 入江さんです!MI(マテリアルズ・インフォマティクス)業界の動向やその業界ではたらくエンジニアの特徴などを入江さんに聞いてみました。

入江 満 氏
取締役
東京工業大学・大学院(現:Science Tokyo)においてバイオインフォマティクスを専攻。政策コンサルティング会社、ITベンチャーを経て、当社共同創業。MIを基軸にした解析サービスおよびプロダクトの開発を牽引。現在は事業・プロダクト・R&Dの責任者として執行全般を統括。
- MI(マテリアルズ・インフォマティクス)とは?データサイエンスとAIで進化する材料開発
- MI技術が広がる背景
- MIが直面する導入の壁とは
- MI普及を支える戦略
- 多彩なエンジニアが集うMI開発
- MIを普及させ、研究開発を革新する
MI(マテリアルズ・インフォマティクス)とは?データサイエンスとAIで進化する材料開発
ーーまずは、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)について教えていただけますか。
入江:マテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics, MI)とは、研究開発において蓄積されたデータ(化合物構造、物理的特性、製造プロセスなど)をAI技術(機械学習・ディープラーニングなど)を駆使して分析することで、材料や製品の開発プロセスを革新し、より優れた材料や製品の発見・設計を可能にする手法です。簡単にまとめると、メーカーが求める特性や物性を持った材料を迅速に開発し、世の中に提供することを目的としています。
材料開発において日本は豊富なノウハウや知見がありますが、それらのデータの再利用が進んでいないという課題があります。これに対し、データサイエンスやAIを活用してノウハウや知見をデジタル資産として再利用するために活動しています。
ーーMIという技術は以前からあったのでしょうか。
2015年頃までは、主にアカデミアにおいて利用されていました。情報科学の研究者が材料科学の研究者と協力し、情報科学の手法を用いて材料科学の課題を解決しようとしていたのです。しかし、2015年から2020年頃にかけての深層学習ブームにより、これらの技術をより使いやすくするための基盤が整備され、情報科学者以外の研究者も広くMIの恩恵を受けられるようになってきました。
当時は、化学メーカーの研究者の中にも「MI」という言葉を知らない人がいるほどで、まだあまり広く知られていませんでした。しかし、徐々にその概念が浸透し、現在ではかなり普及してきています。ただし、まだすべての研究者がMIを活用しているわけではありません。一部のアーリーアダプターが自らの材料研究に取り入れ、その効果を検証しながら、組織内への展開を進めている段階です。
MI技術が広がる背景
ーーMIが徐々に普及しているのは、どのような背景があるのでしょうか。
普及の背景には、オープンソースの活発化により、情報科学者以外の人も使えるようになったことが挙げられます。また、材料業界で求められる要求が強まっていることも一因です。以前は、材料メーカーは高品質な材料を大量に生産することが最も重要でした。そして、その高品質な材料をメーカーがさまざまな製品に組み込むことで、製品自体の価値が向上していました。
しかし現在では、従来の品質に加えて、さまざまな特性が求められるようになっています。たとえば、電気を通さない材料に導電性を持たせたり、水を完全に遮断する性質を加えたり、耐火性を高めたりといったように、既存の材料に新たな機能を付加するニーズが高まっています。このような変化に対して、研究者がより迅速に対応することが求められており、その手段としてMIが注目されるようになってきました。
ーーMIとAI技術の関係について教えていただけますか。
MIは、AI技術を材料開発向けに最適化したものです。なぜなら、AI技術(例えば自然言語処理)をそのまま材料開発に使うことは難しいからです。例えば、「ナイロン」という材料名だけでは、それがどのような物質なのか分かりません。
そのため、「ナイロン」という材料名を具体的な構造情報に変換する技術が必要です。材料を構造情報に変換することで、他のさまざまな材料も同じ基準で扱うことができるようになります。こうして同じ基準で扱えるようになると、LLM(大規模言語モデル)などのさまざまなAI技術を適用できるようになります。
MIが直面する導入の壁とは
ーーこの業界の今後の動向についてどのように予測されますか。
現実と私たちの希望が混ざった回答になりますが、ベースとなるシステムは、システム構築の手間がかからず、簡単に使えるもの、たとえばSaaSのようなものが普及すると考えています。そして、その後カスタマイズ性を求めるユーザーが増えてくると予測しています。
普及にあたっては、乗り越えるべき壁も存在します。たとえば、メールソフトは従来の手紙のやりとりを電子化したものであり、分かりやすく導入もしやすいツールです。
一方で、MIは既存のSaaS製品のように、これまでの業務プロセスの中にそのまま組み込めるものではありません。従来にはなかった新しいアプローチであり、ソフトウェアやAI技術がどれほど進化しても、それを活用するには業務プロセス自体を見直す必要があります。そのため、組織全体での変革が求められ、導入には大きな労力が伴うのです。
MI普及を支える戦略
ーー「乗り越えるべき壁」に対してどのように対応しようとお考えでしょうか
私たちが特に力を入れているのが、カスタマーサクセスです。どれほど優れたソフトウェアを開発しても、「ぜひ使ってください」と伝えるだけでは、実際に使ってもらえるとは限りません。まずはユーザーに実際に使ってもらい、さらにその中で成果を実感してもらえるようサポートすることが、普及につながると考えています。
また、研究者や実験担当者の立場に立ったUX(ユーザーエクスペリエンス)の設計も、プロダクト開発において非常に重要だと感じています。よくあるデータサイエンスやMIのツールは、情報科学者の視点で設計されていることが多く、現場の研究者や実験者にとっては使いづらいケースもあります。だからこそ、誰にとっても直感的に使える、現場に寄り添ったソフトウェアであることが重要だと考えています。
多彩なエンジニアが集うMI開発
ーーMI業界では、どのようなエンジニアが活躍できるのでしょうか。
私たちは、さまざまな分野のエンジニアが活躍できる可能性があると考えています。たとえば、弊社内に存在するポジションとして、まずWebエンジニアが挙げられます。フロントエンドやバックエンドのエンジニアが在籍しており、MIツールとしてユーザーに使ってもらうためのアプリケーションを開発しています。
さらに、Webエンジニアに加えて、機械学習の実装やその応用に特化したマシンラーニングエンジニアのチームもあります。また、実装は行わないものの、新しいアルゴリズムの研究や事前検証を担うマシンラーニングのリサーチチームも存在します。リサーチャーは実装からはやや距離がありますが、エンジニアリングの素養も求められる役割です。
加えて、システムの安定稼働やスケーラビリティを支えるSRE(Site Reliability Engineering)エンジニアも欠かせません。
このように、一言で「エンジニア」と言っても、その役割やスキルセットは多岐にわたっており、それぞれが異なる視点からプロダクト開発に貢献しています。
MIを普及させ、研究開発を革新する
ーー最後に今後の目標について教えてください。
私たちのミッションは、MIの普及を通じて研究開発を革新することです。具体的には、社会や製造業が求める特性や物性を持つ材料を、より迅速に開発し、タイムリーに市場へ提供することを目指しています。
その実現に向けて、まずはSaaSプロダクトとして汎用的なツールを開発し、多くの方に使っていただくことで、その価値を実感してもらうことからスタートしています。そしてその先には、より高度な活用方法へと展開していくことを視野に入れています。
以上がMI-6株式会社 入江さんのインタビューでした。
ありがとうございました!
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)
▼CTOインタビューのバックナンバーはこちら