こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、株式会社グリッド CTO 梅田さんです!インフラ業界の動向やその業界ではたらくエンジニアの特徴などを梅田さんに聞いてみました。

梅田 龍介 氏
株式会社グリッド CTO /執行役員
東京大学マテリアル工学科、東京大学大学院システム創成学専攻卒業。グローバル石油会社にて現場の安全リスク管理を担当。留学で統計分析スキルを身につけ、データの取得から計算、解釈の経験を積む。現在は、主に電力最適化プロジェクトをリードし、業界内で重電メーカーの独占状態だった需給計画最適化の社会実装に導く。チームメンバーからの信頼も厚く、エンジニアリング部長として会社全体の技術力向上および組織作りにも力を注いでいる。
ーーはじめに「インフラ業界」について教えていただけますでしょうか。
梅田:「インフラ」という言葉は広義であり、受け取る方によってさまざまな解釈をされると思います。今回は私たちが注力領域としている「電力・エネルギー」「物流・サプライチェーン」「都市交通・スマートシティ」の3つをお話したいと思います。 それぞれの領域には異なる課題が存在します。
まず「電力・エネルギー」に関しては、日本は資源に乏しく、自国内での発電燃料の海外依存度が高いという根本的な社会課題を抱えています。そのため、限られた資源をいかに効率的に活用するかが重要となります。
次に「物流・サプライチェーン」については、日本は海外からの資材輸入が不可欠であり、海上輸送が盛んです。陸上輸送も含めると、輸送全体の規模が大きいため、効率的な配送が求められますし、CO2排出の問題もあります。物流を効率的にせず、無計画に輸送を行うと、国の経済力にも影響を及ぼす可能性があり、輸送の最適化が求められます。
最後に「都市交通・スマートシティ」では、鉄道や道路といったインフラは産業の基盤として整備する必要があり、この分野においても社会的課題がたくさん存在しています。
これら3つの課題解決に共通するキーワードは「最適化」です。私たちは、テクノロジーを駆使した最適化の提案を基本姿勢としています。この最適化技術は、各業界の課題を解決する手段として活用できますが、近年のDXや機械学習の進化により、その重要性はさらに高まっています。その流れに乗り、同業他社も次々と参入してきています。
現場とテクノロジーが共に支えるインフラへ
ーーテクノロジー活用の重要性が高まっているとのことですが、どのような転換点があったのでしょうか?
他の業界と比べるとインフラ業界のテクノロジー活用はやや遅れている印象です。原因としてはインフラ業界の会社規模の大きさと「現場」をもっている点が大きいと思います。
日本の現場ではたらく人々は非常に優秀です。長年経験を積まれている方が現場を支えているので、テクノロジー活用を積極的にするという点においては、課題を相対的に感じづらいのだと思います。
しかし、ベテラン社員もいずれは引退を迎えます。さらに、業界全体で人材不足が進んでいるため、人材不足を補う手段としてシステムによる効率化が急務となっています。
この動きが、技術導入のきっかけとなっているのは間違いありません。私たちは、その流れを受けて最適化技術の導入を推進してきました。
「電力 × テクノロジー」で、電力供給の最適化を実現する
ーーインフラ業界における「最適化」とはどのような技術なのでしょうか。
例えば、電力会社は日々電気を生み出していますが、その手段は多岐にわたります。特に、太陽光発電のように人が完全にコントロールできず、外的要因の影響を受けやすい発電方式もある中でも需要に応えていく必要があります。
その際、「どの発電手段を選択すべきか?」という課題が生じます。しかし、電力システムは巨大かつ複雑であり、「この発電機を使いたいから、1時間だけスイッチを入れる」といった、電球をパチパチon/offするように単純には扱えません。例えば、「この発電機を稼働させると、明日まで使い続けなければならない」「しかし、明日までこの発電機を使うのなら、明後日はこの発電機は使えない」といった、まるであちらを立てればこちらが立たずのような状況が日常的に発生します。
こうした課題を恒久的に解決するのが、最適化技術です。 イメージとしては、これまで現場の作業員が経験をもとに、無数の選択肢から最適解を導き出していた属人的なプロセスを、自動化する技術ともいえます。無限に近い選択肢の中から最適な選択肢を自動的に見つけ出す。そのプロセスを効率化・自動化する技術として捉えていただければと思います。
ーー業界に対して最適化技術はどのくらい浸透しているのでしょうか。
以前に比べると浸透しつつあると感じています。私たちが初めて案件を受注したのは、約4年前です。当時は電力会社で私たちの最適化技術が採用されたケースはほとんどなかったのですが、今では受け入れられつつあるので着実に変化を感じています。
しかし、まだまだこれからというのが正直なところです。何事にも言えることかもしれませんが、危機感がもっとも変化を促進します。
電力不足の問題は国全体で危機感を共有しており、その影響もあって少しずつではありますが、確実に変化が進んでいると感じています。
ーー今後、最適化技術は社会にどのような影響をもたらすとお考えですか?
これまで十分に手がつけられてこなかった分野なので、今後も取り組むべき課題はますます増えていくでしょう。その意味で、最適化技術の分野は成長途上のジャンルであり、この業界に携わること自体が大きな魅力や楽しさにつながると感じています。
技術的な視点で言えば、近年の機械学習ブームにより、さまざまな企業が導入を進めています。しかし、「未来を予測できるようになったものの、その結果をどう活用すればよいのか?」という課題に直面するケースが増えています。
この課題に対し、予測結果を基に何をすべきかを判断し、システムや生産の効率を最大化するために最適化技術を適用することで、一気に解決へと導くことができます。そのため、最適化技術の活用は今後ますます拡大していくと考えています。
AI技術の発展が、最適化ビジネスの成長を加速させる、まさにそんな未来が見えてきています。
“最適化エンジニア“は希少な存在
ーー業界で活躍できるエンジニアには、どのような知見が必要になってくるのでしょうか。
まず重要なのは、お客様の業務を深く理解する力です。例えば電力会社の場合、発電機の種類や特性を正確に把握することが求められます。また、多くの選択肢の中から最適なものを取捨選択する際には、現場の技術者の思考の理解が問われます。
機械学習を活用すれば、ある程度の絞り込みを行い、不適切な選択肢を除外することも可能です。また、有望な選択肢が見つかった際には、その周囲に別の最適な方法が潜んでいる可能性が高いため、そこからさらに探索を進めるアプローチも有効です。
しかし、テクノロジーに完全に頼るのではなく、現場の作業を理解するプロセスにおいては、洞察力や理解力も必要となってきます。この点は、物流や交通インフラなど、他の業界でも共通しています。
当社のエンジニアをあえて“最適化エンジニア”と名付けるとすると、そのようなエンジニアは日本にはまだ多く存在しません。それだけ希少な存在だと考えています。
一般的なデータサイエンティストと違いが見えづらいですが、最適化に特化している点が大きな違いです。データサイエンティストは、ディープラーニングや統計学を用いて予測したり、事象を解き明かすことを主な役割としていますが、最適化エンジニアとはアプローチが異なります。
とは言うものの、データを扱うと言う点では共通しており、データサイエンティストとしての経験があれば、“最適化エンジニア”の仕事には比較的スムーズに移行できるのではないかと考えています。
経済的な効果がダイレクトに実感できる
ーー最適化技術に携わるエンジニアにとっての魅力ややりがいは、どのような点にあるのでしょうか?
関わっているプロジェクトの費用対効果がわかりやすい点が挙げられると思います。例えば年間で100億円の燃料費がかかっているところを、最適化によって80億円で達成できるとわかれば、その差額の20億円が直接的な経済効果として示せます。
機械学習技術では「予測精度が数パーセント向上しました」と言われても、それが具体的にどのような経済効果をもたらしたのかを算出するのは難しく、実際のインパクトを理解するまでに時間がかかります。
それに比べると、最適化技術は成果がシンプルに数値化でき、ダイレクトな効果が見えやすい点が魅力です。その分、やりがいを感じやすいと思います。
ーー皆さんは、どのような想いを持って、貴社に集まってくるのでしょうか。
さまざまなテクノロジーを活用したいという想いを持ってる人が多いです。当社では機械学習はもちろん、量子コンピューターの技術も取り入れており、幅広い最先端技術に触れられる環境があります。
また、「インフラ業界でAIを活用したい」という想いから入社する人も少なくありません。インフラ業界では、他業界に比べてAI活用がまだ進んでおらず、企業内で導入を進めようとしても、実現までに多くの時間がかかることが課題となっています。そのため、こうした業界の課題感を持つ人が、よりスピーディーにAIを活用できる環境を求めて転職し、自らのスキルを活かそうと考えるケースが多いのではないでしょうか。
さらに、自らのルーツとなる業界に対し、「恩返しをしたい」という強い想いを持つ人も少なくありません。実際に、私自身も元々は石油会社に勤めていましたが、テクノロジーを活用して業界に貢献したいという想いからグリッドへ転職しました。
ーーやはり業界未経験者にとって、この分野は難しい領域なのでしょうか?
必ずしもインフラ業界出身者に限っているわけではありません。人材要件として重視しているのは、数学の素養ですね。最適化技術自体は大学で教わる学問ですが、どちらかというと数理系の学部が教えることが多く、そういった素養を持つエンジニアはポテンシャルがあると思っています。
また、私たちは「システムとして納めること」に重きを置いており、単なる構想や「できそう」という段階にとどまらず、実際にお客様が操作できるシステムとして提供することを重視しています。
そのため、ソフトウェアエンジニアとしてのスキルが非常に求められており、システム開発の視点を持ったエンジニアの役割はますます重要になっています。
ーー最後に、エンジニア読者へメッセージをお願いします。
これまでは最適化を進める際、「データはありますか?」「予測はできていますか?」といった確認が必要でした。しかし、現在では「データも予測もすでに揃っていますね」という状況へと変わりつつあります。
データの予測精度が向上し、ビッグデータも蓄積されるようになったことで、最適化技術を活用するための土壌が確実に整ってきています。
そうなると “では、次はデータを活用して最適化をする”という時代になっていくと思いますが、まだメジャーではないため、需要と人材供給にギャップがあるはずです。
そういった意味でも、最適化技術は今後さらに求められる重要な領域となっていくでしょう。ぜひ、この分野に注目していただければと思います。
以上が株式会社グリッド CTO 梅田さんのインタビューでした。
ありがとうございました!
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:株式会社PalmTrees / 編集:TECH Street編集部)
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