こんにちは!TECH Street編集部です。
連載企画「ストリートインタビュー」の第54弾をお届けします。
「ストリートインタビュー」とは
TECH Streetコミュニティメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。
企画ルール:
・インタビュー対象には必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。
“今気になるヒト”sakitoさんからのバトンを受け取ったのは、株式会社microCMS CXO 柴田 和祈さん。
ご紹介いただいたsakitoさんより「microCMSの柴田さんをご紹介します。microCMSを立ち上げた方ですが、もともとヤフーで働いていた時の同僚です。柴田さんには、会社をつくる中でやってよかった点と失敗したなという点をエンジニア視点で語っていただきたいです。エンジニアが会社を作って成功させたのは珍しいと思うので、ぜひお聞かせいただければと思っています。」とご推薦のお言葉をいただいております。

柴田 和祈 氏
株式会社microCMS CXO (Chief Experience Officer) / 取締役
慶應義塾大学を卒業後、ヤフー株式会社にデザイナー入社。広告事業に約5年半従事し、フロントエンドエンジニアとしても経験を積む。2017年に株式会社microCMSを共同創業し、現在は組織作りや事業戦略作りがメイン。
著書「Next.js+ヘッドレスCMSではじめる! かんたんモダンWebサイト制作入門」。
ーーまずは、現在の柴田さんを形作る原点をお聞かせください。
柴田:新卒で、ヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)のデザイナーとして入社しました。ヤフーを志望した理由は、多くのユーザーに自分が作ったものを届けたいという思いがあったからです。また、ものづくりが好きで、見た目やデザインに関わる仕事がしたいと考えていました。ヤフーへの入社が、今の私を形作る原点となったと思います。
入社後の最初の1年間は、デザインについて学ぶ研修がありました。ヤフーの研修はとても充実しており、デザイナーとしての基礎知識を一から学ぶことができました。
広告入稿管理画面のデザイン開発と社外への広がり
ーーヤフーでのご経験について、お聞かせください。
入社して2〜3年目に、広告入稿の管理画面のデザイン開発を担当するチームに配属されました。 その後、大きな転機となったのは、中途入社の方がチームに加わったタイミングです。
その方は社外とのつながりが強く、さまざまなイベントに参加している方でした。最新の技術やトレンドに詳しく、業界全体の動向にも精通していたのです。
ヤフーでは、社内独自の技術や体制が非常に充実しており、そのおかげで業務を円滑に進めることができていました。そのため、私はそれまで外部の情報を積極的に収集することがなく、同僚の影響で初めて外の世界に触れたときは大きなカルチャーショックを受けました。
この経験をきっかけに、私自身も社外のイベントに参加するようになりました。さらに、自ら登壇にも挑戦するようになったのです。
登壇すると、イベントに参加しているエンジニアの方々から声をかけてもらう機会が増え、人脈が広がっていきました。そこから新たな知識を得ることもでき、まさに「人とのつながりが学びにつながる」ということを実感しました。
また、登壇するためには発表内容について深く理解していなければなりません。中途半端な知識では質問に答えられないため、自然と技術について深く学ぶ習慣が身につきました。 「学習する → それを発信する」というサイクルを繰り返すことで、さまざまな人とつながり、知識を広げていくことができたのは、大きな成長につながったと感じています。
個人開発からチーム開発、そして起業へ
ヤフーでエンジニアとして働きながらも、もともとものづくりが好きだったこともあり、プライベートでは個人開発をしていました。 学ぶだけではなく、実際に自分で手を動かしてみないとわからない部分も多いため、個人開発は新しい技術を試す場として活用していたのです。
社内にも私と同じように個人開発をしている仲間がいて、プライベートで交流を深めるうちに、一緒にチームを組んでサービスを開発するようになりました。 そして次第に、「起業したほうがもっと面白いのではないか」と考えるようになり、30歳を迎えるタイミングで大きなチャレンジとして起業することを決意しました。
ーー起業を決意された際、不安や恐れはなかったのでしょうか?
プライベートな話になりますが、ちょうど2人目の子どもが生まれた時期に起業しました。 そのため、周囲からは「本当に大丈夫なのか?」と心配されることも多かったです(笑)。
しかし、勢いがないと起業はできません。 一緒に起業したメンバーも家庭があり、子どもがいる状況だったため、「給料は絶対に下げない」「資金が尽きたら潔く辞める」という条件を決めてスタートしました。
実際に起業してみると、最初に開発したサービスは全く当たらず、リリース前にピボットすることになりました。アイディアはいくつもあったので、すぐに別のサービスの開発に取り組みましたが、それも思うようにいかず……。結果的に、約10個のサービスを立ち上げては、うまくいかないという試行錯誤を繰り返しました。
さらに、途中でサービスが炎上したこともあり、資金も1年ほどで底をついてしまいました。「いよいよ解散か……」と覚悟したタイミングで、受託開発の仕事を得ることができ、なんとか生き延びることができました。
microCMS誕生の裏側:受託開発の過程から生まれた発想をもとに誕生したサービス
受託開発の仕事を続けながら、さまざまなサービスを開発していく中で、「microCMS」というサービスが誕生しました。
きっかけは、仮想通貨のアプリを開発していた際にクライアントから受けた依頼でした。クライアントから「アプリユーザーに向けたお知らせ機能を作りたい」という要望があったのです。
当時、私たちはフロントエンドの開発を担当し、バックエンドは別の会社が担当していました。私たちのチームが担当したフロントエンドの画面は3日ほどで完成しましたが、バックエンド側でお知らせを入稿する管理画面を作るのに3ヶ月ほどかかっていました。
この経験から、「バックエンドの開発にはどうしても時間がかかる。それなら、もっと簡略化し、汎用的なサービスとして提供できないだろうか?」と考えるようになりました。
そこで、「入稿画面」「データベース」「API」が一体となったサービスを作れば、バックエンド開発の負担を大幅に減らせるのではないかと発想しました。こうして生まれたのが、ヘッドレスCMSである「microCMS」です。
事前登録でニーズを検証し、microCMSの開発へ
実際にサービスを作り始める前に、「このようなCMSを開発しました。気になる方はぜひ事前登録をお願いします」 というランディングページ(LP)を用意し、事前登録の数を指標としてニーズを測ることにしました。
すると、microCMSには100件以上の事前登録が集まり、「これはいける!」と確信して、正式に開発をスタートしました。
2019年にリリースしてから5年半が経過しましたが、順調に成長を続けています。 広告を大々的に打つのではなく、口コミを中心に広がっていきました。
特に、カスタマーサポートを丁寧に対応することを心がけ、プロダクトの更新情報を定期的に発信し、ドキュメントを整備するなど、地道な取り組みを続けてきました。リリース当初の約2年間は、創業メンバー2人でコツコツと対応を続け、その結果、徐々に認知が広がっていったという実感があります。
海外市場とビジネス強化へ:microCMSの次なる挑戦
ーーこの先のビジョンについてお聞かせください。
microCMSを一本で運営し、5年が経過しましたが、今後もやりたいことはたくさんあります。
現在、お客様からの要望をすべてBacklogのような形で蓄積し、優先度をつけて開発を進めています。 すでに500件以上の要望が貯まっており、順次対応している状況です。 このプロダクトはまだまだ進化できると考えており、将来的には海外市場にもチャレンジしたいと考えています。
また、事業の拡大に伴い、人材の増強も進めています。 microCMSはエンジニア向けのサービスであるため、エンジニアの採用は比較的しやすいですが、今後はビジネス面の強化も必要だと考えています。
そのため、名古屋に本社を構える「株式会社エイチーム」とM&Aを実施しました。これにより、ビジネス系の人材も加わり、さらなる成長を目指せる体制を整えているところです。
ーー柴田さんをご紹介してくださったsakitoさんからのご質問です。
「エンジニア出身である柴田さんが、会社を創業して、特によかったと感じることは何ですか?」
自分たち自身でモノを作れる、というのは非常に大きな強みです。もし私がエンジニアでなければ、開発のためにエンジニアを雇う必要があり、初期コストも大きくなっていたと思います。エンジニアだけのチームであれば、必要最小限のリソースでプロダクト開発をスタートできるため、物理的・経済的なメリットが非常に大きいと感じています。
また、実際に起業してみてわかったのは、最初から当たるプロダクトを作るのは本当に難しいということです。その点、エンジニアであれば、たとえ自社サービスが思うようにヒットしなかったとしても、受託開発などで収益を確保することができます。 これは、開発を継続する上で非常に重要なポイントです。
キャッシュを維持しながら開発を続けられるというのは、エンジニア出身の起業チームならではの大きな強みだと実感しています。
ーーありがとうございました。最後に、これからの時代にエンジニアとしてどのように立ち回るべきか、読者に向けてメッセージをお願いします。
キャリアアップの観点から言うと、業界全体にアンテナを広く張ることが大切だと考えています。特に、外部に向けて積極的に発信することは、成長の大きなきっかけになります。
ただし、重要なのは、実力をつけ、価値のある仕事をすることです。「目立つことや発信すること」が目的にすり替わってしまうと、本質的な成長につながりません。まず目の前の業務にしっかり取り組み、確かな実績を積んだ上で外部活動を行うというバランス感覚が大切だと思います。
私は採用の責任者も務めていますが、非常に優秀で「ぜひ一緒に働きたい」と感じる方と出会うことがよくあります。しかし、そういった方の中には、外部に向けた発信をほとんど行っていないケースもあり、結果として様々なチャンスを逃してしまっている可能性があると思います。
そのため、自分の存在を外部に知ってもらうための発信活動は重要だと考えています。例えば、まずはブログ記事を書いてみるだけでも十分な一歩です。自分の知識や経験を共有することで、思わぬチャンスにつながることもあります。
ーー貴重なお話をありがとうございました。それでは、次回の取材対象者をご紹介いただけますか。
私の後輩にあたるしまぶーさんをご紹介します。彼は技術に対するこだわりが強く、常に最新の情報を自ら取りに行き、それを自分の言葉で丁寧に発信しています。フォロワー12万人以上のエンジニア系YouTuber活動も行っており、「まさかり」などにも彼は臆することなく、積極的に自分の意見を発信していて、本当にすごいと思っています。
以上が第54回 株式会社microCMS 柴田 和祈さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のストリートインタビューもお楽しみに。
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)
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