こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、クラウドエース株式会社 CTO 髙野さんです!クラウド業界の動向やその業界ではたらくエンジニアの特徴などを髙野さんに聞いてみました。

髙野 遼 氏
クラウドエース株式会社 取締役 CTO
都城工業高等専門学校卒業後、富士通株式会社に入社。社内SEとして、プライベートクラウドシステムの開発に携わる。 退職後、吉積情報株式会社に入社し、Google App Engine による多数のシステム開発を行う。フリーのITコンサルタントを経て、クラウドエースに参画。 現在は Google Cloud コンサルタント・Google Cloud認定トレーナーとして活動中。
- クラウド技術のコモディティ化
- 生成AIによる影響
- WHAT(何をするか)の発想と提案が重要
- クラウド利用者側の「ハードル」とは
- クラウド移行の増加とコストの課題
- 生成AIを用いて仕事のスピードを意識することが重要
ーーまずは貴社のご紹介、およびクラウド業界の動向からお聞かせください。
髙野:クラウドエース株式会社の紹介を簡単にさせていただきます。クラウドエースは、Google Cloudに特化したシステムインテグレーターです。Google Cloudの導入支援や運用・保守、コンサルティング、システム開発などを提供しています。次に弊社からみた、クラウド業界の動向について、「コモディティ化」と「生成AI」による観点からお話したいと思います。
クラウド技術のコモディティ化
クラウド技術が広まりつつあった当初は、クラウドエンジニアリングのニーズはありましたが、実際にスキルを持った人材は市場に不足していました。
しかし最近では、クラウドエンジニアリングがコモディティ化してきて、何かシステムを作ると言った際にクラウドを使うのは当たり前になっています。そのため、クラウドエンジニアリングスキル自体は「できて当たり前のスキル」となっており、その希少価値は以前よりも下がっていると感じます。そのため、よりアディショナルな価値提供を求められる状況になりました。
一方、コモディティ化の良い面としては、クラウドネイティブなエンジニアの活躍できる場が増え、どこでも仕事ができる働き方が増えたことだと思います。
生成AIによる影響
また、この業界動向を語る上で「生成AI」の影響は無視できません。ポジティブな面としては、生成AIによるテクノロジーで新しい市場を切り拓く可能性があります。一方、ネガティブな面としては、知的労働の代替としては非常に脅威であると思っています。
例えば、私たちクラウドエースではこれまで「新しいシステムを作りたい」などのお客様の要望に対して、「クラウドでどのように応えるか」を得意としてきました。つまり、「WHAT(何をするのか)」に対する「HOW(どのように)」をお客様に提供してきたのです。
ところが生成AIの登場によって、生成AIで高いレベルの「HOW」を提供することが可能になりました。そのため、シンプルなテクノロジーコンサルティングだけでは、生成AIに代替されてしまう状況になりつつあると考えています。
WHAT(何をするか)の発想と提案が重要
ーーそのような状況下でクラウド企業(クラウドインテグレーター)としては、どのような対応が求められるのでしょうか。
これまでは「HOW(どのように)」をお客様に提供していましたが、これからは「WHAT(何をするか)の発想と提案」が重要だと思います。
最近あった興味深い事例としては、社内のシニアコンサルタントがエンタメ系のお客様に対して提案書を作りました。それに対して社内の若手エンジニアが「こうした方がよいのではないか」と意見し、提案内容を作り変えて、結果的にそれがお客様に刺さりました。
これはシニアコンサルタントの提案が悪いというわけではありません。一人ひとりがさまざまな感性や発想を持っているので、それを自分の中に留めるのではなく、「しっかり出してほしい」「発信してほしい」と強く思っています。せっかく素晴らしい発想を持っているのに、外に出さなければ意味がありません。
もはや、技術力だけを磨き上げるエンジニアでは価値提供しづらくなっていると感じるので、今後はお客様の「WHAT(何をするのか)」に踏み込み、技術力と発想を持って、提案することが重要です。
ーーどうすればWHATの発想が出てくるのでしょうか?
発想するにはいくつかの要素が必要です。ひとつはお客様の業務内容を当然知る必要があります。
それと、もっと根源的な要素で言うと「注意力」や「感性」などが必要になると思います。ここで言う、注意力や感性とは、業務の中で「なぜこうなっているのか?」という引っかかりや疑問を感じ、それに対して「この技術でなんとかできるかもしれない」と考えることです。
クラウド利用者側の「ハードル」とは
ーークラウド利用者側の事情も以前と比べ大きく変化しているように感じます。
そうですね。クラウドを活用することで、これまでできなかったことが可能になりました。例えば、データウェアハウスでいえば、BigQueryが出る前は高いアプライアンスを購入しないと導入できず、数億円という費用がかかるケースもありましたが、今は0円からスタートできます。
そのため、現在、データウェアハウスを入れることはどの利用者様も達成できます。しかし、「それをどう上手く使用するのか」「それで何をするのか?」という点に関しては、苦戦している利用者様もいるように見えます。クラウドによって導入ハードルは下げることはできましたが、その次にまた別のハードルが出てきた感じですね。
クラウド移行の増加とコストの課題
ーー利用者側の次のハードルとして「コスト最適化」の話もあるかと思いますが、ここについても教えてください。
クラウド利用の敷居が下がったので、オンプレミスからクラウドに移行する企業が増えました。しかし実際に利用すると、当然それに対するコストがかかり「本当に投資対効果があるのか」という話がされるようになりました。
「明確なWHAT(それで何をするのか)」が見つかれば、投資対効果があると言えるかもしれませんが、もし見つからなければクラウド利用をやめる判断をする利用者様も出てくるかもしれません。
そのため、クラウド利用者様のコスト最適化を行い、「最適化によって余った予算を別の事業や新しいビジネスに当ててもらい、そちらを伸ばす」という考え方で各社クラウド企業は利用率を伸ばそうとしていると思います。
ーーそもそもなぜクラウド利用することでコストが膨れ上がり易くなってしまうのでしょうか?
クラウド利用は事前に綿密なプランニングをする必要がないので、簡単に走り始められることが原因にあると思います。以前はハードウェアにソフトウェアを合わせていましたが、クラウドはソフトウェアにハードウェアを合わせがちです。
ソフトウェアが非効率なコードやアルゴリズムを使用している場合、より多くの計算リソースが必要になります。これにより、クラウド上でのハードウェアリソースの使用量が増加し、コストが上がります。
昔の、ハードウェアを緻密に設計していた時代は、「どれくらいのボリュームが来るのか」という要件の設計や調査などが緻密にされていたと思います。しかし今は、「とりあえず動かしてみれば良いのでは」で走り、結果的にコストが高くなってしまっているのだと思います。
ーークラウド業界で働くエンジニアの特徴や強みについて教えてください。
クラウド業界にいるエンジニアにはまず一定の技術力や技術的感性を持った方が多いと思います。例えば、パッとシステムを見たときに、「これはあのクラウドのあのアーキテクチャでできるな」などと分かるエンジニアは多くいると思います。
また、クラウドインテグレーターの主な役割には、クラウド技術に関するコンサルティングが含まれます。彼らは自信を持って「こうすれば上手くいく」とお客様に提案できる知識を持っているので、この技術知識は強みだと感じます。
生成AIを用いて仕事のスピードを意識することが重要
ーー最後に、これからクラウド業界で働くエンジニアはどのように立ち回るべきか教えていただけますか。
まず、生成AIをきちんとキャッチアップすることは重要です。生成AIの登場により、単純な知的労働は代替されるので、今まで多くの工数をかけていた部分の業務は見直す必要があります。またそれに応じて、我々クラウドエンジニアも異なる分野や役割にシフトする必要が出てくるかもしれません。
また、仕事のスピードを意識することも重要です。現在では、一人で完結できる仕事が増えています。以前は「自分にそのスキルがないから誰かに依頼する」または「仕事量が多いので手分けする」という理由で外部に依頼することが一般的だったと思います。しかし、生成AIを活用すれば、そのどちらの問題も解決できます。
生成AIは、スキル不足を補完し、仕事量も軽減してくれます。そのため、外部に依頼する必要が減り、一人で発想からモノづくり、お客様との検証までを完結できるようになっています。こうした人が増えることで、業務のスピードが加速します。逆に、スピード感がないところは競争に負けてしまいます。
そのため、仕事においてスピード感を意識して取り組んで欲しいですね。
以上がクラウドエース株式会社 CTO 髙野さんのインタビューでした。
ありがとうございました!
(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)
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