【M&A業界】株式会社M&Aクラウド CTO 荒井氏が語る「業界課題とエンジニアが外部に発信する重要性」

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こんにちは!TECH Street編集部です。
今回の「CTOインタビュー」は、株式会社M&Aクラウド 執行役員CTO 荒井さんです!荒井さんから聞いた、M&A業界に関する業界課題やその業界ではたらくエンジニアの特徴についてのお話などお届けします。

 

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荒井 和平さん

株式会社M&Aクラウド 執行役員CTO 

東京工業大学 経営システム工学科卒
大学在学中からITスタートアップでエンジニアとしてインターンし、求人サイトの開発やECサイトの開発を主導。2014年新卒で株式会社ドワンゴに入社し、ニコニコ静画サービスにおいて、Web開発を担当。また、関連サービスのニコニコ漫画アプリではiOS開発に参加。 当アプリは両プラットフォーム(iOS、Android)累計100万ダウンロードを突破。2017年1月M&Aクラウドに入社。M&Aクラウド・資金調達クラウドのサービス立ち上げ、開発組織の採用・マネジメント全般を手掛ける。

 

 

 

ーーまずはじめに株式会社M&Aクラウドについて教えてください。

M&Aクラウドは、「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」というミッションを掲げており、M&Aによって日本の産業の継続的な発展を支援したいと思っています。そして、主な事業は、「プラットフォーム事業」と「アドバイザリー事業」の2つです。

プラットフォーム事業「M&Aクラウド」は、上場IT企業の35%が買い手として登録しています。買い手と売り手が直接コミュニケーションを取ることによって、スピード感を持った納得のいくM&Aを実現できています。

アドバイザリー事業では、M&Aのプロフェッショナルなメンバーが、M&Aプラットフォームサービスで培ったテクノロジーやデータを活用した先進的かつ高品質なM&Aアドバイザリーサービスを提供しています。

M&Aの件数を増やし「事業承継問題」と「スタートアップのEXIT問題」の解消を目指す

ーーありがとうございます。では、M&A業界を牽引しているM&Aクラウド CTO 荒井様の視点から業界動向や課題についてお聞かせください。

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M&Aには複数の手法や目的がありますが、弊社で主に支援しているM&Aは「事業承継M&A」と「スタートアップM&A」の2つです。まずは、それぞれの課題についてお話しします。

事業承継M&Aでは、後継者不在の70歳以上の経営者が2025年に127万人に上ると推定される「2025年問題」が社会問題となっていますが、中小企業M&Aの件数は年間1,000件程度しかありません。事業承継が滞れば既存の伝統や産業は縮小してしまいます。

スタートアップM&Aにおいてもさまざまな課題がありますが、M&Aの成約まで支援できるアドバイザーが市場に少ないことが件数が増えないひとつの要因です。一方で、ここ数年のIPO社数は横ばいで、日本では上場できる企業が毎年100社程しかない状況です。スタートアップにIPO以外の出口が増えないと、次の世代への資金循環が止まりスタートアップエコシステム全体に影響が及ぶ危険性があります。

「事業承継M&A」も「スタートアップM&A」も、今後M&Aの件数を増やすためには、「アドバイザーの数を増やすか」「アドバイザー1人で対応できる件数を増やすか」「アドバイザーがいなくてもM&Aができる形を作るか」が必要になってきます。


ーーM&Aクラウド社では、これらの課題に対して取り組んでいることはあるのでしょうか?

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いくつかありますが、一つはM&Aのマッチングプラットフォームを提供していることです。弊社の「M&Aクラウド」は、買い手企業と売り手企業がプラットフォーム上で直接メッセージのやりとりをすることができ、マッチングから成約までを当事者同士で完結させることができます。マッチングの領域に関しては技術でチャレンジできる余地があり、例えば自社の基本的な会社概要の入力や、M&Aニーズに合う企業のレコメンド機能などは生成AIを使い、成約までのフローをサポートをするような試みをしています。

また、プラットフォームをご利用いただく企業様でM&Aの進め方が分からない場合には相談役として「プラットフォームアドバイザー」が一部の業務をサポートすることで、1人につき、年間7〜8件ほどM&Aが決まっています。一般的なM&Aアドバイザーが成約する年間のM&A件数が1件〜2件と言われているので、それを考慮すると多いと思います。
一方、もう一つの主軸事業であるアドバイザリー事業でも、アドバイザーが当社のプラットフォームを活用したり、業務のDX化を図ったりすることで、全体の件数を増やせるよう努めています。

 

ーーそのような取り組みをされているのですね。ところで、アドバイザーとプラットフォームの違いはどのようなところにあるのでしょうか?

アドバイザーがいる場合は、彼らはM&Aのプロフェッショナルであるので、専門的で質の高いサービスを提供することができ、きめ細やかな対応が可能です。

一方、プラットフォーム上でのマッチングでは、売り手が直接買い手に連絡をすることが可能なので、その点が違います。「M&Aクラウド」は、買い手のリアルなM&AニーズをWEB上に公開していることが特徴で、その情報を見た売り手から買い手に直接打診をすることができます。さらに、買い手から売り手にメッセージを送るスカウト機能もありますので、想定していなかった意外なマッチングが生まれることもあります。つまり、間に人を介していない分、売り手企業も買い手企業も自由度が高いということがメリットですね。

 

ーーどちらが良いということではなく、利用者が好みの方を選べるようになっているのですね。M&Aクラウド社がプラットフォームを開発・提供することの利点はなんでしょうか?

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プラットフォームを持つことで、さまざまなデータを収集でき、そのデータを元にして、より質の高いサービスをお客様に提供できることが利点です。

例えば、ある買い手企業がプラットフォームを利用していて、売り手企業からたくさんの申し込みがあった場合、その買い手企業が最終的にどのような企業を選び、どのような企業を断ったのか、というデータを集めることができます。他にも買い手企業がスカウトを送る企業の傾向や成約に至る企業の傾向もわかりますし、ログイン頻度からM&Aの優先度・関心度の高さなども分かります。

技術的な領域を分けず、1人で何でもできるエンジニアになってほしい


ーーここからは、M&A業界ではたらくエンジニアについてお聞きしたいと思います。M&Aクラウド社で、はたらくエンジニアの特徴などはありますでしょうか?

数多くの企業がある中で、M&Aクラウドを選んで入ってきているので、弊社のようなスタートアップやM&Aに興味がある人が多いです。また、金融や事業全般に興味がある人が多く、上場企業のIRを日常的に見ているエンジニアもいます。


ーーエンジニアリング以外の分野に興味を持たれている方も多いのですね。では次に、M&Aクラウド社のエンジニア組織について教えてください。

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M&Aクラウドのエンジニアは10名います。その中にデータチームがあり、そのメンバーだけで3名いるため、データに関しては他社より積極的に投資する体制を作っているかなと思います。

データ以外の部分で言うと基本的に技術的な領域をあまり分けずに、サーバーサイドやフロントエンド、インフラなどは1人で1から開発できる体制をとっています。技術的に分業してしまうと、例えば「サーバーサイドが完了するまでフロントエンドが開発できない」という事態が起きてしまって、それはスピードを重視するスタートアップの開発現場では致命的です。そういった事態を避けるためにも、自分で何でもできるようなエンジニアになってほしいと思っています。


ーー社内のエンジニアでプロダクト開発をする際に、工夫されていることはありますでしょうか。

あくまで私の意見になりますが、toC向けのサービスを作る場合は、「自分がほしいと思う機能を作れば、他のユーザーも使ってくれる」ということがあると思っています。自分の前職でもそういった考えで開発しているメンバーが多かったように思います。

しかし、toB向けのサービス開発の場合は、「エンジニア目線で、これがあったらいいんじゃないかと思ってもユーザーに使われない」ということが多々あります。

そこでM&Aクラウドでは、普段からお客様と話している事業部側の人に、作ったプロダクトを見てもらい、そこでフィードバックをもらいながら改善しています。これはスプリントレビューという開発工程で、他社さんでもやっているところは多いと思いますが、同じ部署内ではなく、部署を超えてレビューをしてもらっているところは少ないかもしれません。

エンジニアは「全員インフルエンサー」として社内の取り組みを外部に発信する

ーーお客様と近い部署の視点を入れることが重要なのですね。ところで、M&Aクラウド社では、エンジニアを「全員インフルエンサー」として掲げているとお聞きしましたが、その意図についてお聞かせください。

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それは良いプロダクトを作るためには、エンジニア一人ひとりが社内の取り組みを発信する必要があると思っているからです

良いプロダクトを作るためには、まず良いチームが必要だと思っています。たくさんお金や時間をかけたからと言って、良いプロダクトができるとは限りません。良いチームから「良い企画」「良いデザイン」「良いコード」が生まれ、その結果良いプロダクトが生まれると思っています。

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では、「良いチームを作るためにメンバーを集めるにはどうすれば良いのか?」
それは、良いプロダクトを作るまでのチームの活動を広く発信していくことだと考えます。

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外に活動を発信していくことで、同じ想いの人が入ってきて、さらに良いプロダクトが作れます。この好循環を作っていきたいと思っておりそのために、「全員インフルエンサー」というスローガンを掲げています。

 

ーーM&Aクラウド社のエンジニアについてよくわかりました。では、M&Aクラウド社として、今後考えている技術的なチャレンジはありますでしょうか?

まずは、先程もお話したデータの活用部分です。今あるデータやこれから溜まっていくデータを使って、たくさんのM&Aの成約につなげていくために、検索・レコメンド等のマッチングに寄与する部分の技術的なチャレンジをしていきます。

それから、サービスラインナップをこれからさらに増やしていくために、今のM&Aクラウドにある機能を基盤化していきたいと思っています。

例えば、メールを配信する機能やログインする機能などの様々な機能が既存サービスに組み込まれていますが、これから新しいサービスが出てきたときに、サービス毎に1つ1つにその機能をつけていっては大変です。なので、そうならないように共通化できる機能は切り離して、アーキテクチャの変更をしなければいけません。これは技術的な投資領域として重要です。

M&A業界マッチングプラットフォームは面白く、伸び代が大きい

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

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昔から、「人と人との出会い」や「クラウドソーシング系」など、様々なタイプのマッチングプラットフォームはありましたが、その中でM&Aはかなり後半に出てきた方だと思います。そのためM&A業界におけるマッチングサービスの成熟度はまだ高くなく、やるべきことや伸び代がたくさんある状況です。また、Web上で億を超える規模でお金が動くマッチングプラットフォームは、今後M&Aの後に多くは出てこないと思いますし、その点もこの業界の魅力だと感じます。ぜひ、この業界に興味あるエンジニアはチャレンジしてみて欲しいと思います。

 

以上が株式会社M&Aクラウド CTO 荒井さんのインタビューです。
ありがとうございました!
今後のCTOインタビューもお楽しみに。 

 

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)

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