ZUU執行役員 辻氏流 事業とキャリアの鬼速成長術

こんにちは!TECH Street編集部です。
今回は、TECH Streetコミュニティメンバーが気になるヒト「辻 良繁さん」に注目。
辻さんのキャリアや事業の鬼速成長術についてお話を伺いました◎
 
辻 良繁 /株式会社ZUU 執行役員 技術統括室長
東京大学大学院卒。データ工学を専攻。在学中に「独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)」の未踏ソフトウェア創造事業(未踏ユース)で「PostgreSQLの検索高速化」をテーマに採択経験有り。新卒でドワンゴへ入社し、主にニコニコ動画/生放送のマルチデバイス向けアプリケーション開発に従事。その後、100名規模のベンチャー企業にて技術本部長やCTOを担い、マネジメントにも携わる。2017年ZUUに参画し、ZUUで提供するメディア・プラットフォームの開発責任者及びZUUのサービス開発領域を管掌。
 
 
――本日はよろしくお願いします。まずは辻さんのキャリアについて伺いたいと思います。辻さんがエンジニアを目指すきっかけについて教えてください。
辻:アルバイトでフィーチャーフォン向けのモバイルサイト開発を経験したことがきっかけでした。大学では数学を学びたかったのですが、高校までの数学は必ず答えがあったのに対して、大学で学ぶ数学は哲学に近く“自分が求めているものと違うな”と思った時に、プログラミングに出会いました。プログラムは答えがある世界で、高校までの数学に似ていると感じました。“こういうものを作りたい”という命題があり、そこに向かって“どのように作っていくか”というプロセスが、高等数学の問題を解く感覚に似ているため、そこに面白さを感じていました。
当時はパケット定額サービスが登場したタイミングで、着メロや占いなどのモバイルサイトが流行り始めていましたね。そこでスタートアップ企業のアルバイトとしてモバイルサイトの受託開発に携わりました。最初はコードを書くというよりデバッグの手伝いからだったのですが、やがて簡単な修正を担当するようになりました。
 
――アルバイト先ではどのようなサイト制作や活動に携わっていたのでしょうか。
辻:有名ミュージシャンのラジオサイトの掲示板や某大手球団のモバイルサイトを制作しました。掲示板の構築はデータベースが関わってくるのですが、どうしてこんなに“重たい”“遅い”のかがブラックボックスとなりサービスグロースの過程でボトルネックになりがちです。プログラムを書いている部分は自分で把握しているのですが、データベースの中身を知っている人はほぼいません。このようなブラックボックスについて学ぶために大学では”PostgreSQL”のソースコードを読み込んで勉強しました。
“PostgreSQL”を読んでいると、随所に「どこの論文で書かれていて、こういう理論だからこうなる」というコメントが残されています。気になる所は論文まで読んでソースコードを理解するようにしました。理論で理解するだけでなく、ソースコードで勉強したことが、今の自分にも繋がる、貴重な体験だったと思います。
当時はとにかく、がむしゃらに働きましたね。今では考えられないことですが、4~5日は自宅に帰らないで仕事をしていたこともありました。これは私だけの話ではなく、2003~2005年に活躍していたエンジニアは、働き方が未整備だったこともありましたが、自分が好きな仕事に熱中し、積極的に取り組んでいましたね。

――大学でもデータベースに関する研究をされていたのですね。 
辻:はい。大学の研究室で、人工知能について研究をしていました。研究対象は多岐にわたり、ロボットの手足を作る方もいましたが、データベースは脳に近い部分があるので、その観点からデータベースの研究をしていました。最終的には検索を高速化する研究に移行しましたが、そこに至るまでの過程でデータベースを熟知する必要がありました。データベースの整合性を取ったり、順序を保証すること、独立性をどのように実現しているのかを学べたのは大きな経験になりました。

――研究畑を歩んできた辻さんが、どのようなきっかけで事業側に足を踏み入れることになったのでしょうか。

辻:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が実施する「未踏ソフトウェア創造事業」という、エンジニアの中では憧れの人材発掘事業があります。当時、U28の部門で”PostgreSQL”の高速化が採用され、研究費用として300万円を支給いただきました。しかし、アカデミックな畑を歩いているだけでは、論文だけで終わってしまうことも多々あります。完成させたものを世の中に出したいという気持ちが強かったので、論文を書くというよりはプログラムを書きたいという気持ちが勝りました。そして株式会社ドワンゴに入社をしました。ニコニコ動画が盛り上がっていてトラフィックが大きかったので、自分が培ってきたデータベースの知識が活かせるのではないかと思いました。
データベースをユーザーが正しく使えないとアプリケーションとして壊れてしまいます。世の中にはデータベースに負荷がかかるサービスが多いです。ニコニコ動画然り、ユーザー同士で頻繁にメッセージが飛び交うソーシャルゲームやFXなど一日のトラフィック量が多いサービスは強固なデータベースが必要になります。
株式会社ドワンゴでもデータベースに関わる仕事がしたいと思って入社したのですが、実際のミッションは全然違う内容でした。当時はスマートデバイスという、テレビにLANケーブルやWi-Fiがつながる製品が登場した時期です。YouTubeがテレビ用のオリジナルアプリを公開したタイミングでもあり、“ニコニコ動画も追従しなければ”ということで、フロントエンドのアプリケーション開発を担当することになりました。他にもサーバーサイドも経験し、様々なデバイスとサービスを繋ぐための開発を担当していました。
アルバイト時代からずっと変わらずデータベースに興味を抱いていたのですが、それ以外のものづくり自体と、世間的にも盛り上がり認知されているサービスを進化させていくのは非常に楽しかったですね。エンジニアファーストを打ち出している会社だったので、コードを書く時間を大切にさせてもらえて没頭していました。これは人によるかなと思いますが、私の場合はその後のキャリアについて特に何も考えていなくて、とにかく仕事を楽しんでいました。

――自身のキャリア観を明確に意識するようになったのはいつですか。

辻:30歳になった時に、将来のことを考えるようになりました。マネジメントに興味は持っていたのですが、それを実行できるポストが社内にはありませんでした。そのタイミングで某スタートアップ企業からお誘いをいただき転職をしました。転職先はクラウドソーシング事業の会社で、社員数は約30名。しかも私が一人目のエンジニアでした。その会社でエンジニアとして基盤を作りながら人事としてエンジニア採用も担当し、3名の開発チームを作りました。そのチームが最初のマネジメント経験であり、私のターニングポイントでもあったと思います。
 
――実際に転職してみてどのように感じましたか。
辻:事業の開発計画、人員計画を含め、すべてを見なくてはならなかったので、かなり苦労しました。今思うと、少し荷が重かったのだと思います。とはいえ、経営会議にも参加できて非常に良い経験になったと思います。その後、2社目の経験を活かし、3社目の会社では完全にゼロからサービスを創ることに挑戦させてもらい、結果的に事業を大きく成長させることに成功しました。その時に、“自分一人の力で作れるものには限界がある”と感じました。当時はインターンを受け入れて組織を大きくしましたが、人を育ててテコの原理で作ると開発力もアップして進行がスムーズになり、一人でやる何倍以上のクオリティのサービスができることに気づきました。
 
――3社目の成功の秘訣はどのようなポイントでしょうか。
辻:2社目はある程度事業として成立していたこともあり、決まったワークフローや組織が出来上がっています。そこから劇的な変化が起きることはありませんでした。3社目は事業をゼロから創るというところに違いがあったと思っています。クラウドファンディング関係の新規事業でしたが、仕事もチームも新しく一から作ることがモチベーションになったのだと思います。

――その後、ZUU社に参画されたとのことですが、参画するキッカケについて教えてください。
辻:弊社の取締役 樋口と出会って、一緒に金融メディア事業をやりたいという熱いお話をいただき、私はPLとして入社しました。
弊社のメインメディアである「ZUU online」は当時、WordPressで運用されており、Yahoo!ニュースに掲載されてかなり負荷がかかっていました。また上場を見据え、会員機能のリリースを予定していたので、システムのリプレイスを最初のミッションとして与えられましたね。ありがたいことに私の技術力に期待をされていたようで、これからレバレッジをかけて伸ばして行こうというフェーズを任せていただいたと認識しています。
それから7ヶ月ほどかけてリプレイスを実施しました。機能追加はなく、同じものを作るという仕事でしたが、自社メディアの収益化という観点から樋口だけでなく、経営陣と一緒に議論を重ねながら進めました。

――リプレイスのプロジェクトでは、ご自身のどのような経験が活かされたと思われますか。
辻:これまでのアカデミックな経験を含めて、網羅的に活かされたと思います。「ZUU online」を作って5年ほど経ちますが、メンテナブルといいますか、まだまだ腐っていません。ソフトウェア開発は、場合によっては5年ぐらいでリプレイスする必要があることも多いですが、かなり開発に入りやすいシステムになっています。アプリケーションのチューニングがしやすく、データベースシステムのテーブル構成がしっかりできておりますが、理由として基盤がしっかりできているので、その上に増築しやすい状態ができているのだと思います。
 
――データベースを熟知されており、これまで様々な経験を積み重ねてこられたからこそ様々な適応ができるのですね。
辻:そうかもしれませんね。その後、樋口と一緒に動きながら、事業に目を向けるようになります。自社メディアを伸ばすだけでなく、収益化を進めていく方向に経営方針を定め、CMSを提供し、メディアを運用させていただくサービスの提供を開始しました。その際、私も実際に営業同行して顧客を獲得するなど開発以外のところでも積極的に携わるようにしました。
事業プランを技術的にどのように実現するかを考えるうちに、私自身がどんどん事業に目が向いていったという感覚です。この経営陣と開発部門との連携がZUUの強みといえるのではないでしょうか。そして開発部門の人員を一気に拡大し、さらに売上を増やしていこうという機運が高まります。人が増えれば当然できることも増えて、「ZUU online」そのものが進化していきます。お客様に提供する機能が、次々にアップデートできるサイクルができるようになりました。
 
――「事業に目を向ける」とありましたが、エンジニアがビジネスに貢献するにはどのような意識が必要でしょうか。
辻:私の場合、“自分もビジネスの主体者になりたい”と思えたからだと思います。先ほども説明したように私も営業活動に同行しましたが、技術的な側面を説明するためではなく、自分もビジネスの主体者としての意識をもって提案を行っていました。
技術と事業の両方に取り組むことができるのがZUUのエンジニア組織の特徴でもあり、利点でもあります。もちろんエンジニアのタイプによって技術か事業、どちらかに振り切ってキャリアを積むこともできますが、技術と事業、両方の目線がエンジニアとしては非常に大切で、私自身はそれが楽しくて仕方がありません。樋口と一緒に事業を創出し、それが上手く行った時の喜びは今でも強烈な成功体験として私の中にあります。
 
――依頼されたものをこなすだけではなく、主体性をもってビジネスに自ら関わっていくスタンスが大事なのですね。
辻:はい、そうですね。エンジニアも一緒に事業を作り、リードできている実感があります。「事業企画は必ず●●チームで」とか、「営業だけが強い会社で、開発は言われたことだけ作っとけば良いのだ」など考え方が凝り固まっている組織に所属していると成長が止まってしまう可能性があります。
また、比較的自由にエンジニアファーストで技術選定ができる環境も大事です。例えば弊社では2017年頃からGolangをプロジェクトで使用しています。ただ、当時はRailsを採用する会社が多く、市場にGolangを使える人材が少なかったので、求人には困りました。そのため、言語仕様が近いPHPやC言語を学んできた方を採用して、Golangを一緒に学びながらやりましょうと伝えて育てながらチームビルディングをしていきましたね。新しい技術に取り組みたいと思っている優秀な方が多く入社していただいたのは大きかったです。
また、2019年にはKubernetesを用いたインフラの仮想化にも挑戦しました。今でこそ、これらの仮想化技術やプロダクトは一般的に使われますが、当時だと取り組みとしては早い方だと思います。現在取り組んでいるブロックチェーン技術についてもそうです。証券をブロックチェーン上で取り扱える市場を作りたいという代表の想いもあり、組織として取り組んでおります。このように、エンジニアが「これを使いたい」と発信したものは前向きに検討して採用してきております。新しい技術を使っていこうという挑戦的な風土がある組織であることは間違いありません。

――「エンジニアファーストの技術選定」ができる会社とできない会社の違いは何だと思いますか。
辻:やはり経営陣の理解がすごく大事だと思います。いつまでに作らなければいけないというプレッシャーが開発には必要な一方で、納期が厳しいという問題も多くの会社が抱えています。そうなるとエンジニアも余裕がないので技術的な挑戦ができず、楽な言語を選択してしまいます。Golangに取り組むことができたのは、育成期間を加味した上で経営陣が投資してくださったからであると理解しています。
「来月にはリリースしないとダメだ」という判断をすると「間に合わせるには●●を使わざるを得ない」などの制限が生まれるということです。
これも経営陣の理解があるかどうかによって大きく方向性が変わりますし、開発投資に対する勘のあるなしにも左右されます。

――経営陣がエンジニアファーストで技術的にも新しいことにチャレンジするべきという考えがあるということですね。
辻:そうですね。その感覚をしっかり持ってくれているのは確かです。その一方でエンジニアファーストになりすぎないということも大事で、“エンジニアとしては楽しいけれども事業としては失敗”というケースを防ぐ必要があります。モノづくりをしたけれどもそれが使われず、サービス終了という事態はエンジニアとしても避けたいことなので、そのバランスが重要です。

――ビジネスと技術を両立できる組織をマネジメントしながら、スピード感を持ってチームを拡大させるのは難しいと思います。どのようなことを意識しているからそれが可能となるのでしょうか。

辻:会社のカルチャーとして「鬼速PDCA」という振り返りスキームがあるからだと思います。組織規模が毎年倍になるとやることも変わります。4名のときは8割手を動かして2割で採用でしたが、8名になったときは手を動かすものの、タスクを振るようなことも増えました。20名ぐらいになるとコードを書くというより、お客様との設計や評価に時間を割いたり、1on1が週の半分を占めたりという感じになっていきました。どんどん変化していく組織に応じて、自分がやるべき役割を担うようPDCAを回していくような感覚です。メンバーレベルでも1週間で対応したこと、1ヶ月で対応したことを棚卸しして、次月の目標について上司と会話をします。メンバーの振り返りシートを見るとタスクが入れ替わっていますが、マネージャーになるとタスクではなく、違う視点から振り返りが入ります。

――辻さんの今後の目標はどのように考えられていますか。
辻:組織的な話をすると、開発部隊は2名の部長に任せ、私自身は今、全体を見ているため、評価制度を作ったり、どのようにエンジニアを定着させていくのかといった施策に取り組みたいと思っています。さらに会社の未来を築いていくという意味で、ブロックチェーンにトライしたいですね。ブロックチェーンも正しくデータを記録していく点でデータベースと共通する技術が多く、これまでの私のキャリアを活かせる領域であることは間違いありません。ブロックチェーンを理解するうえで、トランザクション処理や台帳技術の基礎知識が非常に活きていると感じています。
やはりデータベースという根源的な部分を押さえているのは大きいですね。それを押さえられているかどうかでエンジニアの技術面での伸び方が変わってしまいます。若い頃は興味の赴くままに取り組んでいましたが、その結果がいまにつながっているのは本当に幸運だったと思います。
今後、新しい金融ソリューションの事業を立ち上げていくこと、そしてエンジニアが働きやすい組織になるよう、しっかりサポートしながら育てていく二軸で、会社の未来を牽引する役割を任せていただいていると自覚しています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

辻:エンジニアチームによく話している指針が2つほどあります。
1つ目は「しっかりと技術力を身に付けること」、「スキルを形にすること」です。
技術力は、表層でプログラミング言語の文法を覚えてプログラムを動かせることだけではなく、コンピュータ科学の原理原則に基づいて、「その時々で必要な仕様を満たすように設計できるか、裏付けできるか」が、とても大切です。例えば、初学者でトランザクションの理解が浅く、本来不可分であるはずの複数の更新処理を別々のトランザクションで行い不整合を発生させてしまうなどは、よく見る光景です。
そして「スキルを形にすること」は、まずキャリア観点で、専門性の高い能力を30分から1時間の面接で相手に示すことは非常に難しく、特に駆け出しエンジニアの場合、IT資格の取得は有効です。加えて、私の場合は、「独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)」が実施する「未踏事業」に応募し採用されたのですが、若手の時の実績と成長の加速に繋がったと感じます。IT人材不足が危惧される中で、多様な人材育成支援がありますので上手に活用してほしいと思います。
2つ目は「チームとしての開発力に目を向けること」。1人でずっと集中してコードを書いていたいと思うエンジニアの方は多いと思いますし、集中する時間の確保はとても重要ですが、「チーム」に目を向ける時間を作ることもとても大切です。開発チーム内部で言えば、人材育成や技術に関する会話が活発に行われることで、チーム全体の開発力が向上しレバレッジが効いてきますし、事業側メンバーと会話する機会が増えることで自分が担当しているタスクの意義や貢献が可視化されます。事業責任者やお客様の「できないをできるに変える」ことが成果やキャリア形成にも繋がります。
人間はいつからでも学ぶことができるので、必ずしも大学でコンピューターサイエンスを学んでいる必要はありません。情報技術をしっかり基礎から学んでいただき、そこをしっかり学べたミドル層の方については事業に目を向けてほしいと思います。自分で作っていくという気概を持つことで組織は出来上がっていきます。事業と一緒に組織がついてくると、肩書きもついてきます。このように、ミドル層からさらにキャリアアップするには必要なことだと思います。

インタビューは以上となります。辻さん、ありがとうございました!
 
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(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)