【連載3】各社の若手エンジニア学び・研修特集〈株式会社AVILEN編〉

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こんにちは!TECH Street編集部です。

TECH Streetコミュニティメンバーが気になるキーワード「エンジニアの育成」「エンジニアの学び」に注目。
各社の若手エンジニアの学び・研修特集第3弾。今回は株式会社AVILENの2人にお話を伺ってみました◎

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株式会社AVILEN
(左)横堀 将史/執行役員 営業部 部長
(右)渡邉 雅也/開発部 データサイエンティスト

 

――まずは貴社の事業内容からご紹介ください。

横堀氏:toBおよびtoCの人材育成と技術開発の支援を中心に展開しています。
ディープラーニングを事業に活かす知識を有しているかどうかを確認する「G検定」や「E資格」取得を目的としたコースを用意し、特にAIの人材育成にフォーカスしています。

toBについては、主に製造業や大手SIer、金融、商社といった4つの業界からのニーズの高まりを感じていますが、それぞれの企業様はもちろん、そのクライアントに至るまで、AIにかかわるエンジニア育成やDX推進の後押しをサポートしています。また、エンジニアだけではなく、ビジネスサイドの育成にも注力しています。近年、商社も様々なスタートアップやベンチャーに投資していますが、結局、投資先のDXやAI活用を主導する必要があるため、しっかりとした事業理解のための支援も実施しています。

toCについては、20代から30代の製造業、金融業の情報システムやR&Dの方の受講が増えています。いわゆる事業部門や、AIの導入を推進しなければならない立場や部署の方が、個人的な自己学習の機会としてご利用いただいています。こちらも、ここ数年の間で注目の高まりを感じています。

 

――時代の変化の中でニーズが大きく変わってきたのではないでしょうか。

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横堀氏:そうですね。特にこの2~3年の間に大きな変化があったように感じています。以前は各事業部単位で研修を受けていた企業様が、人材開発部が中心になり、全社展開を図るようになりました。とにかく“全社員でやるぞ”という意識の高まりを感じています。もはやAIの知識はあらゆるビジネスパーソンにとって必須のものとなったということだと感じています。

 

――AIに関係する教育を進めるうえで重視している点があったら教えてください。

渡邉氏:まずは社内のお話から。開発部、営業部など部門によって違うとは思いますが、私が所属する開発部では、それぞれが不足しているスキルをプラスアルファで実践を通じて学ぶことを心がけています。例えば、データサイエンスとしてのスキルがあるならば、お客様からの検討依頼を一旦一緒にやってみて、実際にコードなども書いてもらい、レビューをしながらエンジニアとしてのスキルを一緒に高めていきます。逆にエンジニアの場合、データサイエンスの知識がなかったら、eラーニングを受けてもらいながら、AI関連の開発案件をOJT形式で進めていきます。

横堀氏:社外、すなわちお客様に対して、OJT形式で育成を実施するのは難しいですよね。通常の就業時間の中で自己学習の時間を取っていただくのは難しいですし、その他にもお客様のシステム環境の違いによって、オンライン教材の種類も限られてしまいます。ご本人が今持っているスキルやケイパビリティによって、「エンジニアであれば、こういうことをやっていた方がいい」「AIにからんでいる人はこういうことやっておいた方がいい」という基本的な考え方自体は共通していますが、それぞれの違うスタートラインやシチュエーションに合わせてやり方を変えていくことを重視しています。

 

――では、まずは社内に対する研修内容から教えてください。

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渡邉氏:基本的にデータサイエンティスト向けの研修やAIの知識を付けるコースが中心となります。データサイエンティストはビジネス、エンジニア、統計・AIといった3つ要素が必要ですが、例えばエンジニアが、ビジネス寄りの知識を身に着けたい場合は、ビジネスコースやG検定などを取得してもらったり、あるいはAI入門のようなコースを受けてもらったりします。また画像系のプロジェクトがある場合には、「G検定」や「E資格」取得のための入門コースを受けてもらったうえで、画像処理に関わる領域特化コースをサブで受けてもらうこともあります。

若手社員に関しては、OJTだけではなく、ライトニングトーク(LT)会のような形で、自分たちが最近得た新しい技術などをラフに発表する場を週に一度設け、情報を共有してもらいます。やはりAI、DXという新しい領域や技術にかかわる仕事なので、新人研修用のカリキュラムを作ったところで、その中身は徐々に変わっていってしまいます。ですから、自己研鑽していく意識を持ち続けるために、LT会のような場や仕組みを作って、最新の知見をキャッチアップしています。

横堀氏:お客様と一緒にLT会を実施することもあります。社内で勉強することで、ある一定のレベルまで引き上げることはできても、どこかで頭打ちになりますし、再現性がありません。お客様と一緒に合同LT会を実施すると、閉じられた社内とは違った観点や、新たな知見を双方が吸収することができます。そして、そこから次の案件に生かす工夫が生まれることもあります。このLT会については、主催する担当者は用意しますが、あとは任意参加となっており、参加したい人であれば誰もが自由に学ぶことができます。

渡邉氏:発表者になると資料の用意などが大変なイメージがありますが、社内でノウハウを蓄積するesa(エサ)を活用することで効率よく行っています。日常的にesa上でノウハウを貯めたり、記事を書いておいたりすることで、LT会の時にはそれを元に話をして情報共有することができます。

LT会は、毎週実施枠を設けており、テーマも決まっていて、発表者が翌週の発表者を指名する仕組みになっています。発表者が見つからない時には、テーマを持っていそうな人に話をふり、軽い気持ちでドキュメントを書いて発表してもらっています。ライトニングトークなので、基本的に気負わずに発表してもらいたいと思っています。

 

――テーマはどのように決めているのでしょうか。

渡邉氏:データサイエンティストやエンジニアも、例えばTwitterで同じ人をフォローしていたり、“最近この話が熱い”というように、みんなが共通で興味のあることから次のテーマを選ぶこともあります。その他にも、弊社のCTOが幅広くアンテナを張っているので、テーマを提案してくれることもあります。

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上記は、これまでに開催した勉強会の一例ですが、LT会以外は、読んだ本を共有する読書会もあります。最近は「リーダブルコード」という、どれだけコードの可読性をあげられるか書かれた本を取り上げています。少し古い本なので、どちらかというと抽象的な話題が多いのですが、実際のコードを持ってきて“自分たちだったらどういう風にやるか”などディスカッションしています。

この本を取り上げた理由は、現場のエンジニアの一言がきっかけでしたが、同じように課題起点でテーマが決まることが多いです。それぞれのスペシャリティが違うので、プラスαの知見が得られます。

 

――上司から言われるのではなく、自主的に共有会を進められているという点が素晴らしいですね。

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横堀氏:自主的でもトップダウンでもどちらでも良いと思います。例えば、社外の例ですが社員数千人規模の証券会社では、これまで自主的な手上げ制でやってきたのですが、来期からは全社的にデータを活用できるよう全社員必須にするそうです。トップダウンが通用する会社はうまくはまるのだと思います。特にDXやAI導入についてはトップダウンの会社の方が早く進む傾向にあり、実はアメリカの会社はほとんどがトップダウンでこういった施策を進めます。日本の会社においてはトップダウンで勢いよく動く会社と自主的に進めたほうがうまく会社がありますが、要するに社風によってまったく違うのでそれぞれに最適な方で進めることがベストだと思います。

渡邉氏:弊社の場合は、現在の規模感だから自主的に行っているというのはあります。開発部は10人程度の組織なので各々の状況を理解し合えていますし、その他の要因としては評価制度も大きいと思います。弊社では積極性や、チーム全体に利益をもたらせるような動きをすることが評価されるような仕組みになっています。

 

――チーム全体に利益をもたらすことを評価されるとなったら、ノウハウの共有や教育に積極的に参加することで、きちんとチームに貢献していることを表現しやすいですよね。

渡邉氏:そうですね。今は開発部だけの話をしていますけれども、それだけではなく、営業部や他の部署との連携もできているかなども評価に入っています。制度面からも、しっかり積極的に学習する社員が評価されるというのもポイントかと思います。

 

――社外向けと社内向けの研修それぞれのノウハウや気づきを共有することもあるのでしょうか。

横堀氏:それは頻繁に行っています。社内研修も日々ブラッシュアップしていますし、ノウハウや気付きを元にプロダクトに落とし込んでいくことも行っています。社内ではOJTができるけれども、お客様にはできないという問題を解決するために、例えばお客様のエンジニアを弊社でお預かりして、弊社内でしっかり9ヶ月間育成し、その後で案件に入っていただいています。武者修行のような感覚ですね。このように最近では、弊社のノウハウを外に出すことや、逆に外の人が弊社に入ってきてもらうような取り組みも始めています。

結局、案件に入ってみないと分からないこと、習得できないことがたくさんあります。弊社にはプロフェッショナル人材が揃っているので、そういった環境に身を置くことで学べることはたくさんあると思っています。まさに“AI留学”といった感覚です。

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――若手エンジニアが学べる場をつくる上で現時点の課題と、課題対して現在取り組んでいることがあれば教えてください。また、教育内容見直しの間隔や変更のポイントがございましたら合わせてお聞かせください。

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渡邉氏:OJTのような形式の方が、結果的に習得が早いこともありますが、教育コストが多少なりとも割かれる部分はあります。もちろん、教わるメンバーが育っていくので長期的に考えたらプラスであると思うのですが、短期的にみると“目の前の仕事もあるのに…”という話になります。この課題は工数管理や評価といった面からうまく調整しています。

横堀氏:仕事には形式知と暗黙知の2つがありますが、暗黙知の比率がとても高いと思っています。形式知は、eラーニングなどでどんどん吸収しますが、暗黙知は自分で体験し、成功・失敗して覚えていくことで高まっていきます。

例えばエンジニアで、PMのような仕事を任されたとき、“このプロジェクトは今大変なことが起きている”と気付けるのは、暗黙知の比率が高いからです。それを早く身につけるためにOJTが必要です。なので、なるべく早く現場に行かせることがとても重要です。

渡邉氏:大なり小なり経験が必要で、経験者がその経験と照らし合わせて“怖い”と思うプロジェクトもあるのですが、それを“怖い”と感じることができない新人もいます。経験や知識が足りない場合、手段を調べるだけでは足りません。誰かに聞くことや、自分から率先して情報を取っていかなければ、そのプロジェクトは上手くいきませんよね。

横堀氏:大切なのは暗黙知のままで終わらせないで、そこから言語化していくことや、誰もが汎用的な気づきのスキルを得られるようにしていけるかどうかだと思います。それは次に僕らが取り組まなければいけないフェーズかなと考えています。

渡邉氏:研修のカリキュラムはことあるごとに見直しています。例えば、資格においてはシラバスの改訂があるので、それに伴って改修を行います。エンジニアコースも改修するようなポイントもあります。例えばPythonの環境がバージョンアップされたら、微々たる差かもしれませんが、そこの部分はすぐに改修します。

横堀氏:Webサービスと同じですね。日々お客様の声を拾って、どのように改善していくのか、そのサイクル回していきます。

 

――今後のエンジニア教育・研修についての展望を教えてください。

横堀氏:社外について、今はAI人材に特化し、データサイエンティストをどう育成していくか、AIの活用を社外でどう展開していくのかを考えています。その一方で、お客様の立場に立った時に、DX、AIは全て事業成長や課題解決のHowのひとつでしかありませんから、時には“AIでなくてもいい”という話になることもあります。ですから私たちとしては次のマーケットとして、例えばDX人材まで領域を拡大していく必要もあるかと思っています。

また、弊社の事業には人材育成と技術開発の2つ軸があり、この2つがクロスする掛け合わせが重要になるので、それによってお客様の成果を引き出せるようになればと考えます。要するに外注に丸投げするのではなく、育成も開発も、社内で完結できるような世界観を作りたいですね。

社内の人材育成については、コンテンツの拡充が重要です。今、データサイエンティストに多くのスキルや役割を求めすぎているという現状があるので、例えばデータサイエンスの知識を持ったコンサルタント、データサイエンスの知識を持ったエンジニア、データサイエンスの分析屋といったように分業化を行う。そのうえで、それぞれに必要な教育というのを整理できるようになればと考えています。きちんとカテゴライズされたスペシャリストを育成し、活躍できるようにしていきたいと思っています。

 

――ありがとうございます。最後に、現場エンジニアに向けてメッセージをお願いいたします。

渡邉氏:自分よりすごい人になっていって欲しいです。それが一番です(笑)

横堀氏:自分がもがいている瞬間が結局は一番成長している時だと思います。上手くいっているなという時は、実はあまり成長していなかったりしていて、とても苦しんでいる時や、すごく上手くいかない時に悩んで試行錯誤している瞬間がすごく成長しているのは間違いないので、そういう瞬間を自分から作って欲しいですね。

あえて自分で修羅場を作り、そこに自分から飛び込んでいけると人がおそらく、これから成長していけるのではないかと思います。そういう機会を自分で作っていけるといいですね。

以上が、「株式会社AVILEN」のインタビューでした。
横堀さん、渡邉さんありがとうございました!

※1月12日取材時点の情報となります。

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取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部