【連載5】“初心者からの卒業”をサポート、「JAWS-UG初心者支部」コミュニティにフォーカス

f:id:pcads_media:20210302204147j:plain

こんにちは!TECH Street編集部です。
「コミュニティフォーカス」第5弾をお届けします。

「コミュニティフォーカス」とは

会員が気になるコミュニティについて、
下記3軸にフォーカスするインタビューコラムです。
  ・コミュニティ
  ・コミュニティで活躍しているヒト
  ・コミュニティを運営するヒト

「コミュニティフォーカス」第5弾は、「JAWS-UG初心者支部」コミュニティを運営する武田さんにオンラインでお話を伺いました。

f:id:pcads_media:20210302204303j:plain
武田 可帆里さん/JAWS-UG初心者支部 運営

 

――はじめに、JAWS-UG初心者支部の概要からお聞かせいただけますでしょうか。

武田氏:JAWS-UGは、Japan AWS Users Groupの略称です。非営利目的の団体で、運営スタッフはすべてボランティアで活動しています。その中で「支部」と呼ばれるグループがあるのですが、現時点において日本各地に70以上存在。

f:id:pcads_media:20210302204814j:plain

地域版の支部もあれば、例えばFintechやコンテナについて勉強しようという専門支部もあります。その中で、初心者をターゲットにしているのがこの初心者支部となります。

これからAWSを活用したいというビギナーもいれば、エンジニアとしては経験豊富ながら、「AWSは初めて触りました」という方もいます。プログラミング自体勉強中という方など、様々な属性の方が集まっていますが、特徴的なのが「初心者を卒業しましょう」というコンセプトを持っている点だと思っています。

一般的なコミュニティであれば、できるだけ長く所属していてほしい、毎回顔を出してほしいという運営の思いがありますが、JAWS-UG初心者支部の性質上、運営スタッフとしても“早く卒業してほしい”“ここから巣立って行ってほしい”と思っています。これはJAWS-UG内に他の支部があるからこそ言えることだと思います。要するにJAWS-UGを卒業してもらうのではなく、JAWS-UG初心者支部を早く卒業して、中堅メンバーとして他の支部に巣立っていこうよというのを目指しているのです。

この初心者支部は、2015年の5月に発足しました。初心者を集めようという意図で作ったわけではなく、JAWS-UGの中でコミュニティの運営をしてみたいという、ビギナーの運営者のために立ちあげたものと聞いています。初心者による初心者のためのコミュニティを作ろうという考えのもとで、4名で立ち上げたのですが、今ではその全員がここから巣立ち、他の支部の運営などをしています。

 

――初期の運営メンバーも全員が巣立っているのですね。武田さんは、勉強会に参加するだけでなく、どんな経緯で運営側になっていったのでしょうか。

f:id:pcads_media:20210302204848j:plain

武田氏:私は遅い転職をしたもので、自分のスキルもまだまだという状況が分かっていたので、とにかく聞いたことがある技術を扱うようなコミュニティにたくさん出席していました。運営に入る前はMicrosoftやGoogle関連のコミュニティ、インフラだけでなくいろいろな言語も知っておきたいという思いから、多種多様なコミュニティに沢山参加していましたね。

そうしていると、あのコミュニティに参加した人がまたこのコミュニティにもいる、という感じでお友達になっていくわけです。TwitterやFacebookを通して困っている事を共有する、今勉強中のことはどういうことかというのを一緒に勉強していくなど、同じ方向の方を見つけて繋がるということが楽しかったです。そこからは参加するだけでなく、運営するところもやってみたいと思いがありつつも、当時は参加するだけというのが1、2年くらい続いていました。

その時にJAWS-UG初心者支部が1年ぶりくらいに勉強会をやります、というのをconnpass上で見つけて参加してみたのですね。当時、JAWS-UGという名前は知っていましたが、すごくハードルが高くて滅茶苦茶できるエンジニアの塊みたいなイメージがありました。そんな中、勉強会中に運営を募集しているというのを登壇者が言っていて、そこで勇気を持って手を挙げたのがちょうど2年前くらいです。初心者支部は毎回200人くらいの参加者がいるのですが、そのまま飲み会で20~30人の方々で飲む機会がありまして、ぜひ運営をやりましょうと声をかけて頂いて運営にはいったのがきっかけです。

 

――“勇気をもって手を挙げ、運営になる”、とても素敵なエピソードですね。JAWS-UG初心者支部ならではだと考える活動内容を教えて下さい。

武田氏:特徴的なのが、初心者の方自身がアウトプットをする場を設けさせていただいている点です。自分たちが作ったスライドで5分間、10分間のライトニングトーク(LT)をしていただき、参加者の人に聞いてもらいます。

また、AWSのパイオニアや有識者、専門家の方々からセッションという形で登壇いただき、それを皆さんに聞いてもらう会も用意しています。さらに手を動かす勉強会もあって、ハンズオンの手順を我々で作って、みんなでそれをやってみる、分からないことはQ&Aで聞き合います。

最近ではオンライン開催となっているため、全国各地の初心者が参加するようになりました。現時点で3600人以上の登録があり、1回に参加される初心者が100人~200人程度。多いときで300人くらいの方が勉強会に参加しているような状況です。

 

――すごい規模ですね。初心者支部に参加しているメンバー様はどのような属性で、どういった興味関心軸を持っている方々なのか教えてください。

f:id:pcads_media:20210302205136j:plain

武田氏:技術的になんらかのお仕事のためにAWSを使いたいと思っている方が8~9割を占めています。そんな中でも約半数がインフラ系のエンジニアで、後は営業でAWSを売りたいという方もいますし、CTO、CEOなど何か事業を立ち上げるにあたって、AWSとはどういう物なのか、概要を知りたいという方もいらっしゃいます。

 

――ちなみにどの辺で“初心者支部を卒業だ”と自覚するのでしょう。武田さんから「卒業です!」って言ってもらえるのですか。

武田氏:私もこれは永遠のテーマだと思っていますが、初心者というのはどこまでが初心者で、どこからが初心者以上になるのか、そのタイミングを決めることができるのは本人しかいません。

私もエンジニアを10年以上やっていますが、まだまだ初心者として抜けきれないところもありますし、AWSにはかなりの数のサービスがあります。なので“AWSを全部知っています”という人は世の中に1人もいないと思います。このサービスはたくさん使っているけど、他のサービスは全然使っていないという方は、初心者支部に戻っていただいて勉強してもいいと思います。初心者支部と他の支部を掛け持ちもOKで、すべての勉強会に出席する必要はなく、コンテンツを見定めて、必要なものだけピックアップをすれば良いと思っています。

卒業という儀式があるわけではないですが、あくまで目標として初心者を抜け出そうというだけであって、初心者支部に出戻ってはいけないという決まりはありません。いつでも参加していただいて構わないので卒業は感覚的なものですね。中には、“あなた絶対に初心者じゃないよね”という方もいらっしゃいますが(笑)、全然ウェルカムです。初心者にもわかりやすいようなセッションとして登壇したいという方もいらっしゃったりしますね。

 

――ありがとうございます。続いて、コミュニティを運営する側のメンバーについてお聞かせください。どういう人たちが運営しているのか、チームの中にいろいろ役割が分かれているかも含めて教えていただけますでしょうか。

武田氏:初心者支部の運営メンバーは現在、私を入れて7名。全員がエンジニアですね。本職でAWSを扱ってなんらかのサービスを作ったり、SIをやったり、いろいろな立場の方がいます。AWSは今勉強中ですという方がほとんどで、勉強会の時に「初心者支部の運営者を募集しています」とお話をさせていただき、手を挙げてジョインしてくださいました。

 

――皆さん初心者で、学びながらちゃんと運営もしたいと思っている、どういう気持ちを持って運営やりたいと思う人が多いのでしょうか?

f:id:pcads_media:20210302205231j:plain

武田氏:ここ最近それがよくわかるエピソードとして、初心者支部運営の織田さんという方が書いたブログで、いつJAWS-UG、初心者支部の存在を知ったのか、どうして初心者支部に参加したか、なぜ運営になったのかというようなことを書いていて影響されている方も多く、メンバーの中でもいいブログだと話をしていました。

織田さんのブログでは、初心者支部を立ち上げたメンバーの中の一人である山崎奈緒美さん(現在は情シス支部の運営)のLTも言及されているのですが、そのLTを聞いて初心者支部に入られた方もいらっしゃいます。LTでは、アウトプットする重要性についても話されていました。

「アウトプットしないのは知的な便秘」と表現されますが、アウトプットすることによってインプットが倍にもなるし、同じ考えを持っている人と繋がって、更に知識の幅が広がる。登壇する、ブログを書く、勉強会に参加した感想を書くだけでもいい。とにかく、“やってみなはなれ”。次のステップにチャレンジしましょうよ、と。

運営メンバーは、“今の自分を変えたい”“今の自分から脱却したい”と考えていて、そのアクションの一つとしてコミュニティ運営に参画している印象です。自分を追い込んででも、何か行動してみたいという気持ちを皆さんどこかに持っていると思います。
また、実質的なメリットもあります。運営スタッフになると、全国70以上ある支部のスタッフの方々とも繋がれるので、これも大きなメリットだと思います。

後は、運営スタッフとして大きなやりがいもあります。やった人しかわからない事ですが、自分が企画した勉強会が終わった瞬間は、とても気持ちが良いのです。やり切ったというような達成感を覚えます。アンケートでレスポンスをもらって、ツイートの件数が増え、「楽しかったです、ありがとうございます」というような感想をいただくと本当に気持ちが良い。調整しているとき、次何にしようと考えている時、ハンズオンの手順を作っている時などは辛い事も多いのですが、勉強会を終えた瞬間、おいしいビールが飲めます(笑)それが楽しくて、ずっとやり続けてしまうのではないかと思います。

 

――やってみなはれ、素敵な言葉ですね。ちなみに、現在の運営の7名の方の役割分担はありますか?どういう風に話し合い、運営されているのか教えてください。

f:id:pcads_media:20210302205307j:plain

武田氏:各支部で異なりますが、初心者支部はそれぞれの自主性を大事にしており人と役割を紐づけていないですね。

運営は、次の勉強会の企画をする、登壇者の方と日程調整したり、中のコンテンツの中身を調整したり、決まったテーマをconnpassのページに掲載する。勉強会当日には司会進行する、後は当日中にTwitterのツイートを拾って、それを質問にしていたり、参加者の方々のQ&Aを拾って回答したりなどのレスポンスをする、後はアンケートを作ったりツイートのまとめを作ったりする等、役割はありますが、誰がどの役割をやるかは固定せず回しながら運営しています。
今回司会をやります、今回企画をやります、などそれぞれに手を挙げて分担を決めていくという感じです。

 

――では、そんな運営の方々がコミュニティの作り方、コミュニティ会員の巻き込み方として心がけていることをお聞かせください。

武田氏:初めてコミュニティに参加すると恥ずかしいしドキドキします。自分の友達、知り合いがいない状態で急に100~200人のメンバーと一緒に参加するとなれば誰だって緊張します。そういうハードルをできるだけ低くしたいということから、「みんな初心者」「運営スタッフも初心者」と伝え、「そこは恥ずかしがらずに、みんなで勉強していこう」というメッセージは強く発信しています。

また、運営は講師でもないし、この場はセミナーでも研修でもないですよ、と伝えていますね。勉強会は運営が提供しているだけの会ではなく、主役は私達でもあり、皆さんです。勉強したいことをみんなで決めて開催していこうよ、という考え方でやっています。毎回アンケートを取らせていただいて、次もし出るとしたら、どんな事をやりたいですか?どういう事を勉強していますか?等、希望が出たことをテーマとした勉強会をする事を心がけています。

そして、アウトプットの重要性も伝えます。ハードルの高いアウトプットである必要はありません。Twitterで一言今日の感想を言うだけでも良い。アウトプットすることで誰かが読んで、それが誰かのインプットになります。ですから、「できるだけ今日参加したことの痕跡をなにかしらで残そうよ」ということは毎回言いますね。参加者の皆さんが発したツイートに誰かの「いいね」がついたり、誰かがリツイートしてそれに対してコメントがもらえるという事が楽しかったりするので、そういう方法で巻き込んでいったりしています。

あとは、初めての方が参加しやすい空気づくりとして、身内や常連で固まりすぎないような配慮はしています。とはいえ、セミナーではないので、強制させるようなことは言いません。初めて参加した人でも一人になりたい方も中にはいるかと思います。必ずしも固まらなくてもいいし、周りで話さなくてもいいので、ご自身がやりたいように「ゆるふわ」でやろうという空気を出す、そういう心がけをしています。

とにかく毎回、試行錯誤です。色々な数字が出てくるので、どういう内容ならば参加者が増えて、満足してもらえるかは都度分析をして次に生かしていきます。毎回反省会や振り返りをしますね。次回に向けて、こういう方がいい、こんなことをやってみないか、新しいことに挑戦してみようなど、運営スタッフ同士で意見交換します。

また初心者支部だけではなく、他の支部の勉強会にも出席しますね。なぜなら参加者が他の支部に巣立っていくためには、その紹介を私たちがする必要があるからです。ちゃんと参加して、実際にどういう雰囲気なのかを理解したうえで紹介するようにしています。

 >>次のページへ


 

――運営の方々の情熱は凄いですね。そして運営の方々もそういう大変な事も楽しみながら運営されているのではないかと思います。

f:id:pcads_media:20210302205343j:plain

武田氏:JAWS-UGだけではなくコミュニティ全般そうかもしれませんが、義務感でやっている方はいなくて、自分が楽しいからではないと続かないですよね。楽しいことをその中で見出すか、自分で作りだすか、人と繋がる事が好きですとか、理由は様々あると思います。

AWSだけではなく、アプリをつくるとか、Adobeを使ったことはないけれど、なにかをデザインする事をやってみようかとか、色々な事に挑戦させてもらえる場をいただけるのも魅力です。仕事だと色々な制約があり、やりたいように好きなようにできませんが、コミュニティだと自分でやってみたいと手を挙げれば、「お願いします!」という感じで挑戦できるので、そこが楽しいのだと思います。

 

――今後のコミュニティ活動における展望をお聞かせください。

武田氏:私自身はJAWS-UGだけではなく、他のコミュニティも運営していたりするので、色々な横のつながりをどんどん広げていきたいと思います。私自身、JAWS-UGのコミュニティの成長や支部運営、さらにはAWSクラウドの普及に貢献または影響を与えたということで「AWS Samurai 2019」の称号をいただきましたが、同様に新しい運営の方々にも活躍していただきたいですし、AWS、JAWS-UGに恩返しをしていきたいと思っています。そういう場を増やしていきたいですね。

 

――今の武田さんが考える、コミュニティの価値って、どのようなものでしょう。

武田氏:自分のやりたいことをやれる場を自分で作れる場、という感じだと思います。仕事となると上司の話を聞かないとなりません。コミュニティには上司という概念がありません。色々な人と色々なものを一緒に作ってもいいし、一人開発もできます。気の合う誰かと一緒に何かを作っていける場が職場以外にあるのは、すごく良いことだと思います。相当魅力のある場ですよね。

私も仕事でJAWS-UGという言葉を出すと「知っています」と言ってもらえます。若手の方がAWSを使って勉強したいとか、どんどんキャリアアップする上でJAWS-UGは良い意味で利用する価値があると思います。

 

――確かにそうですね、最後にコミュニティメンバーやこれからメンバーとなる方々へのメッセージをお願いいたします。

武田氏:思う事があれば行動してみましょうよ、一緒に挑戦してみようよということですね。初心者支部は運営を募集していますので、もしやりたいという方はぜひ活躍していただきたいと思います。ご連絡お待ちしています。

また、3月20日(土)に「JAWS DAYS 2021」という私たちコミュニティが主催の大きなイベントの開催を予定しています。無料で誰でも気軽に参加できるオンラインのイベントなので、ぜひご参加くださいませ。

f:id:pcads_media:20210302205410j:plain

以上が第5回のコミュニティフォーカスです。
武田さん、ありがとうございました!

笑顔で、とっても楽しそうにコミュニティのお話をされているのがとても印象的で、資料を使いながら丁寧にわかりやすくご説明いただき楽しい時間でした^^

次回も会員が気になるコミュニティについて深堀っていきます!今後のコミュニティフォーカスもお楽しみに。

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)