【連載13】日本CTO協会代表理事・松岡氏のキャリア戦略とCTO協会の目指すDXとは

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こんにちは!TECH Street編集部です。
前回、TECH Streetメンバーが気になるヒト、株式会社レクター取締役の広木大地氏にインタビューをしましたが、今回は連載企画「ストリートインタビュー」の第13弾をお届けします。

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。
企画ルール:

・インタビュー対象は必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

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“今気になるヒト”広木氏からのバトンを受け取ったのは、日本CTO協会代表理事・株式会社レクター代表取締役の松岡剛志氏。

▼前回のインタビュー記事はこちら
【連載12】テクノロジー×経営で社会を変える、レクター広木氏が語る事業のソフトウェア化に必要なこととは

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松岡剛志 Takeshi Matsuoka/一般社団法人 日本CTO協会代表理事・株式会社レクター代表取締役
Yahoo! Japan新卒第一期生エンジニアとして複数プロダクトやセキュリティに関わる。 ミクシィでは複数のプロダクトを作成の後、取締役CTO兼人事部長。その後B2Bスタートアップ1社を経て、株式会社レクターを創業。2019年9月に一般社団法人日本CTO協会を発足し、代表理事を務める。
※2020年10月21日取材時点の情報です



――ご紹介をいただいた広木様から『松岡は突っ込まれやすいタイプの頂点にいます。失敗は指摘されなくては気づかないことが多くて、失敗を指摘しやすいキャラクターであることはとても大事です。松岡はそういうタイプの人間なので、そのあたりが伝わると良いなと思います』とお言葉をいただいております。広木様のコメントで思い当たる節などございましたらお聞かせください。

松岡氏:結論から申し上げますと、意識的にそういったキャラクターを務めています。

それがいつから演じているのか、本当の人格になってしまったのか、もはやわからなくなっていますね。元々の性格は、嫌な感じだったと思います。同期の仲間から「それは人間として良くないよ」と心配されたりしていた、そんな20代を過ごしました。

やがて、どこからかキャリアの方向性がマネージャーとか、チームで成果を出すことに変わっていきますと、なかなかセルフィッシュな振る舞いだけではうまくいかないかなと自覚。過去の自分を振り返り反省したというのはあります。

そしてもうひとつ、私はプログラマーとしての能力や単純な頭の回転速度がそこまで優秀ではないと自覚しています。自分は大して能力がないので、人様から助言をしていただいて力にしていかないと勝負にならないと思いました。

そのために私が一定の努力をしないといけないとおもった結果、何を間違えたのか、突っ込みやすく隙を多くしようと考えました。その結果こういう事になったのだと思います。たまに軽すぎると怒られることもあるくらいです(笑)

 

――傍からみたら松岡さんの能力は高いはずですが、自らのあるべき理想が高いのでしょうか。

松岡氏:エンジニア、プログラマーって世界で様々なプレイヤーが輝いていて、その中では私はトップ層ではないと感じていました。また新卒入社でヤフーに入ったことも一つの転機でした。最初の数年は米国のソースコードを日本にどう持ってくるかという仕事が多く、そこで凄い人がいるという事を知りました。

ヤフー時代の最後のキャリアはアプリケーションセキュリティの仕事で、それは自分で手を挙げて配属されました。セキュリティというのは、今でこそこれほど盛り上がっていますが、当時2006、7年の頃は「何それ?」という感じでした。

これから伸びるであろう新しい分野で、なおかつ経験のレバレッジが効く部分であれば、私のような凡人でもコミットした時間があれば生き残れるではないですか。それでセキュリティやってみようと思いました。インターネットという大きな流れの中、ヤフーでは本当に多くを学び、経験させてもらいました。

その後はソーシャルネットという大きな流れを経験するべく、ミクシィへ転職しました。そして2009、2010年あたりからエンジニアリングマネージャーという職に就きました。

あの時代に真面目にエンジニアリングマネジメントを内製化組織、プロダクト組織でやっている人はまだそれほど多くなく、エンジニアのカッコ良い姿というのはプログラマーである、カッコ良いマネージャーは目指されない時代だったので、それはそれでやりますと言って、そちらに行きました。

 

――まだまだレアな世界だったり、これから伸びるけど色々な人たちがまだまだ参入していないブルーオーシャン的なところで自分の力を発揮するという、そこは無理しないでという所ですね。

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松岡氏:そういう勝負は負けにくいと思います。何をやっても勝てる、何をしても最悪引き分けになります。伸びるであろうドメインに5年もやっていれば、どんなにポンコツワークしかできなくても一定の経験のレバレッジがあるので語れると思います。要は、凡人の生き残り戦略ですね。

 

――ミクシィに移られたのは、何を求めていらっしゃったのでしょうか。

松岡氏:ミクシィでは、まず課金システムのリニューアルに参加。その後もいろんなプロジェクトに入ってバリバリやっていました。

それから、基盤部分の「たんぽぽグループ」のメンバーになり、楽しくやっていました。組織が大きくなってきたことでマネージャーが必要になり、他のメンバーから「この中で一番出来ないのが松岡さんなので、松岡さんがリーダーをやってもらえますか」と言われ、そこでキャリアが変わりました。その時のメンバーの一人が今CTOをやっている村瀬さんであったりと本当に優秀な人たちだったので、仕方ないかと思いましたね。

マネジメントに関しては、ひたすら勉強しました。今でも「エンジニアリングマネージャーになりました、CTOになりました、どうしたらよいですか」と相談された時に「今まで読んだ技術書の数を思い出してください、その時と同じ数のマネジメントの本を読んでください」とアドバイスをします。結局それが重要なのだと思います。

 

――マネジメントの世界は相手が人だから、必ずしも本の通りにやってうまくいくとは限らないと思います。テクノロジーの世界よりもう少し難しいと思います。勉強が大事という基本は分かりますが…。

松岡氏:本当、難しいですよですよ。プログラムっていいじゃないですか。プログラムは誰が読んでも同じ意味として理解することができる。バイナリは読むことはできないけど、いろいろな方法でどのように書かれているのかを部分的に理解できる。出力は0か1のデジタルの世界です。

人間はというと、入出力方法は五感というアナログです。言葉の解釈が一緒かもわかりません。エンジニア目線で言うとアンフェアな部分もあると思います。実際、たくさん失敗もしました。

 

――その後、ミクシィのCTOになられましたよね。

松岡氏:そうですね。でも部長になった頃、実はミクシィに不満を持つ部分があって、辞めようと思っていました。恩があった川邊さん(ヤフー代表取締役社長CEO)から「戻ってこい」とも言われていて。

でも「今行ったら負け犬として終わるので納得ができない」と答えました。そうしたら川邊さんから、「一発喧嘩をしてこいよ、喧嘩して駄目だったらいいじゃない」と言われました。それで、“会社をこう変えたらいいのでは?”という案をまとめて出しましたら、「やってみなよ」と言われ、その流れからミクシィのCTOを引き受けることになり、2年くらい走りました。

 

――どのような施策を打って、立て直しを図ったのでしょう。

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松岡氏:様々な方々が「mixi.jp」にこだわっていましたが、私はそこにフルコミットするのではなく、優秀な人材と資金を活かして、バンバン小さくバットを振ろうと考えました。

その結果、新規とその派生を含めて60個くらいの事業が展開できるフレームを整え、財政変更も行いました。要するに、小さなことをたくさんトライするために小さいプロダクトチームをたくさん作り、「失敗してこい」と走れる状況を作りました。

失敗も多くありましたが、他社とのコラボで作ったアプリが当たりました。それが「モンスト」です。これはmixi.jpだけで孵化させようとしても絶対生まれなかったと思います。

ある程度、ミクシィに立て直しの目処がつき、会社のフェーズが変わったタイミングで、自分の役目は終わったものと自覚し退任することにしました。その後紆余曲折あり、1回くらいは起業しようかと思ったのですね。

それで、誰と何をしようかと考えていたのですが、もともとVOYAGE GROUPのCTOである小賀さんとCTOの勉強会を運営していまして、なにかやれると面白いよねというような話をしていました。

元々、仲良くさせていただいていたビジョナルCTOの竹内さんにもお声がけし、CTO仲間で何かをやるならCTO周りの問題解決、そこにフォーカスしていこうという話になり、そこに広木さんが合流して、それで一緒に会社を立ち上げようという話になったのです。それがレクターですね。

 

――CTOの勉強会は、どのタイミングから続けていたのでしょうか?

松岡氏:私がミクシィのCTOになったタイミングですね。CTOになれと言われたけれど、モデルになるような人は多くないし、CTOの本もあまりない。2012年頃は、洋書で1、2冊くらいしかなく、読みましたが情報力の不足を感じました。

自分で頑張るのが得意ではないので、人に聞こうと考えて、それでメンバーを集めたという感じですね。勉強会を開催して、順番にいい話をしてなどとオーガナイズしているとみんな喜んで教えてくれるので、なんか幸せだなと思いまして、それを続けていました。それでCTO協会の土台をつくったとは思いますし、多くの方々、たとえばDMM.comの松本さんはたまに感謝の弁を述べてくれるので、良いことをしたなと思っています。

 

――では、CTO協会の活動について教えてください。

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松岡氏:私たちはCTOというコンテクストとDXというコンテクストと2つの話をしていますが、DXを学びたい、CTO協会の理念に賛同いただいている法人会員の方が45社、個人会員の方が533名(※2020年10月取材時)という、そんな規模感の部隊でやっています。

目標は、日本を世界最高水準の技術力国家にすることで、主に4つの活動「DX企業の基準作成」「コミュニティ運営」「調査・レポート」「政策提言」を行っています。

スタートアップのCTOコミュニティでは、欧米や中国と比べてどうなのか、マネジメント能力はどれくらいあったのか、コンピューターサイエンスがどこまでわかっていてCTOになったのかなどの振り返りを行っています。まだまだ反省すべき点が多く、まだまだ勉強して成長しないとならないと思っています。

一方のDXコミュニティで論じられているのは、従来型の企業が変革したいと思っている大事なテーマだと思っています。

彼らはスタートアップやデジタルネイティブ、デジタルプロダクトの会社の様々なノウハウ、文化を学ぶ必要があります。なので、CTOとDX、この2つのコミュニティをどんどん交流させていきたいと思っています。

会社が変わっていって、デジタルの凄さや使い方に気が付けば、投資もしやすくなりますし、オープンイノベーションもしかけやすくなります。

また、そこでコミュニティも大きくなり、CTOもDXもお互い高みに上りましょうというビジョンを持っていて、それに向かって何が必要かと考えますと、両方ともに言えるのは、よいデジタル企業やデジタルのマネジメントは何だろうと定義する必要があるわけですね。それを「DX Criteria」というDX標準の基準として提唱させていただいています。

基準は分かった、でも実際やってみるとうまくいかない事ばかりですよね。その際に、“そちらはどうですか?”と聞ける場所はとても大事なので、様々なコミュニティ活動、オンラインオフラインのイベントを通じたネットワーキングやDX会などの勉強会を開いていきます。

また、様々なレポートも用意しています。会員企業からデータを集めて作ったレポートもあれば、欧米や中国の先端事情を集めたレポートもあります。これらをエビデンスとしてお使いいただくことで、DXを前に進めやすくなると思っています。

さらに、政策提言をやっていこうとしています。ガバメントのDXも重要なキーワードですよね。我々のお節介かもしれませんが何かお力になれることがあればという気持ちがあります。

>>次のページへ続く


 

――DX基準を作りDXが動きやすい素地作りをされていますというお話でしたが、その裏を返すと日本の企業はまだまだDXが進んでいないところが非常に多という見方があるかと思います。松岡さんから見た日本の企業のDXの進まない阻害要因は何かご説明いただけますか。

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松岡氏:非常に広い論点になりますのでどこからお話したらよいのか悩ましいですが、ひとつは先人方が、これまでに素晴らしい成果をあげてくださったことにあります。

DXという言葉が生まれる前から、そして今でも成功し、利益をあげられている企業は多数あります。利益が出ているうちは変える必要を感じにくいですよね。人は変化を嫌います。怖いものと捉えることが多いです。

 

――そのように、なかなか変えられない手強いものに対して、CTO協会やそれぞれのCTOは、どのような手段をもってして、どのように変えていくのが良いとお考えでしょうか。

松岡氏:CTO協会というレベルで申し上げますと、DXって何が正しいのかわからないということに対して基準を作るという戦略が必要です。なんでもかんでも過去を否定するのは良くないと思っています。

それまで利益を生んでいることに対してガラッと変える何かは過去の否定につながるので、あまり良いアプローチだと思っていません。出島戦略などが語られますが、ああいうものから始めるのが基本的には良いと思います。出島から成功体験を積んで一つ一つ広がっていく形。

もうひとつは、一定の集団を取り込んでいくという手段です。誰か一人が入って何とかするのではなく、ある程度の集団を送り込むか、あるいはM&Aをするのか、色々な選択があります。こういう文化があり、こういう世界があるということを知って、新しい人たちと従来の人たちと半々で出島を作り、文化の交流をしてみて、お互いの理解を深めながら浸食してくる、融合するというのが良いと思います。

DXというのは、誰かが何かをパッと入れてすぐできるものではなく、10年、20年かかるというか。

今は、たまたまデジタルなだけで、常に新しい技術がこれからも出続けます。会社というのは変わり続ける能力が必要とされる。常に新しいものにアンテナを張っているのが大事ですね。ですので、少しずつ浸透していくということが重要で、その先を見据える能力の獲得が重要だと思います。

 

――では、今後のCTO協会の活動、松岡さん個人がやりたいことを教えてください。

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松岡氏:そうですね。CTO協会の未来については、まだ2年目ということで本当にまだまだです。

今533人の個人会員がいらっしゃいまして、日本のスタートアップは2、3000社くらいあると言われています。さらに上場企業でCTOをおいている会社が数百あるので、2500人から3500人くらいのCTO経験者が日本にいると思っています。そういう意味ではまず、1000人2000人を目指したいと思います。

集合した知見をどれだけ世の中にお返しできているかというと、まだまだアクション数が足りていないので、DX Criteria以外のフレームも生まれてくると思いますので、もっともっと世の中の相談に乗れるようにしていきたいですね。

ガバメントに対しても、まだまだわたしたちの知識不足のところもありますが、働きかけを強めていきたいです。

 

――では、個人的な目標はございますか。

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松岡氏:私は少し変わったところがあって、苦しい状況を悲観せずにむしろ楽しみ、そこで力を発揮しようとする人間です。サーバーが落ちてサービスが3日間ダウンするという、普通であれば地獄のような体験もしましたが、そのハンドリングや立て直しには、むしろ燃えるところもありました。

43歳という、ある程度、大人な年齢にはなりましたが、今後も苦しい状況や逆境を恐れず、むしろ楽しんでいくぞという気概で様々なことにチャレンジしていきたいと思います。

 

――ありがとうございます。最後に、これからの時代、エンジニアとしてどういう生き方をしたら良いのか、ご提言いただけますか。

松岡氏:技術でいうと、今いいものよりこれからくるものを選ぶべきだと思います。会社選びもそうですが、機械学習などもそうですね。

システムに対する知識がある上で機械学習を学ぶ、さらにこれからもっと来るものを学ばれて、両軸持っているといいですよね。強みが一個ある方はそれプラスこれから伸びる分野の技術を持たれるとレアな人間になるわけです。

キャリア戦略は、これから必要とされる何かにおいてレアであるという事が重要です。それをご自身の興味関心と照らし合わせながら作られて行かれると良いのではと思います。それが基本原則ですよね。

あとは学び続けるという事だと思います。DXと同じですね。常にアンテナを張って学び続け、これはいけるという物を試してみる、それを身に着けるということで、求められる人間になっていけるのではないでしょうか。

 

――最後に、次回の取材対象者をご指定ください。

松岡氏:BASEの技術担当役員のえふしんさん(藤川真一さん)を推薦します。元々、ご゙自身で゙起業され、前職を退職された後、自分でアプリのWebサービスを作っている中でBASEが面白いと飛び込まれた方。

キャリアとして、BASEでの7年の歴史などとても面白いと思いますし、エンジニアとして、経営者としてロールモデルになられる方だと思います。

以上が第13回のストリートインタビューです。松岡さん、ありがとうございました!

最後に、恒例のバトンショット、、、実はいろんなポーズ(?)をとってくださり選ぶのが難しかったのですが、躍動感いっぱいのこちらの1枚をどうぞ!(未公開カットはSNSで公開しますキリッ)

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次回はBASE株式会社のEVP of Development藤川真一さんにバトンタッチ。今後のストリートインタビューもお楽しみに。

▼ご紹介いただいた株式会社レクター取締役の広木大地さんの記事はこちら
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【連載12】テクノロジー×経営で社会を変える、レクター広木氏が語る事業のソフトウェア化に必要なこととは

(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)