【連載9】0点から大企業CTOへ、DMM.com CTO松本氏の技術でコミットし続ける力とは

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こんにちは!TECH Street編集部です。

前回、TECH Streetメンバーが気になるヒト、freee株式会社CTO横路氏にインタビューをしましたが、今回は連載企画「ストリートインタビュー」の第9弾をお届けします。

※本取材はリモートで実施いたしました

「ストリートインタビュー」とは

TECH Streetメンバーが“今、気になるヒト”をリレー形式でつなぐインタビュー企画です。
企画ルール:

・インタビュー対象は必ず次のインタビュー対象を指定していただきます。
・指定するインタビュー対象は以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている方です。

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▼前回のインタビュー記事はこちら
【連載#8】“エンジニアの価値を正しく理解して伝える”、freee CTO横路隆氏が語るCTOの役割とは

“今気になるヒト”横路氏からのバトンを受け取ったのは、松本勇気氏。

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松本勇気 Yuki Matsumoto / 合同会社 DMM.com CTO
東京大学工学部卒業。2013年に株式会社Gunosy(グノシー)に参画。執行役員CTOおよび新規事業開発室室長を務める。2018年10月に合同会社DMM.comのCTOに就任。
※2020年8月4日取材時点の情報です

 


――ご紹介者いただいた横路さんから「非常に若くて優秀ですし、エネルギーがすごい方です。パッションの方で、技術の可能性を信じてしっかりとコミットしている方」とうかがっていますが、ご自身ではどのように捉えられていますか。

松本氏:やれることはなんでもやろうという人間で、結構、根性論の人間ですね。ロジックで詰めきった後は根性論だと思っていて、準備を99%詰めきった後に生じる差は結局努力しかなく、「効率化と努力の両立は大事」という話はよくしています。

この考えが生まれたのは、学生時代に友人と一緒に起業を開始した時に遡ります。友人がCEOをやるというので、僕が技術責任をやるよ!といって、そこから未経験だったプログラミングに挑戦しました。

それからというもの、1日15時間、食事と睡眠以外はほとんどコーディングをしているという生活を送りましたね。元々プログラミングの経験はなく、“これくらいやらなければ活躍している人に追いつけない”と思い、やれる限り努力量は確保して、そこからより良い方法を模索しました。それが上手く回ってコーディングできるようになった経験から、“やり方の効率化は大事だけれども、最後は努力量”という考えを持つようになりました。

 

――若い時って、努力をしてもなかなか報われないといった挫折がつきものではないですか…。

松本氏:目標の置き方の問題です。「努力は必ず報われる」とは到底思わず、報われない努力なんて当然、山ほどあります。

要するに小さなゴールをどれだけ用意するかだと思っていて、勉強一つとっても、いきなり全国1位ではなく、友達やクラス、学校と、少しずつ範囲を拡げて最終的なゴールを達成すればいいなというのと同じで、そこのマイルストーン設計をどうするかによります。ただ設計するだけでは駄目で、設計したうえで努力をする、努力と根性どちらも大事にしよう!ということに繋がりますね。

 

――なるほど。学生時代の起業が原体験となっているのは理解できました。そこから、様々な経験を重ねながら、28歳という若さでDMMのCTOになるわけですが、そのヒストリーをお話いただけますか。

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松本氏:いくつかのターニングポイントがあります。ひとつは自分の食い扶持は自分で稼げると気づいたことですね。

起業する前はフリーランスとして、いくつかのプロジェクトにかかわってきて、結構稼げたのですね。その時に“これだけ稼げるのであれば、この先、どんなことがあっても、何をやっても死ぬことはないな”と感じました。

人生を歩む上でリスクの算定は非常に大事だと思っていて、最悪、食っていけなくなるリスクさえつぶしていけばいいと思うようになりました。フリーランスとして、ひとりで営業してひとりで仕事を獲得して開発すれば回るし、とりあえず何をやったって死ぬことはない。であれば自分の人生はこれでリスクヘッジできているよなと考えだすと、割と振り切って取り組むことができるのですよね。

その真理に気づいたのが大学3年生の時。当時、決して技術力は高くなかったと思うのですが、それでも食っていける方法はあるなと、しっかり稼いで商売をすることができるのであれば大丈夫だろうと思いました。

結局、モノを買う人と売る人の関係が成立すれば良いわけで、逆にエンジニアとして優秀だからといって商売にならなければ意味がありません。あとは目的ですね。そこのリスクヘッジをしたうえで、何かの事業を興したいと思う人がいれば、そう考えればいいですし、そうではなくひたすら技術力を突き詰めることが大事という人もいて良いと思います。いずれにしろ、“振りきれるぞ”と思った経験が、今の僕をつくる、ひとつのきっかけになったのは間違いありません。

 

――その次のステップとして、どういった経験が必要だと考えて行動をされたのでしょうか。

松本氏:次は、スタートアップで成功することが重要だと考え、グノシーに入社。ここには大人として、そして経営者としてしっかりした方がいて、皆さんに叩かれまくった経験が後の資産になったと感じています。

特に現在の代表取締役会長である木村新司さんとの出会いはすごく大きかったですし、彼が連れてきた仲間と話すのは、自分にとってすごく糧になりました。もちろん自分もその中でバリューは出していきますが。

 

――“叩かれまくった“というのは具体的にはどういう内容で、何を得たのでしょうか?

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松本氏:いやぁ、本当に、毎日叩かれました(笑)。いつ何時でもディスカッションしていて、彼らからは経験に裏打ちされた様々な鋭い意見がでてきますよね。

どうしても若いうちは、何かを盲信してしまいがちなところがありますが、ちゃんとファクトをみてパッと切替えられる彼らの転換の速さには驚きました。ファクトにちゃんと向き合って仕事をするということを徹底的に見せられていましたね。あとは投資対効果を考えることも学びました。

 

――では、現在のDMM.comには、どのような経緯で、何を求めてジョインされたのかお聞かせください。

松本氏:グノシーの上場直後、CTOになったのが25歳の時で、主に組織の立て直しを行っていました。

当時は急激に成長していたこともあり、組織としてうまくいかないことが多く、その収拾をつけるためにマネジメントを担当。知識不足の中、仲間と共に何とか立て直しができつつありました。

新規事業をいくつか立ち上げ、そのうちの一つは大きく成長。チームをマネジメントしプロダクトをつくり、組織や技術力を大きくして、ヒト・モノ・事業に向き合えるような体制になってきたという実感を得ていた時期でした。

そこで培ったものを活かして起業するにしろ何にしろ、次の道を探そうと思いはじめたのが2018年頃のこと。その中で、僕の前任となるDMMの城倉CTOに声を掛けられました。まだ2~3回くらいしか会っていない方から「CTOを代わって欲しい」といわれるのって面白いし、ありがたいなと思っていましたが、ちょうど自分の中で、様々な事業アイディアがあったので、そこから起業するのと、どちらがいいのか考えました。

考えていく過程で、少し視点を変えて、日本の課題に目を向けたのですね。日本には様々な大企業がありますが、何十年と続く老舗の企業が多く、そこに資産が集まっているため、スタートアップをいくら立ち上げるだけでは、経済インパクトがまったく足りないと思いました。

もちろん、スタートアップで色々な仕組みをつくることは大事ですが、一方で大きい組織を変えていくノウハウも必要になってくるのではないかと考えました。

その中で、DMMはサイズとして売上2千数百億円、社員3000人という規模で、20年の歴史をもつ会社です。そういった大企業をマネジメントするのは、とてもチャレンジングですが、不可能ではなく、組織を変えていくことで蓄積できるノウハウは、日本にとっても大きなインパクトになるのではないか。大きな会社がソフトウェアをしっかり活用し、事業や資産の運用効率をあげていって、日本のGDPに貢献できたら面白そうではないかと考えたのですね。

どのような日本の未来予測のレポートを読んでも、基本的には悲観的なシナリオばかりで。人口減少と高齢化が双方向で襲ってきているので、そうなると当然、効率化という解決手段しかなく、それを可能とするのがソフトウェアです。なので、最初のステップとして、DMMという組織を改革するのは面白いのではないかと考え、そこからリサーチをかけて、方向性を定めて2018年の10月に引き受けました。

 

――グノシーにおけるCTOとしてのご活躍ぶりが評価されてのオファーだったわけですね。自己評価として、どういった点が目に留まったとお考えでしょうか。

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松本氏:グノシーのCTO就任当初の1年は「0点」の状態でした。マネジメントの“マ”の字もわかっておらず、右往左往しながら経営陣からは様々な点で「足りないぞ」と言われ、メンバーからは不満が寄せられて、その間に挟まれ、“解決が難しいな”と悩むばかりの自分がいました。

今の自分であれば、解決方法がわかるのですが、当時はマネジメント経験も浅く、かつチームの中では、下から数えたほうが早いくらいの若さでした。そんな若者が上場したての開発組織の立て直しを行っていたので、やはり苦労はしました。周囲の方々に迷惑をかけたとは思いますが、その中で必死にやって、学んできたことが今に効いているのかなとは思います。

現在、CTO協会に理事として参加していますが、ここに所属している仲間たちにもかなり相談をさせてもらって、各社の施策や制度についてヒアリングを重ねたり、相談したりしながら自分のノウハウとしてまとめて、何とか回りだしたのが、CTO就任後1~2年後くらいかと思います。

その後、立て直しの中で経験したことを元に様々な場で発表させてもらうなどしていました。

僕のモットーとして、最大のインプットはアウトプットだと思っていて、実際にやって、人にまとめて伝えられるようになって初めて良いインプットになると思っているんですね。

横路さんが「アウトプットが多い」とおっしゃっているのはその部分だと思っています。技術とプロダクトには自信があり、数字とエンジニアリングをつなげ、成長させていくという部分は体系化ができていたので、そこにマネジメントを掛け併せて、「僕はこう思います!」と発信できるようになったのが2017年ぐらいからのこと。あっているか、間違っているかは置いておいて、発信の量はそれなりにやっていたので、だんだんとCTOの仲間内でも評価されてきたのかなとは思いますね。

 

――実際にDMMにジョインして、自分がやろうとしたことができているかも含めて、ここまでにどのような軌跡を歩まれたのか、教えていただけますでしょうか。

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▲画面に書きながらご説明いただきました!

松本氏:入社前からヒアリングを始めていたので、入社後3週間ほどで現在も推進している戦略である「DMM Tech Vision」を発信しました。

これは組織内をひたすらヒアリングして課題を分析し、DMMのTech組織がどうあるべきかの指針となる明確なパッケージにしたものです。「当たり前を作り続ける」というビジョンの元で「Agility」「Scientific」「Attractive」「Motivative」の4つの価値観に凝縮された戦略ですね。

この戦略を進める中で今では、ある程度、一人ひとりが戦略に沿って考え、動けるようになってきました。

改革のゴールは数字を達成することだけではなく、僕が直接指示して動くのではなく、一人ひとりが意思をもって動けることだと考えています。その“意思を持って動く自分たち”の行動様式を支える仕組みを作ったことが功を奏し、特にコロナになってからも色々なチームが自律的に動いています。

古くから動いているシステムのリプレイスや、改善施策の実行速度など、様々な部分で行動が早くなったことが見られています。もちろん、達成度でいうとまだまだですが、変革という意味ではだいぶ上手く種がまかれて芽吹いたなと思っているのが現状です。

 

――DMMという大きな組織で、短期間で成果を出すのは驚異的だと感じますが、そのポイントはどのようなものだったのでしょうか。

松本氏:いくつかポイントがありますが、まずは「僕がやっていることをちゃんと伝える」ということ。

当たり前ですが、リーダーが自分のやっていることをきちんと伝えるなど、意思決定の透明性を高める必要があります。なので、まずは意思と活動が伝わる環境をつくることを徹底しました。

つぎにパッケージをつくること。全員へのヒアリングを徹底して行い、問題を洗い出したのですが、問題というのははひっくり返せば理想形が見えてくるのでそれらを構造化し、端的に理解できるパッケージに落としていきました。DMMでいえば、先ほど説明した4つのワードでわかりやすく表現していったわけです。

あとは、それがどういうものであるかを理解してさえもらえれば、細かな指示を与えて、それを全部やってもらうのではなく、自発的に新しいものが出てくるような環境になっていきます。

またパッケージを用意した先に、それに沿った“スモールサクセス”を作ってあげることは重要です。

遠い先にあるゴールは見えづらく、小さな成功を間に置くことで現在地からどこに向かっていけばよいのかということがイメージできるようになります。この“スモールサクセスを作る”ために最初の段階でエネルギーをかけて集中して実行しました。

例えば、とあるプロダクトの基盤をAWSに移行するプロジェクトを、入社した翌年の4月には完了しました。またその効果をきちんと公表し、“Agilityとはこういうことだ”と伝えていきました。こういったスモールサクセスを達成し続けることで、“こういう概念に沿っていけば、僕たちはもっと先にいけそうだ”という考え方を理解してもらいました。

 

――これまでも様々なスタンスでキャリアを歩んでこられましたが、松本さん個人としては、今後どのように働いていきたいと考えているのか教えてください。

松本氏:色々な経験を重ね考えてきたのですが、自分にとって最もモチベーションの高まりを感じるのは、素晴らしい経営者のサポートです。

もちろん起業も視野に入ってはいますが、世の中にたくさんいる“狂ったような経営者たち”にHOWを与えることで、彼らをもっと先の世界へ連れていくことができるのではないかと思うのですね。

先ほどの“大きい会社を変えたい”という考えには、すなわち“素晴らしい経営者の支えになれたらうれしい”であったり、“僕がいることでビジョンが先に進めると面白いな”という思いの表れです。ですから、DMMのCTOになった今でも、大小にかかわらず様々な会社からの質問にもお答えするようにしていて、その課題が大きければ大きいほど面白いと感じていますね。

 

――自分の力が発揮できているという自覚と面白さの両方が共存しているイメージですね。

松本氏:そうですね、そういうリーダーについていくと、自分も想像すらしていなかった場所にたどり着くことができて、“こんなビジネスになるのか!?”といった、驚きに満ちた経験を重ねることが可能です。

そもそも0から1を生み出すのはアートだと思っていて、どこに課題をみつけて、どういう発信していきたいのかという人間の意思みたいなものがすごく好きなのですよ。そんな“問題設定”があったのか!という部分が、究極のアートだと思っているのですが、アートは問題をそのままにする一方、ビジネスは問題を製品・サービスなどの形にしなければなりません。その形にする部分が面白いのです。

周囲の起業家や経営者を見渡してみると、自分よりも面白い“問題設定”する人たちがたくさんいます。僕は、その問題を解決に向けて整理・体系化するのが好きであり、また得意なのだろうなと。

個人的に面白いと思っているものは他にもあって、僕はとにかく新しい技術を学ぶことが大好きです。

なぜだか中学生の頃から、核融合を追いかけていて、今年組み立て開始したITER計画にも胸が躍りました。このような国際的で巨大なプロジェクトだけでなく、他にも様々なベンチャーが小さな核融合炉を作ろうともしています。

かたや今のコロナ禍でも、ゲノム研究の成果を用いて新しい創薬技術を使ったワクチンをつくろうという動きもあって、その領域はとても興味深いですよね。後は、「ブレインマシンインターフェース」にも注目していますよ。元々プログラミングが面白いなと思ったきっかけは「攻殻機動隊」なので、情報空間にどうやって持ち込めるんだろうと考えますし、こういったものに関わるのは好きで、勉強するだけでもワクワクして楽しい気持ちにあれます。

 

――最先端の技術も0から1をつくりだすアクの強い経営者もそうですが、松本さんは実際にその種を世の中に使えるようにしたり、理解できるようにすることがお得意で、興味を持たれているということですね。

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松本氏:そうですね、誰かが見つけた道具をひたすら面白いことができる道具に仕立てていくイメージですね。

0から1を生み出すのは、あまり得意ではないかもしれませんが、そこから世の中に発信するのが得意なのだと自分を位置付けていて、新技術も基礎研究はできないけど、組織化してモノにするまではどんなカテゴリーでもなんらかのバリューを発揮できると思っています。技術と事業のブリッジができたらすごく面白く、技術単体では難しくても、ココとココが繋がれば面白くなると考えるのはたまらなく好きですね。

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――このコロナ禍において、リモートで働くエンジニアの中には、最近、不安を感じている人も多いと聞きます。彼らが存分に力を発揮して、そして楽しんで仕事するために取り組んでいる、独自のマネジメント術があったら教えてください。

松本氏:いくつかトピックがあるのですが、組織マネジメントの前に、まずオフィスの在り方から考えていました。

その役割として、一つがプロジェクトを進めるための密なディスカッションの場であること、もう一つが、コミュニケーションではなく、コミュニティとしての役割についても考えます。

要するに、組織に所属している感覚をどう維持するか、例えば、オフィスであれば、そこでランチをしているだけで、視覚や聴覚の情報から組織の一員だという実感が持てると思います。それが、どんどん希薄になっていってしまうのがこのオンラインのみの職場の弱点ですね。コミュニティへの帰属意識と“自分の意思で進めても問題がないか?”という心理的安全性の確保を含む、マネジメントの力量がリモートワークの中で問われています。

その中で、マネージャーたちへ、帰属感と心理的安全性を持たせるために「雑談を皆さんの重要な職務に位置付けてください」と伝えています。

雑談という一見無駄なコミュニケーションこそ重要で、それを増やすためにミーティングを減らせともいっています。“本来、逆でしょう?”と思われますが、これがチームというコミュニティへの帰属性をります。会社への帰属意識は薄くなっても、最低限、あなたのチームへの帰属意識だけは大事にしてくれ、ということですね。この休日に何をしたか?など簡単な話でもいいのです。

雑談をきっかけとしてコミュニティへの帰属を大事にしていきたいと思いますね。コミュニティと繋がっていることによる心理的安全性は誰にとっても重要だという仮説を持っており、亀山会長もZoomでオープンに「リモート飲み会をやろう」と声をかけるなど行動で示してくれているのでありがたいです。

少しずつではありますが、効果は出ていると思っていて、アンケートをとる限り「リモートによって仕事がやりやすくなった」「生産性が上がった」と感じている社員は多いですね。

 

――先ほどのお話にもありましたが、CTO協会の活動についてお聞かせください。松本さんはどのように向き合っていらっしゃるのですか。

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松本氏:そうですね。CTO協会の前身にあたる「CTO会」という飲み会コミュニティ的のものがあったのですが、そこは僕自身を0点だと表現した2015年頃に大きな支えになっていました。

だからこそ、今は僕のノウハウをどんどん提供していくことで、恩返しをしたいと思っています。あとは日本にとってよりよい国づくりや会社づくりができるような、体系化や政策提言をしていこうという活動にも共感を覚えています。

現時点、政府は電子署名をはじめとした様々な電子化を進めていますが、その活動をなんらかの形でサポートできればと考えています。日本が仕事をしやすく、自分も暮らしていて面白いと感じる国にならなければいけないですし、その部分に貢献できるのではないかと思っています。

 

――テクノロジーの最先端を走る会社では、力のあるCTOが活躍していると思います。このようなCTOが増えていくと、日本の産業はどのように変わっていくと予想されますか。

松本氏:そもそもこれまでCTOというものの定義は曖昧で、技術リードの延長のような立場と考えられていることも多かったですね。

自分の中ではCTOは“技術観点から経営に向き合う経営者”と位置付けています。イチ経営者としての視点で、どういう風に技術と向き合っていくのか、経営をしていくことこそが重要です。

例えば、取締役会や経営会議で技術的にも経営者的にも合理性がある会社の意思決定を行っていったり、コーポレートガバナンスにおける技術の活用など、技術とそれ以外の経営について橋渡しをしていくことが重要です。そういった人が増えていくことで、この国が技術活用をするための橋渡しができるようになると思います。

一番大事なのは経営者として、株式会社であれば株主や顧客と社員、国であれば国民と向き合いながら技術の橋渡しをすることです。それが可能なCTOが増えていくことで、ソフトウェアやデータがより活用される世界の到来が待っています。

CFOの話を聞いて、理解できないCEOって比較的少ないと思いますが、技術のことってぱっと言われてもわからないと思うのですよね。

エンジニアはどうしても職人っぽく扱われがちで、そういった環境がよろしくないと思っていて、技術者と経営の間でしっかり翻訳して会社全体を一つの頭脳にしていくのが経営者としてのCTOの役割だと思っています。

それによって合理的なソフトウェア活用が進み、事業や国の強みになったら素敵だなと思っていて、そこにチャレンジしていきたいですね。会社であれ、国であれ、様々なところにインパクトを与えることができれば面白いですし、当たり前にソフトウェア使おう、数字に向き合って経営しようという世界を実現したいものです。

 

――ありがとうございます。これからの時代、エンジニアはどのような生き方をしたらいいか、松本さんからの助言をいただけますでしょうか。

松本氏:一番シンプルなのは、自分で意思決定をするということですね。自分で意思決定をしないことは楽ですが、成長するための考える機会が無くなってしまい、気付いたら“自分では何も考えてなかった、これからどうすればよいのか”というトレードオフをとることになります。

例えば、ある技術をひとつ突き詰めることを、その選択についてのトレードオフを考えずに進めると、それが正解になることもあれば、その技術が廃れてしまうということもあります。廃れたとしてもそれによる不利益は自分が何も考えていなかった結果なのであり、文句はいえません。

大事なのは自分で考えて意思決定を続けることです。

目の前にどういった課題があって、どういう構造かを考えることが重要です。どんな意思決定であれトレードオフはあるはずです。その中でどのトレードオフをとるのかというのが、選択し続けるということが人生なのではないかとも思ったりしています。そうした選択を積み上げていけば、知識や経験といったストックができてレベルが上がっていきます。

また、その中で方向性がバラバラだと溜まるものがないので、方向性をもって意思決定を続けていく必要がありますね。

 

――最後に、次回の取材対象者をご指名ください。

松本氏:CTO協会の繋がりから、クレディセゾンの小野さんをご紹介したいと思います。最近、本を出版されたばかりなので、その話もきっと面白いですよ。僕が尊敬するCTOを上げてといわれると、まっさきに挙げる人の一人が小野さんなんですよね。事業に向き合う姿勢も素晴らしいですし技術力も高く、商売人気質もある。そして何らかのアート性をもっていますね。常に背中を追っかけながら色々勉強させてもらっています。

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以上が第9回のストリートインタビューです。松本さん、ご協力いただきありがとうございました!
次回は、株式会社クレディセゾンCTO小野氏にバトンタッチ。今後のストリートインタビューもお楽しみに。

▼ご紹介いただいたfreee CTO横路さんの記事はこちら
【連載#8】“エンジニアの価値を正しく理解して伝える”、freee CTO横路隆氏が語るCTOの役割とは
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(取材:伊藤秋廣(エーアイプロダクション) / 撮影:古宮こうき / 編集:TECH Street編集部)