注目を集める情報銀行の実証実験、その目的や背景を実例とともに解説

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情報銀行は個人から預かった個人データを安全に保管し、個人データを各個人の許容する範囲内で企業へビッグデータ(匿名加工情報)に加工して販売します。「現代の石油」とも称される個人データの活用ですが、多くの企業が実証実験に取り組み始め、すでに情報銀行業務を稼働させ始めた企業もあります。ここでは、情報銀行の実証実験の目的や背景、実証実験の事例について解説します。

情報銀行の実証実験とは

政府は2017年ごろから、情報銀行に対する取り組みを加速させました。同年6月に閣議決定された「未来投資戦略 2017」では「官民連携実証事業の推進等を通じて先駆的な取組を後押しするとともに、具体的プロジェクトの創出に取り組む」とされました。同年度中には総務省が観光分野での実証を行い、同年度以降は多くの民間企業が実証実験を始めています。

総務省が実施する「情報信託機能活用促進事業」の一貫で実施

政府は情報信託機能について「個人データを管理するとともに、個人の示した条件に基づいて第三者(他の事業者)に提供する機能であり、個人は、データ受領事業者から個人データの提供による便益の還元を受ける」としています。その機能の中心を担う情報銀行という存在を、どれだけ国民に浸透させることができるか。そこが日本の成長のカギを握るとまで考えられ始め、政府は実証実験を重要視。個人から健康診断データや生活情報などに係るデータの信託も受け、個人の健康増進や生活習慣病の予防などにつながるような仕組や、個人から位置情報や趣味嗜好などに係るデータの信託を受け、観光地において個人に応じた付加価値の高いサービス提供を可能にするような仕組みのほか、金融や購買履歴、人材・教育関連、地域関連など幅広い分野における実証実験を目指しました。

「情報信託機能活用促進事業」の概要

実証実験の根拠となる情報信託機能活用促進事業は、情報信託機能などを担う者の要件や関係者間に必要なルールなどの検証、運用時の課題の抽出・解決策の検討を行うことで、情報信託機能などを実現させ、個人データの流通や活用を促すことを目的としています。政府は、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT 総合戦略本部)の下で「データ流通環境整備検討会」を開き、個人の関与の下でデータの流通・活用を進める仕組みであるPDSや情報銀行などについて議論し、2017年2月に官民が連携して積極的に取り組む必要性、そのための制度整備の必要性について中間とりまとめを行いました。

一部で始まった情報銀行、進む実証実験

スマートフォン(スマホ)のアプリを立ち上げ、提供してもらった個人データを企業に販売する一方で提供してくれた個人へは対価を支払うビジネスを電通グループがすでに始めています。また、PDS事業を始めたスタートアップ企業もありますが、まだ本格的に浸透している状況とはいえません。実証実験段階の企業も多いのが現状です。個人がどこまで個人データの有用性を認識し、その活用にメリットを見出すことができるのか。情報銀行が本格的に日本に浸透するかどうかは、この個人の意識にかかっているといえるでしょう。

電通グループなど4社は始動

大和総研が2019年6月に出した「情報銀行が本格開業へ 金融機関、広告、情報通信等、各業界大手が続々と参入表明」というリポートによると、「公表資料等から把握できた開業済みの情報銀行は、情報通信分野のスタートアップ企業2社と、電通グループのマイデータ・インテリジェンス、富士フィルムの計4社」です。スタートアップ企業の1つ、DataSignはPDSを立ち上げて運営。NIPPON Platformは中小個人商店の情報資産を運用するサービスを始めています。電通グループは「MEY」というアプリを立ち上げ、個人からデータを提供してもらってその情報を必要とする企業に提供、個人には対価を支払っています。また、富士フィルムはPhotoBankというサービスを始め、個人のもつ写真データを保管してもらい、自社製品、サービスの活用を目指しています。

日立の実証実験

日立製作所では保険会社などと組んで、2018年9月から半年間、同社の社員約250人を対象に実験を行いました。各家庭の協力を得て氏名や生年月日といった基本データのほかに、電力データや健康データなどを取得して加工し、保険会社や宅配会社、Web広告会社に提供しました。保険会社では家電の保険サービスの開発の可能性を探り、宅配会社では、電力データの活用による不在配達を減らす配送ルートの立案といった可能性が見いだされましたが、課題も浮かび上がりました。その1つが、データの提供先から、ビジネスとして成立するだけの対価を得られるかどうかでした。ライフプランニングや家事・料理などの代行サービスの案内、子供や高齢者の見守りサービス、地域における買い物や送り迎え、子供の預かりといったシェアリングサービス、行政関連サービスの展開といった可能性も指摘されましたが、データを提供することへの個人の不安をどう払拭するかという課題も残りました。個人退会時には遅滞することなくデータを削除するといった解決策が検討されています。

富士通とイオンフィナンシャルグループの実証実験

実証実験は2017年8月からの約2か月間、イオンフィナンシャルサービスのワントゥワンマーケティングへの活用と、希望者へのイオン銀行でのライフコンサルティングへの活用を目指し、富士通とイオンフィナンシャルサービスが組んで実施しました。富士通社員約500人が趣味や嗜好、行動パターンなどに関するアンケートへの回答を富士通の「情報銀行」に預け、参加者には「金融」情報を「小売り」や「飲食店」に開示することに対して高い意向があることが分かりました。この実証実験では、入力した情報量や内容に連動して実証実験だけで活用できる「FUJITSUコイン」をブロックチェーンの仕組みで発行しました。また、預けられたデータは社員自らが開示できるようにしていました。

情報銀行の取り組み本格化も、続く模索

各企業は情報銀行業務を始めたり、実証実験に取り組むなど、情報銀行のもたらすメリットを見据えてその業務を本格的に始めようとしています。しかし、個人データが十分に集まらなければ販売には結びつきません。個人の不安を解消しつつ、どこまで個人データを提供してもらえるか。そのボリュームは、始まった情報銀行の業務や実証実験がどこまでメリットのあるものとして個々人に認識されるかにかかっているようです。